It’s a good day! #04 | テント場のセンチメンタル
文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Sentimental
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
バーガーをトレイルに持ち込んでかじりつけば、アメリカン・ハイキングの風が吹く。
ナイスなベンチを見つけて、ビックマックにかじりつく。焦るとノドに詰まらすぞ、そう思うけれど勢いは止められない。
紙に包んでもらってゴミの嵩を減らす作戦は成功。
カロリーを胃になじませて、立ち上がってバックパックを背負う。
なだらかに続くトレイルの先には海が見える。
雲の切れ間に光がさして、秋の海がきらめいている。
小雨が少し降る予報だけれど、それが旅を渋る理由にはなるまい。
海が見えるトレイルを歩いてきて、海が見えちゃうナイスなフラットを見つけてテントをピッチする。
贅沢にコーヒーを淹れる。
ラジオは昔よく聞いていたポップスを歌っている。
懐かしくて少しさみしい、何年も昔のアメリカを思い出す。
陽が暮れる直前に目標のキャンプサイトに到着して、先にあった一張のテントに声をかけようと近づくと、「こんにちは! 人!?」と大きめの声で挨拶が飛んできた。
「やあやあ、人だよ。お隣に泊まってもいいかい?」
「ああよかった。獣かと思って大きい声をかけたの。ごめんね」
そう言うと彼女はテントのファスナーをあげて顔を出してくれた。
「だいぶベアカントリー (クマの生息地) から離れてるから大丈夫じゃないかな。ご飯はもう食べた?」
「いいえ、これからよ」
雄大なる暗闇に囲まれながら、親愛なる小さな焚き火を挟んで自己紹介をする。彼女はブラジルから来たといって、オレは日本から来たと言う。ヨセミテの自然の中で、地球の反対側に住む人同士が中間地点で仲良くなる。
「彼がね、ひとりでアメリカに旅に行くっていう私をものすごく非難して。羨ましいんだか浮気が心配なんだか知らないけど、それで私も頭にきて、じゃあ人っ子一人いないところを旅してやるわよ、って見つけたのがこのトレイルなの。だからハイキングもキャンプもほとんど初めてで、ずっと緊張している気がするの。でも毎日、来てよかったって思えるほど美しいところね」
早口のポルトガル語訛りな英語で、一息にそう言うと彼女はからからと気持ちよく笑っている。
「それじゃあクマはおっかないね。ほんとはご飯はキャンプサイトで食べないほうが良いんだけどね……」
「そんなのだれも教えてくれなかった!でもご飯を食べて、また歩いてテントを張るのは少し億劫ねえ。明日からその作戦、頭に入れておくわ」
ブラジルにもステキなトレイルがあることを教わり、日本にもナイスなお山があることを伝える。そしてお互いに、このアメリカのトレイルも唯一無二でステキなところだね、と賛美する。
食事を終えて、お腹が温かいうちにテントに戻る。
「明日は何時ごろ起きるの? 私は寝坊する予定だから気にせずにね」
「6時くらいに目が覚めると思う。わかった、明日もいいハイキングを」
「あなたも! おやすみなさい」
寝袋に潜り込んだけれどしばらく寝付けなくて、iPodのプレイリストを手繰っていく。ふとテントの屋根をみると、やけに明るい。そうか、今日は満月だ。テントから這い出て、そうっと離れる。彼女はイビキをかいているので大丈夫そうだ。
暗がりの中、キャンプサイトの木々を抜けて開けた場所に出る。美しい山々のリッジラインがはっきりと見え、そこから顔を出す満月がこっちを照らしている。
ほう、と白い息を吐いて、なぜか昔つきあっていた恋人を思い出した。うすい唇とかわいいソバカスでよく笑う人だった。
過去はいつだって美しい。今も負けてないけどね。そんなことを思いながらまた、テントに潜り込む。明日は早めに出てリサプライの地へ到着してしまおう。ウィスキーをなめて目を瞑る。
It’s a good day!
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