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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#13 / シエラでクマから食料を守る方法 <その2>ベアキャニスターの実践的な使い方

2018.08.15
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文:リズ・トーマス 訳:井上華 構成:根津貴央

アメリカに来るハイカー(特にPCT & JMTハイカー)のために、少し複雑なシエラのクマ事情をわかりやすく伝えることに注力しているリズ。

前回の<その1>では、ヨセミテ国立公園におけるブラックベアの歴史にはじまり、ハイカーとの関係性、クマ対策の基本など、基礎知識を中心に丁寧に解説してくれました。

今回の<その2>は、実践編。クマから食料を守るための具体的な方法、ベアキャニスターの種類や入手の仕方などを、詳しく紹介します。

JMTやPCTを歩きたいと考えている人は必読!安全にそして楽しくハイキングするためにも、出発前に熟読して万全なクマ対策を講じましょう。


食料を木に吊るしてクマから守る方法は、バックパッカー向けであり、ロングディスタンスハイカー向けではありません。


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夜のベアハング (写真:ジョン・カー)。A bear hang at night by John Carr.

カウンターバランスという、パッキングした食料を木に吊るす方法は、国立森林公園局が管理しているシエラにおいて、クマ対策の確かな方法として認められています。ただ一方で、これはスルーハイカーに適した方法ではありません。なぜなら、PCTとJMTでは高木限界を超えたエリアが10マイル以上もあります。そういった食べ物を吊るす木がない場所で、スルーハイカーはどうやって食料を守ればいいのでしょう?

木に吊るすやり方は、典型的なバックパッカーがシエラネバダで夜を過ごすための方法で、吊り下げ式が認められていないようなエリアを冒険するためのものではありません。PCTハイカーは、多くのエリアを旅している最中、想定外のところにキャンプしなければならない場合があります。雪や浅瀬の時もあれば、他のハイカーとキャンプすることもある。スルーハイカーのキャンプスケジュールは予期できません。

PCTスルーハイカーにとって吊り下げ式は、ベアキャニスターが必要ないエリアで食料を守るためには適しています。たとえば、北カルフォルニアはスルーハイカーがベアキャニスターを携帯するのが必須ではありません。でも、クマがいる形跡を見ることもあります。私がトレイル上やキャンプしている近くで、最近クマがいたであろう形跡を目にしたときは、自分の食料を木に吊るすようにしています。


シエラでクマから食料を守るための、その他の方法について。


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ベアストレージロッカー(写真:クレイグ・ガーリー)。A bear storage locker by Craig Gulley.

PCTとJMTが交互に現れる一部のエリアでは、スルーハイカーはベアロッカー(ベアボックス)を使うことができます。大きな金属の箱が地面に固定されていて、チェーンフックで開け閉めをします。このフックはクマの手足では開けることができない仕様になっています。

ただ、あいにく、ベアボックスはPCTとJMT沿いのシエラの一部のエリアにしかありません。ベアキャニスターに入りきならいほどの食料がある場合は便利なエリアですが、トレイル上にたくさんあるわけではないので、スルーハイカーにとってはちょっと不便です。スルーハイカーは自由なキャンプが好きなので、ベアボックスの近くに泊まるために、1日の歩く距離が長くなったり短くなったりするのは好みません。その点、携行できるベアキャニスターがあれば、自由でフレキシブルにキャンプをすることができます。

ケネディ・メドウズからソノラ・パスの区間において、PCTハイカーにとって、食料をクマから守るもっとも簡単な方法と、ルールにのっとった宿泊方法は、ベアキャニスターを携行することです。JMTスルーハイカーは、ヨセミテ渓谷〜ホイットニー山までの全行程においてベアキャニスターが必須です。


