It’s a good day! #14 | タイトライン

文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Tight line.
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
美しい陽気に、はやる気持ちを落ちつけるように腰を下ろす。
バーガーをかじって、さっき掬ったお水で流し込む。水はまだつめたい。
うまい。
イェス!!
耳をすませて春の足音を聴く。
凍えるような朝もまだあるけれど、偶然にも地球はまわる。
パフジャケットも、もういらないや。
遠くに釣りで有名な湖を眺めながら、ちいさな稜線を歩く。
西陽をあつめるようにテントをピッチする。
お湯が沸いた。贅沢にホットチョコレートを溶かす。
ラジオは春のポップ・ミュージック。
ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。
残雪がへばりついた峠越えを何度も強いられていた。
しかしこのセクションは過去に歩いたことがある。
もう少し行けば釣りができる湖や川があることを知っていたオレは、前の街で買った釣具を背負っていた。
アンテナ背負って、なにか受信するつもりか!?と茶化されもしたけれど、やっと到着した小さな湖でいそいそと釣りを始める。
一投目から!魚は応えてくれる。
幸せな時間を過ごしていると、一緒に鬱陶しい残雪を攻略していたハイカーが追いついてきた。
「やっとそのアンテナが役に立ってるな!」
「‥魂が開放されていくようだよ‥」
釣りのない数ヶ月の禁欲生活を癒やすようにキャストを繰り返していると、眺めながら休憩していた彼もさすがに興味を持ったようで、初めてだけど挑戦してみたいという。
軽く取り扱い方を説明してキャストの練習…もう食っている。
「ラインテンションをキープして!タイトライン!」
上がってきた魚は、リリースサイズを少し超えるくらいの可愛いものだったが彼の興奮は大きかったようだ。
「こんなに‥楽しいのか‥!!友達がシエラ近くに引っ越したいって言ってたけど、そういうことなんだな」
「痺れるだろう。魚を通じて自然にもっと近づけた気がするだろ」
初めて釣った魚だからと、食べようか彼は迷っていたがライセンスを買っていない彼は厳密には釣りもしてはいけない。
そのことを思い出した彼は、写真を撮って優しくリリースをした。
このハイキングが終わったら絶対ここに戻って来る、と鼻息荒く予定を決めた彼は、いい経験だったとお礼にチョコレートをくれた。
以前ここを歩きながら釣りをしていたときも、しなる竿を見ていたデイハイカーが魚とスニッカーズを交換してくれと嬉しい申し出をしてくれたことがある。
魚は、チョコに交換できるのか。ひとつかしこくなったぞ。
It’s a good day!!

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