TRAILS REPORT

POP HIKE CHIBA #7 月崎・天満橋 〜千葉の低山、もしくはシエラのオフトレイル〜

2018.11.07
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文・写真・構成:TRAILS

千葉県出身・在住のメンバーが多いTRAILSは、自分たちのローカルトレイルをもっと楽しみたい、という思いから、POP HIKE CHIBA(※)の立ち上げ当初から関わってきました。気づけば、このシンプルな房総のデイハイクのイベントを、5年間続けてきました。

7回目となる今回は、2年ぶりに房総の名ローカル鉄道「小湊鉄道」を、またハイカーだけで一両貸し切り。コトコトと電車に揺られ、養老渓谷の少し手前の月崎駅で下車し、「クオードの森」という房総の里山の周辺をハイクしました。

ランチタイムには、ハイカーズデポ、Great Cossy Mountain、TRAILSによる「道具から見るウルトラライトハイキングの世界」というトークセッション。夜のアフターパーティでは、ハイカーズデポ土屋さんが、この夏にシエラネバダのオフトレイルを旅した話をしてくれました。

ハイキングからトークセッションまで、今年の千葉のメロウな旅の記録をお届けします。

(※)POP HIKE CHIBA : 曽我部恵一氏など多くの著名なミュージシャンがLiveしに訪れることで知られる、西千葉にあるcafeSTAND。そのcafeSTANDオーガーナイズのもと、同じく同郷千葉出身のGreat Cossy Mountain(千葉にファクトリーを構えKING OF MELLOW HIKING GEARを提唱するギアメーカー)と、TRAILSがサポートハイカーとして参画。ゲストハイカーにHiker’s Depot(ハイカーズデポ)土屋氏をにむかえる。「HIKING × LOCAL × MUSIC」の融合をテーマとした、メロウなローカルハイキングイベント。

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房総の里山でのハイキング風景。


小湊鉄道に乗り、房総の里山をめざす


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小湊鉄道に乗って、ハイキングする山をめざすハイカーたち。

朝9時に千葉の五井駅に集合したハイカーたち。小湊鉄道の一両を、ハイカーで貸切させてもらって、房総の内陸部の月崎駅をめざす。

「日本で一番、山が低い県」と言われる千葉県(全国の都道府県別の一番高い山ランキングが、千葉県はもっとも低い)。

でも、房総のトレイルは豊かだ。南国のような独特の植生がある。温暖な気候により冬でも気軽にハイキングができる。山のなかから海を眺めて歩けるトレイルも多い。

そんな房総には、あまり知られていないローカルトレイルがたくさんある。今回は第5回で訪れた「クオードの森」を、前とは違うルートをハイキングすることにした。


房総の里山をメロウにハイキング


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ハイキングのスタート地点。穏やかな天気のなか、歩き始める。

今回の行程は、小湊鉄道の月崎駅から出発し、10キロほどのハイキングコースを、ゆっくり4時間くらいかけて歩くルート。いつもながら、メロウなハイキングだ。

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房総のトレイルらしい、うねうねした木のなかをハイクする。

POP HIKE CHIBAには、がつがつした登山道具はいらない。参加するハイカーにも、最低限の道具(リュックやカッパ、防寒着、スニーカー)でOKです、と案内をしている。

参加したハイカーもみんなデイバックを背負っている。バックパックのなかを覗かせてもらうと、ちょっと余計におやつを詰め込んでいたり、ドライフードでなくしっかりした食事を持ってきたり、はたまた缶ビールをしのばせているハイカーもいた。

シンプルなデイハイクだからこそ、自分の楽しみを組み合わせやすい。ハイカーそれぞれの楽しみ方の違いが、とても愉快だ。


ランチとコーヒーとULギア


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今回もみんなのランチが贅沢すぎる。ご飯を炊いて、栗ご飯を作っているハイカーも!(左上)

13時頃に、ランチ休憩をとる広場に着いた。

適当なグループに自然と散らばり、ランチの準備をはじめる。五井駅で買ったお弁当をそそくさと口にほうばる人。鶏団子鍋をつくる人。サフランライスを皿に盛り、レトルトカレーを温める人。用意してきたおかずを丁寧に盛りつける人。ご飯を炊いて、栗ご飯をつくる人。各々が好みのご飯を食べている光景を見ているだけでも面白い。


ラインタイムに、ハンモックをかける場所を見つけて、昼寝する土屋さん。

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cafeSTAND店主・塚本さんがいつもその場でドリップしてくれる、POP HIKEオリジナルブレンドコーヒー。

