TRAILS REPORT

日本初のパックラフト・ラウンドアップ〜メイキング&イベントレポート〜

2017.08.01
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS, Daisuke Sato

2017年6月。日本で初めてのパクラフトのラウンドアップ・イベントが開催された。きっとこの2日間の出来事は、日本のパックラフトシーンの新たな1ページになるにちがいない。

このシーンの胎動の中心にいたのは、日本でのパックラフトの第一人者であるサニーエモーション(代表:柴田健吾氏)だった。日本で初めてパックラフトによるリバーガイドツアーを始め、また日本でのアルパカラフトの正規輸入代理店を始めたカンパニーだ。日本でのウルトラライトハイキングの伝道師が土屋智哉氏であれば、パックラフトの伝道師は柴田健吾氏であることは間違いない。

TRAILSは、イベントの企画段階のコンセプトづくりから、当日のイベントの様子まで、共催メンバーとして一緒にイベントを作り上げてきた一員として、このイベントの記録をレポートしておきたい。

[EVENT MOVIE]

イベントのコンテンツはコチラ「PACKRAFT RoundUp JAPAN 2017 イベントページ


日本のパックラフターが集まり・つながる。ずっとこんな光景が見たいと思っていた


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サニーエモーションのホームフィールドである安曇野に、日本全国からパックラフターが集まった(万水川、犀川)

日本で初めてのパックラフト・ラウンドアップ(*)は、パックラフトのオーナーだけでなく、ビギナーも一緒になっての、34艇のパックラフトの大ツアーとなった。それはほんとうに壮観な光景だった。西日本や東北など日本全国から、サニーエモーションのホームフィールドである信州・安曇野にパックラフターが集まった。
*ラウンドアップ:集まり/ギャザリングの意味。アメリカやニュージーランドでもパックラフト・ラウンドアップが開催されている。

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夜のキャンプの風景。ムービー上映、スライドショー、BBQなどを楽しみながら、パックラフター同士の交流が生まれた。


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パックラフトの上で眠るパックラフターたち。気持ちいい夢を見ていそうな寝姿。


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ダンボールをかぶって寝るおバカなキャンプしている人(右上)、ゲストとして参加してくれたBOZEMAN横山さんとたわむれる土屋さん(左下)、パドリングの講習をしてくれたパドルクエスト榎本さん(右下)。いろんな人たちがイベント盛り上げてくれた。

サニーエモーション代表の柴田さんはよく笑う。たまに何がおかしいかわからないけど、本人はウケている。一緒にいると、なぜだかこちらも楽しくなる。そして何か一緒にやりたい、という気持ちにさせられる。

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サニーエモーション代表の柴田さん(右)、柴田さんの右腕として活躍するしおちゃん(左)。

イベントのキャンプの夜、スライドショー用のスクリーンに、サニーエモーションが作成したパックラフティングのムービーが投影されていた。その映像を見ながら、参加者からは感想や感嘆の声が混じり合う。その光景を前に、柴田さんは「こんなのがやりたかったんですよ。あははは。」と笑っている。よくわからないけど、本人はウケている。

それは本当に最高の光景で、ハイカーズデポの長谷川さんは、アメリカのロングトレイルを歩くハイカーが集まるキックオフ・パーティみたいだと話していた。まさに新しいカルチャーが醸成されようとしているような光景。そんな光景ができあがったなんて、最高なことなのだ。笑うこところなのかな?

でももちろん違う。2日間にわたるイベントの最後、壮大なパックラフトの大ツアーがおわったとき、柴田さんは男泣きした。それは感極まった瞬間の数秒の涙だった。柴田さんは、日本で初めてパックラフトのリバーガイドカンパニーを立ち上げ、アルパカラフトの輸入代理店を始めた。この男にとって、ずっと夢のように思い描いていた光景が、現実になった日だった。

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パドラーもハイカーも混じり合った新たな川旅のカルチャー


日本の川旅・川下りのカルチャーは、最盛期と比べて貧弱になってしまった。大手アウトドアショップにあったカヌーカヤック・コーナーの多くは姿を消し、川下りの技術や川の危険についての知識を伝承する人や本、イベントなども、極端に少なくなった。

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しかしパックラフトという、たった2kg程度のバックパックに詰め込んでしまえる舟が、川旅のカルチャーにあらたな可能性を開き始めている。その軽量さ、操作性の高さ、そして無骨さと遊び心が混じり合ったギアとしての魅力が、多くの人に川旅への憧れを再燃させ、また川下りへのハードルを下げてくれた。

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パックラフトの軽さを活かして、穂高川から万水川へと田んぼのなかを歩いていて移動するツアー。北アルプスを背景にした、安曇野の田園風景のなか、パックラフトをかついで歩く。

パックラフトの特徴のひとつは、カヌーやカヤックなどのパドラーだけでなく、ハイカーやバックパッカー出身の人も、パックラフトのオーナーには多くいるところにある。象徴的なひとつのこととして、ウルトラライトハイキングの専門店であるハイカーズデポが、早い時期からパックラフトの取り扱いをしていたことが挙げられるだろう。

