TRIP REPORT

フォロワーゼロのつぶやき #08 番外編 台湾の旅・後編

2018.12.05
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話・写真:中島悠二・小川竜太 構成:TRAILS

本稿を連載している写真家・中島悠二と、TRAILS編集者の小川竜太の二人で出かけた台湾の旅。それをいつもの「フォロワーゼロのつぶやき」と違うスタイルで、番外編として二人が語りあった旅の回想録という形でお届けしたいと思う。

台湾は、九州くらいの広さの国土のなかに、3,000m峰が200座以上もある「山岳大国」。そんなかなり山深い国である台湾のなかで、今回この二人が登ったのは南湖大山(ナンフ・ダーシャン Nanfu Dashan)という3,742mの山。

中島君の自宅でお酒を飲みながら、台湾の旅をあれやこれやと回想して進んでいく二人の話。山の話を中心に、映画や本の話、現地で出会った人々との話など、何度も脱線を繰り返しながら、南湖大山の話をつむいでいく。

今回の後編では、南湖大山の山頂での体験から、下山後に台北の町を二人で自転車でまわった話をお届けする。

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Photo: Nakajima



南湖大山の山頂にて。最高だと、話がない。



小川竜太(以下:小川) 山頂に登った日は、3時くらいに起きて、4時とかには歩き始めたよね。

中島悠二(以下:中島) 自分の日記を見ると、4時7分発。

小川 まだ暗かったもんね、最初。

中島 星がすごくって。

小川 ヘッデン点けたまま、歩き始めて。山頂脇の鞍部のところまで登ったところで、明るくなりはじめたんだよね。

中島 うん。あれはもう完璧だったね。

小川 あれは完璧だった。そっからはもう本当にね、最高の時間だった。

中島 だから、話がないんだよね(笑)

小川 (笑)

中島 最高だったとしか言いようがないじゃん。なにか言おうとすると、野暮だしさ。

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Photo: Nakajima

小川 また山頂からテン場に戻ってきて、張りっぱなしにしてあったテントをゆっくり片づけして。

中島 1時間くらいかけてね。テントとか寝袋とかグランドシートを乾かして。

小川 あの時間も気持ち良かったね。

中島 あの時間がなんか、最高だったことが集約されている気がしたんだよね。前にハイカーズデポの長谷川さんとかとみんなで九州に行った時も、最後にゴールしたところが駐車場かなんかで、テントとかをみんなで干してさ。

その光景を見て、長谷川さんが「これがハイカーっぽくて好きなんだよね」、って言ってたのね。それを聞いて、たしかにこの時間ってすごく良いな、って思った記憶があって。南湖大山も山頂から降りてきて、1時間くらいたっぷりかけて、片づけしてたじゃん。

小川 結露で濡れた、ツェルトとか寝袋を干してね。

中島 ちょうど日差しが、朝は日陰だったテン場のあるカール地形にもところに届き始めて。で、なんであの片づけしている時間が、あんなに良かったのかなっていうと、やっぱりその最高だったいうことが、そこには集約されていたし、これから降りるっていう寂しさの一歩手前の感情みたいなものも合わさるし、なんかね、そういうのが総合された時間だった。

小川 いい時間だった、あの時間は。

中島 時間を味わう感じ。で、竜太くんと一言も喋らずに。

小川 あんまり喋んなかったっけ。とにかく贅沢な時間だったのは覚えてる。

中島 もう喋る必要がないくらいの時間、っていうのがいいんだよね。それだけでいいって感じが。

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Photo: Nakajima

小川 テントを畳んで、そっからはもう、あんまり何にも考えずに、ずっと快適に下って行った記憶しかないんだよね。

中島 調子良かったよね。

小川 最後の日の宿泊地は、パーミットを取ったときは1泊目の山荘と同じところだったんだよね。でも、そこからだと最後の日に、町に戻るバスに間に合うか不安だったから、その先まで下って行って。

中島 体力が余ってたから、多加屯小屋という非難小屋も過ぎて。あのきったねぇ池みたいなのがあったとこ。

小川 そうそう。水を汲み行こうと思ったらダメだった。

中島 2人で歩くと、なんか覚えていないことが多いな。1人で歩いているときとは、言葉の残り方みたいのが違うな。たぶん記憶とか言葉を、竜太くんに依存してる部分もあるから、言葉が消えてくっていうか、わざわざ残さないみたいな。

小川 日記に書くことも違うの?

中島 違う。もっと詳細に書くと思う。もっと抽象的な恥ずかしいこととかも、たくさん書いてる。

小川 最後の日は、林道終点のあたりでビバークして。

中島 その日の日記を見ると、3時25分って書いてあるね。テントを張りだしたら、小雨が降ってきて。

小川 あ、そうだ。ぱらぱら降ってた。しばらくテントのまわりでぼーっとしてたんだけど、その後に長い昼寝をしたな。

中島 竜太くんも寝たの?