ベアキャニスターを持っていくかどうか迷った時のアドバイス。


ベアキャニスターはクマから食料を守ってくれますが、使い方や注意事項を守る必要があります。ハイカーが注意すべきことをここに書いておきます。

1)もっとも軽いベアキャニスターであっても、重量は少なくとも2ポンド(900グラム)はあります。PCTスルーハイカーが砂漠エリアのトレイルをウルトラライトパックで歩きはじめたとしたら、シエラではこれ以上の荷物を背負うことはできないと思います。バックパックに荷物を詰めすぎると、本体がストラップから剥がれてしまうかもしれません。もしあなたが、ベアキャニスターを追加しても大丈夫なくらいカラダが仕上がっていれば、食料補給しにくいシエラのセクションのために余計に食料を持つことも、防寒ギアを持つこともできるでしょう。

2)ベアキャニスターはかさばります。その直径は、ウルトラライトバックパックの開口部よりも大きい場合もある。また、PCTのスタート時に背負っていたバックパックが、シエラを旅するのに適していないこともあります。スルーハイカーによっては、ベアキャニスターが必要なセクションで異なるバックパックが必要かもしれません。

LIZ13_05_Bear canisters take up significant room inside a backpack. You may need to carry a bigger backpack just to fit your bear can. Photo by Whitney LaRuffa
ベアキャニスターはバックパックの中で重要な部分を占めているので、ベア缶に合うような大きなサイズが必要です(写真:ホイットニー・ラルファ)。Bear canisters take up significant room inside a backpack. You may need to carry a bigger backpack just to fit your bear can. Photo by Whitney LaRuffa.

3)ベアキャニスターの容量には限界があります。法律の定められている州では、ベアキャニスターが食料、トイレ用品、ゴミすべてを持ち運べる十分な大きさでなければなりません。PCTハイカーのなかには、ケネディ・メドウズ〜レッズ・メドウまで食料補給なしで旅をする人もいます。これは、204マイル分の食料が必要ということ。つまり多くのスルーハイカーは10日間分の食料を背負わなければならないのです。

最近、スルーハイカーの中には、フィットしていない超軽量コンパクトなベアキャニスターを使って、ベアキャニスターのルールから逃れようとする人もいます。そういったハイカーは「私はベアキャニスターを持っています」と言う。そしてルールを守っている振りをするのです。

でもルールでは、臭いのするすべての食料とアイテムを収納することになっています。そのためパークレンジャーは、食料をベアキャニスターに入れていないスルーハイカーに違反切符を切り、罰金を与えます。ときどき、切符を切られたハイカーは、PCTやJMTを離れてトレイルヘッドに戻らなければなりません。また場合によっては、トレイルからの離脱を強制され、裁判所で判断されることもあります。これらは、複雑でお金がかかり、そしてハイキングを台無しにします。


PCT & JMTハイカーに役立つヒント


シエラを旅するのであれば、すべての食料をベアキャニスターに入れなくてはなりません。そのため、密度が高くてカロリーが高いものを選ぶといいでしょう。

食料、ゴミ、トイレ用品をはじめ、すべての臭いがするアイテムは、夜間、ベアキャニスターに収納しておく必要があります。ゴミの量を減らすには、スタート前にパッケージを取り除いておきましょう。

LIZ13_06_Bear cans don't only protect your food from big mammals. Photo by Liz ThomasJPG
ベア缶は大きな哺乳類から食料を守るためのものではありません(写真:リズ・トーマス)。Bear cans don’t only protect your food from big mammals. Photo by Liz Thomas.

ハイキングを始める前、すべての食料がベアキャニスターに収まるかをチェックしてください。最初の夜に食べるスナック類や夕食は、ベアキャニスターに入れる必要はありません。

持ち運ぶ食料を減らすなら、シエラのホーズシュー・メドウ、ヴァーミリオン・バレー・リゾート(VVR)、またはミューア・トレイル・キャンプのような食料補給できるところを検討しておきましょう。多くのスルーハイカーはシエラの雪で苦労するので、休憩できるところが必要です。

ヨセミテ渓谷からJMTを歩くスルーハイカーは、スタート後の数日間の荷物を減らすために、トゥルオミー・メドウズのストアで食料補給することを考えます。このセクションはクマの活動が盛んです。

夕食後にハイキングをすることも検討しましょう。作ったり食べたりする行為は、クマを誘うための臭いを作り出します。その場所から離れたところでキャンプすれば、寝ている時にクマが襲ってくる確率は少なくなります。

