TRAILS REPORT

高島トレイル | #02 スルーハイキング4Days(Sunny編)

2023.06.16
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話:鈴木拓海 写真・構成:TRAILS

『高島トレイル』を徹底解剖する全4回の特集記事の第2回目。

実は、TRAILSは『高島トレイル』に再注目している。だからこそ今年4月に開催した『LONG DISTANCE HIKERS DAY』でもフィーチャーした。もちろんそこには、僕らなりの明確な理由がある。

TRAILSのロング・ディスタンス・ハイキングの原風景は、アメリカのロング・ディスタンス・トレイル (以下、ロングトレイル) である。人工物を極力排したウィルダネス (原生自然) と呼ばれる大自然のなかを歩き、野営を繰り返しながら旅をしつづける。その旅のスタイルにヤラれたのである。

2008年に、日本のロングトレイルのパイオニアである「信越トレイル」が全線開通 (当時は80km) したのを皮切りに、日本で次々にロングトレイルが誕生した。そんな国内において、僕たちが憧れるロング・ディスタンス・ハイキングの原風景に近しいロングトレイルはないものだろうか?

それが高島トレイルだったのだ。高島トレイルはトレイルのほとんどが未舗装路であり、しかも野営指定地を設けていない。つまりアメリカのトレイルのように、自然のなかを歩き、好きなところに (もちろん自然保護のガイドラインやルールを遵守した上で) 野営しながら旅をすることができるのだ。

特集記事の第2回目となる今回は、ロング・ディスタンス・ハイカーによるスルーハイキングレポート (Sunny編)。

TRAILS crewであり、JMT (※1)、PCT (※2)、CDT (※3)のスルーハイカーであるトレイルネームSunny (サニー) ことタクミくんが、2023年4月に高島トレイルを3泊4日でスルーハイキングしてきた。

アメリカを歩いた経験を持つロング・ディスタンス・ハイカーの目に、高島トレイルはどう映ったのだろうか?


高島トレイルをスルーハイキングした、TRAILS crewの鈴木拓海 a.k.a. Sunny。

スルーハイキング前夜:琵琶湖畔でのテント泊

前泊地のマキノサニービーチ高木浜オートキャンプ場にて。

—— 編集部:タクミくんにとっては、初めての高島トレイルだね。

 
タクミ:「そうです。高島トレイルのことは、ほんとに漠然としかイメージがなくって (苦笑)。今回行くのをきっかけに、本やウェブで調べてはみたんですが、他のトレイルに比べて情報がすごく少ないんですよね。結局、行くまでは漠然としたままという」

—— 編集部:じゃあ、あまり期待してなかった? アメリカのトレイルをスルーハイキングした時みたいな、スタート前のワクワク感とかドキドキ感はゼロ?

 
タクミ:「わからないのが逆に楽しくて、期待感はありましたね。国内の他の有名なロングトレイルとかであれば、誰か知り合いのハイカーに聞けばいくらでも情報が手に入るじゃないですか。だから個人的には、未知のトレイルに行く感じで、踏査に近いような感覚でした」


明日からのスルーハイキングに向けて、前夜祭の気分。

—— 編集部:スタート前は、前泊で琵琶湖畔でテント泊をしたんだよね? 遠足前夜みたいな感じで、さらにテンションが上がりそう。

 
タクミ:「前泊の時点で、すでに東京から遠く離れた旅先でテント泊、という楽しさは強くありました。

近くのコンビニで最終の買い出しを済ませて、明日からのスルーハイキング成功を願う前夜祭のノリもありつつ、ギアや食料の最終チェックにもってこいの前泊でした。

明日からのトレイルでは電波も電源も水も『限りあるものになるんだよな』と思い出して、それが名残惜しくも、そういう場所へ分け入っていく懐かしさやワクワク感も感じていました」


北端の愛発越 (あらちごえ) から南端の三国岳まで、全長80kmの高島トレイル。タクミくんは、4/11〜14にかけて3泊4日でスルーハイキングした。

DAY1:愛発越 (あらちごえ) 〜赤坂山〜抜土

スタート地点は愛発越にある、国境 (くにざかい) スキー場。

—— 編集部:スタート地点の愛発越 (あらちごえ) までは、マキノ駅からバスで約20分。着いた時はどんな心境だった?

 
タクミ:「天気も良かったこともあり、めちゃくちゃ楽しみでしたね。オフシーズンのスキー場のゲレンデを上がっていくんですが、リフトの脇からコソコソッと山に入っていく感じに、グッときました。せっかくトレイルを歩くなら、人が入ってない感じのほうがいいじゃないですか」


独特の地理的特徴を有する明王ノ禿は、琵琶湖が一望できる絶景ポイントのひとつ。

—— 編集部:登り終えてからはどんなトレイルだった?

