北海道・シーソラプチ川 デイ・パックラフティング | パックラフト・アディクト #78
今回紹介するのは、北海道の真ん中のおへその位置にある「シーソラプチ川」。北海道のウィルダネスを感じる、自然豊かな川だ。
シーソラプチ川は、空知川 (そらちがわ) の上流部にある川で、アイヌ語で「本当の・空知川」という意味だそうだ。それだけ、真の美しさがつまった川なのではないか、と感じる景色が広がる。
レポートしてくれるのは、國分知貴くん (以下、國分くん)。國分くんは北海道生まれ、北海道育ちで、小さい頃から北海道の大自然のなかで遊び続けてきた。
そんな國分くんによる、「北海道のパックラフターによる、北海道の川のパックラフティング・レポート」。その第5弾となるシーソラプチ川のレポートをお楽しみください。
南富良野の山川。美流シーソラプチ川。
今回の目的地は北海道のおへそ、南富良野 (通称なんぷ) 周辺。空知川の上流部、十勝岳連邦のカミホロカメットク山を水源とする「シーソラプチ川」。道内屈指の美流としてその名を馳せている。
トリップの目的は、なんぷに暮らすガイド仲間であり友人せいしゅうのホーム探訪。何年も前から「今年こそ行くね!」なんて話つつ、得意の「行く行く詐欺」で数年経過。
今回やっとそのきっかけとなったのは札幌の某山道具店勤務で川好きの白船さん。僕を含めこの3人は昨年釧路川を数泊しながら一緒に下ったメンバー。今年またまん中あたりで集まりませんか?という流れだ。ということは次回は北海道の左側あたりへ?はてさて・・。
さて、今回僕は2日間滞在し、この土地が育む豊かな自然そしてローカルとの時間を心ゆくままに味わった。ハイキング、ダウンリバー、BBQ、川沿いの宿、五右衛門風呂…。山川で遊び、山川と共に暮らす人々との時間は僕の心を満たしていく。今回、その一部をレポートする。
友人の住む町に前乗り集合。今回のプランは?
僕が暮らす弟子屈から約3時間半、必要なギアをラゲッジに詰め込み車を走らせる。向かうは南富良野町市街にあるせいしゅうの物件。現在リフォーム中で、冬はスキーヤーやスノーボーダーが集まれるような場所にしたいとのこと。
今回はそこに集合して鍋でもつつきながら軽くミーティングしようという段取りだ。
いわゆるメジャールート (ラフティングツアーのコース) は、落合の上流部と国体コース含む約5km区間。
さて、どのように遊ぼうかと話し合った結果、せっかくだしロングに行っちゃおうという流れに。長く川を下り、その流域の自然や人の暮らしをじっくり眺めたいのは、川旅好きのクセである。
それぞれのスタイルのパックラフトで。
ゴールポイントに1台車を置き、もう1台でスタートポイントへ。言わずもがな、パックラフトはある程度人数が増えようと、舟を小さく畳めるので車の使用台数が少なく済むのもよいところ。駐車場所もエネルギーも必要最小限だ。
スタートポイントで準備を進める。今回、パックラフトの仕様がそれぞれ異なるのも面白かった。皆、普段使用するフィールドや考え方で道具のチョイスも変わる。
僕が使うのはAlpacka RaftのスタンダードモデルのClassic。デッキはスプレースカートなどの着用が不要な、クルーザーデッキ (現行品はカスタムできないらしい)。
僕の暮らす道東エリアは激しい瀬がある川は少ない。春や秋に川旅する際も常に下半身が温かい。でもたまにホワイトウォーターも攻めたい。そんな僕の使い方にピッタリだと思っている。
写真の奥に写っている白船さんのデッキは、流れの激しい川に向いているリムーバブル・ホワイトウォーターデッキ (ブルーのパックラフト) 。このデッキは、クルーザーデッキよりも、より水の侵入を防いでくれる。ただ、その分スプレースカートの着脱が少々手間だったりもする。
せいしゅうが使ったのは、同じくAlpacka Raftの、Classicより少し大きいCaribouというモデル。そのセルフベイラーモデル (舟のなかにたまった水を自動で排水してくれる仕様) だ 。
南富良野の地域で暮らすせいしゅうはホワイトウォーターで遊ぶことが多い。瀬で毎回水がたまるのは面倒なので、セルフベイラーは正しい選択だと思う。フリップしても再乗艇からリスタートが早い。
せいしゅうに「ちなみになんで大きいサイズのCaribouを選んだの?と」聞くと、「女の子に乗せてって言われたら前に乗せてあげたいじゃないですか。距離も縮まるし」とのこと。キザなやつ!
