コロラド・トレイル | #04 トリップ編 その1 DAY0~DAY3 by Tony(class of 2023)
文・写真:Tony 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
今回は2023年にコロラド・トレイル (CT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Tony (トニー) によるレポート。Tonyは、CTの旅を終えた後にTRAILS crewにジョインしたハイカーだ。
今回の第4回は、いよいよトリップ編。スルーハイキングのスタート前夜から、歩き出した最初の3日間のレポートをお届けする。
ロング・ディスタンス・ハイキングにおける「トレイルライフの日常」が詰まったレポートをお楽しみください。
トレイルエンジェルのサポートを受けトレイルヘッドまで (DAY0)
コロラド・トレイル(以下、CT)の北側のスタート地点であるウォータートン・キャニオンのトレイルヘッドまでは、公共交通機関を利用しても最寄りの駅からは徒歩で3時間以上かかってしまう。アクセスのサポートを得るために、何人かのトレイルエンジェル (※2) に事前にコンタクトを取っていた。でも日本出国の飛行機に乗った時点では、そのサポートはまだ得られていなかった。
飛行機のトランジットで立ち寄ったハワイで、ロング・ディスタンス・ハイキングの認知がなく入国審査で別室に呼び出されて時間がかかってしまったり、預け荷物がロストしたりで、経由地のハワイの空港でかなりの時間を要した。
そんなトラブルを乗り越え、CTのスタート地点のデンバーへのフライトを待っていると、連絡していたトレイルエンジェルからようやく吉報が届いた。デンバーまで迎えに来てもらえる上、トレイルエンジェルの家に一泊、翌朝にトレイルヘッドまで送ってもらえることになったのだ!
トレイルヘッドまでの送迎を快く引き受けてくれたのは、昨年CTをスルーハイクしたスティーブンという男性。彼は2025年に熊野古道を歩く予定で、日本のトレイルや熊野古道の話を聞かせてもらえないか?ということで、日本人の僕を受け入れてくれたのである。
デンバーの町で、スティーブンと合流した。スティーブンは紳士な身なりで、見るからにとてもやさしそうな男性だった。その後、スティーブンに車に乗せてもらい、スーパーやアウトフィッター(アウトドアショップ)をまわってもらって、食料やガス、またリペア系の小物などの買い物をした。一通りの調達が済んだ後に、スティーブンの自宅に向かった。
自宅に着いてからは、スティーブンと奥さんのスーの手料理をご馳走になり、日本のトレイルやCTの情報交換をしながら楽しい夜を過ごした。
いよいよ明日、僕のCTがスタートする。
歩き出しからコロラド特有の雹(ひょう)の洗礼 (DAY1)
2023年8月1日、CTの北側のスタート地点であるウォータートン・キャニオンのトレイルヘッドに立った。歩き終わったらまた会いに来るねと、スティーブンと再会の約束をし、ついにCTをスタートした。
PCTを歩き終えてから8年が経ち、久しぶりにアメリカのトレイルを歩いていることに、込み上げるものもあったりと、しばらくはふわふわとした感情のままトレイルを踏みしめていた。
川沿いのトレイルを歩き始め、いつの間にかさっきまで横を流れていた川を眼下に見下ろすようになり、2000m地点まで標高を上げていった。午前中まで晴天だった空が暗がり始め、時折遠雷が轟いた。
そしてトレイルヘッドからまだ20kmほどしか歩いていない標高2,250m地点で、いきなり雹 (ひょう) に降られた。
コロラドの特徴のひとつとして、僕が歩いた7-8月はモンスーンの影響を受けやすく、毎日のように昼過ぎから夜にかけてサンダーストームが発生し、雷雨に見舞われてしまう。
初日からサンダーストームに遭遇してしまった上に、2cmを超えるほどの特大サイズの雹まで降ってくる始末。降り注ぐ雹や雷雨から身を守るため、日傘で身を守りながら、樹林帯へとエスケープした。初日からトレイル上で停滞せざるをえない状況となってしまった。