 
タクミ:「そのあとは、基本的に稜線歩きです。開放感があって歩いていて楽しかったです。特に明王ノ禿は、おぉーカリフォルニアの乾燥地帯っぽいじゃん! ってテンション上がったんですけど、その風化した岩のエリアが数分で終わっちゃうんですよね。

でもすごく良かったから、一旦通り過ぎてからまた戻ってきてしばらく休憩しました」


抜土の林道脇でテント泊。使用したシェルターは、Mountain Laurel Designs (マウンテン・ローレル・デザインズ) のCricket Pyramid Tarp (クリケット・ピラミッド・タープ)。

—— 編集部:稜線歩きは気持ち良さそうだね。もともと2泊3日でスルーハイキングする計画だったんだよね。となると、1日平均26〜27km歩かないといけないわけだけど1日目はどこまでいくつもりだった?

 
タクミ:「最低でもスタート地点から約17km地点の抜土 (ぬけど) まではと。ただ、抜土に着いたときにはもう19時近くで暗くなり始めていました。もうちょっと歩こうかなと思って少し先を見に行ったんですが、しばらくテントが張れるところがなさそうだったので、ここで野営することにしました。

正直、1日目夜に、もう2泊3日でスルーハイキングするのは無理だと思いました (苦笑)」

DAY2:抜土〜大御影山〜横谷峠手前


朝から雨が降っていたので、レインジャケットを着てスタート。

—— 編集部:1日目は開けた稜線歩きだったけど、2日目はどうだった?

 
タクミ:「2日目も稜線が多かったんですが、朝から雨が降っていたんですよね。土砂降りではなかったので、レインパンツまでは履いていないですけど、レインジャケットを着て、時には傘もさしたりしました」

—— 編集部:印象に残っている場所とかはある?

 
タクミ:「雨だったこともあって1日目みたいな眺望や開放感はなかったですが、すごく変化に富んでいたという印象ですね。

雨も降っていたし、稜線上でスギの木の隙間を歩いたり、植林があったり、原生林があったり。あと、このトレイル唯一といっても過言じゃない車道歩きが15分くらいあったりして。バリエーションが豊かで歩いていて飽きることがなかったですね」


池で汲んだ水も、浄水して飲めばなんの問題もない。

—— 編集部:高島トレイルは水場が少ないとよく言われるけど、どうだった?

 
タクミ:「時期によるとは思うんですが、自分は特に困らなかったですね。

まあ、浄水器を持っていっていたので、流れのある沢とかばかりではなく、池とかの水も気にせず汲んでいましたけどね。多少色がついていたので気にする人にとっては水場になりませんが、浄水してしまえば問題ないですよ。ただ、秋になったら枯れている水場もあるという情報もありましたね」


峠に下りるちょっと前に、フラットなテント泊適地を発見。

—— 編集部:1日目の抜土は林道があり、そのまわりがフラットな地形になっていることもあって、野営地を探すまでもなく泊まれる感じだよね。2日目は自分で適地を探したと思うけど、難なく見つけることができたの?

 
タクミ:「2日目は、スタート地点から約48km地点の横谷峠まで行こうと思ってたんです。でも、峠には林道が走っているので、そこまで行ってしまうと泊まるところがなさそうだなと。であれば、そこまでにちょうどいい場所を見つけようと探しながら歩いていたんです。

そしたら、峠のちょっと前に、いい感じでフラットな場所を見つけたので、ここにテントを張ろうと決めました」

DAY3:横谷峠手前〜駒ヶ岳〜地蔵峠周辺


駒ヶ池を眺めながらしばし休憩。のんびりできる場所でのこういう休憩も、大事な時間。

—— 編集部:いよいよ後半戦。高島トレイルは、おもに前半は開けているエリアが多く、琵琶湖もよく見えるけど、この3日目のエリアあたりから、一段階、自然が深い里山のエリアに入っていくよね。

 
タクミ:「ですね。しかも直登直滑降だらけ。どうしてこういうルートにしたんだろう? って思うくらい (笑)。どうせすぐに下りるのに、とか思いながら登りのトレイルを、意味のなさを感じながら歩くんです。でも、まあこれもアメリカで経験したロング・ディスタンス・ハイキングっぽくて、嫌いじゃないですね。楽しいことばかりじゃない遊びですから」


より山深くなり、アップダウンもさらに増えてきた。

—— 編集部:3日目はずっとそんな感じだった?

 
タクミ:「駒ヶ池を越えたあたりから気持ちのいい稜線歩きになりました。この日は前日とは打って変わって天気も良かったですし、おにゅう峠くらいまでずっと楽しく歩けた感じです。

特に駒ヶ岳周辺は、眺めもよく、ブナの原生林もキレイで、歩きやすいトレイルがつづいていました。

これは3日目だけではないですけど、歩いているうちにハイカーズハイというか、歩くという行為だけが楽しいっていう瞬間は、何度もありました」

—— 編集部:この日はどこまで歩こうと思ってたの?

