TRAILS REPORT

高島トレイル | #03 スルーハイキング4Days(Gnu編)

2023.06.21
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話・写真:長沼商史 構成:TRAILS

『高島トレイル』を徹底解剖する全4回の特集記事の第3回目。

実は、TRAILSは『高島トレイル』に再注目している。だからこそ今年4月に開催した『LONG DISTANCE HIKERS DAY』でもフィーチャーした。もちろんそこには、僕らなりの明確な理由がある。

TRAILSのロング・ディスタンス・ハイキングの原風景は、アメリカのロング・ディスタンス・トレイル (以下、ロングトレイル) である。人工物を極力排したウィルダネス (原生自然) と呼ばれる大自然のなかを歩き、野営を繰り返しながら旅をしつづける。その旅のスタイルにヤラれたのである。

2008年に、日本のロングトレイルのパイオニアである「信越トレイル」が全線開通 (当時は80km) したのを皮切りに、日本で次々にロングトレイルが誕生した。そんな国内において、僕たちが憧れるロング・ディスタンス・ハイキングの原風景に近しいロングトレイルはないものだろうか?

それが高島トレイルだったのだ。高島トレイルはそのほとんどが未舗装路であり、野営指定地も設けていない。つまりアメリカのトレイルのように、自然のなかを歩き、好きなところに (もちろん自然保護のガイドラインやルールを遵守した上で) 野営しながら旅をすることができるのだ。

特集記事の第3回目となる今回は、前回につづき、ロング・ディスタンス・ハイカーによるスルーハイキングレポート。

『釣歩日記』 (※1) の著者であり、PCT (※2)、CDT (※3)、NZのテ・アラロア (TA ※4) を歩いた長沼商史 (ながぬま ひさふみ) a.k.a. Gnu (ヌー) さんが、2023年4月に高島トレイルを3泊4日でスルーハイキングしてきた。

アメリカをメインに海外のロングトレイルを歩いた経験を持つヌーさんは、高島トレイルをスルーハイキングして、どんな印象を持ったのだろうか? また、樹林帯が多いことから今回はハンモック・キャンプでのハイキングを目論んだが、ハンモックと高島トレイルの相性はどうだったのだろうか。


高島トレイルをスルーハイキングした、長沼商史 a.k.a. Gnu (ヌー) さん。

久しぶりのスルーハイキング


高島トレイルのマップ。このマップとガイドブックを読んで事前準備をした。

—— 編集部:ヌーさんにとって、初めての高島トレイルのスルーハイキング。歩く前は、どんな印象を抱いていた?

 
長沼:「ルールを守れば野営はどこでもできること、アップダウンが激しいこと、くらいしか知らなかったかな。存在は知っていたけど、オレが住んでいる埼玉からだとかなり遠いこともあって、これまで歩く機会がなかったんだよね」


北端の愛発越 (あらちごえ) から南端の三国岳まで、全長80kmの高島トレイル。ヌーさんは、4/17〜20にかけて3泊4日でスルーハイキングした。

—— 編集部:かなり久しぶりのスルーハイキングだよね?

 
長沼:「5年ぶりくらいかな (笑)。でも、釣りで源流に行く時とかにトレイルは歩くから、釣りのついでにちょいちょい歩いてはいたんだけどね。ハイキング・オンリーっていうのは、かなり久しぶりだね。だから楽しみだったよ」

—— 編集部:じゃあ、結構テンション上がってたんだ。

 
長沼:「そうだね。でも、スタート地点でバスから降りた時は、スキー場じゃん、うわーいきなりすげぇ登んのかよーって思ったけどね」


高島トレイルの起点、愛発越 (あらちごえ) にある案内板。ここからゲレンデの登りが始まる。

DAY1:愛発越 (あらちごえ) 〜赤坂山〜抜土


久しぶりのハイキングで、高島トレイルを歩くヌーさん。

—— 編集部:いきなりのゲレンデ登りは大丈夫だった? 天気も良くなかったんだよね。

 
長沼:「ひさびさのスルーハイキングだから、足腰平気かなぁって心配だった。でも、稜線に近づくにつれて景色が良くなってきたし、最初のほうのブナ林も心地よかったよね。ただ、天気が悪くて稜線に出たらもう風がすごくて。とにかく強風」

—— 編集部:歩くのも大変なくらい?

 
長沼:「体がもっていかれるほどじゃないけど、止まっちゃうと寒い! って感じで、長い休憩は身体が冷えちゃうから短い休憩しかとってない。しかもダラダラ歩いていても寒いから、バキバキ歩いてた。強風だけど、稜線多かったから気持ちよく歩いてはいたよ」


ブナ林は心地よかった。

—— 編集部:1日目は抜土 (ぬけど) に泊まっているけど、もともと決めていたの?

