TRIP REPORT

ヘキサトレック (Hexatrek) | #11 トリップ編 その8 DAY96~DAY108 by Beyoncé(class of 2023)

2026.03.04
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文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2023年に開通間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncéによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編の最終回。今回は、ヘキサトレックのスルーハイキングのDAY96からDAY108での旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


ヘキサトレック:Hexatrek。フランスを中心にアルプスやピレネーの高山地帯、ヨーロッパの田舎町などを通る3,034kmのトレイル。2022年にオフィシャルに開通したばかりで、世界でも日本でもまだ情報が少ないトレイル。スルーハイキングに要する期間は3~5ヶ月。Beyoncéは、北端のヴァイセンブルク (Wissembourg) からスタートして南端のアンダイエ (Hendaye) を目指すSOBO (サウスバウンド) で歩いた。

険しいオルタナティブルートを進んでいく。 (DAY96〜DAY98)


ウルケット・ダランのピークへ。

昨夜の雨はすっかり止んでいた。今日は久々に2,500m超の上りがある一日なので、気合を入れて出発。

ロードと樹林帯を経て、開けた場所へ。羊や山羊の合間を縫いながら、そして、地層が露わになった壁のような山に向かうように、さらに上り進める。標高2,430mのウルケット・ダラン (Hourquette d’Alan) というピークに到着。そこから見える、先の山々も荒々しい。

少し下り、分岐点を発見。難易度の高めなオルタナティブルート(おそらくオート・ルート・ピレネー[HRP] ※2)を選択する。下った先の観光スポット「カヴァルニー圏谷」には、400m以上の落差のある荘厳な滝を目当てに観光客が群がっていた。その人たちが立ち止まる先の急な上り道を、小雨交じりの中進んでいく。


山小屋サラデにて。

緊張感のある上りの後、16時に山小屋サラデ (Refuge des Sarradets) に到着。予定より早く着いたので、テント設営後に山小屋でデニーとワインを飲みながらジェンガで遊び、一息も二息もついた。

翌朝の行動は早かった。ヘッデンを点けて少し上り、標高2,804mにあるローランの抜け穴 (La Brèche de Roland) というピークに到着。峻厳な山たちの背後から昇るサンライズの魅力を形容する言葉が思い浮かばず、「来てよかった」というありきたりの感想しか出てこなかった。


ローランの抜け穴からの眺め。

置いていたテントを仕舞い、出発。数回の大きなアップダウンを繰り返す。毎日、スペインとフランスの国境を行き来し過ぎて、今どっちの国にいるのかもはや分からない。

強風の中のザレ場歩きにヒリヒリしながら、野営地に到着。大物感がにじみ出ている目の前のヴィニマール山 (Vignemale) に見惚れていたが、次第に霧に包まれ見えなくなってしまった。


ヴィニマール山の麓で野営。

98日目。渓谷を8km下った先にある、ヘキサトレック最後の分岐点に到着。一度、町行きのバスに乗ってスーパーでリサプライ。そこでデニーとも一日ぶりに再会し、分岐点まで一緒にバスで戻った。明日はストームが来るらしいが、難易度高めのオルタナティブルートを選択。

緩やかな上りを進んでいくにつれて人気もなくなる。足元のザレ場を進み、国境上にある標高2,664mのファシュ峠 (Col de la Fache) に到着。その後、下りながら数ヶ所の湖を通過し、その先の山小屋でテントを設営する予定だったが、張るスペースがない。

山小屋でチーズリゾットを作り、注文したビールを飲む。山小屋には泊まらず、食後に少し歩いて、ビバークポイント探し。暗闇の中、施錠された建物を発見し、風除けとしてその前にテントを張り、すぐに就寝。

※2 オート・ルート・ピレネー (HRP: Haute Randonnée Pyrénéenne ピレネー長距離自然歩道)。フランスとスペインの国境をなすピレネー山脈を稜線寄りに横断する、難易度の高いルート。

連日の雨と風。ウィルダネスの洗礼を受けながら、100日目を迎える。 (DAY99〜DAY101)


99日目のとある湖畔歩き。

深夜の強風でテントのペグが飛んだ。ペグを打ち直し、さらにデニーと一緒に岩を運んでペグの重しにしたり、風を防ぐためにテントの周りに並べた。デニー、起こしてすまん!

