TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #19 雪の釧路川・トリップ編

2019.03.13
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文:根津貴央 構成:TRAILS

今回のパックラフト・アディクトは、先日掲載した『NIPPON TRAIL #06 北加伊道・クスリの道』のスピンオフ・レポート。

NIPPON TRAILでは、厳冬期におけるスノーハイキング & スノーパックラフティングというチャレンジングな遊びにトライした。今回は、その雪の釧路川でのパックラフティングの旅にフォーカスしてお届けしたい。

ちなみに釧路川は、もともとアイヌ語で「クスリ・ベツ(川)」と呼ばれていた(詳しくはコチラの記事)。この記事を通じて、NIPPON TRAILだけでは伝えきれなかった “クスリの道” の魅力を感じてもらえればと思う。

冬、しかも厳冬期の釧路川をパックラフトでくだる。これまで、さまざまな川をくだってきたTRAIL編集部Crewも、この季節のパックラフティングは初めてだ。

みんな期待に胸を膨らませつつも、このトリップはオウンリスク。それゆえ、徹底した事前準備を行なった(防寒・防水対策についてはコチラの記事)。

紹介される機会の少ない、厳冬期のパックラフティングの旅を、ぜひお楽しみください。

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厳冬期の洗礼!? 氷に行く手を阻まれる。



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源流エリアの川地図。眺湖橋から歩き始め鏡の間でプットイン、美登里橋の手前でゴール(約3時間)。小川と根津は以前、秋に摩周大橋まで旅をした。現在、摩周大橋(摩周駅付近)から瀬文平橋(磯分内駅・標茶駅付近)まで工事のため航行禁止。

スタート地点は、屈斜路湖の南端にある眺湖橋(ちょうこばし)。ここが屈斜路湖から流れ出る釧路川の源頭だ。

屈斜路湖は、アイヌ語で喉口(沼の水が流れ出る口)を意味する「クッチャラ」に由来すると言われている(諸説あり)。釧路川はちょうどこの橋の下から流れ出していて、まさしくここがクッチャラに他ならない。

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当日の源頭部分。氷の吹きだまりでスタートできないのは初めての経験。

パックラフティングの前日に下見をした時には、川面が大きな氷でびっしりと埋まっていた。全面結氷はしていないものの、湖面にできた氷が北風で流れ込み吹きだまりになっていたのだ。「おぉすげーな!」と一同、驚嘆の声をあげた。

ただし驚いている場合ではなかった。一夜明けて、今日はさすがに大丈夫だろうと思って覗いてみると……依然としてガッツリと氷の塊が吹きだまっている。これでは、川にプットインすることができない。

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釧路川の岸辺ハイキングから始まるとは、誰も想像すらしていなかった。

仕方がない。僕たちは漕ぎ出せるところまで岸辺を歩いて行くことにした。足を雪に埋もらせながら、トレースのない雪上を進んでいく。

しかし歩けども歩けども、川の氷はなくならない。結局、40分ほどかけて約1kmの距離を歩くことになってしまった。



冬の静まりかえった釧路川の源流部をくだり始める。



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『鏡の間』のほとりで、パックラフトの準備を始める。

たどり着いたのは『鏡の間』という場所。ここは湧き水からなる泉で、漕ぎ出すにはベストなポイントだった。

ついに、雪の釧路川のパックラフティングの始まりだ。

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氷点下ゆえスピーディーに! と思っていたら、焦って逆に手間取ってしまう根津。

編集部の小川と根津は、秋にもここをくだっている。しかし、今回はその時とはまったく異なる世界が広がっていた。秋は緑のトンネルだったが、今、目の前にあるのは白いトンネルだ。狭い川幅の両脇にある木々は雪をかぶり、水は冷たく硬い色をしている。まるで水墨画のようだった。

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厳冬期ならではの釧路川の景色に包まれながら、ゆったりとくだっていく。

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水墨画の中の世界にいるかのような心地がした。

源流部の周辺は、昔もこのような景色だったのではないだろうか。太古の自然に思いをはせたくなるような光景だ。

源流部は蛇行が少なく、あまりパドリングしなくても気持ちよく進むことができる。ちょっと我を忘れるくらい神秘的な世界に浸っていると、ズズズズッとお尻に衝撃が走った。

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パックラフトを引いて、浅瀬を進む佐井聡。

そこは、ちょうど水量が少ないエリアでパックラフトが止まってしまったのだ。ここまで水に濡れるまいと沈だけ気をつけていたのだが、まさか水量の問題で水に浸かることになるとは……。覚悟を決めてパックラフトから降りて、ライニングダウンをする。

