TRAILS REPORT

ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング / あたらしいハイカー・コミュニティのカタチ

2017.03.22
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文:根津貴央 構成:TRAILS 写真:石川博己(from HAPPY HIKERS)

<Episode1 「ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング」ができるまで>

「ウルトラライト(UL)」というキーワードでシーンを牽引する、錚々たる顔ぶれのメンバーが九州に集まった、ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング。TRAILS編集部が着目したのは、その豪華な顔ぶれによるイベントコンテンツではなく、なぜこのようなムーブメントが九州で起こったのか、ということ。なんでこんなイベントが九州で開催されたのだろう?と思った読者も多いだろう。

このイベントの主役は、ハイカーズデポ土屋さん、スカイハイマウンテンワークス北野さん、山と道の夏目さんでもなく、まちがいなく地元九州のハイカーたちであった。メーカーやショップ主導でもなく、仲間と一緒に山を楽しむ一般的なハイカーグループでもなく、そこには「ハイク」をベースにした、あたらしいコミュニティのカタチがあった。「集める/集まる」から「つくりだす」へ。そんなハイカー・コミュニティが、九州で動き出している。

ハッピーハイカーズは、現在10名のスタッフで活動している。ハッピーハイカーズのウェブページのStaff Notesに、その人柄が伝わる紹介があるので、どんな人たちが活動しているのかも見てほしい。今回はそのハッピーハイカーズの発起人でもある豊嶋秀樹さん(※豊嶋さん自身については『そこに山があったからだ。〜Because It’s There 〜』で詳しくインタビューしている)に、立ち上げの経緯、そしてこのコミュニティを作っていくうえで大事にしたことを聞いてみた。

※今回のロングレポートは3つのEpisodeで構成されています。興味のあるトピックから読んでみてください
Episode1:「ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング」ができるまで
Episode2:「ハッピーハイカーズ」というコミュニティの作り方
Episode3:GNUさんによるイベント参加レポート

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九州でハイカーのコミュニティを作りたかった




「ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング」(2016年11月に九州の九重にある法華院温泉山荘で開催)は、ウルトラライトやファストパッキングにアンテナを張っている人ならば、必ずチェックしていたイベントだったと思う。TRAILS読者のなかには、実際にこのイベントを体験すべく現地まで足を運んだ人も多いかもしれない。ハイカーズデポ、スカイハイマウンテンワークス、山と道、ムーンライトギアなどのトーク&ワークショップ。そしてULギアをつくるメーカーも多く集まった。僕たちTRAILSもロングディスタンスハイキングのトークセッションをやらせてもらった(詳細はイベントHPで見られます)。

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予約開始して1時間で定員200人分が売り切れとなるほどの注目を集めた

このイベントの発起人である豊嶋さんは、東京から福岡へ移住してきた。そこで気づいたのは、東京であったようなハイカー同士が横でつながるハブとなるような場がないことだった。九州でもハイカー同士が自然発生的につながっていく場ができれば、もっと楽しくなるんじゃないか。しかも東京や関西のようにメーカーやショップ主導ではないかたちであれば、また違った山の楽しみ方、山での過ごし方が広がってくるのではないか、という想像があった。

そこから地元の友だちが友だちを呼んで、少しずつ「ハッピーハイカーズ」の輪が広がりはじめる。



企画書をもって、法華院温泉山荘の社長に直談判




豊嶋:「コミュニティのみんなが顔を合わせられる場としてイベントをやろうってなって。どうせなら町ではなく山でやりたい。それで九州の仲間に聞いたら、だったら法華院でしょとなって。それで九重の法華院温泉山荘の社長にペライチの企画書を持っていきました」

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九州を代表する山荘のひとつである法華院温泉山荘。山岳信仰における山宿として歴史も古い。またハイキングで疲れた体を癒してくれる温泉も最高だ

企画書には、「ULハイクを中心に、すべてのハイカーが一堂に集うイベントを開催します!」という趣旨だけを簡潔に書いていった。山荘の人というと、頑固一徹なこだわりオヤジというステレオタイプも想像してしまうが、法華院温泉山荘の社長は「新しい風」に前向きに応えてくれる考えの人だった。

豊嶋:「社長が『よう来てくれた!』みたいな感じで迎え入れてくれたんです。『ここは古い人が出入りしているから新参者が入る枠なんてないって思われがちなんだけど、若い人たちにも来てもらいたいんだよ!』って言われて。結果、全面的に協力してくれることになりました」

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歴史ある山荘の前にあるキャンプ場に、ウルトラライトなテントが大集合した

ちなみにこの直談判の後、山荘からの下山途中に「ハッピーハイカーズ」というコミュニティの名前が決まった。トレイルを歩きながらのこんな会話から。「このコミュニティに名前つけないとね。」「なにか簡単な言葉を2つ合わせると、新しい意味が浮かびあがってくるような名前がいいよね。“ハッピーなハイカー”くらいの感じで。」「あれ、それいいんじゃないですか!」



