TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #03 | 会社員時代に歩いた “ ジョン・ミューア・トレイル ” セクションハイキング8days

2018.07.27
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話・写真:佐井聡・和沙 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

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先日リリースしたZINE#02『SECTION HIKING』。これは、長旅をあきらめていた人にも、ロングディスタンスハイキングの世界への扉は開かれていることを伝えたい、という強い想いから生まれた。このZINEでは、さまざまなハイカーに、アメリカの3大トレイル、ニュージーランド、スペインなど世界中のロングトレイルのセクションハイキングを紹介してもらっている。

そして本連載では、これから3回にわたりTRAILS crewそれぞれが実際に旅したセクションハイキングについて、そのきっかけや気持ちの変遷、道中での出来事を語っていく。まずトップバッターは、この旅をきっかけにTRAILSを立ち上げた佐井聡 & 和沙夫婦。二人が会社員時代にセクションハイキングしたジョン・ミューア・トレイル(JMT)とは?

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佐井聡&和沙。後ろの中央に見えるのは、ヨセミテのシンボルでもあるハーフドーム。




憧れのJMTを、自由に旅してみたかった。



−− なぜJMTに行こうと思ったのですか。

佐井聡(以下、聡):学生時代に写真にハマっていて、アンセル・アダムスがきっかけでヨセミテやJMTを知って。その後、社会人になってから、毎週末に山に通うようになって、加藤則芳さんの『ジョン・ミューア・トレイルを行く』も読んだりして、どんどんJMTの魅力にハマっていったんです。

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氷河湖が点在するこのエリアは、JMTの見どころのひとつ。

当時はスルーハイキングなんて言葉すら耳にすることがなかった時代です。僕としてはバックパッキングの延長で、バックパックひとつ背負って自由に旅できたら最高だよなぁと妄想したりしていました。

ずっと憧れの対象でしたね。ただ、まさか自分なんかが行けるとは思っていないくらいの遠い存在でした。



「行けるはずない」から「行けるかも」に。



−− 自分でも行ける!と思うようになったのは、何がきっかけだったんですか。

聡:たしか2007年にテラさん(寺澤英明さん。詳しくは土屋智哉のMeet The Hikers! #3を参照)がJMTのセクションハイクをして、2008年には土屋さん(ハイカーズデポ店主)がスルーハイクして、さらに松浦弥太郎さんがJMTの旅をブルータスに寄稿していて。この3連チャンで、行けるかも!というリアリティが一気に芽生えてきたんです。

それまでJMTを歩く話はそのほとんどが冒険譚で、それこそ毎日のように山に入ってカラダを鍛えているようなフィジカル・エリートや、リスクを恐れない冒険家のような人だけが行っていいところだと思っていました。でも、松浦さんと土屋さんによって、その考えが180度変わったんです。

松浦さんの紀行文には文化的な匂いが漂っていて、こういう感じでも楽しめる場所なんだと。土屋さんは13日でスルーハイキングしたので、なんだ2週間もあれば歩けるのかと。これでJMTがグッと身近になりましたね。あとは当時、ULに死ぬほど傾倒していたので、世界中のULハイカーが集まってくるJMTにはどうしても行きたかった。それで歩くことを決めました。

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当時からUL(ウルトラライト)に傾倒していた二人は、JMTでもULを実践。写真は佐井聡。

−− 当時、会社員だったわけですけど、2週間であれば都合がつけられそうだと。

聡:いや、頑張っても5日間くらいでした(苦笑)。ただ2009年に結婚して、2010年に新婚旅行に行くことになっていたんです。2週間休むならここしかない!という感じでした。これでJMTをスルーハイキングできるぞと。



当時の日本は、自分も含めスルーハイキング至上主義のハイカーが多かったように思う。



−− でも、結局はスルーハイキングではなくセクションハイキングを選びました。

聡:最初はスルーハイキングが前提だったんですよ。でも、そんなに無理しなくてもいいかなと思うようになって。

佐井和沙(以下、和沙):正直、不安が大きかったです。私は山のスキルに自信がなかったし、トレーニングをしているわけでもない。それに本当に仕事が忙しくて激務だったので、スルーハイキングに向けてちゃんと準備できるかどうかも心配でした。

