TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY # 04 | カミーノ・デ・サンティアゴ(スペイン巡礼道)をセクションハイキングで旅する2週間

2018.08.03
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話・写真:小川竜太 取材・構成:TRAILS

Whtat’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

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TRAILS crewのメンバーが実践してきたセクションハイキングとして、前回は佐井夫妻のジョン・ミューア・トレイルの旅を紹介した。今回は、毎年海外トレイルのセクションハイキングを続けている編集部の小川が、カミーノ・デ・サンティアゴ(スペイン巡礼道)のエピソードを語る。小川はTRAILSで制作したZINE#02『SECTION HIKING』の情報を実際に参考にして、カミーノのセクションハイキングの旅を計画した。

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カミーノ・デ・サンティアゴ(スペイン巡礼道)の「北の道」を、2週間セクションハイキングした。





異国の土地でくたくたに歩き続け恍惚となる感覚を味わいたい、という衝動があった。



ーー なぜカミーノ・デ・サンティアゴを選んだのか?
20代前半の頃、たまたまカミーノ・デ・サンティアゴに関する展覧会を、大阪の国立民族博物館で見たんです。いま思えば、それが僕にとって、ロングディスタンスハイキングに対する憧れの原点でした。

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カミーノ・デ・サンティアゴでは、道のいたるところに、このホタテ貝をモチーフにしたトレイルサインがある。

世の中について、あれこれと難しく考えて、穿(うが)った見方ばかりをしている頃だったと思います。そのなかで、ただただ毎日歩くだけの日々というのに、強烈な憧れを抱いたことは覚えてます。異国の土地のなかで、くたくたになりながら歩き続け、心身が麻痺して恍惚となるような感覚を味わいたい。そんな衝動があったように思います。今はまた違った感覚でとらえていますけど。

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牧草地のなかを歩く、スペイン巡礼道らしい景色。

ーー 今は違うというのは、初期衝動とはまた別のモチベーションで歩いているということ?
今はニュージーランド、パタゴニア、香港、そして日本のトレイルを歩いた体験が自分のなかに蓄積されています。今回、スペインの巡礼道を選んだのは、あの頃の自分の衝動をちょっと覗き見てみたい、という好奇心が強かったですね。あと、今は毎日ワインを飲みながらトレイルを歩く、っていうだらしない歩き旅もいいなと思っていたのもあります(笑)。自然と向き合う緊張感を楽しむより、なんというか酩酊感のある長旅もいいな、と。



2週間の旅は、ぎちぎちにスケジュールを組むには長いし、でもゆるいなかで旅をつくる自主性も必要な、ちょうどいい旅の期間。



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スペイン北部の田舎町をいくつもつなぎながら歩いていく。

ーー なぜセクションで歩くことに?
今回は、パートナーが転職するタイミングで、休みをとれるのが2週間と決まっていたので、その期間で歩こうと決めてました。

カミーノ・デ・サンティアゴは、ゴールのサンティアゴ大聖堂だけが決まっていて、そこに向かうトレイルが何本もあるんです。そして、どこから始めてもかまわない。『SECTION HIKING』のZINEで、PCTハイカーでもある純子さんが、カミーノを紹介してくれています。それで純子さんに話を聞いてみたら、スペイン北部の道は自然道も比較的多いということで、今回の道を歩くことにしました。

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マドリッドから特急列車でスタート地点のオヴィエドに向かう。

ーー セクションハイキングのスタート地点は、どうやって決めた?
スタート地点は、自宅近所のスペイン料理屋さんで飲んでいるときに、店主の方にオヴィエドという町は、歴史もあるし、うまいレストランがたくさんあるよ、という話を聞いたんです。それでもうスタート地点はそこだな、と思って決めてしまいました。ただ出発直前になって、具体的にルートをきちんと調べていくと、その町からではサンティアゴ大聖堂まで歩き切ることができない距離だとわかりました。だったら、途中でどっかスキップすればいいや、と2回ほど電車とクルマでスキップすることにしました。それを決めたのが、日本を出発する2〜3日くらい前だったと思います。

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トレイルのまわりに牛がたくさん。こんな愛らしい看板をいくつも見かける。