出発時には雨も風もなかった。朝からザレ場とガレ場を上り、標高2,447mのアレムリ峠 (Col D’arremoulit) に到着。地図上で見ると、ここ最近の「しごき」のような上りもなさそう。あれだけ嫌がっていたのに、急に終わりを告げられると寂しくなる。

フランスに入国。ガレ場と湖畔の平地が交互に現れる中、アップダウンを繰り返す。昼過ぎに、激しい雨風に曝された。ボロボロの避難小屋、閉店ギリギリのカフェ、ド田舎でのヒッチ一発成功など、いろんな「助け」のおかげで、目的地の避難小屋に無事到着。


避難小屋を取り囲む羊たち。

避難小屋の周りを100匹以上の羊が占拠していたが、羊飼いが場所を移動したので一安心。小屋にはちょっとキマッているおじさんと黒い大型犬がいた。後からやってきたデニーも危険な匂いを察知し、出発時間だけ話し合って食事を取り、それぞれ簡易ベッドですぐに寝た。

記念すべき100日目。暗い中コソコソ準備をし、7時前に出発。恒例のロード、樹林帯を経て、視界の開けた所に出てきた。湖畔歩きでは「ピレネー、湖多いなー」と今更ながら思う。景色に変化やアクセントを加え、かつ水を恵んでくれる。湖って良いことだらけやん!

所々に現れる反り立つ岩に、カメラのシャッターを何度も切る。そして峠を越え、つづら折りや急な直線道を下っていく。


直線上に立つ2つの山。

下山後は、ヒッチで10kmほどトレイルを逸れて、スペイン側の小さな町で少々リサプライをした。再びヒッチでトレイル上へ戻ってきて上り開始。途中、蛇行した川の曲線が美しい湿原をトラバースしながら眺めた。見応えありだったが、雨が降り、GoProもなぜか起動しないので、立ち止まったのはほんの数回だけだった。

雨霧に包まれながら、19時に山小屋に到着。最近、山小屋や避難小屋に頼ってばかりだったので、デニーに「もうちょい先へ行かない?」とワガママな提案。一時間ほど歩き、適当なスペースで就寝。

前日に久々に35km以上歩いたので、翌朝は9時と遅めの出発。雨と濃霧の中を無心で歩いたので、村に到着した15時半までの記憶がほとんどない。その頃には天気は晴れに変わっていて、テントや靴を乾かしながら、デニーや他のハイカーとカフェで休憩。

17時ごろに村を離れ、谷間の上りをひたすら進む。夕日が沈みかける前にテントを張り、寒さに耐えながらそれぞれのテントで夕食を済ませ、すぐに寝袋へもぐりこんだ。この日は-2℃まで下がったらしい。

挑戦、再会、後悔、大自然。いろいろあったけど最高だったピレネー山脈。 (DAY102〜DAY104)


毎日表情を変えるピレネー。

GoProが容量オーバーになり、撮影せずに歩き始める。孤独を紛らわすためでもあった動画撮影ルーティンがないと、やはり寂しい。

少し上って、トレースの少ない石灰岩エリアを散策するように歩く。その時、デニーが空に飛ばしていたドローンが落下した。ドローンが見つかるまで、彼の荷物番をしながら周囲の景色をのんびり眺めた。

その後、下りきってロードまで出てきた。地図を見ると、ここから先に標高2,000m以上の道はない。ついにピレネー山脈を越えたようだ。ピレネーでは本当に色んなことがあった。挑戦、再会、後悔、大自然。自分という人間を推し量る、スゲー良い山域だった。ここにまたいつか帰ってきたい。