聡:当時は、舟田くん(アメリカ3大トレイルを踏破した日本初のトリプルクラウンハイカー)の存在も大きかったし、仲間内の風潮としてロングトレイルを歩くならスルーハイキングでしょ!っていう感じだったんですよね。

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サウザンド・アイランド・レイクの湖畔を歩く。

だから僕もスルーハイキングしようとしていたんですが、カズと話しているうちに、せわしなく歩いても楽しめないかもなと思うようになってきて。土屋さんからも「ゆっくり歩いてきなよ!」って言われたのも理由のひとつですね。

あとは、『Section Hiker』っていうギアホリックなハイカーのWEBサイトとかもよく見ていて。アメリカではセクションハイキングという方法が一般的であることも知っていたので、じゃあ無理することはないなと思うようになりました。

そもそも自分たちはJMTを自由に旅したかったわけですしね。スルーハイキングにこだわって、日々、時間に追われるのもイヤだし、べつに距離や時間を競いたいわけでもないし。僕たちらしく楽しむのならセクションのほうがいいなとなったんです。



どうしてもサウザンド・アイランド・レイクに行きたかった。



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サウザンド・アイランド・レイクとバナー・ピーク(標高3,945m)。あまりの素晴らしさに、ここで3泊することに。

−− JMTのどのセクションを歩くか?かなり選択肢があると思うのですが、どうやって決めたのですか。

聡:結局は新婚旅行で2週間強休みを取れたんですが、JMTは行きたい場所をしぼって8日間堪能し、残りの日数でスイスの山も少し歩きました。JMTでいちばん行きたかったのはサウザンド・アイランド・レイクだったんですが、JMTの途中までクルマで行ってそこから歩き出すということにどうも抵抗があって。

そしたら、土屋さんやベぇさん(勝俣隆さん。詳しくは土屋智哉のMeet The Hikers! #2を参照)から「途中から入っちゃえばいいじゃん」って言われて。JMTを歩いた二人が言うんだから、意地を張る必要もないなと思って、今回の旅のメインをサウザンド・アイランド・レイクで過ごすことに決めたんです。

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1日目はマンモス・レイクスで車中泊し、事前取得できなかったパーミッションを求め翌朝5:00からェルカム・センターに並んだ。近年、ハイカーが極端に増えたので、今は事前取得しないと危険。

土屋さんとべぇさんにはいろいろアドバイスをもらいました。それで、マンモス・レイクスまでクルマで行って、そこから歩き始めることにしたんです。アグニュー・メドウからトレイルに入ってPCTを通り、サウザンド・アイランド・レイクを経由して、JMTを通って戻ってくる、というマニアックな周回ルートを描きました。

−− 念願のサウザンド・アイランド・レイクはどうでしたか。

和沙:地球上にこんなところがあるんだ!と。
聡:たしかにその感覚に近い。こんなところが存在したなんて。もう最高でしたね。
和沙:自分たちの足で、こんなところまでたどり着けたんだと。
聡:僕たち、ホーリー・プレイスって言ってましたからね。
和沙:そうそう、聖地っぽいって。
聡:今じゃ、行く人も増えたし、雑誌とかでもよく目にするから、JMTでおなじみの光景になったかもしれないけど、当時の自分たちからすれば、ヤバイもいいところで。とうとう来てしまった……という感じで、だいぶざわつきましたよ。

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眼前の景色に見とれる佐井聡。どれだけここにいようとも、まったく飽きることがなかった。

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サウザンド・アイランド・レイクのすぐ近くの川に3日間通い続け、テンカラ釣りを楽しんだ。



続編がある楽しさ。8年経った今でもワクワクしている。



−− トータル8日間かけてJMTのセクションを楽しんだわけですが、一方で、8日間でスルーハイキングできる長さのトレイルもあります。長大なロングトレイルの一部を歩くのと、短めのロングトレイルの全部を歩くのとでは、同じ日数であっても感じ方や面白みが異なるのでしょうか?

