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土屋智哉 | 僕とULとハンモック

2018.05.30
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話・写真:土屋智哉 取材・構成:TRAILS

ハイカーズデポ店主である土屋智哉が、ウルトラライト(UL)・ハイキングの歴史におけるハンモックを語った。土屋さんのUL的なハンモック愛とは?

実は土屋さんは、ゼロ年代初頭にハンモックに興味を抱き、国内でもいち早く輸入・販売を手がけている。そこには、最初から軽さだけではなく、“シンプル” であるという、ULハイキングの価値観がベースにあった。

そして、オリジンや源流を感じさせてくれることも大事にするのが、土屋さんのスタンス。ハンモックのオリジンである、ブラジリアンハンモックやメキシカンハンモックに対する思いも語られている。本文にも出てくるあしかけ6年、40泊以上の南の島でのハンモック泊の経験など、亜熱帯気候のなかでハンモックを使い続けてきたエピソードにも、オリジンを大切にする土屋さんらしさが滲みでている。

それでは、ULという文脈のなかで10年以上ハンモック・ハイキングを実践してきた土屋さんのお話を、お楽しみください。

※『HAMMOCKS for Hiker2017』で語った内容を、加筆・修正して掲載しています。

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ハンモックは、僕的にはシンプルな寝具というところがUL的なんです。



『HAMMOCKS for Hiker』(TRAILSとハイカーズデポが主催しているハンモックイベント)をはじめとして、最近いろいろハンモックのことを手がけている印象があるかもしれないんですけど、実は、ハイカーズデポのオープン当時(2008年)からハンモックは扱っていて。でも最初のうちは、「なぜハイカーズデポでハンモックなんですか?」という声も実際のところあったんですよ。

たしかに、一見ウルトラライト・ハイキングの道具ではないように思えるかもしれません。でも、ULハイキングの文脈においては『軽さ』『シンプルさ』という2つの視点があるわけで、僕は、ハンモックを “シンプル” な寝具と捉えていたのです。

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同じ視点で考えたとき、自分は、暖かい季節は寝袋の代わりにブランケットでもいいよねと思っていて。それで、ペンドルトンをウチの店に置いていることもありました。

僕のなかでは、ULは軽いということだけじゃない。軽さの向こう側にあるシンプルさを感じられること、それを大事にしているんですよね。だからハンモックはすごくULと関連しているし、ずっと前からタープなんかと同じような眼差しで見ていたものなんです。



ゼロ年代初頭、ヘネシー・ハンモックが与えた、ULハイクにハンモックが使えるという衝撃。



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ヘネシー・ハンモックは、タープとバグネットとハンモックの一体型というシステムで、『宿泊道具としてのハンモック』を確立させたブランド。

ハンモックに強く興味を抱いたきっかけが2つあるんです。ひとつは、ヘネシー・ハンモック(*1)です。これは、『宿泊道具としてのハンモック』を確立させたブランドです。たしか、2002年の北米のORショー(Outdoor Retailer Show:世界最大級を誇るアウトドア関連の総合見本市)に出展していたと思うんですが、その製品がとにかく衝撃的で。

ハンモックがULハイキングに使えるものだということを教えてくれたのがヘネシー・ハンモックだったんです。当時僕は、前職のアウトドアショップでバイヤーをやっていたので、買い付けてお店で扱っていました。そのときはまだ日本で正式な代理店が入る前でしたね。

一方で、同じ時期に川崎一さん(*2)が、ブログですごく早いタイミングでゴーライトのヘックス(ピラミッドシェルター)やジェットボイルとかと一緒に、ヘネシー・ハンモックを紹介していて。ですから、ハンモックはここ数年で急に出てきたわけではなく、日本のULカルチャー黎明期の頃から注目されていたギアでもあるわけです。

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もうひとつは、ハンモック2000(*3)。実はハイカーズデポ創業時には、このハンモックも、取扱商品として店頭にラインナップしていました。ハンモック2000は日本のハンモックメーカーで、当時よく全国のフェスとかに出展していました。このメーカーの製品は、中南米のオリジナルのハンモックをベースにしてつくっているんです。

僕はもともと、お店で扱うモノに関してはできる限りオリジンや源流を感じられるものでありたい、という思いがあるんです。たとえば、最近ではTRAIL BUMとかもそうですね。だからハンモックに関しても、本来は中南米のリアルな日常生活で使われているわけですから、そこから生まれたハンモック2000に興味を抱いたんです。

ゼロ年代前半頃から、僕はハンモックについて、軽さよりもシンプルであることに意義を見出していました。その意味で、前職の時代から、ヘネシー・ハンモックとハンモック2000という二つのハンモックブランドを取り扱ったことで、僕のなかで現在まで通じるハンモックに対する認識のベースができあがりました。

*1 『シェルターとしてのハンモック』というジャンルを生み出したハンモックブランド。ヘネシー・ハンモックやMLDなど当時のガレージメーカーが、軍の放出品(surplus)を使って、ハンモックのシェルターシステムを開発した歴史は、過去記事の「ハンモックの歴史と魅力」で詳しく紹介している。(http://thetrailsmag.com/archives/8389
*2 国内のULカルチャー黎明期を代表する人物のひとり。川崎さんの「狩野川のほとりにて」は、アメリカのULハイキングやガレージメーカーについての情報をいち早く発信し、日本のULカルチャー黎明期に多大な影響を与えた。(https://thetrailsmag.com/archives/2635
*3 オリジナルのハッモックを扱う日本のメーカー。東京と山梨にショールームもある。