2週間という旅の時間って、ぎちぎちにスケジュールを組むには長いし、でもゆるい計画のなかで、自力である程度の旅をつくらないと旅が楽しめないんですよね。なりゆきにゆだねる部分と、自分で旅をつくる自主性が、いい感じにミックスされる旅の期間だと思います。



カミーノでは、巡礼道というコンセプトがもっている共感力の強さを感じました。



ーー カミーノ・デ・サンティアゴを歩いた感想は?
カミーノでは、巡礼道というコンセプトがもっている共感力の強さを感じました。カミーノで出会うのは、アウトドア好きに限らず、長い歩き旅が好きな人たちです。60歳を超えている旅人もたくさんいます。10代のグループやカップルもたくさんいました。これだけ年齢多彩な歩き旅の人たちと会えるトレイルもないのではないかと思います。とあるおじいさんは、もうカミーノを歩くのは7回目だよ、と言っていました。

それはきっと、宗教という生き方に関わることであることもそうですし、信仰の深さや種類に関わらず、巡礼の目的地まで歩き続けていけばいい、というシンプルさが、いろんな人の共感を生むんだろうなと感じました。そこには、遠くまで歩き続けて行く、という行為への純粋なリスペクトがあるような気がしました。

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カミーノを歩くペレグリーノ(巡礼者)たち。自転車のペレグリーノも多く見かけた。

そう、だからアメリカのPCTやATのような自然をベースにしたロングトレイルとは歩くフィールドは違いますが、カミーノ・デ・サンティアゴにも、種類は違うけれど、歩き旅が好きな人、長く歩くという行為に没頭したい人がいる、という意味では同じだなと思いました。

「National Scenic Trail」という自然保護のコンセプトをベースにつくられたアメリカのトレイルが、歩き旅のひとつのできあがったスタイルだとすれば、宗教というビジョンをベースにつくられたカミーノ・デ・サンティアゴは、また違った形の歩き旅のスタイルです。もちろんどちらが正しいということでなく、長い歩き旅というものがもつ、カルチャーやスタイルの幅の広さを身を持って体感しました。 

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アルベルゲ(巡礼者用の宿)は、一泊700~1500円と格安。掛け布団はなく、ベッドの上に自分の寝袋を使って寝るのがカミーノ式。

ーー カミーノで食料や燃料の補給で気をつけることは?

基本的には1日のうちに3〜5つの町を通過するので、食料やエスケープの心配をする必要がありません。つまり誰でも歩くことを許されたトレイルだということです。僕たちも、この旅のシステムを理解してからは、食料は非常時の分と行動食のみだけをバックパックに入れ、基本的には次の町に着いたら昼ごはんにしようとか、次に店があったらサンドイッチを買おうとか、そんな感じで旅していました。火器も持っていましたが、非常用の食事さえきちんと持っていれば、火器も必要ありません。ある意味で、余計なことを考えずに、歩くことだけに没頭できるような道です。

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巡礼者用の安い価格で食べられる食事。ポテト、パン、サラダの組み合わせが一般的。

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途中の町でも水を補給できるが、道端にもいくつかこのような給水できる場所がある。



歩く道があり、人、町、食、自然の出会いが繰り返されていく旅であることが大事。



ーー カミーノについて、事前に思っていたイメージとのギャップはあった?
僕の歩いたセクションは、舗装路が7割、自然歩道が3割というくらいの比率でした。舗装路ばかりの日というのはなく、毎日がそれくらいの比率です。でも、自然歩道が1日のなかに少しあるだけで、気持ちとしてはかなり楽しめるんだというのは、自分に対する発見でした。

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町と町のあいだにある森を抜けたり、だだっ広い田園地帯のダートを歩いたり、舗装路だけでなく、いろんな道を歩いていく。

見たこともない自然の景観というのはもちろん心奪われる体験なのですが、歩く道があり、人、町、食、自然の出会いが繰り返されていく旅であること。そのこと自体がロングディスタンスハイキングの楽しみのかなり大きい部分を占めることに気づかされました。

事前に思っていたイメージのギャップというと、スペインはどこ行っても料理がおいしいと思っていたけど、そうじゃなかったことが一番の衝撃かもしれないです(笑)。

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食事や行動食は最低限しか持ち歩かず、途中の町にあるお店やカフェで、その日の食事を補給しながら歩く。

