It’s a good day! #13 | ロスト・メモリー
文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Lost memories.
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
乾いた日々が続く。まだ秋か!そりゃ腹もへるわけだ、たべようたべよう。
新雪にはしゃぐ犬のように、贅沢な落ち葉をガサガサとかきわける。
その感触に、もう1年経っちまったのか!と実感する。
ただ日常をすごしているだけで、時間は過ぎていく。それがいいのか悪いのかは関係なく、地球はまわっている。
はっぱをかき分けて整地して、サクッとテントをピッチする。
ラジオはのんびりピアノ・ソロ。
まったく人に会わないハイキング。
ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。
長いこと歩く旅では、退屈に思えるセクションも少なからずある。
ワイオミングを代表するナイスなセクションを超えてすぐ、うんざりするような何日かがあった。当時の日記をめくると、ありありとゲンナリ具合が書かれている。
舗装路を行くなら平気でスキップしてしまうだろうに、延々と続くグラベルロードだ。逃げ道はない。歩くしかない。
目に入るものは痩せた地面に地平線、ウシ、遠くを駆けるシカ、ウマ。
ウマがいた。
数頭で肩を寄せ合って、こちらを見ている。
「何あいつ歩くの遅くね?ていうか何してんこんなとこで。ウケる」と言っている。確実に。あの目は。
飽きた。
景色は360度地平線、見栄えも大して変わらない。
ウシの水飲み場で水を汲んでいたら悠然とでかいウシも水を飲みに来た。ジャッポジャッポ。水をのみながらうんこしやがった。
28mileも歩いた。人っ子ひとり会わない。
夕方に恐ろしいストームが通った。急いで腰丈の低木に潜り込んで傘を差す。一時間ほどで過ぎたが、何も出来ずただじっとしているしかない。
遠くに見えるウシの群れは、風雨に気づいていないかのようにのんきに口をモニャモニャしている。
それに学び、のんびりと待つことにする。
現地に暮らす美しい人々、荘厳な自然、大変だった記憶は忘れて楽しい記憶ばかりを覚えている。
ふとそのときのノートを見ると思い出す。地味で大変で、Fワードを叫ぶことも一度や二度じゃない。
起承転結もなく、ただ歩く日常。
そうして、辛かったことだけ忘れて、またトレイルを往く。
It’s a good day!!
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