TRAILS REPORT

TRAIL FOOD #02 | ロング・ディスタンス・ハイキング × トレイルフード by 長沼商史

2023.01.11
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話・写真:長沼商史 構成:TRAILS

What’s TRAIL FOOD? | 「トレイルで、実際みんな何を食べているの?」。みんなのリアルなTRAIL FOOD (トレイルフード) が知りたくて立ち上げた、トレイルフードを紹介する記事シリーズ。ULハイキングをはじめ、ロング・ディスタンス・ハイキングやハンモック・ハイキング、パックラフティング、さらにはフライフィッシングやテンカラなど、それぞれの遊びに没頭している人たちに、普段どんなトレイルフードを食べているかを紹介してもらう。トレイル上のリアルに触れることが、きっと新たな気づきや刺激になるはずだ。

* * *

ここに登場するのは、世の中でよく紹介されるような「山でこんなに美味しいものが食べられる!」というフードがかならずしもメインではない。それぞれの遊び方やスタイルのなかで、時には質素に見えるかもしれないが、みんなが実際に食べているリアルなトレイルフードだ。

そこには、旅を楽しむための大事なエッセンスや、アクティビティをする上での実践的なTIPSが詰め込まれているはず。そんなリアルなトレイルフードが知りたくて、この連載記事を立ち上げた。

第2回目の今回は、以前『LONG DISTANCE HIKER』の連載企画にも登場してくれた、長沼商史 (ながぬま ひさふみ) a.k.a. GNU (ヌー) さんだ。

ロング・ディスタンス・ハイキング × トレイルフード


これまで何千kmにもおよぶロングトレイルを歩いてきた長沼商史さん (ヌーさん) は、一体なにを食べているのか。

ヌーさんは、2012年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT ※1) をスルーハイクし、2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT ※2) をセクションハイク、さらに2013年末から2014年の頭にかけてNZのテ・アラロア (TA ※3) をスルーハイクした、ロング・ディスタンス・ハイカーである。

『LONG DISTANCE HIKER』の連載 (詳しくはコチラ) に登場してもらった際は、自身のロング・ディスタンス・ハイキングの向き合い方や楽しみ方をたっぷり語ってくれた。また、釣り好きとしても知られていて、『釣歩日記』という書籍も出している。

そんなヌーさんは、実際のところ、ロング・ディスタンス・ハイキングで何を食べているのだろう? 下記2つの視点で紹介してもらった。

・「食べる頻度の高い」トレイルフードベスト3
・「記憶に残る」トレイルフード

第1位:インスタントラーメン


アメリカのスーパーでたいがい手に入る、日清のトップラーメン。これに、ツナやスパムを加える。

■ 頻度が高い理由とお気に入りのポイント

まず大前提として、ロング・ディスタンス・ハイキングのトレイルフードは、どこの町でも調達できるもの。安価で、軽いもの。そして、ちゃんとカロリーが摂れるものを選んでいる。あとタンパク質も。

オレの夕食は、ほぼ毎日これ。クッカーの掃除がラクなのがいい。水場じゃないところでで泊まる時は、水を入れてゆすいで、スプーンで少し擦って、その水を飲む。

雑にやると翌朝のコーヒーは少しラーメンの味がするけど気にしない。どうせインスタントコーヒーだし (でも朝のコーヒーは最高)。

さらに、飽きないのと、まあまあなカロリーがあって食った感があるのもいい。汁物というのもうれしい。汁は疲れたカラダに沁みる。

アメリカだと日清 (NISSIN) の「トップラーメン (TOP RAMEN)」が定番。味のバリエーションも、チキンやビーフ、チリといろいろあるので複数買い込んで、その日の気分で味を選んでいる。ニュージーランドと日本だと辛ラーメンが多いかな。

オレにとってロング・ディスタンス・ハイキングは、魚を釣って食べたい! 朝のコーヒーを飲みたい! 自然に浸りたい! っていうのが目的だから、そこにグルメやオシャレを持ち込んじゃうと違う遊びになっちゃうんだよね。なので、トレイルでは基本的にただの「エサ」を食べてる。美味しいものはトレイルじゃなくて町で食べればいい。そう割り切ってトレイルフードを選んでいる。

