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アイルランド・キラーニー国立公園 原生自然の森と湖のハイキング & パックラフティング 2DAYS | パックラフト・アディクト #80

2025.02.21
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(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、アイルランドの原生自然が残るキラーニー国立公園での、ハイキング&パックラフティング。

2日間という短い行程のなかで、ハイキング、ハンモックキャンプ、パックラフティングをぎゅっと詰め込んだトリップだ。

キラーニー国立公園は、アイルランドの大自然が広がる国立公園。山々と湖、そして野生動物や植物などが、自然保護の対象となり貴重な生態系が残されている。ちなみに、アイルランド初の国立公園でもある。

それでは、アイルランドの大自然を味わう、コンスタンティンのトリップ・レポートをお楽しみください。


今回はハイキングとパックラフトを組み合わせて、アイルランドを旅した。

大自然が保護され、原生林が広がるキラーニー国立公園。


アイルランドの原生自然が残されているキラーニー国立公園。

今回の旅は、アイルランドのケリー州にあるキラーニー国立公園 (Killarney National Park) へ行きました。そびえ立つ山々、アイルランドで最も広い原生林、刻々と変化するアイルランドの空を映す湖など、大自然が広がる場所です。この国立公園には、アイルランドで唯一の在来種のアカシカの群れも生息しています。

2024年の11月下旬、このキラーニー国立公園に2007年以来となる再訪をしました。日数は短いものの、今回はパックラフトを使った面白い旅のプランを立てていました。


急な悪天候により、季節外れの雪景色に。

しかし、アイルランドではよくあることですが、天候の問題にぶつかりました。私が到着する直前に吹雪が吹き荒れ、風景は一時的に雪国へと変わっていたのです。その30時間後には、激しい暴風雨で川が氾濫し、野原は水没しました。

そんな悪天候の合間に、予報にはなかった静寂な天候が訪れました。寒くてあたりはバリバリに凍っていましたが、風はありませんでした。それは私の旅にとっては、パーフェクトな瞬間でした。

生態系保護のため、舟を完璧に洗浄しておく必要がある。


キラーニー国立公園にて。

国立公園で舟を漕ぐにはパーミット (許可) が必要で、そのためにレンジャーステーションへと行かなければいけません。外来種が広がるのを防ぐために、舟は使う前に洗浄する必要があります。

通常、これは高圧洗浄機を使いますが、私のパックラフトがそれに耐えられるかどうかはわかりませんでした。

私は事前にレンジャーに電話をして、代替案を用意しました。自分でパックラフトをこすり洗いをして、洗浄し、消毒するのです。結果的にこのパックラフトを買って以来、一番きれいな状態になりました。


生態系保護のため、使用する舟は完全に洗浄する必要がある。

レンジャーステーションに到着すると、私はパックラフトを検査に提出しました。レンジャーたちは、私がきれいに洗浄したことに納得していましたが (証拠としてビデオも見せました)、パックラフト自体には懐疑的でした。

ここではカヤックやカヌーが一般的なので、私のパックラフトはプールのおもちゃに見えたに違いありません。レンジャーは私に免責同意書に署名することを求めました (おそらくカヤックやカヌーでも同様だとは思います)。

レンジャーたちは、2つの湖のうち、小さい方のマックロス湖を漕ぐように強く勧めました。大きい方のレーン湖には、大きな波が立っており、川の上流には尖った岩があると警告しました。


初日はスタート地点から湖畔沿いをハイキング (約5km)。2日目は、7kmほどハイキングした後にプットインして、パックラフトを5kmほど漕ぐ行程。

ハイキング&パックラフティングの旅のスタート。


マックロス修道院の遺跡。15世紀につくられた建物。

私は2007年に訪れた古い修道院があるイニスファレン島まで、湖を横断して漕ぎたかったのでが、レンジャーたちのアドバイスに従うことにしました。彼らがこの場所を一番よく知っているからです。

11月は日照時間が短く、すぐに日が暮れます。私は町に向かって歩き、国立公園に入りました。最初に立ち寄ったのは、マックロス修道院でした。何世紀も前に建てられた遺跡で、建物は節くれだったイチイの木々に囲まれていました。

私は以前にもここを訪れたことがあるのですが、あまり覚えていませんでした。妻は学生時代、夏の季節にここで仕事していたことがありました。それで妻に電話をしてみると、彼女は修道院を懐かしそうに思い出し、写真をたくさん撮っておいてと私に言いました。


美しいレーン湖の景色。

私はレーン湖の岸に向かって歩いているとき、太陽はもうそろそろ沈もうとしていました。

到着した瞬間、その光景に息を呑みました。水面は鏡のように平らで、雪に覆われた山々が湖にきれいに映し出されていました。湖面からは細かな霧が、渦を巻くように立ち上り、湖全体が黄金色の夕焼けに染まっていました。

原生林のなかで、完璧なハンモックスポットを見つける。


原生林のなかで、ハンモック・キャンプ。

残念ながら、ゆっくり景色を楽しんでいる時間の余裕はありませんでした。あたりはすぐに暗くなり、ヘッドライトで照らしながら歩き続けました。道が森の中に入ると、さらに暗くなりました。

アイルランドには大きな森はほとんどありませんが、キラーニー国立公園には、かつて島を覆っていた広大な原生林が、今も残っています。繊細な生態系を保護するために、道から外れて歩かないよう注意を促す看板がいくつかあったので、私は慎重に進みました。


静かな森の中でゆっくりと過ごす。

小さな脇道を進んでみると、その先に完璧なハンモックスポットを見つけることができました。夜はとても冷え込みましたが (-1°C)、準備はできていました。遠くの鳥の鳴き声と葉のざわめきのなか、私はすぐに眠りに落ちました。