スタートで手間取ったことで、思ったよりも時間がかかってしまった。もう日暮れの時間も近づいていたので、この日はショートコースで終えることにした。パックラフトを片付けはじめると、舟についた水が見る見るうちに凍っていく。バリバリと音を立てながら、僕たちはパックラフトを急いでたたんだ。

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歩いて漕いで約3時間というショートトリップだったが、釧路川の源流部を存分に味わった。



地元の人から情報収集し、いざ釧路湿原へ。



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釧路湿原エリアの川地図。塘路湖そばの釧路川の支流、アレキナイ川をスタートし、細岡カヌーポートでゴール(約2時間)。小川は以前、秋に標茶からスタートし、塘路(フタマタ)までくだった。

DAY2は、釧路湿原へ。スタート地点は塘路を予定した。塘路湖は、アイヌ語の「トー・オロ(トー=湖・沼、オロ=の所)」が由来。屈斜路湖畔にアイヌのコタン(集落)があるが、塘路湖にもコタンがあったそうだ。

塘路は、源流部と異なり雪はほとんどなかった。でも、気温は低く川面が凍結している可能性もある。そのため、地元の人をたよって川の情報を収集するために、まずは塘路湖の湖畔にある施設に立ち寄った。

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釧路湿原エリアは雪が少なく、同じ釧路川でも昨日とは大違い。

施設のスタッフの方はとても親切で、昨日までの川の状況や、カヌーポートの情報などさまざまなアドバイスをしてくれた。その情報をもとに、僕たちは塘路湖の近くの釧路川の支流、アレキナイ川からスタート! ついに釧路湿原のパックラフティングが始まった。

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釧路湿原のあまりの美しさに、漕ぐ手がとまってしまうこともしばしば。

ほどなくして釧路川の本流に合流した。昨日の源流部とは打って変わって、川幅が広く、開放感にあふれている。天気も抜群で、上を見上げれば雲ひとつない青空。厳冬期の北海道であることを忘れるくらいの景色だが、気温はしっかりと氷点下だ。

ふと自分の腕を見ると、たくさんの氷がついている……。パドリングで跳ねた水が、ドライスーツの表面や、舟の上に乗せた荷物の上で、瞬く間に凍っていくのだ。

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ドライスーツに付着した水しぶきがすぐ凍っていくさまには、驚かされた。

川岸に目をやると、薄氷が至るところにあり、木々についた雪や氷が太陽に照らされてキラキラと光っていた。なにかの民族の文様のような、不思議な氷の形だ。

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川岸には、びっしりと薄氷が張っていた。



冬の湿原で、タンチョウ、オジロワシ、エゾシカと出会う。



さらに進んでいくと、あたりは、ヨシやスゲ、ハンノキなどの植物が群生していて、より湿原感が増してくる。

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終盤、釧路湿原ならではの植生を堪能しながら川をくだる小川。

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夕日に照らされながらゴールを目指す佐井和沙。スノーハイキングからのパックラフティングだったため、バウ(船首)にはスノーシューもくくりつけてある。

ふと上方を見上げると、オジロワシが大空を悠々と飛んでいる。続けざまに、湿原にはタンチョウとエゾジカの群れ。遠くからしばらく僕たちを凝視していたが、近づくとサーッといなくなってしまった。

でも、釧路湿原ならではの野生動物をこれだけ間近で見ることができたのも、パックラフトのおかげだ。もし僕たちが陸地を歩いていたとしたら、その音や気配を察知して、もっと早いタイミングでいなくなっていただろう。

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ゴール地点の細岡カヌーポートまで、あとわずか。

ゴール地点の細岡カヌーポートに近づくにつれて、陽も落ち始めてきた。パックラフティングをしながら、こんなに美しい夕日を見たのは初めてだった。そして、人工物がほとんどない、まさに原生自然と呼べるようなエリアをくだるのも初めてだった。

僕たちは、何物にも代えがたい自然に抱かれる心地良さ、その余韻に浸りながら釧路川を後にした。

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釧路湿原に沈んでいく夕日は、旅のフィナーレにふさわしい光景だった。

NIPPON TRAILでTRAILS編集部がトライした、厳冬期におけるスノーハイキング & スノーパックラフティングという遊び。

そのパックラフティングだけ取ってみても、これだけディープな旅になっていたことに、僕たち自身も驚くとともに、あらためてパックラフトのポテンシャルの高さを実感した。

僕たちにとって、川は “リバートレイル” である。つまり、これまでずっと楽しんできたロング・ディスタンス・ハイキングのフィールドなのだ。

パックラフトという旅の道具を用いることで、よりロング・ディスタンス・ハイキングの可能性が広がり、より旅が楽しくなる。そんな遊びをする人が、もっと増えることを願ってやまない。

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トレイルズ

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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