TRIP REPORT

ジョン・ミューア・トレイル (JMT) | #09 トリップ編 その6 DAY16~DAY18 by NOBU(class of 2022)

2026.03.03
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文・写真:NOBU 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2022年にジョン・ミューア・トレイル (JMT) をスルーハイキングした、TRAILS crewのトレイルネーム (※1) NOBUによるレポート。

全6回でレポートするトリップ編の最終回。今回は、JMTスルーハイキングのDAY16からDAY18までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル):アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。この旅では、JMTの本ルートより南のコットンウッドレイクのトレイルヘッドからスタートし、NOBO (北向き) でヨセミテを目指した。

いよいよ旅の最終盤がスタート (DAY16)


レッズ・メドウ・リゾートを出発。再びトレイルに戻っていく。

9月22日、6:00起床。なぜかまだ眠たく、もう一度寝て7:00から身支度開始。足早に準備を済ませ、レッズ・メドウ・リゾートの朝食を頂く。ホットケーキ2枚とフライドエッグ2つとソーセージ、ホットコーヒーも飲んだ。

今日はそれほど長い距離を歩く予定ではなかったので、のんびりとしたスタート。途中、朝露で濡れたギアを乾かしながら歩いていく。


日差しで温まった大きな岩盤の上でギアを乾かす。裸足が気持ちよかった。

のんびりと歩いていたつもりだったが、体が慣れてきたのかあまり疲れずに快調に歩みを進めていった。次のアイランド・パスまでは緩やかに標高が上がっていく。あまり標高を上げずに野営をするつもりだったが、調子が良いので、多少標高を上げてでも前に進む事にした。朝の寒さを耐え凌げば、日中は温まる事が出来そうだからだ。

17:30、サウザンド・アイランド・レイクに到着。名の通り湖に無数の島があるこの湖のほとりに野営することにした。標高は3030mほど。ここなら朝の気温もギリギリ大丈夫だろう。


夕焼けにオレンジ色のDCFでMYOGしたタープが映える。この空気は、明朝の景色にも期待できる。

この近辺はテント泊が許されている場所が限定的である。そのため、1箇所に10組近くの人々がテントを張っていた。自分も他の人と絶妙に距離を取りつつ平らな場所を探した。レッズ・メドウ・リゾートから1泊2日で来た方もいる様子だった。

刻一刻と濃くなるピンクの空を眺めながら、ただ時間が流れる。既に2週間以上も滞在しているシエラの大自然に、まだ圧倒されていた。

息を呑む景色と、雪と格闘したパス越え (DAY17)


出発時の景色。湖面には美しい山と空が映し出されていた。

9月23日、6:00起床、気温は-4℃。あらゆるギアが凍っていた。空気は澄みきっており無風。息を呑むような美しさの中、静かに太陽が昇ってきた。野営ポイントがちょうど開けた岩盤の上だったので、ギアを日光に当てて乾かしながらゆっくりと準備をしていく。体もすぐに温まってきた。

8:30、遅めのスタート。今日はアイランド・パスとドノヒュー・パス、2つのパス越えだ。標高が上がるにつれ、雪が残っている場所に入っていった。アイランド・パスを越えた辺りからトレイルの両サイドにしっかりと雪が残っている状態が続き、ドノヒュー・パスの手前になると、雪と水が混じってトレイルに滞留しており、非常に歩きづらかった。足が氷のように冷たくなっていく。


ドノヒュー・パスの頂上にて。写真では分かり難いがトレイル上は膝下ぐらいまで雪に埋まる。。

悪路を歩くのにかなり時間を使ってしまい、足も氷水に浸され続けて感覚が麻痺してきた。ドノヒュー・パスからの下りはさらに壮絶で、雪用の装備を持ってきていなかったため、雪に足を滑らせてトレッキングポールを何度も折りそうになった。どれだけ気をつけていても滑るため、滑る前提でゆっくりと進んでいく。

4時間ほど雪道と格闘し、14:00頃にようやく土のトレイルに戻った。晴れてはいるものの気温が高くなく、休憩のたびに体が冷えて固まってしまう。さすがに9月後半ともなると、日中も気温が上がりきらない。


ドノヒュー・パスを過ぎ、ヨセミテ国立公園の中を歩いていく。

ドノヒュー・パスを降りきってからは平坦な道が続いた。とても歩きやすい。疲れた足には優しい道だった。

トゥオルミー・メドウズの前後4マイルは野営が禁止されているため、トゥオルミー・メドウズのキャンプグラウンドに行くか、4マイル以上手前でステイするかの2択だった。当初はキャンプグラウンドまで行くことも考えていたが、雪道に手こずってしまったため時間的に間に合わなそうだった。

4マイル以上手前の場所に野営地を発見。明朝にはトゥオルミー・メドウズで補給が出来る予定なので、朝食と行動食を残してたらふく食べた。ゴールのハッピーアイルズまで残り50km弱。長かったJMTも残りわずかだ。

最後の最後でトラブル。図らずも最終日を迎える。 (DAY18)