和沙:違うと思う。次に続くかどうか。終わるかどうかによってモチベーションが変わってくる。長いほうがいいってわけじゃなくて、まだ歩けるって思えるというか、まだ続きがあるよっていう。映画の続編があるみたいなイメージかな。

聡:JMTのセクションを歩いてみて、超巨大な何かの一部に触れた感じがしたんですよね。未知なる巨大なものの一部に触れた感じというか。あとはカズが言ったように、続編のある映画。そこで終わりじゃない感じ。次が公開されるまで楽しみが続くっていうのと同じ感じはあるかな。だって、8年経った今でもワクワクしているから。まあ結局は “憧れ” なんでしょうね。また遊びに行ける楽しみがあるっていうのは、すごく嬉しいよね。今年か来年あたりから、二人の息子と一緒に家族四人でセクションハイキングをして、続編を再開しようと思っています。

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休憩時のひとコマ。トレイルの一瞬一瞬すべてが、かけがえのない思い出。



会社員の人にこそ、セクションハイキングをしてほしい。



−− 最後に、どんな人にセクションハイキングを勧めたいですか。

聡:それはもう、まとまった休みが取りづらい会社員の人しかないですよ。当時の僕もそうでしたけど、死ぬほど働いている人にこそ行ってほしい。短い期間でも、ぜったいに別世界を見られるから。

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テント泊がこれほど楽しかったことはない。

ぶっちゃけ、ロングディスタンスハイキングだとか、スルーハイキングだとか、そういうことは一切気にしなくていいので、試しにセクションハイキングをしてほしい。ちょっとその世界にタッチするだけで、日常とはまったく違う場所に足を踏み入れる感じが味わえるし、ほんと人生変わりますから。事実、僕たちもこれをきっかけにTRAILSを立ち上げましたし。仕事も楽しいんだけど、会社員の人にはぜひ遊びも楽しんでほしいですね。

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トレイル上にあった巨木は、まるで生き物のよう。その圧倒的な生命力とエネルギーを体感した。



TRIP INFORMATION



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[DAY1] サンフランシスコ国際空港〜マンモス・レイクス [DAY2] マンモス・レイクス〜サウザンド・アイランド・レイク [DAY3・4] ZERO DAY [DAY5] サウザンド・アイランド・レイク〜ガーネット・レイク [DAY6] ガーネット・レイク〜ミナレット・フォールズ [DAY7] ミナレット・フォールズ〜マンモス・レイクス [DAY8] マンモス・レイクス〜ヨセミテ・バレー〜サンフランシスコ国際空港

■トレイル名
ジョン・ミューア・トレイル
■セクション名
サウザンド・アイランド・レイク ループ
■歩く距離
70.56km
■旅全体の日数
8日
■WEBサイト
Pacific Crest Trail Association(https://www.pcta.org/)
National Park Service(https://www.nps.gov/seki/planyourvisit/wilderness_permits.htm)
■ベストシーズン
晩夏〜秋
■パーミッション / ブッキング
パーミッションが必要(https://www.nps.gov/seki/planyourvisit/wilderness_permits.htm)
■予算目安
25〜30万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度
現地宿代:1泊1万円(目安) ※ハイカーディスカウントがあるところも有り。
キャンプサイト代:無料
パーミッション料金:15ドル / 人
レンタカー代金:4万円(カーナビ代、ガソリン代別)
その他(食費など): 5万円
■アクセス方法
[空港] サンフランシスコ国際空港(アメリカ合衆国):日本から約10時間
[空港から近くの町へ] 空港で予約しておいたレンタカーでマンモスレイクスビジターセンターまで。
[IN:町からトレイルへ] マンモス・レイクスに駐車しアグニュー・メドウまで行き、またそこから歩き始める。
[OUT:トレイルから町へ] アグニュー・メドウからマンモス・レイクスまで歩き、駐車していたクルマでサンフランシスコ国際空港まで行く。
■宿泊(町)
マンモス・レイクスの町で1泊1万円程度(https://www.shiloinns.com/shilo-inns-mammoth-lakes)
■宿泊(トレイル)
キャンプ適地を見つけてテント泊
■補給方法(水、食料、燃料など)
水:トレイル上の水場から浄水して使用。
食料・燃料:マンモスレイクス近隣のアウトドアショップで購入可能。全行程分をここで購入しておく。(http://mammothgear.com → ほとんどなんでもある http://kittredgesports.com → 釣りのパーミッションも取得可能)



ZINE#02 SECTION HIKING



アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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WRITER
トレイルズ

トレイルズ

佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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