HIKING ESSAY

It’s a good day! #10 | ウォーム・アンド・ドライ

2024.06.12
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文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS

What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。

なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.

Warm and dry.


 
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!

どっちつかずの予報に見切りをつけて、梅雨前線より先にビッグバイトを食らわせる。

湿ったお山の空気を吸い込む。すぅ。
雨が宇宙の鼓動なら、感じる雨粒も悪くない。ふぅ。

少し標高を上げると雲に突入した。こうなれば湿気について悩む意味はなくなる。
身体じゅうが湿っている。

豪快な眺望を期待できないなら、濡れて光る新緑を味わおう。


 
テントをピッチしてコーヒーを淹れる。
無事に雨が降り始めた。
ラジオは力強いウッドベースを弾いている。

ふはは!やまない雨はないと私は知っている。

ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。


 
初冬のニューメキシコ州は冷たい雨が降り続き、2泊する間に持ち物のすべてが濡れていた。
サボテンにつららが生える丘を超え、ギリギリ「湿っている」と表現できるスリーピングバッグに潜り込む。

雨に美しい渓谷を歩くセクションだったが、濡れ続ける日々は寒くてさすがにウンザリしてくる。
ようやく到着したリサプライスポット。
しかし雨雲が厚くうす暗い。キャンプ場のグロサリーストアは昼過ぎなのに灯りが落とされ、人影もない。主人を待つ寂しげな犬。

のように見えた次の瞬間、傍らにあるピクニックテーブルからハイカーが二人、顔を出した。

「よお!雨ひどかったな〜!オーナーは裏に住んでるから呼んできてあげるよ、もちろん腹ペコだろう?」
「ワン!」

暖かく乾いた声に満たされて、オーナー (とその愛犬) の善意で店内のテーブルで乾杯する。

「ハイカーフレンドリーな人だよ、テントもいいけど雨だぞ?って裏のシャワー小屋ですごしてもいいよってさ」
「新設したばっかりで十分キレイだけど、さっき少し掃除したからみんなでピザとって食おうぜ!」

オーナー自慢の自家製アイスクリームを食べ続けながら、すぐに次のメシについて盛り上がる。
やさしい犬はおこぼれをもらおうと足元に礼儀正しく座っている。

ひさしぶりに乾いた装備と寝床で過ごす夜。
床下を通る温水配管のせいで暑いくらいだった。

翌朝には天候も体力も回復し、オーナーとワンコにお礼を告げる。

「残りも気をつけていけよ、Stay warm, And dry!!」
「ありがとう!」
「ワン!!」

it’s good day!!

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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