この旅で一番の寒さの中スタート。辺り一面凍りついている。

9月24日、5:30起床、気温-7℃。寒さで目が覚めた。ちょうど谷間に野営していたこともあり、なかなか日差しが入らず、腕立て伏せとスクワットで体を温める。これは早く歩き出した方が良いと思い、そそくさと準備をしてスタート。トゥオルミー・メドウズのストアまでの道を急ぐ。

10:15頃、トゥオルミー・メドウズに到着。既に何人かハイカーが到着しているようだが、何やら様子がおかしい。聞いてみると、なんとストアがシーズン終了しているという。他にいたハイカーは全員PCTのSOBO。ここでの補給の次は、レッズ・メドウ・リゾートが終了しているので、VVRかミュア・トレイル・ランチかインディペンデンスか。全員絶望していた。というのも、マップ上ではつい2日前まで営業している口コミがあり、シーズン終了のアナウンスが無かったのだ。


なんとも陽気なメッセージである。

ゴールまで残り36.6km。食料は行動食を含め全て消費しきっていた。トゥオルミー・メドウズは国道沿いなので、ヨセミテバレーまでヒッチハイクをして補給する選択肢もあったが、せっかくのゴール地点に先についてしまうなんて、興ざめだ。色々考えた末に下した決断はこうだった。

一旦、1時間3マイル(4.8km)ペースを目標とし、今日中のヨセミテバレー着を目指す。ヨセミテバレーの状況が分からないので、すれ違う人から営業時間や状況をヒアリングする。出会ったハイカーに食料を恵んでもらいながら前に進む。もし食料を恵んで貰えた場合、かつ、ヨセミテバレーの状況が良くなさそうな場合、残10km地点付近で留まり、翌朝踏破も視野に入れる。

10:40、僕の最後の戦いが始まった。PCTハイカー達に文字通り「Good luck」と別れを告げ、歩き出す。というよりもはや走り出す。足は極限状態。やってはいけないのは、怪我とトレイルのミスによる距離のロスだ。それだけはしないと集中力を上げる。

等高線をよく見ると、意外と登りが多い。ヨセミテはダウンヒルだけだと思っていたので、予定が狂う。体からエネルギーが無くなっていくのを体感しながら、とにかく前に進んでいく。トレイルを歩いていて終始感じていたことだが、Far Outの情報しかり、あらゆる情報はNOBO向けに最適化されている印象だ。特にパブリックコメントが重要な情報源になっているため、北向きの情報は少ない。SOBOの人々はヨセミテの営業時間はウェブで調べれば済むので、さほど重要でないのだろう。全く情報が手に入らない。


マリサとコーディも飢餓状態の僕を救ってくれた。なんと彼女達はジャーキーとドライフードまで恵んでくれたのだ。

15:00、途中で出会った2人組のハイカーが、貴重な情報をくれた。どうやらハッピー・アイルズの近くにピザ屋とコンビニのようなストアがあるらしい。どちらも20:00ごろまではやっているだろうとのこと。この時点で、本日中の踏破を第一目標に決定。

沢山のハイカーに助けられた。道行く人に声をかけ、状況を伝えたら、何かしら出来ることが無いか考えてくれる人ばかりだった。「人は一人では生きていけない」ふとそんなこともよぎりながら、涙目で歩いていく。

残り8kmほどの地点で他の観光客の通知音を耳にする。もしや…オンラインなのでは?急いで機内モードを切り、グーグルマップでヨセミテエリアの情報を調べる。なんと…ピザ屋、22:00までやってるじゃないか。心に余裕ができた僕はバックパックに閉まっていたカメラを取り出し、首から下げて歩き出す。全ての選択が繋がった。様々なリスクを先読みし回避しつつ、選択肢を残しながら進んだ結果だった。

そこからは、道行くハイカーに声をかけ、時間を厭わずコミュニケーションを取った。残りのヨセミテを存分に楽しむために。20:00、JMT踏破。とにかく空腹で今にも倒れそうだったので直行でピザ屋に向かった。


写真を撮る前に2ピース食べてしまった。それほど追い込まれていた。

アメリカンサイズのピザをワンホール丸ごと平らげながら、この旅を振り返った。豊かだった。その一言に尽きる。不思議と思い出されるのは苦難を乗り越えた自分だった。嵐にタープを引っ剥がされ、林の中で雷鳴をやり過ごした日。寒さに凍えてどうにかこうにか対策した日。そして最終日の食料トラブル。そしてそれらがあったからこそ、豊かだったと感じた。

大自然の中に自分の身を投じ、「生」への渇望を感じた。そして人間の非力さを知り、だからこそ工夫する楽しさを知った。ロング・ディスタンス・ハイキングという手法だからこそ、自分と対話する時間があった。

ハイカーとしてはほんのまだひよっこ、人としてもまだ未熟な自分だが、今回自分なりのジャンプをして旅を終えられた事が、とても誇らしかった。この旅で得たものは、誰にどう評価をされようとも不可侵なものとして、今後も大事にし続けるものになるんだろうな、と予感した。

本当にあらゆる人の支え / 協力があったからこそ、この旅を実現する事ができた。列挙すればキリが無いが、旅を実現出来たことに心から感謝している。本当にありがとう!


踏破の翌日、ハッピーアイルズにて記念写真。

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