釧路川スルーパドリング | 全長100kmの釧路川をパックラフティングとハイキングでつなぐ旅 (前編)MKTを歩き釧路川へ
文・構成:TRAILS 写真:TRAILS, 國分知貴, Fumi Sakurai
TRAILS編集部crewは、以前にNIPPON TRAILで「摩周・屈斜路トレイル (MKT) + 釧路川」を旅した。その際は、摩周・屈斜路トレイル (※1) の美留和から歩きはじめ、釧路川をパックラフトを用いて釧路湿原まで漕いで下った。
今回、釧路湿原より先の河口までを目指し、釧路川を水源から海までずっと漕いで旅してみよう! という旅を、摩周・屈斜路トレイルの仲間が企てた。そこで僕たちTRAILSは、この仲間の遊び心ある実験に乗っかることにしたのだ。
ちなみに川の最初から最後まですべてを漕ぐことを、「スルーハイキング」ならぬ「スルーパドリング」という。今回は釧路川スルーパドリングの旅ということだ。
5日間で、屈斜路湖周辺の摩周・屈斜路トレイルを15kmハイキングし、そしてリバートレイルとして全長100kmの釧路川を水源から河口までパックラフティングする、というプランだ。
今回の旅の発起人は、TRAILSのパックラフト・アディクトでも登場した、屈斜路がローカルの國分知貴くん。彼は1日早くスタートし、2日目からTRAILS編集部の根津とパックラフト・アディクトの仲間のバダさんが合流した。
バックパックに入れて持ち運ぶことができるという、パックラフトならではの特徴を活かし、ハイキングとパックラフティングを組み合わせて旅した5日間。その旅の全容を、前編、中編、後編の3つの記事でお届けする。
NIPPON TRAIL「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」から始まる。
TRAILS編集部crewが北根室ランチウェイ(※2) をハイキングし、このトレイルに惚れ込んだことをきっかけに、もっと道東を長く旅するロング・ディスタンス・ハイキングをしたいという欲求から、屈斜路湖、さらに釧路川をリバートレイルとしてつなげて旅してみよう、と考えたのが、2019年に掲載したNIPPON TRAIL#06「北加伊道・クスリの道」であった (※3)。
このときはディープな北海道を体験するべく厳冬期の実験などを行なったが、その翌年2020年には、摩周・屈斜路トレイルも開通し、NIPPON TRAIL#07「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」(※4) として、実際の計画したルートを緑の季節に旅した。
なおNIPPON TRAILは、TRAILS編集部crewによる “MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる” 楽しみであり、TRAILSらしい、日本におけるロング・ディスタンス・ハイキングを模索する旅のシリーズである。
NIPPON TRAILでは、歩くエリアについて深く知りたい、より濃密な体験をしたい。そんな欲求から、そのエリアについて、過剰に掘り下げる作業をくりかえしている。
そして自分たちなりの「NIPPON TRAIL」という、ヤバい旅を探しながら歩いているのだ。そのフィールドとして、道東の北根室、摩周湖・屈斜路湖、釧路川のフィールドは、僕たちを惹きつけてやまない、北海道ならでは自然や土地のストーリーがこれでもかと溢れているのだ。
NIPPON TRAIL#07「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」では、釧路湿原をゴールとして設定したが、今回はさらに釧路川を先まで漕いで、太平洋へと注ぐ釧路川の河口まで旅しようということで、TRAILSにとって思い入れのあるこの地を、ふたたび訪れることになったのだ。
ではここからは実際の今回の旅のレポートを届けしたい。
DAY1、旅のはじまり。この旅の発起人・國分くんが先行して川湯温泉からソロでハイキングをスタート。
いよいよ今回の旅のスタートである。
全長100km釧路川を「水源から海まで」のスルーパドリングする旅が始まる。川を漕ぎ始める前に、釧路川の水源である屈斜路湖のハイキングから始めるのが、この旅のプランだ。
今回、発起人の國分くんは、他の2人に先駆けて、硫黄の匂いかおる川湯温泉からハイキングをスタート。このスタート地点である川湯温泉は、摩周・屈斜路トレイルのトレイルタウンであり、温泉街を楽しめる場所である。前日入りして、温泉に浸かるのも良いところだ。
摩周・屈斜路トレイルは、2020年10月1日に誕生した、北海道は道東のトレイルである。TRAILSはこのエリアが好きでたびたび足を運んでいた。それがきっかけで、摩周・屈斜路トレイルの立ち上げに、構想段階から関わらせてもらったトレイルでもある。
