コロラド・トレイル | #01 スルーハイキング準備編(歩くきっかけとルート選定)by Tony(class of 2023)
文・写真:Tony 構成:TRAILS
毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。
そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。
そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。
シリーズ第6弾は、2023年にコロラド・トレイル (CT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Tony (トニー) によるレポート。Tonyは、CTの旅を終えた後にTRAILS crewにジョインしたハイカーだ。
Tonyの旅の一部は、パタゴニアの公式ブログ「ストーリー」に、「コロラド・ポリシー」というタイトルで掲載されており、パタゴニアのウェブサイトやアプリで読むことができる (詳細はコチラ)。今回から始まるスルーハイキング・レポートは、より詳細なコロラド・トレイルのレポートとなっている。
Tonyは2015年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT※2)をスルーハイキングした際に、次にCTを歩くことをすでに決めていたという。そこで今回は、そんなTonyがCTに興味を抱いた理由から実際に歩き始めるまでの、プランニング編をお届けする。
コロラド・トレイル (CT) とは?
コロラド州のデンバーからデュランゴまで、アメリカのロッキー山脈を通る486mile (782km) のトレイル。スルーハイキングに要する期間は、約1カ月。
標高3,000m~4,000mの、厳しくも美しい高山地帯の景色を楽しみながら歩くことができるトレイル。アメリカのロング・ディスタンス・ハイカーからの人気も高い。
アメリカ3大トレイルのひとつであるコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT※3)ともルートが重なり、CTの約65%はCDTとルートを共有している。そのためCDTのセクション・ハイキングとしても歩くことができる。
またCTのほとんどのルートはマウンテンバイクで走ることもでき、トレイルランニングやマウンテンバイクのレースがトレイル上で開催されるなど、ハイキングだけではなく、さまざまなアクティビティが楽しめるトレイルでもある。
PCTでの、コロラド出身のハイカー「Zoo」との出会い。
8年前の2015年、僕はPCTをスルーハイキングした。そのときに仲良くなったハイキング・バディがいた。”Zoo”というトレイルネームのコロラド出身のハイカーだ。
Zooとは、スタートしてからゴールするまで、付かず離れずちょうど良い距離感で歩いていた。何度もトレイル上で合流しては、PCTの旅のこと、お互いのプライベートなことなど、本当にいろいろなことについて話をした。僕のPCTの思い出の多くは、Zooとの思い出でもある。彼は合流する度に「身体の調子はどうだい?」、「今日の夜は一緒にキャンプしようぜ」、「美味しいハンバーガーのお店があるんだけど一緒に行かないか?」など、いつも僕の事を気にかけてくれていた。
PCTの終盤であるワシントン州で、彼と再会し一緒にキャンプをした夜。焚き火をしながら彼はキラキラした目で、コロラドの美しい景色や動物たちのことを延々と語ってくれた。その時のZooとの会話が僕の脳裏に刻み込まれ、僕の想像上のコロラド・トレイルは、見たことがないウィルダネス (原生自然) が広がる魅惑的な世界となっていた。
「PCTの次はコロラド・トレイルだ!トニー、コロラドで待ってるよ!」というZooに、「もちろんだよ!」と約束を交わした。
ロッキー山脈の高山帯特有の、圧倒的なウィルダネス。
PCTから帰国してからというもの、Zooに勧められたコロラド・トレイルのことを調べ続けていた。そのときに数枚の写真が目に止まった。
1つは、スノーメサという森林限界を越えた高山地帯の写真。見渡す限り木ひとつない広大な台地のなかに、シングルトラックが延々と続いている。ひたすら圧倒的なスケール感が伝わる写真だ。
もう1つは、澄み渡る青空を荒々しい岩山が貫く、サン・ファン山脈の写真。PCTでは、こういった高山地帯特有の景色に出会わなかっただけに、その写真を見た瞬間に僕は心を打たれてしまった。
ハイキング・バディのZooとの約束。その後に僕の心を撃ち抜いたスノーメサと、サン・ファン山脈の写真。これでコロラド・トレイルへ行く決意は固まった。そしてPCTから8年後の2023年、再びアメリカでロング・ディスタンス・ハイキングができる機会を得たとき、その行き先として迷いなく僕はコロラド・トレイルを選んだ。
サンダーストームの確率が低い8月にスタート。
CTはコロラド・トレイル・ファンデーションという財団が管理や運営をしている。そのHP上には、トレイルのルートマップをはじめ、トレイル情報として山火事によるクローズ、ストームアラート (コロラドはサンダーストームが多いエリア)も掲載されている。またトレイルから町へアクセスするための公共交通機関の情報などまで、かなり手厚く情報提供をしてくれている。
CTの歩き方には、デンバーからスタートし南下してデュランゴを目指すSOBO (South Bound・南向き) とデュランゴからスタートするNOBO (North Bound・北向き) があるが、最初に一気に高度を上げるNOBOよりはSOBOで歩くハイカーの方が多い。一方、どちら向きにスタートしても、高山地帯のサン・ファン山脈やカレッジエイトピークス・ウィルダネスの残雪や雪解けの状況や、また降雪に注意する必要がある。そのため、スルーハイキングする場合は、6月から10月が適期だと言われている。
またプランニングで気にかけなければいけないのは、サンダーストーム。例年7月〜8月上旬まではモンスーンの影響を受けやすく、サンダーストームに遭遇する確率は高いと言われている。今回は極力サンダーストームに遭遇する期間を少なくするため、8月上旬から9月中旬にかけて歩くプランにした。
カレッジエイト・ウエストのウィルダネスを歩きたい。
CTのルートプランニングをする上で、最も重要なセクションがカレッジエイトピークス・ウィルダネスだ。カレッジエイトピークス・ウィルダネスには、ウエスト・ルートとイースト・ルートがある。どちらもCTのオフィシャルなルートに設定されているため、ハイカーはどちらを歩くか自由に決めることができる。
イースト・ルートは平均標高が低く高低差もそこまで大きくはない。また町とトレイルの距離がそこまで離れていないため補給も容易にできるルートだ。CTハイカーはこちらを選ぶ人が多い。
一方、ウエスト・ルートは、CTのなかでも屈指の難所と言われている。標高4,000m近くの峠がいくつもあり、高低差も大きい。その上、このルート上では補給に下りることができる町も少ない。ちなみに、このウエスト・ルートは、CDTのルートにもなっている。
難所と言われている一番の要因は、トレイルのほとんどが森林限界を越えており、サンダーストームに襲われた場合、標高を下げたり、木々の影に隠れたりしてエスケープすることが難しいためだ。そのため、ハイカーは常にサンダーストームを意識して歩かなければならない。
僕はチャンスがあれば、ウエスト・ルートを歩きたいと考えていた。1つめの理由は、難易度が高いところにチャレンジしたハイカーしか見られない、高山帯の圧倒的なウィルダネスに身を置いてみたかったといいうこと。2つの理由は、今回の旅はCDTのセクション・ハイキングでもあるということだ。しかし、どちらのルートを歩くかは天候のこともあったので、天のみぞ知るという気持ちで、直前で判断することにした。
今回は、CTをスルーハイキングするにあたっての「プランニング編」として、CTを歩くきっかけから、ルートのプランニングにまつわるエピソードを語ってもらった。次回は、ギアリストを紹介する予定だ。
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