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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#16 / 『LONG TRAILS 〜スルーハイキングの極意〜』を出版!

2018.12.21
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(English follows after this page.)

文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス、ホイットニー・ラルファ、ケイブマン・コレクティブ、ケイト・ホッチ 訳:神長倉 佑 構成:TRAILS

2017年の4月、リズは満を持してロングディスタンスハイキングの書籍『LONG TRAILS』を出版しました。

いまやロングディスタンスハイカーとして有名なリズですが、ハイキングを始めた当初は、必要な情報やノウハウが手に入らず、ずいぶんと苦労したそうです。

でも、さまざまな努力と経験を積み重ねるうちに、この書籍のサブタイトルにある『Mastering the Art of the Thru-Hike(スルーハイキングの極意)』を体得しました。

そして、これから長く歩きたいと思っているハイカーのために、彼女自身が初めてロングディスタンスハイキングを学ぼうとした時に欲しかった本を作ったのです。

今回リズは、この本に込めた想い、そしてこの本を通して読者に伝えたかったことを語ってくれました。



この本を書いた理由。



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『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において、最優秀入門書に選ばれた。

私が最初にスルーハイクを始めたとき、そのハウツーに関する本はありませんでした。インターネットのフォーラムを読んだりもしましたが、情報量が多すぎたし、どのTIPSが最も重要なのかわかりませんでした。

また、初めてのスルーハイクでは知る必要のないエキスパートレベルのテクニックも載っていたのです。そのため、スルーハイクの方法をたくさん調べたにも関わらず、初めてのロングトレイルではたくさんのミスをしてしまいました。本当に必要なギアを持っていなかったし、自分のギアの使い方もわからなかった。天候の変化にも苦しめられました。

今の私は、20以上のロングディスタンストレイルを踏破した経験があり、スルーハイキングの授業も担当していますし、初めてスルーハイクする人たちが本当に必要なことが何であるかを理解しています。

だから私は、私が初めてロングディスタンスハイキングを学んだ時に欲しかった本になるよう、『LONG TRAILS:Mastering the Art of the Thru-hike(ロングトレイル:スルーハイキングの極意)』を書きました。そして、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)で最優秀入門書に選ばれました。しかも審査員からは「新しいアウトドア・スポーツのバイブルになる」というコメントをいただきました。その本で私は、たとえ社会や友だち、家族から「無理だ」と言われてもロングハイクをし続けたい、そんな夢を持った人たちに力を与えられるような包括的なガイドを作ったのです。

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世界最大級のアウトドア関連の総合見本市『Outdoor Retailer show(ORショー)』にて。



旅に出る前にロングディスタンスハイキングについて学ぶことで、さまざまなリスクを減らすことができる。



ただ、べつに旅に苦労が必要なわけではありません。「旅」というその行為自体が「目的地」より重要というだけなのです。

私は大人になるまでバックパッキングの勉強をしませんでしたが、だからこそ「どのように自然の中に入っていくか」を学ぶプロセスには敏感になりました。大人がバックパッキングの方法を学ぶことは、子どもの時に学ぶのとは違います。私の本は、スルーハイクを夢見ているけど充分なバックパッキングの経験が無い大人のためのものです。また、バックパッキングの経験こそあるものの、数カ月にわたるような長期の経験がない人のための本でもあります。

LIZ13_11_The Sierra is one of the most beautiful parts of the PCT, but requires special gear and planning
パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)で最も美しいエリアのひとつであるシエラにて。

長年にわたってハイカーたちはトライ・アンド・エラーを繰り返し、どのようにスルーハイクをするべきかを学んできました。私も同じでした。でも、この学習方法は旅のリスクが高くなってしまうという問題があります。

たとえば、旅でケガにつながるようなミスをしてしまうと、ハイカーはトレイルを離れてしまい、そして夢を諦めてしまいます。

また、ギアに生じる問題は新しいギアに換えることで簡単に解決するのですが、ギアに関するミスは金銭的に高くなってしまいがちです。

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スルーハイクをする前に、いかにギアを準備するかが大事。

私の『LONG TRAILS』のゴールは、ハイカーたちの時間とお金をセーブしながら、心と身体のケガ、そして夢が敗れることを防ぐことにあります。私は旅に出る前にロングディスタンスハイキングについて学ぶことで、スルーハイク中の最も不快な時間を予防できると考えているのです。



スルーハイクをする上で知っておくべきこと。



初めてのスルーハイクにおいて、出発前にどんな知識が必要かを知らないことは、計画を難しくしている要因のひとつです。

ほとんどの人たちはギアやたくさんの食事の準備、熊対策が必要だということは認識しています。でもそれらは、ハイク前に必要な知識と計画のほんの一部にしか過ぎません。

食べ物の計画は楽しいですが、どんな食べ物が自然の中で美味しいかは行ってみるまではわかりません。また同様に、ギアの計画も楽しいです。でも、スルーハイク中の日々のプロセスをより快適にするためではなく、スルーハイクを始めるためだけにギアに想いを馳せる人たちをたくさん見てきました。

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トレイル上での野営風景。

私の経験では、ルートプランニングやテントの設営方法、気候の変化への対策を学ぶことこそが、ハイキングの成功に大きく関わる日々のルーティーンです。

スルーハイクが始まれば、あなたの時間はほとんど歩くことに費やされます。だから『LONG TRAILS』の表紙には、ギア、食事、健康、ルートプランニングなど、出発前に必要な情報を盛り込んでいることを打ち出していますが、本の中には自然の湿度と温度の中でいかに健康を保つかなど、事前に考えておいたほうが良いにも関わらず、ほとんどの人が気がついていない技術についてたくさん書かれています。