ーー 四国お遍路も歩いているが、カミーノとの共通点はあった?
四国お遍路とは、かなり多くの共通点があったことは驚きでした。ひとつは前にも触れた宗教というビジョンのもと老若男女の旅人がいること。またそれを可能にする旅のシステムが整っていることは、両方に共通してますね。そして、お遍路もカミーノも、トレイル沿いの町に住む人々が、旅人に慣れていて、とても親しく声をかけてくれるんですね。そのように、カルチャーとしてトレイルがある、ということを強く感じました。

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サンティアゴ大聖堂のミサの風景。巨大なボタフメイロ(振り香炉)が、教会の天井近い高さまで振り上げられるする儀式は圧巻。

ただカミーノと四国お遍路で大きく違うのは、旅の費用です。カミーノは、とても安く長旅ができる。でも四国お遍路はそうとはいえません。カミーノのアルベルゲと呼ばれる巡礼者用の宿は、1つのベッドで1泊700〜1500円で泊まることができます。宿に泊まる際に1泊6000円〜1万円もする四国お遍路とは大違いです。スペインでは、ワインもハウスワインならグラス1杯100円くらいで楽しめる。こういった旅の費用は、誰もが長旅をできる大きな要因のひとつだと感じましたね。



セクションハイキングならば、少し頑張って休みをとれば、憧れのトレイルを歩くことができる。



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スペインの田園地帯を歩く。

ーースルーハイキングとセクションハイキング、どちらが好きですか?
どちらが好きとういうのは難しいですが、今回は、たまたま夫婦で2週間の休みをとるタイミングがあったんですが、セクションハイキングというスタイルを知らなければ、カミーノは歩いてなかったと思います。

スルーハイキングの旅に対する憧れもありますが、セクションハイキングならば、自分の休みの長さに合わせて、ロングトレイルの旅を実現できます。どこからどこまで歩くかも、どれくらいの期間歩くかも、自分がとれた休みのなかでアレンジできますから。セクションハイキングという旅の方法を知っていたからこそ、夫婦で長めの休みをとれたタイミングで、かつての憧れだったスペイン巡礼道を歩くことができたんだと思っています。



TRIP INFORMATION



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■トレイル名
カミーノ・デ・サンティアゴ 北の道
■セクション名
北の道(オヴィエド~サンティアゴ・デ・コンポステーラ)
■歩く距離・日数
175km・8日
※オヴィエド〜サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの総距離は約345km。今回は途中で2箇所スキップした。
■旅全体の日数
13日
■WEBサイト
Oficina Peregrino(https://oficinadelperegrino.com/)
日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会(www.camino-de-santiago.jp)
■ベストシーズン
5~6月と9月
■パーミッション / ブッキング
アルベルゲ(ホステル)に宿泊するためにクレデンシャル(巡礼手帳)が必要。主要な町の公営アルベルゲ、教会、もしくは日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会で購入可。
■予算目安
20〜25万円(総額)
[内訳]
エア代:15〜20万円程度
現地宿代:1泊1500円(目安) ※アルベルゲやドミトリーの場合
現地交通費:2万円
その他(食費など): 1日1500円
■アクセス方法
[空港] マドリッド(スペイン):日本から約17時間程度
[空港から近くの町へ] 特急電車でオヴィエドまで:約5時間(RENFEでオンライン購入可)
[IN:町からトレイルへ] 町の教会でクレデンシャルを入手しそのまま歩き出す。
[OUT:トレイルから町へ] サンティアゴ・デ・コンポステーラから飛行機でマドリッドへ(特急電車もあり。約5時間)。
■宿泊(町)
マンモス・レイクスの町で1泊1万円程度(https://www.shiloinns.com/shilo-inns-mammoth-lakes)
■宿泊(トレイル)
公営と私営のアルベルゲ(宿)がどの町にもある。大きな町には、各クラスの宿があある(アルベルゲ、ペンション、ホテル)。
※私営のアルベルゲはネットや電話で予約が可能 www.onlypilgrims.com
※カミーノのアプリで、次の町の宿の数や値段を調べることもできる。
■補給方法(水、食料、燃料など)
毎日かならず1つ以上の村や町を通過するので、カフェ、レストラン、商店で補給可能。火器は特に必要ない。



ZINE#02 SECTION HIKING



アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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WRITER
トレイルズ

トレイルズ

佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
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