キャンプ地を選ぶ時、ゴミのサインや他の人が使った形跡がないキャンプ地を探しましょう。もしクマがキャンプ地で食料を見つけたら、食料を期待してまた訪れるはずです。つまり、昨晩ずさんなキャンパーがそのキャンプ地で過ごしていたら、あなたは今晩クマと出くわすことになるのです。


ベアキャニスターを手に入れましょう。


ほとんどのPCTハイカーは自宅からベアキャニスターをケネディ・メドウズに送ります。でも海外のハイカーは、このプロセスをラクにする方法があります。

LIZ13_10_Long stretches of the Sierra are above treeline making bear bagging in trees an unlikely way to protect food for PCT hikers. Photo by Whitney LaRuffa
高木限界を超えたエリアがつづくシエラにおいては、食料を守る上で木に吊るすベアバッグはあまり良い方法ではありません(写真:ホイットニー・ラルファ)。Long stretches of the Sierra are above treeline making bear bagging in trees an unlikely way to protect food for PCT hikers. Photo by Whitney LaRuffa .

[借りる]
海外のハイカーにとって、一番いいのはベアキャニスターを借りることです。

JMTハイカーは、トレイルの南端に近いホイットニー山のパーミットオフィス、あるいは北端に近いヨセミテ渓谷のパーミットオフィスで、ベアキャニスターを簡単に借りられます。歩き終えたら、ベアキャニスターをビジターセンターに返却するか、レンジャーステーションに郵送しましょう。

またPCTハイカーは、企業から簡単にベアキャニスターを借りることもできます。いくつかのベアキャニスターを扱っている会社が、貸し出しをしています。たとえばワイルド・アイデアズは、最軽量のベアキャニスターを各サイズ用意していて、それをPCT & JMTハイカーに貸し出してきたたくさんの実績を持っています。
http://www.wild-ideas.net/rent-a-bearikade/

ただ、注意すべきことがあります。海外のハイカーの場合、予約の際に特別料金がかかります。でも、ベアキャニスターがJMTもしくはPCTの指定の場所に正しく送られたことが確認されれば、払い戻しがあります。

[購入する]
PCTハイカーが、まだケネディ・メドウズにたどり着いていない時、ベアキャニスターをインターネットで買ってケネディ・メドウズに送リます。トレイルを歩き終えたら、ベアキャニスターを日本に送ってもいいし、アメリカ人の友だちにあげてもいいし、あるいは次に歩こうとしている場所(ベアキャニスターが必要な場所)に送っておくのもいいでしょう。

JMTハイカーは、旅の全行程においてベアキャニスターが必要です。つまりベアキャニスターを購入するということは、旅が終わった時に日本に持って帰るということでもあります。であれば、JMTを歩く友だちにあげても良いでしょう。

[借りる、または日本から持ってくる]
もし、自分が持っているベアキャニスター、または日本の友だちに借りたものを使うのであれば、飛行機に持ち込んで運んできてください。PCTを歩く場合は、必要のない最初の700マイルはベアキャニスターを背負いたくないですよね。ですので、あらかじめケネディ・メドウズに送っておきましょう。


最後に、ハイカーのみなさんに向けて。


PCTとJMTに生息するブラックベアについてのルールを理解するのは難しいことですが、安全にスルーハイクをするためには大事なことです。まずは、家を出る前にルールを確認してください。どうやってベアキャニスターを入手するのか、どの食料やギアをベアキャニスターに入れるべきなのか。それらを出発前に準備できれば、旅をスムーズに楽しめるはずです。


More information


■ PCTとJMTにおけるベアキャニスターについて
https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/food/bear-canister-protecting-your-food/
■ ヨセミテ国立公園における食料保管の方法
https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/bearcanisters.htm
■ 食料保管に関する参考サイト
https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/containers.htm

LIZ13_09_Black bears can get rather big by Zeuss Cochrane
ブラックベアはより大きくなります(写真:ゼウス・コクラン)。Black bears can get rather big by Zeuss Cochrane.

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

 (英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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