TRIP REPORT

ヘキサトレック (Hexatrek) | #09 トリップ編 その6 DAY65~DAY80 by Beyoncé(class of 2023)

2025.09.26
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文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2023年に開通間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncéによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその6。今回は、ヘキサトレックのスルーハイキングのDAY65からDAY80での旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


ヘキサトレック:Hexatrek。フランスを中心にアルプスやピレネーの高山地帯、ヨーロッパの田舎町などを通る3,034kmのトレイル。2022年にオフィシャルに開通したばかりで、世界でも日本でもまだ情報が少ないトレイル。スルーハイキングに要する期間は3~5ヶ月。Beyoncéは、北端のヴァイセンブルク (Wissembourg) からスタートして南端のアンダイエ (Hendaye) を目指すSOBO (サウスバウンド) で歩いた。

メンヘラだったのか!? (DAY65〜DAY67)


巨大ロックバランシング。

6:40に起きたらデニーはおらず、ボクは7:30に出発。
スタートから1時間後に急な上りが始まり、ハシゴも上った。上った後に見えた巨大な一枚岩や細長い奇岩、平衡を保った岩などが現れ、昨日と違ってウキウキ楽しい気分。「メンヘラか?」と疑うくらい感情の起伏が激しすぎ‥。

下った先のスーパーでランチの飯を買って食べ、水を補給してすぐに出発した。午後にもダートロードの先で奇岩が現れる。そこでデニーと合流。少し会話をして自分は先へ向かった。

夕方に小さな村の民家で水をいただき、テント場探ししながら先へ進んだが、私有地が多くてテント場が見つからない。結局21時ごろまで歩いてしまった。不本意すぎる‥。


ナントのブーランジェリー (パン屋)。

翌日の朝一番に、クモの巣とイモムシの糸がセットになった、植物の生い茂る緑のトンネルを歩く。ダートロードも多く、景色もたいして見れずに黙々と進んだ。

昼前にナントに到着。まずブーランジェリーで (パン屋) ホットドッグとクロワッサンを食べ、スーパーでデニーと合流しカフェでまったり。デニーとはよく話が合う気がする。

デニーは川へ水遊びに行ったが、今日はゆっくりしたい気分だったので村のキャンプサイトへ。シャワーや充電などを済ませてビールを飲んでいると、フランス人ハイカーのローレンスがやってきて会話をした。話に夢中で、溜めていた日記が書けなかった。しまった‥。


ラ・クーヴェルトワラードの町にて。

翌日、今日から3日間くらい気温が37℃超になるらしい。
日記を書いて10時半過ぎにチェックアウト。少し上った後は長いロード歩きが続いた。日差しを遮るものもないし風もない。しかし、持っている水もかなり少ないから立ち止まれない。

ラ・クーヴェルトワラードという小観光地に到着し、はちみつ屋で水をいただき建物の日陰で休憩。暑くて動けない!午後は草深い道からのひたすらロード歩き。19時半前にテントが張れそうなスペースがあったので今日は無理せず終了。

41℃の 酷暑。地元の人と一緒に水浴び。 (DAY69〜DAY70)


行く先。日陰が少なそう…。

68日目。朝から右ひざ裏に痛みがあったが、14時前までに29km歩いた。そこにある小型スーパーでリサプライ (補給) をする予定があいにくのクローズ。16時に開くらしく、それまで湖で水浴び仮眠をとった。ただいま38℃、しんどいぞ!

リサプライ後の川沿い歩きは樹木があるせいで、景色見れず退屈だったのでラジオの手に歩き進める。19時半にアヴェンヌのとある芝生スペースでテント泊。人の声が騒がしいが、なんとか眠れた。

翌日は久々に3Lの水を背負って出発。昨夜に続き、今朝も痛み止め薬を飲んだ。
小高い山のアップダウンの後、十字架のあるピークに到着。日陰もなく水も早くもギリギリなので、仕方なく立ち止まらず下り、先の村の公衆トイレで水を補給した。


水浴びに食事にお世話になりました。

次の村では二人のおばあさんに水の補給をお願いしたが、そこでなぜか水浴びに誘われ、車に乗せられ小川で一緒にのんびり水浴び (笑)。

車で家に戻ってからは、彼女たちの昔話を聞きながらワインとチーズとサラミをいただいた。3時間くらいお邪魔し、良いリフレッシュができました!記念撮影をして再出発。

ほろ酔い歩きだったが、おもてなしのおかげで700mの上りを一気に歩くことができた。21時過ぎにロード脇のスペースでテント泊。


連日の水浴び。

70日目。朝一の上りの後、久々の稜線歩きが気持ちいい。快晴だしまだ涼しいし、視界が開けてよい景色に何だか癒された。下った先の小川で水浴びして溶けそうな身体を冷やした。

そして再び上り。暑さで頭が痛く汗びっしょりでぐったりでただただツラい。14時の時点で41℃。後から知ったのだが、多くのハイカーは暑さを考慮してゼロデイを取っていたらしい。

夕方のダートロード歩きでは、車が通ったら全力でヒッチハイクしようと決めていたが、全く車は通らず結局21時までテント場を探しながら歩いてしまった。

2,000km突破、残り1,000km! (DAY71〜DAY75)


折れたフレームを処置して、生地のスレ部には寝具マットを切って当てた。

翌日、ザックを背負ったときの感触に違和感があり、中のフレームを見るとしっかり折れていた!昨日の小休憩でバックパックの上に座ってしまったせいだ‥。応急処置をして出発。

湖畔沿いを歩いた後は、森道やダートロードを下る。昨日の暑さと疲れが残っているので特に魅力的じゃない道を惰性で歩くにはちょうど良かった。29km先のラバスティド=ルエルーで2,000kmを通過したことを知った!