小川 寝た。

中島 俺が先に昼寝から起きて。でね、その間にね、やたらと、ここの写真撮ったんだよ。なんかそのへんの石とか、本当につまんない写真を撮ろうと思って。けっこう撮ってた。そしたら本当につまんない。

小川 ハハハ(笑)

中島 いやびっくりするよ、まじで。

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Photo: Ogawa



台北自転車。



小川 山から台北に戻ってきて、俺が帰国する日は午後2時の便だったから、午前が空いてたんだよね。

中島 うん。

小川 朝6時くらいに朝メシを屋台で食べて、それから自転車を借りて、台北をまわることにして。あれが、すごく良かったんだよね。

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Photo: Ogawa

中島 あ、そうなんだ、その話してよ。どう?何が大きかったんだろう。

小川 今回、台湾に行く前になかじから『非情城市』のDVDを借りて見たりして、ああいうアジア映画のトーンとかを、久々にいいなと思えていて。

中島 うん。

小川 なかじは、先に台湾に入っいて、そのときに四方田さんの『台湾の歓び』を読んでいて、その話をなかじが、たくさんしてくれるわけだよ。

中島 すごいしてたよねー。

小川 記憶がフレッシュだから、読んだ内容をすっごく詳しく喋ってたよね。それで、エドワード・ヤン(楊德昌)と侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の話とか、詩人の夏宇の話とかしてたし、台北の町の記憶みたない話で、萬華(ヴァンカア)の街区とかの話もしてくれたんだよね。

中島 うん。

小川 それを旅の最後の日に、台北の街を自転車で漕いでまわってた、その半日くらいの時間で、集約して体験できたっていうか。電車とかじゃなく、自転車っていうのも、良かったと思う。今まで10回くらい台湾に来てたけど、なかじが喋ってくれた新しい見方で、台北の街の景色が自分のなかでアップデートされていく感じ。

ここ来たことあるなーという記憶をたぐり寄せる感覚と、それを違った意味合いで体験するという感覚が重なっていく感じが心地よくって。

中島 竜太くんの、その話いいな~、やっぱ。俺のが先に台北に入って何日か過ごしてたから、竜太くんをどっか案内するっていうか、なんかどっか一緒に行きたいなってのがあってさ。で、チャリを借りるといいんじゃないか、みたいなのことは思って。

小川 1人でいるときもチャリを借りてたんだよね?U BIKEっていう、クレジットカードがあれば、台北の中心街だったら、たいていどこでも乗り捨てで借りられちゃうやつでね。

中島 そう。もうめっちゃ乗ってたね、チャリ。

小川 (笑)

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Photo: Ogawa

中島 今まではピナ・バウシュの舞台を観るために来てた、って言ってたよね。

小川 そうそう。それで繰り返し来て体験していた台湾と、山に登ってから戻ってきた台湾、なかじの話を聞きながらアップデートされていく台湾、は違うんだよね。

自転車で、最初に龍山寺(ローシャンスー)に行ったでしょ?あそこも行ったことあったけど、違う体験なんだよね。なかじがあの街区の萬華(ヴァンカア)は、もともと台北の町ができあがる起源の街の1つで、水運で栄えた、っていう話をしてくれたり。

中島 萬華ね。もとは台湾語の音に感じを宛てて、舟偏(ふねへん)で「艋舺」と表記されてたところね。

小川 朝に通勤のクルマや原付の波にのまれながら、自転車で台湾の街を走るっていうのも、新鮮だった。なんか歩く行為の延長のような感覚があったの。わりと山を歩く体験と、接続された体験だったんだよね。

中島 そうだよね。面的に体験することになる。やっぱり、電車とかだと点と線なんだよね。

小川 そうそう。

中島 いやー俺は、やっぱ龍山寺(ローシャンスー)がよかったよ。

小川 朝のお経の歌が、一斉に始まった瞬間がすごかった。雰囲気が一変して、一気に立ち上がった感じがして。

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Photo: Nakajima

中島 あれは、ちょっとすごかったなぁ。あれも録音できて。鳥の声がすごい綺麗に入ってるんだよ。

小川 龍山寺の音も、動画でも使ってた気がするんだけど

中島 うん、使っているはず。

小川 そうだねよね。今回は、なかじはいろんなとこで、スマホで音を撮ってたよね。

中島 うん、地下鉄の音とか。

小川 地下鉄の音とか、町を歩いてる音とか、街頭ミュージシャンの演奏とか。

中島 サックスで演歌を吹いている人の音とかね。

小川 龍山寺の後は、北の方に進んで、迪化街(ディーホアジエ)のある大稲埕(ダーダオチェン)のエリアに行って。迪化街は、台北の古い下町で、エドワード・ヤンの『台北ストーリー』の舞台になったところだよね。あの映画は、迪化街出身の台湾人の話だよね。