 
長沼:「抜土に着いたのが15時だったから、本当はあと3時間くらい歩きたかったんだよね」

—— 編集部:今回はハンモックで野営をする予定だったけど、1日目はハンモックの野営適地は見つけられそうだった?

 
長沼:「天気予報を確認したら15時頃から雨と強風の予報で。しかも、ここから先は標高を上げてしばらく稜線っていうこともあって、この先はハンモックじゃ厳しいなと。

ここに来るまでに、ハンモックが張れそうな、風が遮られている風裏をチェックしてたんだけど、風が巻いて入ってくるところが多かったんだよね。だから、先に進むのは危ないと思ってここに泊まろうと」


1日目は、風を凌ぎながらのタープ泊。

—— 編集部:1日目の抜土ではハンモック泊はできなかったと。

 
長沼:「そう、この日はタープ泊。一応、スギ林のなかに一回ハンモック張ったのよ。でも、張ってるそばから風でハンモックが揺れるわけ。1時間くらい風を防ぐようなタープの張り方とかいろいろ試してみたんだけど、やっぱダメで。

これは無理してハンモックを張るよりは、タープを張って風下に入口つくったほうがまだいいなと思って、タープ泊にした。それが正解で、夜中に雷、強風、たまにキューベンのタープをバチバチ叩く雨だった」

DAY2:抜土〜大御影山〜行者山周辺


出発直後、地面に雹 (ひょう) を見つけた。

—— 編集部:2日目、天気はどうだった?

 
長沼:「朝起きて、風は強いけど晴れてた。ただ天気予報によると、基本は曇りで昼前から雨になると」

—— 編集部:実際は予報どおり?

 
長沼:「朝イチで登りはじめたら雹 (ひょう) が落ちてた。夜中に降ったんだなぁと思ってたら、そのあと雨とともに雹が降ってきて痛かった」

—— 編集部:それはなかなか大変そう。

 
長沼:「土砂降りとかではなかったし、抜けのいい景色や、草原みたいなところもあってそれなりに楽しめたよ。本当はここでゆっくりしたい! とは思ったけど、風が強くて長く休むのは無理だった」


天気が悪かったものの、ときおり開放感のある場所も楽しめた。

—— 編集部:2日目も1日目同様、ガシガシ歩いてたんだね。

 
長沼:「感覚としては、ジョギングみたいな感じかな。景色をゆっくり楽しむというよりは、マシンになって歩きつづけるっていう。もちろん短い休憩は取ってた、体が冷えない短時間の」

—— 編集部:ハイキング・マシン (笑)

 
長沼:「こういうのは嫌いじゃない。アメリカのトレイルを歩いていた時もそうだったけど、長くハイキングしてるとマシンになる時ってあるじゃん。ただ黙々と歩きつづけるみたいな」

—— 編集部:2日目も天気は良くなかったみたいだけど、ハンモック泊の野営適地は見つけられたの?

 
長沼:「風もあって天気は良くなかったけど、この日はハンモックを張れる場所を見つけられたよ」


天気予報と地図の情報、そして現場の自然環境などもろもろ考慮して、ハンモックに適した場所を見つけた。

—— 編集部:地図で地形を見ながら、野営適地を見つけた?

 
長沼:「そう。地図を見て、行者山の先に、2箇所くらい尾根が南側に伸びていて等高線の間隔も広めな場所があって。ちょうど風が北寄りだったんで、ここならいけそうだなと。ちょっと風は入ってきてたけど、これくらいならハンモックでも大丈夫だと思って」

—— 編集部:樹林帯だからハンモックを張れる木はたくさんあるけど、天気が良くないとハンモック泊をするのは簡単ではないよね。

 
長沼:「天気が良ければ、超気持ち良く最高のハンモック泊ができるところはたくさんあった。でも、トレイルが稜線を通っているところが多いから、ハンモックだと風や雨の影響を受けやすいよね。

大きなタープとか持って行ったりすれば、もう少し雨風は凌げるとは思うけど、それで荷物が重くなったらUL (ウルトラライト) じゃないし。自分は最低限の大きさのタープで、ハンモックがダメだったらタープ泊でというスタイルで行ったんだよね」

DAY3:行者山周辺〜駒ヶ岳〜三国峠周辺


3日目の朝は晴天で、気持ち良く歩いた。

—— 編集部:1日目、2日目と天気が悪いながらも、なんだかんだでハイキングを楽しんでいる感じが、ヌーさんらしい。いよいよ後半戦、3日目の天気はどうだった?

 
長沼:「朝、天気予報をチェックしたら、朝イチだけ晴れで午後から雨でかなり荒れるという予報。またかよ! って (苦笑)。

まあでも、朝は晴れてて気持ちよかったから、今のうちに距離を伸ばそうと思って、ガシガシとバカみたいにアップダウンを歩いたよ」


明日は水場がないことがわかっていたので、明日のぶんも含めて水を2.5L程度補給。

—— 編集部:なかなかのんびりできないね。この日もひたすら歩きつづけて一気に野営地へ、という感じ?

