AMBASSADOR'S

パックラフト・アディクト | #25 グランドキャニオン <前編>一通のメールから始まった人生最高の旅

2019.07.03
article_image

(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:藤田快己 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHIKE VENTRESのコンスタンティンから、彼自身「生涯で最高の旅!」と言うトリップ・レポートが届きました。

昨年末、TRAILS編集部crewがHIKE VENTRESのFacebookページを見ていた時のこと。僕たちの目に飛び込んできたのは、それはそれは巨大な渓谷をパックラフトで下っている彼の姿でした。

それがどこなのかは、瞬時にわかりました。アメリカのグランドキャニオンです。

Picture32
グランドキャニオンの絶景をカメラに収めようとするも、残念ながらカメラはバッグに入れたままで、スマートフォンで撮影するしかなかったコンスタンティン。

世界中のさまざまな川を下っているコンスタンティンにとっても、グランドキャニオンの川旅はずっと憧れていた旅でした。そのレポートを前編の準備パート、後編のトリップ・パートと、2つにわけてお届けします。

まず今回の前編では、パーミットの取得方法、川へのアクセス方法、PFDなど道具のレギュレーションなどを紹介。グランドキャニオンの川旅に関するとても貴重なTIPSも満載です。

HIKE VENTRESのコンスタンティンによる、グランドキャニオンを舞台にした人生最高の旅路を、ぜひご覧ください。



憧れのグランドキャニオンのパックラフティング・トリップなんて、一生無理なんだろうなとあきらめていた。



「コンスタンティンさん、こんにちは。アルパカラフトのベン・フィリップス(※)です。お元気でお過ごしのことと思います。急に決まったことなのですが、12月11~22日にグランドキャニオンを下るパーミットを手に入れました。もしかしたら興味があるかと思ってご連絡しました。サポートなしの自給スタイルでのパッククラフトの旅になります。お返事お待ちしてます。ベンより」

※ベン・フィリップス:アルパカラフト社(https://www.alpackaraft.com/)のリペアマネージャー。コンスタンティンがベンに初めて出会ったのは、数年前に開催されたスウェーデンでのパックラフト・ミーティング。

Picture12
憧れのグランドキャニオン。

このメールがすべてのはじまりでした。10月12日の金曜日、それは夕方の出来事でした。私は、ポーランドのポズナン(妻の実家がある都市)にある薄暗いバス停で、定時より遅れていたバスを待っていました。

このメールの冒頭数行を読むやいなや、私は息切れした感覚になり、いてもたってもいられなくなりました。

「興味があるかって?」「ないはずがないじゃないか!」ちょうどその1週間前、私はInstagramでグランドキャニオンをパドリングしている人の写真を眺めていて、私にこんな機会は一生ないんだろうな、あるはずがないよな、と思っていた矢先のこのメールです。

48426309_1614916611941456_4985475858262130688_o 2
実際にグランドキャニオンを下った際のひとコマ(詳しくは後編にて)。ここをパックラフトで下る機会があるだなんて、夢にも思っていませんでした。

私はすぐに「めちゃくちゃ興味あるよ」とメールを書き始めたものの、妻と職場の上司からOKをもらわなければ……とすぐに返信することはしませんでした。ただ、絶対に実現させてみせる、という強い確信だけはありました。結果的に、その旅は人生で一番の旅となりました。



グランドキャニオンを通ってコロラド川を下るのは、世界最高のパドリング・トリップのひとつ。



まだバスが来ていなかったので、私は妻に電話してクルマで迎えに来てくれないかと連絡しました。そしてその電話口で、「あと、ちょっとお願いがあるんだ。でも電話じゃないほうがいいから、後で伝えるね」と付け加えました。クルマを待っている間、この旅がなぜ生涯において最高の旅となり得るのかを調べていました。

Picture38
グランドキャニオンを流れるコロラド川。

そうして考えた理由が次の通りです。まず、比べものにならない風景、ほぼ切れ目のないホワイトウォーター(しかも比較的安全である)、遠く離れた地だからこそ感じられる特別な雰囲気、そして何よりグランドキャニオンを通ってコロラド川をパドリングすることは、パドリングの旅でも世界で一番だと言われている、というそんな理由です。