ランチを食べ終わった後は、ハイカーズデポ土屋さん、Great Cossy Mountainコッシー(大越)さん、TRAILS佐井によるトークセッション。

「道具から見るウルトラライトハイキングの世界」というテーマで、1泊2日のハイキングで使う具体的な装備リストを紹介しながら、その背景にあるハイキングへのこだわりを語った。


左から、TRAILS佐井、ハイカーズデポ土屋さん、Great Cossy Mountainコッシー(大越)さん。3人の表情がばらばらすぎる…。

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パッキングした道具を説明するコッシーさん。使用しているのは、POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kitで自作できるバックパック。

Great Cossy Mountainコッシーさんは、こんなふうに話していた。「ウルトラライトハイキングというと、ベテランハイカーが次のステップで取り入れるスタイルというイメージがあるかもしれませんが、山域や気象条件を考慮さえすれば、初心者の方にこそ取り入れるべき方法論だと思っています。とはいえ、そのスタイルは十人十色で、特に初心者の方は、何から揃えれば、どのようにそろえれば良いか、よくわからないというのも事実だと思います。」

そう、だからPOP HIKE CHIBAのようなメロウなハイキングにこそ、ウルトラライトの背景にある考え方や、道具選びや使い方から、ちょっとしたヒントを見つけられれば、ハイキングが自分なりにもっと楽しめるのではないか、と。

今回は、奥多摩・奥秩父無雪期1泊程度を想定したパッキングを、それぞれが用意してきた。コッシーさんと佐井の詳細なギアリストは後日公開するので、チェックしてみてほしい。


Great Cossy Mountainコッシー(大越)さんのギアセット。シンプリシティにこだわり、丁寧に考え込まれた道具たち。

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TRAILS佐井のギアセット。ビヴィ泊を前提にした嗜好品以外を徹底的に軽量化するスタイル。食事の時間よりも、コーヒーと葉巻の時間を大事にしている。


アフターパーティのトークは、土屋さんの「シエラのオフトレイルの旅」


山から街に帰り、夜は西千葉のcafeSTANDでアフターパーティ。


小湊鉄道の車両に付けてもらっていた、貸切用の看板をいただいて帰る。

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日中のハイキングで知り合った人同士で、盛り上がる。西千葉のcafeSTANDでのアフターパーティの様子。

アフターパーティーのトークでは、ハイカーズデポ土屋さんが、この夏のシエラネバダの旅について話してくれた。

土屋さんが歩いたのは、シエラ・ハイ・ルート(Shierra High Route)という、ジョン・ミューア・トレイルと並走するように通るオフトレイル(off-trail)。ざっくりとしたルートだけが示され、踏み跡も不明瞭で、しっかりしたトレイルサインもない、バックカントリートレイルだ。

土屋さんは、2008年に自分のお店であるハイカーズデポオープンする前に、当時のハイキングにおけるエッジであったUL(ウルトラライト)のスタイルで、ジョン・ミューア・トレイルを歩いている。それから10年。ひとつの区切りとして、またシエラネバダを歩きたいという気持ちがわいてきたという。

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シエラのオフトレイルの旅について話す、ハイカーズデポ土屋さん。

オフトレイルを歩くことは、今のアメリカにおけるハイキング・カルチャーのエッジの部分でもある。一方で、ジョン・ミューアが生きていた時代も、きっとこのような道なき自然のなかを歩いて旅していたはずだと想像し、ハイキングにおけるクラシックを感じる旅にもなった、という。

土屋さんは、このように語っていた。「今回の旅は、今のエッジでもあり、100年前のクラシックでもあると思ったんですね。この両方を感じてみたい、というのが、またハイシエラを歩きたいと思う理由になったんです。それは、今の自分にとって大事なインプットになるだろうな、と思ったんです。」

Hikingという言葉は、もともと「宿泊道具をもって歩く旅」ということを表す(詳しくは『LONG DISTACE HIKING』p27を参照)。土屋さんは、このHikingのもともとの語義に触れた上で、こういうスタイルであるべきとか、ULはこういうものとか、そういう決まりごとを気にせずに、ごくごく私的なこだわりを大事にしながら、自由に歩くことの大切さを語った。

そして、そういったハイキングの自由は、バックカントリーにだけしか感じられないものではなく、POP HIKE CHIBAのような日常に寄り添うようなハイキングにもあるはずだ、と。

山を歩きながら、写真を撮る、絵を書く、ご飯を楽しむ。POP HIKE CHIBAは、シンプルなハイキングイベントだからこそ、そういったごくごく私的な楽しみをもって、山を歩く喜びを思い出させてくれる。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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