 
タクミ:「スタート地点から約75km地点の地蔵峠を目指しつつ、行けるところまで行こうと思っていました。

地蔵峠は林道が走っていて、スペースも広くて、余裕でテント泊ができる環境ではありました。でも、事前の情報収集でけっこうクルマが通るとのことだったので、もう少し進むことにしました。

地図で等高線をチェックしたら、地蔵峠からちょっと登ったところに平らなスペースがありそうだなと。それをめがけて行ったら、その前に1畳半くらいの平らな場所をトレイルの脇に見つけたので、ここだ! と思って速攻シェルターを張りました」


今回のスルーハイキングで最後の野営。わずか1畳半程度のスペースだったが、ぐっすり寝ることができた。

—— 編集部:地形図を読みながら、野営適地を探す感じだね。もうここまできたら、高島トレイルのスルーハイキングも、残すところあとわずか。最後の夜だし、のんびり野営を楽しんだ?

 
タクミ:「メシを食ったらすぐ寝ました (笑)。あ、でも、持ってきておきながらこれまでひと口も飲んでなかったウイスキーを、この最後の晩に飲みました。

でもひと口飲んだら動悸がしてきたので、ひと口だけでやめてそのまま寝たんです。けっこう疲れてたんでしょうね」

DAY4:地蔵峠周辺〜三国岳〜桑原橋


最終日の朝。日の出前にスタート。

—— 編集部:いよいよ最終日だね。

 
タクミ:「下山後のバスが10時台で、それに乗るためにこの日が一番早起きでした。4時に即席めんを食べて、5時前にヘッドライトをつけて歩き始めました。

コースタイムだと5時間半くらいだったので、無心でガンガン歩いてたらコースタイムの半分くらいで進んでいて、下山したのが8時半でした」


桑原橋バス停近く。バスの時刻まで1時間半以上あったので、湿ったギアを天日干し。

—— 編集部:バスが来るまであと1時間半以上。スルーハイキングを無事終えて、しばらく余韻に浸った?

 
タクミ:「最終日は水場がなかったこともあって、かなり喉が渇いていたんですよね。とりあえず、バス停の前を流れている川で、がっつり水を飲みました。

時間があったので、シェルターとか寝袋とかもすべて干して。で、干してるときに頭がかゆいなーと思って掻いたら、マダニが1匹出てきてちょっとビックリしました」

—— 編集部:マダニ対策はしてたの?

 
タクミ:「フロアレスシェルターだったこともあり、ビビィを持っていきました。それくらいですね。時期によるとは思うんですけど、もう少し時期が遅かったら、虫除けスプレーも持っていくと思います」


バスの乗り換えのタイミングで、地元名物の鯖寿司をゲット。

—— 編集部:じゃあ、余韻に浸る感じでもなかった感じか。

 
タクミ:「とにかく腹が減ってて、何か食べたくて、早くバス来い! って思ってました。バスは乗り換えがあるんですが、その乗り換えの場所の近くに地元で有名な鯖寿司屋さんがあることをチェックしていて。そこに駆け込みました。

でも、そこの鯖寿司はひとりじゃ食えないほどのボリュームなのでお土産として購入して、その店の前のスーパーでパックの鯖寿司とビールを買って、バス停でがっつきました。これが最高にうまかったです」

—— 編集部:町に降りたら、とにかくメシとビール! アメリカでのロング・ディスタンス・ハイキングと一緒だね。

 

ひさしぶりに、歩く行為を純粋に楽しむことができた。

タクミくんは今回、約80kmの高島トレイルをスルーハイキングして、アメリカでのロング・ディスタンス・ハイキングを思い出すことが度々あったようだ。

その理由は、野営地を自分で見つけて決められることなどに加え、単純な楽しさばかりではなく、非効率なことも含めた、よい意味での無駄を楽しむロング・ディスタンス・ハイキングを楽しめたからだという。日本国内でスルーハイキングをしてこんな感覚を覚えることができるトレイルは、そうはないはずだ。そういう点でも、あらためて高島トレイルは稀有なロングトレイルだと感じさせられた。

次回#03では、ロング・ディスタンス・ハイカーである長沼商史 a.k.a. GNU (ヌー) さんによるスルーハイキングレポートをお届けするので、お楽しみに。

※1 JMT:John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル)。アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

<高島トレイル特集記事>
#01 人工物を極力つくらず、持ち込まず、自然度の高いトレイルを維持するポリシー
#02 スルーハイキング4Days(Sunny編)
#03 スルーハイキング4Days(Gnu編)
#04 PCTハイカー3人の視点

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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