翌朝、私はゆっくりとハンモックに揺られていました。静けさのなか、朝を迎えた森の音を味わっていました。


朝もハンモックでゆっくり過ごしてから出発。

その日のハイキングとパックラフティングの行程は、余裕がありました。だからしばらく何もしないで良かったのです。ようやく荷物をまとめて歩き始めると、朝の光が前夜よりもさらに美しい風景を作り出していました。

湖と湖をつなぐ水路から、パックラフティングをスタート。


美しい湖周辺の景色。

歩き出してしばらくするとディニス・コテージという場所に着き、ここに少し立ち寄ることにしました。そのすぐ後ろに「水の合流点」と呼ばれる場所があったからです。そこは山から流れてくる川が2つに分かれ、一方は大きな湖に流れ込み、もう一方は小さな湖に流れ込む場所になっていました。

コテージに戻ると、美しい小さなコマドリと出会いました、まるでエサをくれとせがむように、私の目の前に止まりました。私はちょっと休憩しておやつを食べ、勇敢な鳥に少し分けてあげることにしました。そこで、パンくずを持った手を伸ばすと、鳥は私の手のひらに少し止まってエサをつかみ、飛び去っていきました。


ハイキングの後に、パックラフトで湖を渡る。

約7kmほど歩いて、パックラフトのプットイン・ポイントとなるフォー・フレンズの岸にたどり着きました。フォー・フレンズは、湖へとつながっている狭い水路です。

私はパックラフトを膨らませ、装備を詰め込み、出発しました。川の蛇行に沿って曲がると、丘の上で何かが動いているのに気づきました。

大きな雄鹿がそこに立っていて、私の方を見ていました。その横には数頭の雌鹿がいました。私は舟を漕ぐ手を止めて、鹿たちを驚かせないように流れに身を任せました。鹿はじっと動かず、私をじっと見つめていました。


遠くに鹿の姿が見えた。

しばらくして、同じような鹿の群れを何頭か見ましたが、このときに見た最初の雄鹿たちがが一番印象に残っています。

ぎざぎざの岩がせり出す洞窟を探検。


直前の天候の急変で、山は雪化粧となっていた。

流れは穏やかで、風も落ち着いていました。雪をかぶった山々が、息を呑むような景色となって目の前に広がっていました。しばらく進と、ここまで歩いてきたときに訪れたオールド・ウィアー橋の下をくぐりました。

その橋の下には、小さな瀬 (※1) がありました。レンジャーは尖った岩に注意するよう警告していましたが、水位が十分にありスムーズに通過できました。危険のある瀬と言っていた場所も、問題ありませんでした。もしかしたら、他の瀬のことを言っていたのかもしれません。


パックラフトでマックロス湖を横断する。

マックロス湖は、前夜のレーン湖と同じくらい穏やかでした。私は一瞬もっと大きな湖まで漕いで行こうかと考えましたが、日暮れの時間に近づいていたのでやめました。

その代わりに、湖の北岸を漕いでみることにしました。そこには、ギザギザの岩が水面に沿ってせり出しており、小さな洞窟になっていました。そのなかを探検しようとしましたが、岩はカミソリのように鋭く、かなり注意する必要がありました。

このときになって、レンジャーが私に言った警告の意味を理解できました。こんな岩に少しでも触れたら、私のパックラフトは大変なことになっていたことでしょう。


岸壁には鋭利な岩でできた洞窟。

ちょうどお腹が空いてきたところで、休憩にはよさそな小さな砂浜を見つけました。松の木と柔らかい砂はまるで暖かい南国のような景色でしたが、ここは氷点下の気温です。

温かい食事をとった後、最後の区間を漕いで、ゴールポイントとして予定していた古いボートハウスに向かいました。ボートハウスに着く直前に、トラディショナルな木造ボートに乗った父と娘の姿を見ました。この日、水上で見かけたのはこの人たちだけでした。

※1 瀬:川の流れが速く水深が浅い場所。

アイルランドの国立公園をめぐる24時間のハイキング&パックラフティング。


ゴール地点お古いボートハウス。

パックラフトを漕ぎ終えると、荷物をまとめてマックロス・ハウス (観光地にもなっている19世紀の邸宅) に向かって短い散歩をしました。

途中で何人かのハイカーと挨拶を交わしましたが、みんな予想外の好天に喜んでいました。その夜に、予報されていた嵐が本格的にやってきました。雨は容赦なく降りました。翌朝、ダブリン行きの電車に乗っていると、畑や道路が水没してしまっている光景を見ました。今回はタイミングにとても恵まれた旅でした。


帰りの電車からの車窓。漕ぎ終えた後に嵐が来て、川は濁流に。

今回は合計で約13.5 kmをハイキングし、5kmをパックラフトで漕ぎました。長い旅ではありませんが、間違いなく価値のある旅でした。 24 時間のマイクロアドベンチャーです。

アイルランドで漕ぐのは初めてでしたが、キラーニー国立公園の美しさ、一人きりの時間、そしていろいろなことが完璧なタイミングであったことにより、忘れられない旅となりました。さて、次はアイルランドでどんなパックラフト・トリップができるでしょうか。


アイルランドのキラーニー国立公園の凝縮された旅を満喫。

アイルランドの豊かな森と湖、そして野生動物が生息する原生自然が広がるキラーニー国立公園。日本にはない自然のなか、短い日程でもハイキングとパックラフティングを組み合わせて旅できる、素晴らしいフィールドだ。

 

またヨーロッパの修道院などの遺跡を楽しめるのも、キラーニー国立公園の面白さである。今回コンスタンティンが訪れることができなかったところにも、歴史を味わう場所はあるという。今回もヨーロッパの旅の選択肢を与えてくれる、貴重なレポートであった。次のレポートも楽しみにしたい。

(English follows after this page / 英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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