さぁ準備は整った。みんな初見の上流部。ワクワクが高まるスタートだ。
北海道原始の姿、シーソラプチ川。
天気予報は外れた。夜中から雨予報だったのでクリアな水は見れないかと思っていた。それが川に浮かべてみたらどうだろう、この透明度。おまけに時々太陽も顔を覗かせる。ご機嫌のスタートとなった。
ラフティングなどのツアーで利用されている地点より約7km程上流部からスタートした僕ら。事前情報で倒木やストレーナーが多いことは聞いていたが、その通りだった。カーブの先が見えないセクションでは都度パックラフトから降りてチェックしながら進む。初見は楽しい。先が見えない、わからないから楽しいのだ。
時々、轟々と音を立てる落ち込みもある。下りながら目を向けたその先が、波立つことなく水平になっている箇所は要注意。
安全第一、見えない場所は一度パックラフトから降りてまず見る。自身のスキルと経験を踏まえ、ライン取りのイメージができたら舟を流れに合わせていく。川の力を上手に使い、思い描いたラインを流れ、水飛沫をあげる。この瞬間こそダウンリバーの醍醐味といえる。
ローカルの先輩に聞いた。シーソラプチ川は日高山脈から続く岩盤に、十勝岳火山の凝灰岩が被さっているそうだ。そしてその上に長い年月をかけて植物が覆う。苔むした両岸からは湧水が流れ込んでいる。その姿に原始の北海道、悠久の時を感じる。
落合に近づくにつれ川は大きく掘れていく。美しいゴルジュを形成し、落ち込みと水深のあるプールを交互に繰り返していった。この辺りは今回でも一番の美しさ。シーソラプチ川はアイヌ語で「本当の・空知川」という意味だ。なるほど合点がいくし、ラフティングツアーのコースにもなっていることも頷ける。
川も人も落ち合う。本流・空知川の国体コースへ。
やがてシーソラプチ川は他3つの河川と合流し、空知川と名を変える。そのことから、この合流地点周辺の地名を「落合」という。落合に差し掛かるころ、偶然の出会いもあった。川で遊んでいるローカルのガイドたち、そしてそこへ遊びにきたカヌーイストたちだ。
この場所は川と川が落ち合うだけではない、川に魅せられた川好きの人たちも落ち合う場所なのだろう。素敵な地名だ。
落合のその先は、いよいよ本流の空知川にある「国体コース」。その名の通りかつて国体 (1989年開催のはまなす国体) のカヌースラローム競技が開催された場所で、「三段の瀬」「パチンコ岩」「渡月橋の落ち込み」と難所が待ち構えている。このあたりは川のグレードでいうとクラス3程度。ひゅ〜!っと声も出るトリップのハイライトと言える。
ローカルたちとはここでお別れ。国体コースを終えると徐々に川幅を広げていく。時々パワーのある掘れたウェーブや落ち込みが現れるも、その流れは素直で特段険悪な箇所はなかったが、増水時は注意が必要だ。
ある程度瀬も落ち着いたところでホッとひと息。ノンアルビールで乾杯。よ〜し、と取り出してみると缶はベコベコで穴もあり残量1/4。水温13度の川で冷やしながら…とシートの横に挟めてきたことが仇となった。ボトムを擦る回数が多いようなダウンリバーでこの作戦は失敗。ちょっと切ない乾杯となったのはいい笑い話。パックラフトに穴は空いていなかったでのよしとしよう。
目指すゴールは「かなやま湖」。
時々後ろを振り返っては山を眺める。「あの奥から流れてきたのか〜…」ロングツーリングをすると毎回感じるこの感覚。山から流れ、その流域を眺めてくると様々なことに気づき、そして想いを巡らせる。
南富良野市街に差し掛かるころ、両岸は改修工事で整地されている場所が目立った。それもそのはず、2016年に北海道では珍しい台風の上陸が相次ぎ、大雨による河川の増水で川沿いの堤防が決壊、甚大な水害に遭ったエリアなのだ。
2024年の現在は随分と復興していたが、河川沿いの様子を見ると明らかだった。きっと以前は森に囲まれた豊かな川だったのだろう。とはいえ今、目の前のコンクリートブロックを否定することもできない。簡単な話ではない。
今回ゴールとなる「かなやま湖」に近づくと途端に流れがなくなる。そして川岸を見ると柳の木が水没している。
かなやま湖はダム湖だ。今たっぷりと水を貯めている状態だが、夏にはずいぶん水が減るという。このダムの存在もまた、流域の人の暮らしにとって欠かせないものだろう。人の暮らしと水、自然の脅威は緻密なバランスで複雑に絡み合っているように思う。
良き土地には良き人、良き文化。
さて、すっかり夕方。早々に片付けと買い出しを済ませ、宿へ車を走らせる。
この日の宿は落合にある「暮らす宿ソラプチ」。地元のラフティングガイドが営む一棟貸しの宿で、すぐ裏にはさっき下ってきた空知川が流れている
この日はローカルの皆さんがBBQでおもてなしをしてくれるとのことで、すぐ近くの場所へ移動。
着いてすぐに案内してくれたのは、ガイドカンパニーのベースにある、自作したという五右衛門風呂。さっき下ってきた川のせせらぎを聞きながらの風呂とは、なんたる贅沢か。ありがたい。
南富良野には美しい山と川がある。そしてその山と川に魅せられた好奇者たちがこの土地に集まる。実にシンプル、だからこそ魅力的だ。シーソラプチ川と空知川に乾杯!
シーソラプチ川は、北海道のウィルダネスを感じる魅力的な川であった。きっとまだまだ北海道にはこういった川があるはずだ。また次のレポートも楽しみに待ちたい。。
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