しかし、たとえ独り身だったとしても、このパドリングの旅に出ることは一筋縄にはいきません。ずいぶん昔、グランドキャニオンのパーミットを取るにあたっては順番待ちリストが存在し、何千人もの人が、開始日のために最長20年間も待っていたというのです。そして2006年、国立公園運営団体(ナショナル・パーク・サービス)は、パーミットの取得を抽選制度に変更しました。

webサイト
River Runners For Wildernessのウェブサイト(https://rrfw.org/)

彼らは、旧制度と同等の時間がかかることはやむを得ないだろう、と考えていたのですが、実際は時期によって(特に冬の間)は、比較的簡単にパーミットを得て旅へ出かけることができました。(この仕組みについては、River Runners For Wildernessという組織が運営するウェブページ [https://rrfw.org/]で、分かりやすく説明されています)。

さらに私は、川の難易度(区間によってさまざまで、比較的易しいところもあれば、本当に難しいとされる箇所もありました)、航空券の料金(休暇シーズンが近く、直前の予約となったため少し高くなってしまいました)も調べました。



妻と上司からの了承も得て、人生最高の旅に向けた準備をはじめる。



帰路の道中、この内容を妻に伝えました。そうしたら、驚くべきことに妻からは「絶対行ってきたほうがいいよ。そんなチャンス、人生で何回巡ってくるっていうの?」と返ってきたのです。

そして、上司からもすんなり許可を得ることができました。私は講師として(※)「自己研鑽」のために使える時間が毎年与えられており、この旅はその自己研鑽にうってつけだったのです。こうして、私は2週間の休暇を取ることができ、その間の授業を代わりに受け持ってくれる方を探せば大丈夫でした。

※コンスタンティンの本業は大学の講師。オランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。

Picture14
今回一緒にグランドキャニオンの川旅をするヨーロッパの仲間たちと空港にて。

私は「その話、乗った!」とベンにメールを送りました。彼からの返信にはこうありました。

「了解。リストに追加しておくね。パスポートに記載されている名前、誕生日、住所、電話番号を送ってくれる? 実は今、当初自分が思っていたよりも、とてもワクワクしているんだ。というのも、今日決めてくれた人も含めて、最大で12人と一緒にパックラフトの旅へ出かけられそうなんだ! 楽しいに違いないよ」

こうして、私の人生で最高の旅へ出かけることが決まり、同時にその旅に向けた準備に取りかかる必要がありました。



パーミットの取得、アメリカまでのフライト、保険の手続きなど。



Picture8
飛行機の窓から見えるのは、グランドキャニオンとコロラド川。

グランドキャニオンでのパドリング・トリップにおけるパーミットの申請は、通常1年前から計画を始めるものです。でも私たちの場合、それは2カ月もありませんでした。そして実際のところ、このような旅に向けては山ほど準備することがあるのです。

幸運にも、私は何から何まで自分でやる必要はありませんでした。というのも、ベンは私のパックラフティング仲間でもある、スウェーデン出身のジェイコブとジェレミー、フィンランド出身のケイとカジャにも声をかけてくれていて、事前のプランニングなどはかなりスムーズに進みました。

Picture17
私たちは食料を仕入れるために、REIに行くことにした。そこにはフリーズドライ食品がありました。私は浄水フィルター、ストーブのためのガス缶、パックラフトのためのロープとブランケットを購入しました。

私を含めて5人がヨーロッパから出発するので、できる限り移動を一緒にして、費用を抑えられるようにしました。また、情報共有を徹底して、大事なことについては、お互いにリマインドし合いました。

特に、何回か渡米経験のあるジェレミーは、私たちに有益な情報を提供してくれました。たとえば、彼は時差ぼけとうまく付き合うために、いきなり初日からキャンプを始めるのではなく、最低でも1日早めにアメリカ入りしてモーテルに宿泊することを提案してくれました。

他に話し合ったことは、旅行中の保険、食料を買い揃える場所、そして電子渡航認証は何を選ぶべきか(私は約100ドルをESTAの申請サイトで支払いました)まで、話はおよびました。

Picture20
12日間のトリップにおいてフリーズドライ食品だけでは不十分。そこでKマートで食料を補給することに。スナック、チップスの他、ソーセージ、インスタントラーメン、マッシュポテト、紅茶、ガーリックパン、シリアル、キャンディーバー、フレッシュトマト、トルティーヤを手に入れました。