今回のパックラフト・ラウンドアップも、その流れを受けて、サニーエモーション、ハイカーズデポ(ハイランドデザイン)、TRAILSという座組みでの開催となった。

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ハイカーズデポの土屋智哉さん。


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ハイカーズデポ長谷川晋さん。夜のスライドショーでは、ハイカーの視点で、パックラフトに出会ったときのドキドキについて話をしてくれた。

このイベントの企画を、3社で話し始めたときも、舟のオーナーやパドリングスポーツ経験者だけでなく、ビギナーにも開かれたイベントにしたいという思いがあった。

パックラウンド・ラウンドアップは、海外ではアメリカ、ニュージーランド、スウェーデンなどでも開催されている。それらはいずれもパックラフトのオーナーに限られた集まりだ。しかし日本のリバーカルチャーの現状を考えたときに、オーナー以外にも開かれたイベントにしたいとう思いは3社一致であった。

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イベントではビギナー向けコンテンツも用意された。写真は「川下りのキホン トレーニング(ガイド付き基礎講習&基礎練習)」の様子。


妄想10年・構想5年?の初ラウンドアップ。アラスカでのあの日から


サニーエモーションの柴田さんが、パックラフトに出会ったのは2007年。今から10年前。それは偶然だった。実はパックラフトとは異なる新しいビジネスの立ち上げ準備を目的に、アラスカに渡っていた。そこでたまたま通りかかった橋の下に、パックラフトを持っている人たちを見かける。柴田さんはすかさずその人たちに近寄っていった。「これはすごい!」と、舟を触らせてもらってすぐに感じた。このとき、パックラフトがあれば面白いことができるいう確信を得る。

このアラスカでのパックラフトの出会いをきっかけに、柴田さんは日本で初めてのパックラフトによるリバーガイドカンパニーのつくる意思を固めていった。当時、日本ではパックラフトはほとんど知られていなかった。そのパックラフトを使って、あたらしいビジネスを始めるのは相当な覚悟があったことと思う。

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2007年にアラスカにて、柴田さんが初めてパックラフトに出会ったとき。通りすがった橋の下で、パックラフトで遊んでいる人を偶然に発見した。

柴田さんは、ラフティングやバックカントリーのガイドのキャリアがある。しかし独立を目指し、すでにできあがっているガイド業ではない、オンリーワンの世界を求めていた。規模の原理に巻き込まれない、他にはないもの。そう考えていたときに、偶然にパックラフトに出会ったのだ。これが今回のラウンドアップから10年前のできごとである。

一方、ハイカーの間でも、2010年頃からパックラフトの存在が知られはじめる。ハイカーズデポで、パックラフトの店頭販売をはじめたのが2012年。これが今から5年前。ハイカー一行で、サニーエモーションのツアーに足しげく通うようになったのもこの頃からだ。

ハイカーズデポやTRAILSのメンバーも、パックラフトという新しい旅の可能性を秘めた、この舟に魅了された。そしてこの舟の可能性をもっと多くの人に知ってもらい、また正しく川の楽しさやリスクを伝達していく活動ができないかと、あれこれと検討をしていた。しかし大きな活動を生む機運は生まれず、気持ちばかりがいたずらに高ぶっていたのが、この頃かもしれない。

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ようやく機が熟したであろうと、柴田さんも立ち上がり、昨年から今回のラウンドアップの企画が具体的に動き出した。冒頭でもご報告したように、日本初のパックラフト・ラウンドアップには、日本各地からパックラフトのオーナーや関心のある人たちが集まった。パックラフター同士が、お互いに情報を交換し、川旅の仲間をつくるあらたな機会ができあがった。これがパックラフト・シーンのあらたなダイナミズムを生む一助となれば、主催メンバーとしては光栄だ。

サニーエモーションのガイドを務めるしおちゃんは、今後のパックラフトの可能性についてこう語っていた。「最近はカヤック寄りのパックラフトも開発されて、移動をメインとした舟から本格的な川下りもできる舟へと進化して、選択肢も増えてきました。その携帯性と操作性のバランスは、ハイカー、カヤッカー、沢、釣りなどレベルを問わず多種多様なフィールドで支持されていくと思います。その中でパックラフトを通じそれぞれが知らなかった文化を知り自分の遊びにフィードバックさせていく、そんな環境になっていったら面白いなと思っています。」

そして、これからパックラフトを始めたい人、これからもうちょっと難しいところにチャレンジしてみたい人は、ぜひサニーエモーションのツアーにも参加してみてほしい。柴田さんは、「パックラフトほど、川下りを身近にしてくれる道具はない」という。ぜひパックラフトという新たな旅の道具を、あなたなりのやり方で楽しんでみてほしい。

【後編 : 参加者によるイベントレビュー

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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