毎年行く南の島のジャングルでは、かならずハンモックを持って行っています。そこであらためて、ハンモックっていいなあと思いましたね。



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僕はハンモックにUL的な価値を見出していたのですが、実際にはフェスやオートキャンプのアイテムとしてしか見られないのが現実でした。それで、ハンモックをハイキングで使うリアリティを求めるべく、自分のハイキングにも積極的に取り入れるようにしました。

毎年3月後半に、僕は仲間と南の島に10日間くらい旅をしに行っているんです。もうかれこれ6年くらい通っているけど、そこではかならずハンモックなんです。あしかけ6年、40泊以上のハンモック泊は、ジャングル内から海岸まで、晴天からスコールまで、さまざまな条件でのハンモック泊のテストにもなりました。ちなみに、いちばん最初に使ったのはヘネシー・ハンモックです。

もちろん使う理由もちゃんとあって。そこはジャングルみたいなところなんですが、地面は湿っているし、虫や蛇もいたりするのでタープだとちょっとイヤだなと。かといってテントじゃつまらないし、それじゃあハンモックだろうと。

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日本の山って、幕営指定地以外で平らなところが少ないじゃないですか。つまりテントが張りにくい。南の島はそれをリアルに体験できる場所でした。あらためて、ハンモックってすごくいいなあと思いましたね。

あとは、アパラチアン・トレイル(AT)でも使いました。僕が歩いたのは、「100 Mile Wilderness」というATのラストセクションです。ハイキングの世界でハンモックが注目されはじめたのはアメリカの東海岸。ATではダニ問題があるんですが、それを避けるためにハンモックを使ったハイキングが定着していたんです。それもあって、本場に行くならハンモックしかないっしょ!という感じで使用しました。

実際使ってみて、ジャングルはもちろん森のなかで過ごすにはとても合理的なギアだなと思いました。

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でも、機能や合理性がすべてではない。南の島のビーチでハンモック吊るして酒飲んで寝て。結局はそれがサイコーなんです。



ULハイキングにおけるハンモックの機能や合理性もたしかに素晴らしいんだけど、僕自身、使っているうちにノリが変わってきて(苦笑)。

たとえば、これまで道具とかをお客さんに提案する際に、大丈夫ですよ!ってことを伝えるためには、こういう機能があってこういうところで使えます、とまずは機能が最初にくるじゃないですか。でも一方で、これを使ってこういう風に遊びたいんだよね、と機能よりもスタイルや雰囲気を重視する人もいるわけです。

僕なんかもだんだん雰囲気重視になってきて、屋根もバグネットもないenoのsub7みたいなシンプルなハンモックを使うことが多くなってきました。南の島のビーチでハンモック吊るして酒飲んで寝て。もうそういうのがサイコーじゃないですか!

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『ハンモック × タープ』は、無敵に近い。



ハンモックは、木をはじめとした支点がないと張ることができない。そこが最大の弱点ではあるんですが、でも工夫次第なんですよ。

たとえば僕の南の島の場合、浜辺に木がなかったりするのですが、岩を支点として使うためにスリングを用いていました。満潮になると陸地がなくなるところがたくさんあって、ここはもうハンモックじゃないと誰も寝られないだろうなあって感じでしたね。でもこういうところで張れるようになると、もう何も怖くない。どこでも大丈夫!っていう自信がつきます。

万が一、どうしてもハンモックが張れないようであれば、タープだけ張ればいいわけで。いま自分のなかでは、ハンモックとタープの組み合わせって、雰囲気もすごくいいし、どんなところでも寝られるし、かなりパーフェクトな組み合わせに近いんですよ(*4)。

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南の島では、岩にスリングをくくりつけて支点をつくり、ハンモックを設営した。

正直なところ、日本ではまだテント場でハンモックを張ったときに、ニコニコしてオッケーって言ってくれる場所は少ないだろうけどね。でも、そういうことができて、そして木がなかったらタープで寝て、っていう山旅が日本でもっとできるようになるのが理想です。

*4 ハイカーズデポ二宮の39日間の北米バイクパッキングの旅も、ハンモック × タープの組み合わせで過ごした。そこでもハンモックの「無敵さ」と「不完全さ」が語られている。(詳しくはこちら http://thetrailsmag.com/archives/13122



無くても困らないけど、あったらすごく楽しみが増える道具。



ULハイキングも僕が始めた頃、特に2000年代初頭は『タープって大丈夫なんですか?』という意見がいっぱいありました。ハンモックもいろいろあるとは思うんですが、でも、楽しいことはできる限り続けたいじゃないですか。

さまざまな山の楽しみ方があるなかで、ただ山の中で泊まりたい、ゆっくり寝たいという人も多いんですよね。ハンモックは、そういう人の楽しみの可能性も広げてくれる道具だと思うんです。

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だから楽しむことを守っていきたい。もちろん、隠れてこっそりやりましょう!と言いたいわけではなくて。みんなでハンモックの可能性とか、どういう風に使っていったらいいかとか、そういうことを考えていければと思っています。

なぜなら、ハンモックは僕自身も楽しんでいるし、使うだけの価値がある道具だし、何より、無くても困らないけどあったらすごく楽しみが増える道具だからです。


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WRITER
土屋智哉

土屋智哉

1971年、埼玉県生まれ。東京は三鷹にあるウルトラライト・ハイキングをテーマにしたショップ、ハイカーズデポのオーナー。古書店で手にした『バックパッキング入門』に魅了され、大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭する。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライト・ハイキングに出会い、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、ジョン・ミューア・トレイルをスルーハイクしたのち、幼少期を過ごした三鷹にハイカーズデポをオープンした。現在は、自ら経営するショップではもちろん、雑誌、ウェブなど様々なメディアで、ハイキングの楽しみ方やカルチャーを発信している。 著書に 『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)がある。

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