SHMW北野さんに一度参加を断られ、「ハッピー」の意味を問い直す




イベントのコンテンツを考えはじめたとき、一番最初に名前があがったのが、ハイカーズデポの土屋智哉さんと、スカイハイマウンテンワークスの北野拓也さんだった。

スカイハイマウンテンワークスの北野拓也さん。九州でもアツいスピリットを伝えてくれた

豊嶋:「九州で、ULカルチャーがどういうカタチで浸透しているか考えたときに、モノとメディアが中心で、作り手に直接会って話を聞いたり、そういう人に触れる機会がなかったんです。そこで、ULにリアルに触れてほしいというのを、ひとつのテーマにしました」

ULのシーンやプロダクトの作り手に直接触れる機会をつくること。これともう一つ、土屋さんと北野さんを呼びたかった理由があった。

豊嶋:「土屋さんと北野さんに並んでもらうことによって、ハッピーハイカーズがどこからどこまでを“ハイク“と考えるのか、というのを提示したかったんです」

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ウルトラライトハイキングといえばこの人、土屋智哉さん。パッキング・クリニックの風景

豊嶋さんは、土屋さんにはコミュニティのアイデアが出てきた時点から話を聞いてもらっていた経緯もあって、早い段階でOKをもらうことができた。しかし、北野さんにオファーしたところ、断られてしまった。北野さんの人柄をご存知の方は想像できると思うが、とてもまっすぐな意見をもっている。そして本当にアウトドアシーンをオモロくしてくれそうな人やものには、協力を惜しまない人である。しかし最初に出した企画書には、イベントの真意がきちんと表現されていないのでは、と北野さんの目には映った。

「ハッピーって、何をハッピーって思っているかが大事だと思うんだよね」

という北野さんからもらった言葉をきっかけに、イベントのコンセプトを練り直すことになった。



ハッピーは、シンプルなことだけどイージーなことではない




豊嶋:「『ハッピー』という言葉は、たしかにいろんな種類があります。ビールをプシュッて開けて飲んでハッピーというのもあるかもしれないけど、いま僕たちが言いたいハッピーはそうじゃないなと。ある程度のモチベーションがあって、何かしらの困難とか努力とかを経てやり遂げたときのハッピー感。それをともに経験した仲間とのハッピーとか。そういうのだなと。それで『ハッピーは、シンプルなことではあるが、決してイージーなことではない』という一文を企画書に盛り込みました」

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練り直しの企画書を持っていく前にも、北野さんには改めて長く熱い説明をしていた。「ハッピー」のコンセプトをブラッシュアップしたものを持って、再度北野さんの店を尋ねると、北野さんは、もちろんやるよ!というスタンスで待ってくれていた。そして「いいイベントにしようよ!」と言ってくれた。

このようなやりとりを積み重ねることで、イベントのコンセプトができあがっていき、コミュニティとして目指すあり方が具体的になっていった。

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ハッピーハイカーズのスタッフたち。自分たちでコミュニティのコンセプトを練り上げていき、大きなイベントを実現していった




単純に「集まる/集める」イベントでなく、あたらしい価値観やつながりを「つくりだす」コミュニティ




「ハッピーハイカーズ」のスタッフが、それぞれ得意分野を持ち寄って、コミュニティを表現するものをつくり、イベントの準備を進めていった。結果的に、「ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング」は、予約受付開始して1時間で200名の定員が埋まった。当日は、この予約者以外も入れるエリアにも100名ほどの来場者が集まり、イベントは盛況のうちにおわる。

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最高に天気にも恵まれたイベント当日。法華院温泉山荘の社長が、「いつも11月初めの週末は天気がいいんだよ!」と言っていた予言が大当たり。お客さんにも笑顔が溢れる


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豊嶋:「最初は『ハッピーハイカーズ』というコミュティが象徴的にわかるものとして、イベントが必要だと思っていたんです。実際にイベントがおわってみると、「お祭り」がもっている機能のように、コミュニティの仲間意識とか、共通体験というものを、イベントが与えてくれたな、と感じました」

スタッフからも「九重に若いハイカーがあんなにたくさん集まったのは、見たことがなかったので圧巻でした」という声のほか、コミュニティのコンセプトを体感できたという感想が挙がった。「ただの物販イベントではなく、いろんな角度からハイクの楽しさを発信・共有できるイベントになった」という声や、「九重の最高のロケーションの中で、あたらしい人と出会い、あたらしい考え方や知識を得て、自らもそれを体験するイベントだった」など、スタッフの実感をともなってコミュニティの共通体験となるものを、このイベントは与えてくれた。

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ここまで「ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング」のイベントができあがるまでのメイキングストーリーを追いかけてきた。「ハイク」を通じて九州にコミュニティを作りたい、という思いからスタートした活動。それは単純にハイカーの「集まる/集める」イベントでなく、九州のハイカーにあたらしい価値観やあたらしいつながりを「つくりだす」コミュニティとして動き出した。

次のEpisode2では、「ハッピーハイカーズ」のコミュニティのあり方やその仕組みなど、コミュニティの核心について聞いてみた。

<次へ:『Episode2 「ハッピーハイカーズ」というコミュニティの作り方』>


WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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