あと1,000kmだ。これからは距離をカウントダウンしていくぞ!


ハンバーガー (もちろんビールも注文)。

お祝いにと街でハンバーガーを食べたが、あんまり美味しくなかったのは少し残念。この日は30分歩いた先のダートロードのスペースでテント泊をした。

72日目は小雨交じりのスタート。道は霧っぽくて湿度も高めだ。
明日のカルカソンヌまで充電が足りそうにないので、小さな村のカフェでコーラを飲む「代わり」に充電をさせてもらった。マナーというわけではないが、ただで充電をお願いするより居心地が良いのはたしかだ。


赤白のGR (ヨーロッパ各地に広がる長距離自然歩道) のサインと風車。

翌日は、昨日の夕方から続いているダートロード歩きからの町歩き。車の音や生活音が聴こえてきて、トレイルが賑やかになっていく。

そして12時半前。20kmほど歩き、ステージ4の終点カルカソンヌに到着。鬼門だったステージ4を何とか切り抜けることができて本当に一安心だ!

昼以降はノープラン。明日すぐに歩き始めるのかゼロデイを取るのかを決めず、とりあえずコインランドリーで洗濯を済ませ、ホステルでシャワーを浴びてまったりした。


ステージ4終了、後ろにはミディ運河。

74日目。今日と明日はゼロデイを取ることにした。ということで、早起きして向かった先は隣国スペインのバルセロナ。3年半前にも訪れたので観光地は素通りして三足目の靴を探す。大都会ならTopoの靴があるだろうと思っていたが、どの店にもない。仕方なく今まで履いたことのないHOKAにした。ゴールまでよろしく頼むぞ。

その後、滞在のメインである幼馴染と10年ぶりに再会し、地元の友人とも再会を果たした。積もる話とスペイン料理を楽しみ、5時間バスに乗ってカルカソンヌに夜中に戻ってきた。

後半のハイライト、 ピレネー山脈に向けて。 (DAY76〜DAY80)


世界遺産の建築物にもGRのサインがある。

76日目。ホステルをチェックアウトし、リサプライを済ませていざ出発。ステージ5は東ピレネーだが、ピレネー山脈に入るのは120km先になる。

街の少し外れにある観光地「カルカソンヌの城塞都市」を抜けると、道は植物に囲まれたダートロードになり、人気も減ってきた。ダートロードと林道を進みながら少しずつ低山を上っていく。

テント場探しに苦労したくないので、この日は少し早めに切り上げて広い砂利道にテントを張った。思ったより持っている水が少なかったので、夕食はパスタではなくトルティーヤで済ませた。


ラグラスの町並み。

翌日の朝一に昨日の低山を上り切った。標高1,000mもないが、見晴らしは良い。ある丘にはステージ1で見たような建物の遺跡が佇んでいて、ほんの2ヶ月前の話だが、2,000km前となるともの凄く懐かしく思えた。

下った先のラグラスはコンパクトな町で、雰囲気もどことなく好きな感じ。一通り村歩きをしてノンストップで先へ進んだ。

午後以降は林道やダートロード、時にはロードを歩きながら小山を越えて村へ下り、村人に水をいただき、そして小山を越える、といった工程が数日間続いた。


とあるダートロード。

80日目。地図を見る限り今日から本格的にピレネーに入りそうだ。
朝一に町の郊外に下り、10kmのフラットな道を無心でやり過ごし、そこから一気に上りに差し掛かった。つま先歩きになるくらいの勾配に苦戦したが、天気はくもりで日差しを受けなかったのが救い。


牛の視線が怖い。

標高2,000mを越えると高い木々も減ってきて、それに伴い視界が開けてきた。一度ルートをロストし、牛との出会い頭の遭遇に足止めを食らいながらも、19時半にヒュッテそばのテント場に到着。

初ピレネーということでヒュッテでビールを注文し、リゾットを食べる。いやー美味い!!もちろんその間にも抜け目なくバッテリーの充電をさせてもらった。

テントへ戻り、そこから見えるサンセットの景色を見て、「これからどんな日々が始まるんだろう」と想像した。しかし疲れていたので考えるのは止め、「ピレネーを歩けばわかるだろ!」とすぐにケリをつけて寝ることにした。


ヒュッテ前でテントサイト。ここから東ピレネーへ向かう。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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