TRAILS REPORT

HIMALAYA MOUNTAIN LIFE #4 – GHT Project / ソルクンブ〜ロールワリン〜ランタン

2018.01.19
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文・写真:根津 貴央

ヒマラヤのロングトレイル『グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)』を踏査するプロジェクト『GHT Project』。その第4弾のレポートと映像を本邦初公開!過去3回の旅とは異なり、今回は標高5,000mオーバーの峠を2つ越えるタフなルート。そんな高所登山の要素もありながら、ヒマラヤの圧倒的な自然の風景と、そこに生きる人々の山での暮らしに触れながら、プロジェクトメンバーの3人は旅を続けていく。

『ヒマラヤは世界最大の里山だ』をコンセプトに旅する彼らが、今回スタート地点に選んだのはエベレストのある人気エリア、ソルクンブ。そこから進路を西に取り、ロールワリンを経てランタンへ向かった。総延長約250km、総日数31日間。このように彼らは2014年から毎年、グレート・ヒマラヤ・トレイルに1ヶ月〜2ヶ月にわたる旅を続けている。

メンバー3人が見たヒマラヤ・マウンテン・ライフの貴重な風景を、お楽しみください。

[MOVIE]


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都市から大自然へ。対極の世界へと歩いて移動する。



僕たちはまず、ネパールの首都カトマンズから飛行機に乗り、ルクラへ。機内は、エベレスト街道を歩くトレッカーでいっぱいだった。多くの人は、ここからナムチェバザールを経て、エベレスト・ベースキャンプへと向かう。

かたや僕たちは、ナムチェバザールから西へと向かいGHT(グレート・ヒマラヤ・トレイル)に入っていく。2日も歩けば村はなくなり、テント泊生活が始まった。

ネパールの町並み。山と隣接した暮らし。

町からダイレクトに自然の景色のなかへとつながっていく。今回、根津が使用したバックパックは、ライペン(アライテント)のマカルー80L。

不思議な感覚だ。昨日まで、お金さえあれば何でも揃うファシリティの整った世界にいたのに。同じ国、同じエリアでありながら、ちょっと歩くだけでもうそこは別世界。整備されていた道も、ほどなく生活道になり、けもの道になり、さらには道という道すらなくなっていく。このギャップこそがヒマラヤならではであり、ヒマラヤを歩くおもしろさでもある。



ヒマラヤならではのビッグスケールの峠越え。標高5,000mの峠でのビバーク。



今回の行程の目玉というか過去3回の旅と大きく異なるのは、高標高の峠が2つ存在していること。しかもそれがハイキング気分で越えられるものではなく、それなりの技術と体力を要するものであることだ。

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まずひとつめは、ソルクンブとロールワリンの境に位置するタシラプツァ(標高5,755m)。峠越え前夜は、かなりの雪が降っていた。「引き返すしかないか……」そんな空気が場を支配していたのだが、出発前に奇跡的に天候が回復。僕たちは標高5,100mのビバーク地点から歩き始めた。3時間半ほど進み標高約5,600mの地点へ。

あともう一息と思っていたら、なんと目の前に氷壁が立ちはだかっていた。陽射しで氷が溶けはじめ、落石が増えていたこともあり猶予はない。そこでリーダーの根本がルートを探し出し、アイスクライミングにてフィックスロープを設営。それを頼りに、なんとか無事に乗り越えることができた。

標高5,000m超の峠でビバーク。シェルターは、FREELIGHTのM TrailをGHT project用にアレンジして開発した、”M Trail Himaraya”。

ふたつめは、ランタンエリアにあるティルマン・パス(標高5,308m)。これまた一筋縄ではいかない峠だった。 氷河に積もった砂れきの急斜面をひたすら登り、それをクリアーすると今度はクレバス地帯。無数に存在している割れ目をかわしながら縫うように歩き、ようやく最高点へとたどり着いた。

