TRIP REPORT

アパラチアン・トレイル | #01 スルーハイキング準備編(歩くきっかけとルート選定) by Daylight(class of 2022)

2023.09.15
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文・写真:Daylight 構成:TRAILS

毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。

そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。

そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。

シリーズ第4弾は、2022年にアパラチアン・トレイル (AT) のスルーハイキングを目指し、定年後に4カ月間にわたって歩きつづけた、トレイルネーム (※) Daylight (デイライト) によるレポート。

まずは、DaylightがATを歩こうと思ったきっかけからスタートするまでの、プランニング編をお届けする。

※トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


Daylightが歩いた、2022のAT。

アパラチアン・トレイル (AT) とは?


アメリカ3大トレイルの中でも、緑豊かな樹林帯歩きが楽しめる。

アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州 (ジョージア州、ノースカロライナ州、テネシー州、バージニア州、ウエストバージニア州、メリーランド州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、コネチカット州、マサチューセッツ州、バーモント州、ニューハンプシャー州、メイン州) をまたぐ、約2,190mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

アパラチア山脈に沿って伸びおり、樹林帯が多く、湿潤で緑豊かなトレイルとして有名。アメリカ西部開拓時代の歴史や文化も色濃く残っているエリアで、自然以外の魅力も豊富。

また、1968年に制定されたNational Trails System Act (国立トレイル法) によって作られたNational Scenic Trailにおいて、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) とともに一番最初に認定されたトレイルでもある。

長い期間、しがらみから離れて自然の中で自分中心の生活をしたかった。


ATの象徴とも言える、シェルター。

もともと山歩きが好きだった。夏に南北アルプスや八ヶ岳でのテント泊をソロか2人でする程度である。家族で尾瀬をよく歩いた。1回の山行で最長で5泊くらいだったが、もっと長く歩くことができないかと考えていた。

アメリカにある3大トレイルの中で一番初めに知ったのがATだった。A Walk in the Woods (Bill Bryson著) という本を読んだ。初めて読んだ時は、シェルター (トレイル上にある三方が壁の戸のない小屋。数人が泊まれる) がどんなものかもわからなかった。

海外トレイルの情報集めの初めにHiker’s Depotに行き、TRAILSと共催している『LONG DISTANCE HIKERS DAY』に毎年参加するようになった。多くのトレイルの情報があったが、一番目についたのがPCTやJMTの圧倒的な景色だった。

そうして2020年にPCTに行こうと考えていた。準備万端、後は行くだけだったがコロナのために全てキャンセル。

2022年はPCTパーミットが取れず、思い切ってATに舵を切った。パーミットとは国立公園などでハイキングするための許可証で、PCTではインターネットで取得する。コロナ禍で2年間行けなかった人が押し寄せるので競争倍率が高くなった。それに反してATのパーミットは現地で入手できる。

本来、長い期間、しがらみから離れて自然の中で自分中心の生活をしたかった。買い出しして、歩いて、調理して、ハイカーとおしゃべりするのならどこでも良かった。

計画を実行するには、言いふらすことが一番だ。


行くと決めたら、声に出して宣言する。

まずロングトレイルを歩くことを決めてから、妻に伝えて協力を得た。知り合いには計画を話した。

計画を実行するには、言いふらすことが一番だ。止めたとは言いづらくなる。

私の場合は、何年も前から宣言していたということになる。行くのは定年後だが、近年は定年後イコール年金生活ではない。年金が出るまではある程度の収入が必要である。

ずっと働いてきたご褒美として、旅行資金と1年間の無収入という条件を認めてもらった。実際には孫が生まれたり、コロナ禍等、さまざまな状況の変化があったのだが、決定事項として受け入れてもらった。

ハイカー増による環境負荷を減らすべく、中間地点からのスタートを選ぶ。


ATのおよそ中間地点にあるハーパーズ・フェリーからスタート。北端のカタディン山まで行ったら、公共交通機関などでスタート地点に戻り、そこから歩いて南端のスプリンガー山を目指すプランだ。

ATへ行くと決めてから、出発までは3カ月程度だった。海外トレイルを歩くための基本的な知識があったので、十分ではないにしても特に短いとは思わなかった。情報は主にATCやThe Trekのウェブサイトから得た。

それによると、ATもPCTと同じくハイカー超過のために環境負荷がかかっていることが問題になっていた。同じ時期に同じ方向へ向うためだ。解決策としてスタート地点を分散する案が掲載されていた。

2022年は特にハイカーが多いはずだ。私はオススメされていた地点の中から、ほぼ中間点にあるハーパーズ・フェリーをチョイスした。ワシントンDCから3時間くらい電車に乗ればトレイル上の宿に到着できる。


補給する町では、スーパーに立ち寄って、さまざまな食料を買い込む。

アメリカはビザを取得すれば最大で6カ月滞在できるので、目一杯使えばスルーハイキングは可能だろうと考えていた。

1日20mile (32㎞) 歩く脚力は付けておいた。細かい日程は、ATのホームページとFarOutという地図アプリを見ながら宿や食料補給のための街の見当をつけ、全行程のシミュレーションをした。当然予定通りにはいかないのでかなりラフなものだ。

ロングトレイルとは、山の縦走を連続で行なうようなものである。A地点では、何泊でB地点まで行けるかを考えてB地点までの食料を補給する。B地点に着いたら同様に補給する。

補給する街はトレイルヘッドから近いほうがいいし、大きいスーパーがあったり、アメニティの多い宿があったほうがいいので、比較・検討するのが楽しかった。


状況に応じてスケジュールは変更するので、事前の計画はざっくりと。

ハイキングのために最初にしたことは、英会話学校に通うこと。


トレイル上で出会ったハイカーたちとの集合写真。せっかくアメリカに行くのであれば、英語でおしゃべりがしたかった。

アメリカへ行ったらぜひ英語でおしゃべりをしたいと思っていた。学生時代にあれほど勉強したのに使わないなんてもったいない。

ハイキングのために最初にしたことは、英会話学校に通うことだった。コロナ禍で終了するまで3年以上通った。2年間のブランクがあったが十分に会話を楽しむことができた。

ロングトレイルをスルーハイキングするにはある程度の脚力が必要だ。ひとつの目安として1日で20mile (32㎞) 歩けることが必要だと考えている。

週末に30~40㎞歩いては満足していた。もちろん10㎏以上の荷物を背負っていないけどね。


稜線歩きも、ATの魅力のひとつ。

今回は、ATをスルーハイキングするにあたっての「プランニング編」として、ATを歩くきっかけから情報収集、スルーハイキングへ行くための協力体制づくり、ルート選びなどを語ってもらった。

次回は、ギアリストを紹介してもらう。初めての海外でのロング・ディスタンス・ハイキングに向けて、いったいどんなギアを持っていったのだろうか。

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20代の頃から山歩きをはじめ、尾瀬や丹沢、南北アルプス、八ヶ岳などでのテント泊を楽しむ。最長で5泊くらいだったが、いつしかもっと長くことはできないものかと考えるように。そこで出会ったのがロングトレイルだった。2021年には、みちのく潮風トレイルをスルーハイキング。2022年に、アパラチアン・トレイル (AT) を約4カ月間歩く。

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