It’s a good day! #16 | ビー・アン・エンジェル

文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Be an angel.
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
あつい。
アホかっちゅーくらいに、あちい。
これでもかとはっぱも虫も元気いっぱいだ。
よろしい、こちらも元気にたべる事にする!
早朝から歩き始めたはずなのに、陽が出ると容赦なく汗が吹き出す。ひっくり返るわけにはいかないので、意識してこまめに水を飲む。
甲虫があざ笑うようにおれの周りをくるりと旋回飛行して、追い抜いてゆく。
飛べるのいいなぁ。何度思ったことか。
いいタイミングで見つけた、ナイスなフラットにテントをピッチする‥前に、シャツを絞る。
夜になるとしっかり涼しくなってくれた。
寝ぼけたセミがビリと少し鳴き、飛んで、なにかにぶつかった。
ラジオは優しいリズムで旅人を憂う歌。
ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。
トレイルエンジェルと呼ばれる人達がいる。
そのトレイルを過去に歩いた先輩ハイカーだったり慈善の趣味だったりと動機はさまざまだが、ハイカーを助けてやろうというまさにエンジェルの名にふさわしい存在だ。
街では待ってましたとばかりにハイカー向けの商品を並べてくれるお店や、自宅の庭をキャンプグラウンドとして開放する人もいる。
サポートしようという気がなくともキャンプで余った食料を分けてくれたり、気が向いたからとヒッチハイカーを拾ってくれる人も含めてエンジェルだ。
もちろん、上記のように商売の一端という人もいるだろう。
けれど多くのロング・ディスタンス・ハイキングは、このトレイルエンジェルがいないと成り立たない。
その日も、初夏のサザンカリフォルニアの危険なほどの暑さをかいくぐりながら歩いていた。やっと日陰がある小さな水場に着くと、何日か同じペースで歩いていたハイカーに合流した。
暑さに参りまくっているBenとJerryは少しでも背中を乾かそうとうつ伏せに倒れている。
見慣れた光景だ。
Jerryは少しだが千葉に住んでいたそうで、「寒さに強い、けど燃費が悪いアメリカ人には大変です」と日本語を思い出しながら冗談を言っている。
一通りくだらない話をして、ムリしないでね、と言い合って先に出発する。
歩き始めて10分もしないうちに、トレイルがいい匂いに包まれた。
トレイルマジックだ!!
なんでもないトレイルヘッドでBBQをしながら、通りがかるハイカーにごちそうしてくれている。
足早に近づくと、高々と皿を掲げてくれた。
「暑いだろう!!ビールとホットドッグはどうだ!」
「ありがとう…まさにオアシスだね!」
「まだまだ先は長いからな、ゆっくりしていけ」
イカしたカイゼル髭をねじりながら、得意げにお皿をわたしてくれる。
「ちょっと待って、後ろに友達がいるんだ」
そう断ってBenとJerryを呼びに行く。
想像通り、まだひっくり返っていた二人はものすごい速さでパッキングを済ませて、呼びに行ったオレを抜き去ってホットドッグに向かった。
みんなで雑談しつつ、冷えたビールを頂く。
「どうしてトレイルマジックをしているの?」
自然とそういう話になる。
「理由なんかないさ。気分がいいからな!」
豪快に笑うおじさんのそばで、奥さんが軽く言う。
「みんな誰かのエンジェルでしょう?」
It’s a good day!!

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