中島 映画に出てきた布屋さんとかは、あのデパートにまだあるからね。それで最後に、二・二八事件が勃発した場所に寄って、おわったのかな。

小川 そうだね。闇たばこを売る娼婦が、ピストルで殴られた場所ね。



旅でエラーが起こることを待っている。



中島 なんだろうね、去年の韓国のときもそうだったけど、やっぱ「知る」って面白いなって思うよね。いわゆる観光はもちろんいいんだけど、その「観光」からどうやって足を踏み外すかみたいなことを、どうやったらできるかみたいな話があって。

で、それの1つのやりかただよね。映画とか、本とかで、局所的な情報とかを仕入れて、そこを歩いたりすると、エラーがいろいろ起こったり、みたいな。

小川 ツアーや代理店を使わずに海外の山に行く、っていうのは、やりやすい方法のひとつだね。

中島 そうそう。そのエラーを呼び込む1つの方法だね。で、写真を撮るっていうのも、やっぱりそういうエラーみたいなものが起きたときに、一番はかどるんだよね。そういう意味では、山はね、そのための一番いい口実なんだよね。こう言っちゃうとあれだけど、山って口実なんだよね(笑)

小川 写真を撮るためのってこと?

中島 そうそう。もちろん山自体は、ものすごい好きなんだけどね。

小川 写真を撮る口実でもある。

中島 そう。山に行くと、知らない町に行けるので、そうするとなんかエラーが起こる。

小川 うん。

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Photo: Nakajima

中島 で、その最大のエラーがやっぱり韓国で。山に行くために寄った町で、港に残されたセウォル号を目の当たりにする、という体験にたまたま遭遇したわけで。

小川 香港の雨傘運動の呼び水となった、台湾でのひまわり学生運動の話とかもしてたよね。そのひまわり学生運動で、学生が閉じこもった場所が、うちらが泊まったホステルの斜向かいだった、とかもあったね。

中島 そうだ、そうだ。

小川 あと、エドワード・ヤンの『台北ストーリー』に出てくるFUJI FILMの看板があったとこも、なかじは探してたよね。

中島 どうやらこの交差点にFUJI FILMの看板があったみたいだ、という話をしてたね。

小川 そうそう。そのFUJI FILMの看板は残ってないけど、ここの交差点で間違いない、という場所ね。でも、どの角にあったかがわからないから、なかじは、とりあえずその交差点の四つ角全部を写真に撮ってた(笑)

二人 ハハハ(笑)

小川 なかじは、俺よりも長く滞在していた分、台北近辺の低山とかも歩いていたよね。

中島 それはあんまり天気がよくなかったから、今度は冬とかに歩きたいよね。まぁ、台湾とかは、これからも通いたいよ。

エラーっていうのは写真だけじゃないし、音とかもそうだよね。山のふもととかで、朝からカラオケしてるおっさんの音を録音したりとか、いろいろなエラーがある。あの竜太くんのつくってくれた動画の、メインで使ってる音楽あったじゃん?

小川 なかじが録ったお経の音のこと?

中島 そう、お経のあの女性がハモるやつ。あれとかもやっぱり、台北の親水歩道(チンシャンプーダオ)の入り口で録音したやつだったし。

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Photo: Nakajima

小川 あの動画とか、完全にプライベートのつもりで、まったく公開してる気なかったんだけど、これを記事にすることにしたから、公開するんだろな。音は全部、なかじが台湾の街中とか山で録った音を使ってるよ。

中島 え?あれ公開する気なくてつくってたの?

小川 まったく公開する気なかった。ただなかじと思い出共有するためのやつ(笑)

中島 まぁでもこの話さ、動画がくっつけばさ、話がクソでも雰囲気がちゃんと伝わってくれる(笑)

小川 今度は、冬に台湾の低山でも歩きに行きたいな。

中島 うん。天気もある程度、安定するだろうしね。

小川 そうだね。

中島 その時期に行くのもいいでしょう。いいんじゃないですか?

 
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WRITER
中島悠二

中島悠二

写真家。
1981年 神奈川県川崎市生まれ。
新宿近辺在住。

写真の大学を卒業後、建築の教育現場のスタッフとしてチャリで5年通う。その後フリー。長いことプロフィールに明文化されることのない活動、本を読み、山に登る。2014年に歩いたジョンミューアトレイルがきっかけで、LONG DISTANCE HIKERS DAY(ハイランドデザイン & トレイルズ主催)にスピーカーとして参加。
トレイルズ編集部のクルーとは、同時代的な感性で意気投合。その後、いままで公式に発表されてこなかった山や旅の写真を中心に、トレイルズでの連載を開始する。
WEB: www.sunagomikusa.info

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