It’s a good day! #03 | ランドリーでのマイ・プレジャー
文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
My pleasure!
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
バーガーをトレイルに持ち込んでかじりつけば、アメリカン・ハイキングの風が吹く。
車を停めて少し歩いて、身体があったまったらとりあえず最初のカロリーを摂る。
ダブルチーズバーガー!
消えない童心に相槌を打って、チーズを口に溶かす。
だいたいのんびり歩いているオレだけど、陽が長いのでもっとのんびり歩く。川をみつけて、顔を洗う。少しずつ自然に還る。ヒヨヒヨとカエルも鳴いている。
鹿のフンに導かれるままに、笹薮を漕いで見つけた場所に三角窓をピッチする。
さっき抜けたはずの雲が、すぐそこまで追いついてきた。夜中のうちに雨が少し降る予報。
ラジオはちょっぴりさみしいピアノソロ。ウィスキーを舐める。
霧のトレイルは、ワシントン州を歩いていた頃を思い出す。親切にしてもらったアメリカでのグッディ。
ある街で洗濯機をブン回そうと、近所のランドリーに行った。アメリカにはコインランドリーがだいたいどの街にもある。
クウォーター (25セント硬貨) しか受け付けないマシンのために両替するのだが、一度間違えて20ドル札を投入して手にいっぱいのクウォーターが出てきて途方にくれたことがある。
洗濯機を回しているあいだに買い物やらチップやらでなんとか消費して、残りは1ドル分、コイン4枚にまで減った。
よしよし、と満足して鼻を鳴らすと、オレと同じような格好のジイさんが笑顔で話しかけてくる。話を聞くと、乾燥機を回すのに1ドル足りなくて、持ち合わせてないので都合してくれないか、と言う。
オレはクウォーターを4枚差し出して、ニヤリとしながら「じゃあ洗剤を一回分わけてくれない?」と彼の家庭用サイズな洗剤を指差して言う。
「いいよ!交渉成立だ」と彼は洗剤を入れてくれた。感謝してくれるジイさんに「my pleasure!」なんてカッコつけて、心も軽く近所をブラブラする。
そろそろ洗濯おわるかな、とランドリーのドアを開けると、さっきのジイさんが笑顔で待っていた。
「さっきはありがとう!大きいお札をくずしたから返すよ」と、しわくちゃの1ドル札を渡そうとしてくる。
「洗剤をわけてくれたんだから、返さなくて大丈夫だよ!」と言っても彼は引かない。「困ったホームレスを助けてくれてありがとう、いつかまた誰かを助けてあげてくれよ!」と無理やり握らされる。
仕方なく受け取ったその1ドル札は、今でもサイフの中に残してある。
It’s a good day!
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