摩周湖から屈斜路までを結ぶトレイルは、「火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道」というコンセプトのとおり、摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖を渡り歩き、火山がつくり出した独特の自然景観、温泉街や野湯、また古くからあるアイヌのコタン(集落)を通りながら歩くトレイルだ。
ちなみに屈斜路湖周辺は、野湯も含めた温泉の土地であり、温泉を楽しみながら旅できるトレイルでもある。先に紹介したNIPPON TRAIL#06を「北加伊道・クスリの道」と名付けたのには、このことも深く関わる。
北加伊道(ほっかいどう)とは、江戸時代末期、北海道の名付け親である松浦武四郎(まつうら たけしろう※5) が、蝦夷地(えぞち)にかわる名称として政府に提案したもののひとつ。「カイ」という言葉はアイヌ語で「この地に生まれた者」を指し、すなわち『北加伊道』とは、「北にあるアイヌ民族が暮らす大地」という意味があるのだ。
さらに、屈斜路湖畔に住んでいたアイヌの人たちは、この土地に湧く温泉を病気やケガの「クスリ」 (薬と同じ意味) と呼んでいた。屈斜路湖は「クスリ・トゥ (湖)」、釧路川は「クスリ・ベツ (川)」。つまり、この一帯がクスリの地であったのだ。
僕たちが旅するのは、まさしく北加伊道であり、クスリの道にほかならない。それがNIPPON TRAIL「北加伊道・クスリの道」と名付けた理由だ。
初日は、温泉街の川湯温泉から砂湯キャンプ場まで、温泉から温泉をつなぐハイキングをした。
バックパックには、パックラフトとキャンプのギア一式が詰め込んである。川旅と野営のギアを背負って、屈斜路湖を眺めながら、ゆったりと湖畔の森を歩いていく。この日のゴール地点の砂湯は、自分で掘って野湯に入れる場所でもある。この砂湯で、雄大な屈斜路湖を前に、テントを張って初日の夜を過ごした。
DAY2、アイヌの人々の生活の温泉であった池の湯で、TRAILS crewと合流。
1日早くスタートした國分くんは、2日目に砂湯をあとにすると、ほどなくして「池の湯」という野湯にたどり着く。
ここで待っていたのが、TRAILS編集部crew根津とパックラフト・アディクトの仲間であるバダさん。ここから國分くんとバダさんと根津、という3人でのハイキング&パックラフティングの旅がはじまった。
この「池の湯」という温泉 (野湯) は、つい50年ほど前まで、ここで暮らすアイヌの人々のお風呂として、日常的に利用されていた温泉なのだ。
池の湯から4kmほど離れたところに、アイヌのコタン (集落) がある。かつてはアイヌの人々が、このコタンから湖畔の道をたどってこの「池の湯」に入浴しにきていたという。このコタンから池の湯までの湖畔の旧道も、今は摩周・屈斜路トレイルのルートの一部として復活し、ハイキングすることができる。
この旧道は、屈斜路湖のすぐ脇を歩いていく、メロウで気持ちのよいトレイルだ。晴れた天気のなか、合流したばかりの高いテンションでメンバー同士でわいわい話しながら、愉快な旅が始まる。
池の湯〜コタンの旧道について、以前にNIPPON TRAILでここを訪れたときに、アイヌの方々から直接こんなお話をうかがった。
「あそこは私たちが子どもの時に歩いていた道なんですよ。昔は家に五右衛門風呂しかなくて、週にいっぺんくらいは池の湯に入りに行ったんです。帰りは道路に落ちている薪なんかを拾いながらね。」
そんなアイヌの人々のかつての生活道を歩き、パックラフトの漕ぎ出しの場所であるコタンを目指していく。
釧路川の水源から河口 (太平洋) までのリバートレイルが始まる。
池の湯から約4kmほど歩くと、アイヌの人々が今なお住んでいるコタンが現れる。
広い芝生のエリアがあり、ひとつの歌碑が立っている。ここには、先述した北海道の名付け親であり探検家である松浦武四郎が、江戸末期に屈斜路湖を訪れた際に詠んだ歌が刻まれている。
松浦武四郎は、蝦夷地に住むアイヌの案内人を頼み旅をした。旅をともにした人々や、各地で出会った人々と交流するなかで、武四郎はアイヌの暮らしや文化への強い共感が生まれていったという。
その松浦武四郎が訪れたこの屈斜路のコタンから、僕たちはパックラフトへと乗り換える。
僕たち3人は、バックパックからパックラフトのギア一式を取り出し、準備をはじめた。ここから4日間かけて、釧路川100kmを河口の海まで漕いでいく。
トレイルからリバートレイルへ。ハイキングからパックラフティングへ。まずは最初のハイライトである釧路川源流部へと入っていく。
いよいよ始まった 全長100kmの釧路川を水源から海(太平洋)までを、スルーパドリングする旅。屈斜路湖エリアの特徴である温泉街、野湯を味わい、またアイヌの文化にも触れながらスタートした、今回の旅の一行。次の中編では、釧路川源流部から釧路湿原手前の標茶までの旅をお届けする。
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