TRIP REPORT

コンチネンタル・ディバイド・トレイル | #01 スルーハイキング準備編(歩くきっかけとルート選定) by Gazelle(class of 2022)

2023.08.25
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文・写真:Gazelle 構成:TRAILS

毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。

そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。

そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。

シリーズ第3弾は、2022年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※) Gazelle (ガゼル) によるレポート。

まずは、GazelleがCDTを歩こうと思ったきっかけからスタートするまでの、プランニング編をお届けする。

※トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、ハイカー同士トレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


Gazelleがスルーハイキングした、2022年のCDT。

コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) とは?


アメリカ3大トレイルの中でも、ひときわ広大な自然が広がるCDT。

メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

複数のオルタネイトルート (代替ルート) が存在するため、ハイカーの選択次第で歩く距離は変わる。スルーハイキングに要する期間は、4〜6カ月。

ニューメキシコ州の砂漠地帯や、コロラド州の標高の高い山岳地帯、イエローストーン国立公園、グレイシャー国立公園など、多種多様な自然環境が大きな特徴。厳しい気候にさらされることもあり、ハイカーとしての経験やスキルも問われる。

同い年のスルーハイカーに誘われて、どうしても歩きたくなった。


CDTをスルーハイキングするきっかけとなった、石丸くん (中央) と。

僕は昨年2022年にCDTをスルーハイクした。きっかけは同い年で2019年のPCTハイカー、石丸隆司 (いしまる たかし) くんの影響が大きい。

2021年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイクしたことに満足していた僕は、2022年は国内で山歩きがしたいと考え、夏に新潟から神奈川までの山々を縦走する計画を立て始めていた。

そして新潟在住の石丸くんも誘ってどこかのセクションを一緒に歩けたら面白いんじゃないかと思っていた。その矢先の2月の半ば、突然彼からメールがきた。

「今年CDT行こうと思ってね。中井くんも行こうよ!」

その時は「そっかあ、羨ましいけど今年は無理やわ。けど頑張ってね!」と返した。

しかし、それからというもの『CDT』が頭から離れなくなった。CDTについて調べるようになり、調べれば調べるほど、雄大な景色の中を黙々と歩く自分の姿が思い浮かんでいた。こうなったらもう止まらない。いつものパターンだ。「羨ましい。行きたい。行けるんじゃないか? 行かなきゃ!」

4月に、渡米直前の石丸くんと熊野古道を歩くことになった。PCTを100日で踏破した彼は健脚なだけでなく、ポリシーを持って旅を繰り返す彼の話を聞き、あらためて凄い人だなと思った。この頃には自分のCDT挑戦も確信に変わっていた。

帰ってきた時に仕事があるかは分からない。覚悟の上で休業してCDTへ。


カナダとアメリカの国境にて。ここから南下してメキシコ国境へと向かう。

ロングトレイルに挑戦するには、お金、時間、覚悟、いろいろな壁がある。スタート地点に立つまでが一番大変だと言う人もいる。

大きな壁のひとつは仕事だった。僕は25歳からフリーランスで建設業の職人をしている。と言っても一般の方を相手に営業することはほとんどなく、数社の得意先から仕事を回してもらうスタイルだ。

しかし、29歳でオーストラリアへ行くために1年間休業。33歳でお遍路を歩くために1カ月休業。35歳でも山を歩くために1カ月休業。36歳でPCTを歩くために半年休業とやりたい放題である。周りからはよく「日本おるんか? 今年はどっか行くんか?」と茶化される。

得意先にCDT行きを切り出した時は、「そうか。君の人生だからとがめることはできないよ。帰ってきた時に仕事があるかは分からんけどね」と、強くとがめられることはなかった。

いつ居なくなるか分からない、我ながらあてにならない職人だ。あまり信用はされていないかもしれない。しかし、ありがたいことに、15年間だいたい同じ会社から仕事をいただいている。

タイミングが遅かったので、SOBO (南向き) で歩くことにした。


北端のウォータートン・レイクス・ナショナルパークをスタートして、南端のクレイジークック・モニュメントを目指すSOBOを選択。

CDTの歩き方には、メキシコから北上しカナダを目指すNOBO (North Bound・北向き) という方法と、カナダからスタートし南下するSOBO (South Bound・南向き) がある。

NOBOの場合は6月のコロラド州サンワン山脈の雪解けを見計らって4月末にスタートする。遅れれば、秋にはモンタナ州の新雪に見舞われるかもしれない。

SOBOの場合は6月のモンタナ州グレイシャー国立公園の雪解けを待ちスタートし、10月のコロラド南部サンワン山脈の新雪までにコロラドを突破する必要がある。


グレイシャー国立公園には、まだ残雪があった。

自分はCDT行きを思い立ったのが遅くて準備期間が少なかったことと、過去にCDTを歩いた日本人ハイカーがみんなSOBOであり情報量が多かったことから、6月にSOBOで歩き始めると決めた。

CDTにはPCTのスルーハイク・パーミットのような、事前に取得しておかなければ絶対歩けないというパーミット (許可証) はない。

グレイシャー国立公園、イエローストーン国立公園でのキャンプにはパーミットが必要だが、原則、現地で取得することが可能。2022年はニューメキシコでのハイキングにパーミットが必要だったが、2023年からは不要になっているようだ。


事前に細かい行程は決めず、全体を把握するにとどめた。どこの町に降りるかなどは、現地で情報収集しながら判断。上記の距離はあくまで一例で、実際はハイカーが選ぶルートによって異なる。

CDTがゆえに、あえてプランを立てることはしなかった。


CDTには、多数のオルタネイトルート (代替ルート) があり、ハイカーによって歩く道が異なる。

準備段階では、経験者の方のブログや管理団体のホームページなどいろいろなソースから情報を得た。その中でも、2013年に踏破された舟田靖章さんのブログ「逍遥遊 (しょうようゆう)」 はアメリカ3大トレイルの概要がとても分かりやすく説明されている。

また、PCTやCDT以外にも世界中を歩いて旅をされたMacさんのサイト「Halfway Anywhere」は、あらゆるトレイルに関して、毎年たくさんのハイカーのギアから始まり職業、恋愛に至るまでさまざまな統計を取ってデータ化している。

PCTを歩く前はスタートからゴールまでいつどこに立ち寄るか、事前にざっくり予定を立てていた。しかし、ほぼ一本道のPCTとは違い、CDTには大小30カ所以上のオルタネイトルート (代替ルート) が存在する。

トレイルの状況、個々のハイカーの趣向や気分によってその都度ルートを選択する必要がある。なのであらかじめプランを立てることはせず、トレイル全体の概要を把握する程度にした。歩きながら情報収集をしつつ、先の計画を立てながら進むと決めた。


CDTは、山岳地帯が多く、開放感にあふれている。

今回は、CDTをスルーハイキングするにあたっての「プランニング編」として、CDTを歩くきっかけから情報収集、スルーハイキングのための時間の捻出方法、ルート選定などを語ってもらった。

次回は、ギアリストを紹介してもらう。CDTの前年にPCTをスルーハイキングしているGazelleは、いったいどんなギアを持っていったのだろうか。

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Gazelle

Gazelle

20代はサーフィンに熱中し、20代の終わりにサーフィンのためにワーキングホリデーでオーストラリアに1年滞在。2017年の四国お遍路をきかっけに、フィールドを山へと広げ、ロング・ディスタンス・ハイキングにハマる。2021年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT)、2022年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) をスルーハイキング。

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