漕ぎはじめるプットインポイントまでたどり着くための交通手段の手配。



グランドキャニオンまでの交通手段の確保についても、私たちが想定していたよりも少し手間がかかりました。私たちはそれぞれヨーロッパの別々の地域から出発するわけですが、12月9日の近い時間帯で、アリゾナのフェニックスに着けるようにしました。そこから、旅の食料を買うためにフラッグスタッフ(アリゾナ州北部に位置する都市)へ行き、最終的に、公式なプットインポイント(漕ぎ始める所)であるマーブル・キャニオンのリーズフェリーに向かいました。

Picture25
アメリカに到着した時にすでにいたのは、ワイオミングからのリンジー(左)。一緒にレストランに行き、お互いを知ることができました。

実際のところ、事前に調べて向かったものの、アクセスはよくありませんでした。これといった便利な公共交通機関がなかったのです。一方で2週間もの間レンタカーを借りたとしても、返却に困りますし、法外な値段になってしまいます。シャトルサービスを申し込むことも考えたのですが、私たち5人のためにシャトルを出してもらうとなると、予算オーバーでした。

結局、私たちは幸運にも、ベンが声をかけたジョンが、ニューメキシコ州から来るということで、グランドキャニオンまで乗せてくれることになりました(ジョンにとっては少し遠回りになってしまうのですが)。ベンが気を利かせてくれて、助かりました。

Picture23(4)
私たちの人数に対してジョンのクルマは小さかったので、カジャはケイの膝の上に座っていなければなりませんでした。



アルパカラフトのリペアマネージャーから的確なアドバイスをもらう。



振り返ってみると、準備段階においては、ベンにかなり助けられました。パックラフティングのパーミットの手続きもすべてしてくれただけでなく、フラッグスタッフへ帰るシャトルも手配してくれて、私たちのたくさんの質問にも答えてくれ、さらにこの旅で必要な装備などの有益な情報を多く提供してくれました(彼にとってこの旅は、グランドキャニオンでの7回目のパドリング・トリップでした)。

Picture33
キャビンの前で語らう仲間たち。

ちなみに、彼はこんな具合にアドバイスをくれました。

■ 顔写真の本人確認書類は必須。そうでなければ、入れないから!
■ かならず全員、小さな救急セットを用意して。
■ すべてのPFDに穴が空いてないか、バックルは壊れていないか、何回も使いすぎて背中の内側にあるコーストガード(アメリカの認証規格)のラベルが読めなくなっていないか。
■ もし持っていたら水の洗浄フィルターを。あと水筒も何本か。できる時にキレイな小川から水を汲もう。私は川の泥水を浄水できる折りたたみ式のジャグを持っているから、それも使える。
■ 1日に20マイル以上は川を進むから、エネルギー切れにならないように、パドリング中にすぐに食べられるような軽食も忘れずに。
■ サーモスなどに温かい飲み物を入れておけば、身体を温めるのに役立つ。いくつか余分に持っているから、私も持って行く。
■ ちょっとした料理なら火も使えるけれど、各自、調理のためにストーブと燃料は持ってきて。
■ プットインポイントで追加で配られる団体装備としてパドル、PFD、フライパンなどがある。

Picture51
道が終わり、ついにプットインポイントへ。目の前にはコロラド川とウィルダネスが広がっています。

写真付きの本人確認書類、救急セットやストーブといった、必須アイテムは簡単に思いつきましたが、USコーストガードの認証付きPFDを持ってくるという点は、知らなければ後できっと困ったはずです。

というのも、ヨーロッパでは別の認証制度があり、そのようなPFDは手に入りません。さらに、アメリカに着いてから同じようにみえるPFDを用意したとしても、「コーストガードラベル」がついてなければ、使用できない。わりと厳格に制限されているのです。

Picture28
キャビン内での準備風景。

そして、この点についても、ベンは私たち全員分のUSモデルのPFDを持ってきてくれると約束してくれ、大いに助けられました。

こんな具合で、事務手続きを終え、航空券とモーテルの予約も完了し、レンタカーも借りて、新しく装備も買いそろえ、私たちは生涯で最高の旅を始める準備が整いました。

さあ、冒険の始まりです。

Picture43
疲れと時差ボケがあり、少し緊張しつつもとても興奮している私。

Picture53
コロラド川の水は寒くてさわやかでした。私たちはどれくらい泳ぐ必要が出てくるのでしょう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

関連記事
PA_grandanyon02_main
パックラフト・アディクト | #25 グランドキャニオン <後編>大自然と急流をめぐる12日間364キロの川旅

Packraft_09_main
パックラフト・アディクト | #11 ロシアのパックラフトの旅 <前編>冒険のはじまり




WRITER
Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。

>その他の記事を見る