エスケープした場所には既に数人のハイカーがマットやエマージェンシーシートで身を守り、うずくまっていた。
頭の上で何度も轟音が鳴り響き、落雷の地響きが伝わってきた。標高が高いトレイルが続くコロラド・トレイルの厳しい自然を、初日から身をもって体験することになった。
雨は降り続いているものの、雷が一時的に収った隙に一気に標高を下げ、安全な場所までたどり着いた。
時間はまだ17時前。本来はまだ数時間は歩けるが、ここからしばらく標高が上がることと雷の恐怖ですっかり歩く気が失せてしまったので、目の前の少し開けた場所でシェルターを張って身体と心を休めることにした。
連日のサンダーストーム (DAY2)
サンダーストームの疲れから昨晩は夜ご飯も食べずにそのまま横になっていたら、いつの間にか朝を迎えていた。昨日のサンダーストームが嘘のように突き抜けるような青空。今日は良い日になりそうだ。
朝ご飯にエナジーバーを胃袋に入れて、昨日歩けなかった分を取り戻すかのように、気分良く歩き始めた。標高を調子よく上げていく。しばらくは木々がなく、岩肌が露出したようなトレイルを歩いていく。
昨日、無理して歩き続け、こんな逃げるばしもない環境で雷に出くわしたらと思うと、昨日は無理して歩き続けなくてよかったと、心底ホッとした。
しばらく歩き続けていくうちに気温もどんどん上昇し、30℃を超えるほどの真夏日に。
定期的に休憩をしながら靴を脱ぎ、足を乾かす。これがケガをしないための何気に大切なTIPSだ。
トレイルミックスを食べながら気分良く日向ぼっこしていると、遠くの方でまた雷が鳴り響いた。おいおい・・。
数十分後、さっきまで燦々 (さんさん) としていた太陽が雲に隠れて、辺りは薄暗くなっていった。現在地とここからの行程を確認しながら、今日の宿泊地に当たりをつける。そして標高を下げるべく駆け下りた。
雨が降り出す頃に当たりを付けていた宿泊地にたどり着き、すぐにシェルターを設営して避難。バーナーで湯を沸かしてスティーブンにもらった甘いミルクコーヒーをすすった。
今日ももう歩けなさそうだな・・と一人で呟いた。
最初のリサプライ (補給) でベイリーの町へ下りる (DAY3)
昨夜はまったく眠ることができなかった。夜中まで続いた轟々と鳴り響く雷。シェルターに激しく打ち付ける雨音。そしてMYOGしたシェルターは、少しずつ補修していたものの、まだ縫い目から雨漏りが止まらず、ずっと気になってしまった。そのまま気づいたときには朝を迎えていた。
青く澄み切った空とは裏腹に、気持ちはどんよりしていた。このままではいかんと、一度トレイルタウンに降りて、ギアと気持ちを整えることにした。
あと数時間歩けば、トレイルタウンに下りるためのトレイルヘッドに着くことがわかっていた。そうとわかれば、町でおいしい朝食を食べてやろうと、6時前から歩き出した。
この日の行程は、標高が2,500m近くまで上がってきて、今までとはまた違った山容へと変化していった。しばらく歩き続けると、最初のトレイルタウンにつながる、ロストクリーク・トレイルヘッドに到着した。
トレイルヘッドでヒッチハイクをしようと様子をうかがっていると、町の方向から1台のピックアップトラックが手を振りながらこちらに近寄ってきた。
どうやらベイリーの町からハイカーを乗せてきた、ロッジのスタッフのようだった。またベイリーに戻るというので、ついでに乗せていってもらうことになった。ありがたい。
ほどなくしてベイリーの町に到着。
早々にロッジでチェックインし、まずは念願の朝食を食べるため近くのカフェに繰り出すことに。いかにもアメリカらしい薄めのコーヒーとモーニングのセットをじっくり味わいながら、町での今日一日の行程を頭の中で整理する。
こうやってトレイルを歩いて、町に下りて、次の行程をチェックしてとうことをやっていると、ふとロング・ディスタンス・ハイキングという行為をしている自分に懐かしさを感じた。PCT (※3) を歩いたのは2015年。あのときと同じ感じだ。自然と顔がニヤついていた。
TAGS: