HIKING ESSAY

It’s a good day! #06 | ハイカーたちとのショットガン

2023.05.03
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文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS

What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。

なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.

Let’s shotgun!


 
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!

バーガーをトレイルに持ち込んでかじりつけば、アメリカン・ハイキングの風が吹く。

あったかくなってきた。この時期がやってきました。ヨー、ワッツアップ・春!

よく踏まれた落ち葉のトレイルを進み、ひらけた空を見上げる。まだ木々は寒々しいけれど、目を凝らすとちいさく新しいはっぱが芽吹いている。

確かにめぐる季節を、静かに生きている山のみなさま。と、バカみたいに大口を開けるわたし。


 
新芽の林をすり抜けて、間にお邪魔する。風向きのご機嫌だけうかがって、テントをピッチする。ペグがよく効く。ニヤリ。

夜はまだちょっぴり冷える。気温が底をたたく前に、持ち込んだビールをゴクゴクやる。ガフゥ。

ラジオから流れるダンスミュージックがグルーヴを増す。アメリカのグッディを思い出す。


 
アメリカにいたころも、街でもトレイルでも本当によくビールを飲んだ。

あるトレイルタウンに降りた時のこと。数件あるモーテルを安い順に巡るも満室ばかり。上から二番目に値が張るモーテルのフロントを訪ね、空室を尋ねる。が、こちらでも良い返事は返ってこない。まいったなぁ、とため息をついていると、モーテルのオウナーがウィンクをする。

「君はハイカーだろう? 106の部屋もハイカーだったから、シェアをお願いしてみるといい」

「それは願ってもない! ありがとう、聞いてみるよ」

「いいってことよ。人数分のチップを期待しているぜ?」

いたずらっぽく笑うオウナーに礼を伝えて、その部屋へ向かう。

ノックするまでもなく、部屋のドアは開け放たれている。このモーテルが少し高いのは、ただ単に広いからだった。幸い、綺麗さなんか求めていないトラッシュどもには喜ばしい。部屋の中には、すでに6人のハイカーが飲んだくれている。

「やあやあ、モーテルがどこも取れなくてさ、よかったらおれも混ぜてくれ!」

一応全員に断りを入れると、1人がすぐにクアーズを手渡してくれた。

「CHEERS! これでまた部屋代が少し安くなったぞ!」

「YEEEEEES!!!」

全員が呼応する。

ふうと一息つくと、買い出しからハイカーが帰ってきた。両手に24缶入りのバドワイザーとハイネケンをそれぞれ携えて。

夜は更けて、総勢8名のヨッパライが完成した。うち1人は、ここで寝ようと準備したスリーピングパッドとは遠くかけ離れたところでくたばっている。

「しまった、おい、ビールが5本残っちまった」

「ショットガンで片付けよう。やるヤツは?」

テレビでSF映画を観ていた残りの全員が手を挙げる。ジャンケンに勝った5人は、モーテルから出てナイフで缶の底部に穴を開ける。

「いくぞ、3、2、1、TOAST!!」

翌朝の二日酔いは “思ったより” は酷くなかった。モーテルのチェックアウトを済ませて、ワリカン代金を払う。全員でレストランで遅い朝食をモリモリ食べて、パーティの半分は、次の街のモーテルを予約してあるから、と足早にトレイルへ戻ってゆく。

「もしまた部屋が空いてなかったら連絡してくれ。みんな、Happy Trails!!」

It’s good day!!

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鈴木拓海

鈴木拓海

2012年、2014年とJMT (ジョン・ミューア・トレイル) を2回スルーハイクし、2016年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) 、2019年にCDT (コンチネンタル・ディバイド・トレイル) をスルーハイクした、ロング・ディスタンス・ハイカー。トレイルネームはSunny (サニー)。13歳からスケートボードを始めたスケーターでもあり、バスフィッシングをこよなく愛するバサーでもある。2021年10月にTRAILSにジョイン。

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