ヘキサトレック | #01 スルーハイキング準備編(歩くきっかけとルート選定) by Beyoncé(class of 2023)
文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS
毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。
そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。
そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。
シリーズ第7弾は、2023年にヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncé (ビヨンセ) によるレポート。おそらくは、日本人で初めてHexatrekをスルーハイキングしたハイカーだ。
2022年にPCT (※2) をスルーハイキングをしたBeyoncéが、次に歩くトレイルとして選んだのが、2022年に全線開通したばかりのフランスのHexatrekだった。今回はBeyoncéがHexatrekを歩こうと思ったきっかけからスタートするまでの、プランニング編をお届けする。
ヘキサトレック (Hexatrek) とは?
フランスを中心に、アルプス山脈やピレネー山脈などの高山地帯から、ヨーロッパの美しい田舎の村々までを通る3,034kmのトレイル。ヴォージュからピレネーまでを結んでいる。
2022年にオフィシャルに開通したばかりで、世界でも日本でもまだ情報が少ないトレイル。スルーハイキングに要する期間は3~5ヶ月。
Hexatrekは、もともとあった47のGR (※3) のトレイルをつなげてつくられた。また14の国立公園を通っており、またトレイル沿いでは世界遺産などに立ち寄ることもできる場所もある。
情報の少ないトレイルにチャレンジしたかった。
21歳の時、大学の課題でオランダに行った経験を機に、未知の世界に飛び込む魅力に惹かれた。その後、学生バックパッカー、語学留学、海外の世界遺産を100ヶ所巡る旅などを経験した。社会人時代には登山に興味を持ち、以降美しい景色を求めて国内外の山を歩いてきた。
ある日、これらの旅をしていて何が楽しかったのかを振り返ってみた。真っ先に思い浮かんだのは、山や湖など自然の中で過ごした日々であった。その時に自然にどっぷり浸かりながら旅をしたいと思うようになり、そのような旅がないかと調べた結果、自然の中を長く歩く「ロングトレイル」というカルチャーがあることを知った。
「ロングトレイルという旅のスタイルは自分が探し求めていたものだ!」というショックを受け、その勢いのまま2022年にアメリカ三大トレイルの一つであるPCTを歩いた。PCTを歩いたことでロングトレイルにハマり、興奮冷めやらぬうちに翌年もどこか歩きたいと考えていた。
次のトレイルを探すにあたり重要視したのは情報の少ない場所であった。「2回目のロングトレイルだし、情報に左右されずに自分の旅を楽しみたい」と思ったからだ。
トレイルカルチャーを強く持つアメリカとニュージーランドは既に情報が溢れていたので検討外。SNSを適当に弄っていると、世界のトレイル情報を提供している海外のアカウントを発見し、その中にあったHexatrekという2022年に完成したばかりのフランスのトレイルに着目した。
「アルプス山脈やピレネー山脈を通過しながら大西洋を目指すルートか・・。『ヘキサトレック』とカタカナ検索しても出てこない。日本人はまだ誰も歩いてなさそうだ。情報が少なそうだし、距離も3,000km超とやりがいがあるな」と感じ、2023年はHexatrekを歩くことにした。
良くも悪くも自分がどういう人間かを知る。
前述の世界遺産の旅やPCTは、日本での生活を手放して実行した。それにより、無職になる、貯金をすり減らす、キャリアに傷がつく、大切な人との別れなどに直面した。
不安はもちろんあったが、それ以上に自分の人生だからやりたいことに挑戦したいという思いが強かったのでその決断ができた。
その決断に対して後悔したことは一度もなく、むしろ自分史におけるかけがえのない成功体験となった。そういった経緯もあり、Hexatrekへ行くことは自分にとってあまり難しいものではなかった。
仕事を辞めずにHexatrekをセクションハイキングするという考えは全くなかった。私にとっては、楽しみも失敗も、スルーハイキングだからこそ得られる深さや質感を欲していたのだ。長く歩き続けると、自分と向き合う時間が増え、より自己開示をすることができる。そして自分が良くも悪くもどういう人間であるかを見ることができる。この瞬間が好きなこともあり、スルーハイキングを選んだ。
1日32~35km/日のペースで歩くことを想定し、大まかにプランニング。
Hexatrekの全行程は3,034kmで、私が申請したビザの有効期限は約5ヶ月だった。
この期限は自分のペースやゼロデイなどを考慮したものである。もしペースが速ければ4ヶ月、遅ければ6ヶ月で申請していた。入国や出国前後の余裕も含めたゼロデイやニアゼロは15日だった。PCTでは平均32~35km/日で歩けていたので、Hexatrekでもこのくらいで歩こうとざっくり決めていた。
スペイン国境沿いの町アンダイエからスタートするNOBO (ノースバウンド・北向き)と、ドイツ国境沿いの町ヴァイセンブルクからスタートするSOBO (サウスバウンド・南向き) の選択肢があった。PCTやJMT (※4) のようにトレイルを歩くためのパーミット (許可証) は必要なかったため、どちらを選んでもよかった。
アンダイエは大西洋に接する町で、大西洋がゴールというロマンに惹かれSOBOを選んだ。6月初旬にスタート予定だったが、時期を誤るとアルプス山脈の残雪により足止めを食らうという現地情報があったので、6月中旬に変更した。
アルプスやピレネーの山々とワインやチーズの食事を楽しみに。
トレイル上に町を通過することが多かったため、食料などの補給ポイントは特に考えていなかった。現地で歩きながら決めるといった対応だった。
絶対に行きたい場所は特になく、
・アルプス山脈
・ピレネー山脈
・ワインやチーズなどの食事
・フランスの人や文化、町並み
などが知れたらいいなと思っていた。
ここに行きたい程度のスポットも幾つかあったが、英語表記ではなくフランス語表記だったため、覚えることを断念した。
今回は、Hexatrekをスルーハイキングするにあたっての「プランニング編」として、Hexatrekを歩くきっかけ、スルーハイキングに向けた思い、ルート選びなどを語ってもらった。次回は、Hexatrekを歩くためのギアリストを紹介してもらう。
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