たくさんのハイカーの視点を盛り込んだ、ハイカーのための本。



ほとんどのアウトドアのハウツー本は、ひとりの専門家だけの視点で書かれています。でも『LONG TRAILS』は違う形にしたいと思いました。

読者はきっと、私が過去にロングトレイルの最速踏破記録を樹立したことを知って、「そんなふうにロングトレイルを歩けない!」と思ってしまうことでしょう。でも私が彼らに感じて欲しいことは、たとえ私(リズ)ではなかったとしても、本の中で誰か自分に似ているストーリーを見つけた時に抱く「自分もスルーハイクできるかもしれない」という希望なのです。

View More: http://cavemancollective.pass.us/thru-hiking
『LONG TRAILS』では、5人のハイカーのバックパックの中身を見て、その違いを紹介した。

たとえば、退職後に恵まれた体ではないけどハイキングを始めた人の写真、家に3人の子どもがいるお父さんのストーリー、キャリアウーマンが自らを語った話、それらを読者が見たり読んだりした時に、彼らが「この人はまるで自分だ!」と思うことを願っているのです。

この本では、年齢や体力の異なるたくさんのハイカーの視点を反映しています。私はほとんど全員の人がロングハイクできることを示したい。ある人は速く、ある人はゆっくり。もしかしたらハイキングを終わらせられない人もいるかもしれない。でも、全員が自分が思っている以上に、遠く、長く歩くことができます。

『Hike Your Own Hike』はこの本で一番伝えたいことです。でも、夢を実現するための道を歩く人が、情報を取りこぼすことはあってはいけません。

私がハイキングについてプレゼンをするとき、最もよく聞かれる質問が「あなたはどのくらいのコストと休み(休職期間)をハイクに費やすのですか?」です。この質問から私は、多くの人々が「あぁ、私にはスルーハイクのための時間とお金がない」と、ハイキングの夢をただの幻想にしてしまっていると考えています。

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スライド & トークショーでのひとコマ。

だからこそ、他のほとんどのハウツー本と違って、この本では旅行前のプランニングについて深く掘り下げています。

ハイカーはどのようにロングハイキングに行くためのお金を節約するのか?
ハイカーはどのようにロングハイキングのために仕事を辞めているのか?
ハイカーはどのように家族にOKをもらえるよう説得しているのか?
誰がペットの面倒を見るのか?



スルーハイクの思い出として印象深いことは、人々との出会い。



ほとんどのガイドブックはあたかも他のハイカーとのやり取りは重要ではないような言い方をしています。彼らにとってハイキングは山や木々の中に身を置くことでしかないのです。

でも私の経験では、ハイカーがスルーハイクにおいて頻繁に思い出すことは、出会った人々のことです。不十分なコミュニケーションや満たされない期待は、苦しいハイキングの原因になります。

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スルーハイク中に出会うハイカーたち。

だから私は『LONG TRAILS』にハイキングがうまくいくかどうかに大きく関わる「人の問題」も含めたかったのです。

これには、トレイルにいる間の家族や友人との連絡のとり方や、出会った他のハイカーたちと上手にやり取りする方法も含んでいます。『LONG TRAILS』では、良いハイキングパートナーを選ぶ方法、そして一緒にハイキングする人が気に入らなければ何をすればよいのか、についても説明しています。



『Long Distance Hiking』(長谷川晋 著)にインスピレーションを受けた。



私がこの本を書くにあたり、インスピレーションを受けたのは、長谷川晋さんの『Long Distance Hiking』(TRAILS)です。この本は、トレイルライフには体と心に浮き沈みがあることを認めています。特に長谷川さんのように海外でスルーハイクする人にとって、時に家族や友人や文明から離れることは難しいことでもあります。

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日本初のロングディスタンスハイキングにフォーカスした書籍『LONG DISTANCE HIKING』(TRAILS)。

私はスルーハイクの情報を英語で探しても難しいと感じていたくらいですから、長谷川さんが本を書くときに日本語で情報を探すことは、もっと難しかっただろうと思いました。

つまり私は、「スルーハイキングの情報にたどり着けない可能性のある人々に対して自分が学んだことをすべてシェアする」という彼のアイディアにインスパイアされたのです。



この本を読むことで、ロングディスタンスハイキングの一歩を踏み出してほしい。



たとえ、万が一ロングディスタンスハイキングに行けなくなってしまったとしても、計画をしていること自体が冒険の一部になることもあります。

私はたくさんの時間、地図を見て、歩く距離を計算し、実際に行くことができないトレイルのキャンプ場について想いを巡らせました。多くの人は旅の計画を立てている時間は幸せなひとときです。もしかしたら、実際に旅に行っているときよりも幸せかもしれません。私にとって旅の喜びは、想像力を使って、未知の領域でどんな挑戦と探検が待っているのかを考えることでもあります。

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フッド山でのハイキング。

私にとって夢を見ることは、真っ白な本のようなものです。あなたもロングトレイルについて聞いたことがあるかもしれませんが、きっとその距離と目的地以外のことはよく知らないと思います。その時点では、あなたの夢はまだあなたの頭の中の曖昧なイメージでしかありません。白黒の世界です。

誰かのトレイルでの体験を読むことは、彼らが行なった準備、持ち歩いたもの、そこに何があったのかなど、あなたの思い描けないもので満ちあふれています。それを通じて、あなたの夢はフルカラーになるのです。

あなたの描く夢の空白部分を何色にするのか、あなたは決めることができます。どのバックパックを使い、いつ旅に出るのか。そして最後に、あなたのプランはぼんやりとした状態から抜け出て、明確な地図が見えるようになるのです。

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アパラチアン・トレイル(AT)のゴール地点。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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