 
長沼:「途中ね、駒ヶ池っていうでっかい池があって。なんか生き物いないかなぁと思って、一周ぐるっとまわったんだよね。モリアオガエルを見たかったんだけど、イモリしかいなかった。

一箇所だけ水が流れている音が聞こえたんだよね。でも、そこから1、2歩ずれるとその音がまったくしない。ピンポイントでしか聞こえないの。しかも流れる水を探しても見当たらない。これは超不思議な現象だったよ」


夜は雷もともなう暴風雨。それを見越して、できる限り安全な野営地を探してタープ泊をした。

—— 編集部:ハンモック泊に適した場所はあった?

 
長沼:「無理無理 (笑)。三国峠のちょい先に、四方が山に囲まれている谷地形があって、ここしかないってところにタープを張ったよ。もう小雨が降っていたし、風がヤバかった。まわりの木々もバッサーって感じで揺れまくってたから。

晩飯が食い終わったのが16時。17時には雨も本降りになった。風も強いし、雷も鳴りつづけてた。ハンモックだったら、張っていた木に雷が落ちたらアウトだしね。オレは側撃 (落雷した場所の近くにいて感電すること) も考えていたから、それを受けないような場所を選んだんだけど、これも天気予報のおかげだよね。事前にチェックしておいてよかったよ」

DAY4:三国峠周辺〜三国岳〜桑原橋


巨木は人生の大先輩。

—— 編集部:ついに最終日。三国峠まで来ているから、残りは10kmくらいだね。

 
長沼:「もう余裕でしょって感じで歩いてた。相変わらず天気は曇ったり雨がぱらついたりで、良くなかったけどね。でもこのあたりは、スギやヒノキの巨木もいっぱいあって、そういうのを触りまくって歩いていたよ。長年生きている大先輩だから、リスペクトも込めて、ついつい触りたくなっちゃうんだよね」

—— 編集部:ようやく、ゆっくりのんびり歩けた?

 
長沼:「それが、桑原橋バス停を10時台に出発するバスに間に合うかも、と思って結構慌ててたというか、スピード出してたんだよね。そしたら、下りでやけにストックが引っかかるの。

待てよ、なんかこれ、山に止められてるのかな? とか思って、あらためて時間を確認したら、もうバス出ちゃってるじゃん、無理だーってなって (笑)。バスの出発時刻が10時40分だと思い込んでたんだけど、実は10時14分で。それがわかってからのんびり歩き出して、バス停には10時50分頃に着いたよ」


下山した場所には川が流れていた。こんな川があったなら竿を持ってくればよかった。

—— 編集部:4日間ともずっと天気が悪いなかでのスルーハイキングだったけど、振り返ってみてどう?

 
長沼:「天気悪いから眺望とかには恵まれなかったけど、1日目以外は他の人にも合わず、好きな孤独を味わえたよ。

高島トレイルはテント場が決まってないから、やっぱ自分で選べるのはいいよね。与えられてないっていうのも含めて。今回は天気も悪かったし、そういうのも考慮して自分で判断して場所を選ぶ。やってる感があったよね。

これがもし天気良かったら、なにも考えずにここでいいやってなっちゃうから。それはそれで悪くないけど、天気が悪かったからこそ、より深く山と遊ぶことができた。ちゃんと自然と遊んだなぁっていう満足感があったよ」


高島トレイルらしいワイルドな自然。

ヌーさんは、連日天気が悪いなか、3泊4日で高島トレイルをスルーハイキングした。

天気が良ければ……とさぞかし残念がっているのかと思いきや、天気が悪かったからこそ、野営地探しも含めていろいろ考えなければならず、そのおかげで自然とちゃんと遊ぶことができたと語っていたのが印象的だった。野営指定地のない高島トレイルを存分に楽しんだようだ。

次回最終回は、高島トレイルをスルーハイキングしたPCTハイカー3人に、高島トレイルを語ってもらう。

※1 釣歩日記 (ちょうほにっき):2012年〜2014年にかけて、アメリカとニュージランドのロングトレイルを歩いた時に書いていたブログ「釣歩大全 ロングトレイルと釣り」をベースにした書籍。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 TA:Te Araroa (テ・アラロア)。ニュージーランドの北島から南島を縦断する、総延長3,000kmのトレイル。

<高島トレイル特集記事>
#01 人工物を極力つくらず、持ち込まず、自然度の高いトレイルを維持するポリシー
#02 スルーハイキング4Days(Sunny編)
#03 スルーハイキング4Days(Gnu編)
#04 PCTハイカー3人の視点

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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