HIKING ESSAY

It’s a good day! #07 | 晩夏のサンダーストーム

2023.07.07
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文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS

What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。

なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.

Thunder night


 
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!

バーガーをトレイルに持ち込んでかじりつけば、アメリカの風が吹く。

梅雨空のスキマを抜けて、酷暑に備えて身を慣らすハイキングへ。

ハイカロリーなトリートがアップヒルの背中を押す。ハイクアップを終えたらバクンといただいて少しストレッチ。

オーケー、レッツテイカハイク!

陽が長いので好きなだけのんびり歩く。ゆっくり歩いても、まだまだ明るい。目当てのフラットはそう遠くない。


 
まだ、夕ごはんにはちと早い。ダラダラするのは特技だぜ。

ラジオは夜に雨の予報を告げて、雨も愉しむスローなジャズチューン。

夜のうちに降る雨はいい。テントを担いできた甲斐がある。雨だけならね……。ふと、アメリカのグッディを思い出す。


 
カミナリが降る夜に、信心深くないオレも手を合わせて目を瞑ったことがある。モンタナ州を歩いている頃だったか、晩夏のサンダーストームが夕方から頭上に広がった。

幸いその日はハイキングもキャンプ予定地も森の中で、稜線上よりは直撃の可能性はないだろうと止まらずに歩いた。

急登を目前にちょうどいいフラットを見つけて、雨と風のなかぶっ飛ばされないように固くペグダウンを済ませて滑り込む。メシも早々にかきこんで、乾いた服に着替えてスリーピングバッグに潜り込む。

心地よくない疲労感に折り合いをつけながら、眠りに落ちるまで電子書籍を読む……ことができないほどに、テントの上で紫の稲光がおどろおどろしい轟音とともに跋扈 (ばっこ) しはじめた。

周辺には自分よりも数十倍背の高い木が乱立しているから、直撃の可能性は低いだろう。直撃は……。

しかしテントを立てているポールはアルミ、身体の横にはカーボン製の傘まである。側撃の可能性はゼロじゃない。もちろん可能性が少しでも下がるように場所を選んではいるが、それでも雷鳴は容赦なくとてつもない恐怖を鼓膜から叩き込んでくる。

長く歩いていると、人間が (オレだけか?) いかに「ないものねだり」でわがままかを思い出す。晴れてさえくれりゃあ、雨さえ降ってなきゃあ、蚊さえいなきゃあ、と欲深き願いを思い出せばキリがない。

数秒おきに、稲光と雷鳴がほぼ同時に降り注ぐ。約1時間、生きた心地がしないというのはコレのことか、と心から思う。

自分は現実主義的な信条だけれど、人は最後になにかにすがる時、自然と手を合わせてしまうものなのかもしれない。これまでの些細な「ないものねだり」がいかにくだらなかったか、少し笑ってしまうくらいだった。

運は尽きず、恐ろしい雷神にはみつからずにやり過ごすことができた。その後しばらくは興奮で寝付けず、落雷による火災にも備えて、静かに濡れる森と空を眺めた。

もちろん、生きている喜びを噛み締めて、顔は笑っていた。

it’s good day!!

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鈴木拓海

鈴木拓海

2012年、2014年とJMT (ジョン・ミューア・トレイル) を2回スルーハイクし、2016年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) 、2019年にCDT (コンチネンタル・ディバイド・トレイル) をスルーハイクした、ロング・ディスタンス・ハイカー。トレイルネームはSunny (サニー)。13歳からスケートボードを始めたスケーターでもあり、バスフィッシングをこよなく愛するバサーでもある。2021年10月にTRAILSにジョイン。

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