ロングトレイルを歩く上で峠の存在は珍しくないが、ヒマラヤの峠は他のとは別物だった。そのスケールの大きさは半端なく、これまでの峠の概念を覆すほどのものだった。



まさか!? と思うような人里離れた秘境に暮らす人々との出会い。ネパールでお馴染みの料理・デイロをごちそうになる。



ロールワリンとランタンの間は人里離れたエリアゆえ、テント生活がメイン。それを想定して行動計画を立てていたのだが、思いもよらない場所に集落があったりすることに驚かされた。

もちろん僕たちにとって、それはありがたいこと。宿泊や食料補給ができる可能性が高いし、台所が借りれたら燃料の節約にもなる。なにより、人と触れあえるのは楽しい。旅の醍醐味でもある。



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今回たまたま出くわした集落では、夕食をご馳走になった。およそトレッカーが来るようなところではないこともあってか、かなり歓迎ムードだった。いただいたのは、ネパールにおいて米の穫れないエリアでお馴染みの食べ物、デイロ。とうもろこしの粉を練ったもので、これを付け合わせのシシヌ(イラクサ)のスープにつけて食べる。

一見おいしそうには思えないが、これがもう絶品で。こういう食との出会いもまた、GHTの魅力でもあるのだ。

■ GHT projectメンバーが語る、これまでとは異なる今回の旅の魅力とは
『GHT Project』は、ライターである自分と、山岳ガイドである根本、写真家である飯坂、という異なる立場の3人で構成されていることも特徴のひとつ。そこで、根本と飯坂に今回の旅について訊いてみた。



登山は、答えに向かっていくような性格があるじゃないですか。でも、GHTのような旅のスタイルならば、高所登山的な要素もあるけどプロセスの一部でしかないわけです。それが非常におもしろいですね。(根本秀嗣・山岳ガイド)



根本秀嗣(Nemoto Hidetsugu)・山岳ガイド。GHT projectでは、リーダーとして企画、渉外、戦略を担う。

根本:GHTの旅のなかで5,000mを超える高所の峠や氷河地帯を越えたことは、とても有意義でした。これが登山になると、ベースを決めて滞在型でアタックすることが多いわけです。僕もさんざんやってきましたけど。その際、どうしても倦怠感が生まれるタイミングがあるんです。

でも、私たちのプロジェクトのように通過していくスタイルであれば、物語の展開も停滞することなく、川の流れのごとくフレッシュさがつづく。その風通しの良さというか、流れるような感じのグルーヴ感が自分は好きですね。

登山は、答えに向かっていくような性格があるじゃないですか。目指すべき結果がある。今回のタシラプツァ、ティルマンパスといった峠は、高所登山的な要素もあるけどGHTの長旅においてはたかだか1〜2日でしかない。プロセスの一部でしかないわけです。それが非常におもしろいですね。まあ自分もこれまで登山で鍛えられてきた人間だからこそ、そう言えるんだとは思いますけどね。



(今回は)大きな峠をいくつも越えたのですが、印象的だったのは、高所の氷河地帯も里山につづいているということ。里山につながる高所を想像できるからこそ、より深くヒマラヤを味わうことができるんじゃないかと思っています。(飯坂大・写真家)



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飯坂大(Iizaka Dai)・写真家。GHT projectでは、写真などビジュアル面を担当する。

飯坂:大きな峠をいくつも越えたのですが、そこで印象的だったのは、高所の氷河地帯も里山につづいているということ。氷河や雪から生まれる一滴が川になっているんだなと。高所から低所まで幅広く体感できるのもGHTらしさですよね。来年以降も里山を歩いていくわけですが、里山につながる高所を想像できるからこそ、より深くヒマラヤを味わうことができるんじゃないかと思っています。

あとは、低地から登る途中にあった棚田も良かったですね。実は去年、友達と一緒に米づくりに携わったこともあって、そういう風景がすごく身近に感じることができました。どのあたりの標高でどんな作物をつくっているのかもイメージできるようになってきて。ヒマラヤに暮らす人々の営みの風景を想像しながら旅をし、触れ合えたことも自分にとっては大きな発見でした。

今回はテント泊も多かっただけに、僻地にある村の民家で、囲炉裏を囲んでみんなで食事をしたり、お酒を飲んだり、語らったりしたことも、大切な思い出。いい出会いがたくさんありました。


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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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