標高を下げ、緑の中を歩く。

これ以降は緑豊かな山が増え、ピレネーの終わりをリアルに感じた。そんな山とロードの道を翌日もその次の日も繰り返し歩き、ときにはヒッチハイクをし、半ば惰性で進んでいった。もう寒さや日々のノルマを気にする必要もなくなった。通り過ぎる店ではコーラやビールを注文する頻度も増えた。

104日目は、緑に覆われた山を15kmほど歩いて越えて、サン・ジャン・ピエ・ド・ポー (Saint Jean Pied de Port) という町に到着。通りすがりの人から「カミーノ!」と何度も言われて気づいたが、どうやらこの町はカミーノ巡礼路の起点らしい。


ハイカー仲間と野外ピザパーティー。

町のスーパーでGoProのSDカード、ビール、ピザを購入。近くの川沿いでデニーともう一人のハイカー(名前忘れた)と、ゴールまで100kmを切ったことを祝して乾杯。その後、ホステルのベッドで快適な眠りについた。

ゴールの大西洋が見えると、旅が終わる虚しさが押し寄せてきた。 (DAY105〜DAY108)


相棒のデニーと。

数日後に予定があるデニーは電車に乗ってゴールへ向かうらしく、ここでお別れとなった。彼と長く歩けて本当に良かった。ネガティブな発言をしない、スマイルがよく似合うタフガイだった。今はもうハイカー仲間ではなく、友人のような存在だ。「連絡を取り続けよう。そしてまた会おう」と言ってハグをした。

10時に町を出発。ロード、ダートロード、放牧エリアへと上りながらトレイルの表情が変わる。「序盤のステージ1と似てんなー」と、これまで歩いた道と無意識に重ねる。これまで歩いた道のりを懐かしみ振り返りながら、先へ進んだ。

翌日になると、標高1,000m以上の峠もなくなった。朝に崖沿いを歩いていると、1つのケルンが現れた。その場所で360度見渡すと、進行方向にうっすら海が見えた。「海が見えた。ついに。マジか…。大西洋やん。旅が終わるやん」と、嬉しさよりも旅が終わる虚しさがブワッと押し寄せてきた。その後も、歩きながら何度も海が見え、それは次第に大きくなっていった。


最後の山を通過。

107日目。村のブーランジェリーでパンを食べ、低山歩きを開始。里山と村を越え、また里山へ。17時過ぎに標高486mのイオルドゥーコ・ガイナ (Xoldoko Gaina) に到着。ヘキサトレック最後のピーク。眼前には山はなく、大海原が広がっているだけだ。「終わった。あとは、下るだけ」と力のない声が漏れる。ヘキサトレックに片思いした日々がもう終わる…。

少し下った先の、夕日と海が一望できる場所にテントを張った。過去、未来、色んなことを考えたが、あまり頭が回らない。「というか今この瞬間の景色を見ないと!」と思い、赤く青く染まった遠くの世界をボーッと眺めた。

108日目。空は厚い雲に覆われていたが、朝日はそれを貫くように赤く燃えていた。パッキングを済ませ、4km先のゴールに向けて出発。

足元の砂利がすぐにアスファルトに変わり、30分ほどでアンダイエ (Hendaye) という街に到着。その後、街から海の方へ歩き、10時半にゴールの大西洋に辿り着いた。

何度も止めたいと思った。でも、終わらせる勇気があるなら、続きを選ぶ恐怖にも勝てると信じた。その結果、紆余曲折あったがここまで来れた。このアンダイエという街の名前は、死ぬまで忘れないと思う。

よくやった!シャンパン飲んで帰りますか!


大西洋をバックにガッツポーズ。

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WRITER
Beyoncé

Beyoncé

バックパッカー、海外世界遺産の旅などを経て、山歩きを始める。その後、自然の中を長く歩く「ロングトレイル」のカルチャーを知り、強く興味を惹かれる。そして2022年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキング。翌2023年には、開通して間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek)、3,034kmをスルーハイキング。おそらくは、日本人で初めてのヘキサトレックのスルーハイカーである。

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