■ 作り方

軽量化&コンパクト化のため、事前に数日分のインスタントラーメンをぜんぶ粉々にして、大きめのジップロック1つに放り込んで携行する。

そこから食うぶんだけクッカーに入れて、さらにちょい足しで、フリーズドライのお米を加えたり、あるいは、ビーフジャーキーや魚肉ソーセージ、ツナ、スパムといったタンパク質系をぶっこむ。野菜? しらねぇーよ (笑)。

第2位:ポテトチップス


アメリカでおなじみレイズのポテトチップス。これはオリジナルの塩味だが、他にもサワークリーム&オニオン、ソルト&ビネガーなどがある。

■ 頻度が高い理由とお気に入りのポイント

ロング・ディスタンス・ハイキング中、夕食はほぼ「インスタントラーメン」なので、2位と3位は行動食。

そのなかでも、ポテチ (ポテトチップス) はとにかくよく食べる。なんと言っても、歩くのに必要な栄養 (炭水化物、塩分、油など) が摂れるし、重さに対するカロリーも他のフードよりも高い。

スルーハイキングみたいに、数千km歩くとなると、実際のところかなり必死に歩くんだよね。みんなが思っているより、スルーハイキングはスポーツなの。

だから、重いものを運ぶとしたらよっぽど譲れないものだけ。美味しい「食」はオレは捨てているけど、これで歩けるのか歩けないのかっていうのは大事だから、重量に対するカロリーにくわえて、タンパク質、炭水化物は、かならず見ちゃうよね。

ちなみにポテチは、粉々にして袋からダイレクトに食べれば手を汚すこともないし、味が選べるのもうれしい。食欲がなくてもなぜか食べられてしまう、オレの必需品。

■ 作り方

パッキングのことを考えると、できるだけ体積を小さくしたいので、まずポテトチップスの袋の上側の真ん中を少しだけ開けて、中に封入されているガスだか空気だかを抜く。

次に、袋を揉んで粉々にする。空気を抜きながら穴の開いているところからクルクル小さく丸めてジップロックに入れる。もっと軽くしたい時は、中身だけジップロックへ。

ちなみに、中身だけジップロックに入れてから揉むと、ジップロックが破けてしまうので、ポテトチップスの袋の状態で揉むのがポイント。

第3位:スニッカーズ


クマ対策用のベアキャニスターにたんまり入れたスニッカーズ。

■ 頻度が高い理由とお気に入りのポイント

重さに対して、とにかくカロリーが高い。

これに勝るヤツとなると、もう油を飲むとかになっちゃう。ロング・ディスタンス・ハイキングにおけるハイカロリー行動食として、ギリギリのラインかな。

毎日かならずチョコレート類は食べてるね。山でも町でも普段も、大好きだから。

本当はキットカットが一番好きだけど、溶けてしまった時に、キレイにすべて食べるのが難しく、スニッカーズのほうが少しだけましなんだよね (スニッカーズのほうが溶けたときのドロッドロッ具合が少しだけ硬い。キットカットはほぼ液体になる)。

夕食以外は、基本的に行動食のみなんだけど、休憩のたびに何かしら必ず食べるようにしていて、ずーっとおやつを食べてるイメージ。このスタイルでシャリバテをしたことがない。

■ 作り方

スーパーで買って袋を開けてかじるだけ。

記憶に残るトレイルフード:ヒマワリの種


アメリカはコロラド州のブランド、ロッキーマウンテンのヒマワリの種。フレーバーはいくつかあるが、これはサワークリーム&オニオン。

■ 記憶に残る理由とお気に入りのポイント

ナッツ類はいつも持って歩いていて、なかでもヒマワリの種はもともと好きな食べ物。

PCTのオレゴンあたりを歩いていた時のこと。夕方 (時間的には夜)、地形図をよく見ないで歩いていた。

野営するための平らな場所を探していたんだけど、なかなか見つからずにあたりはすっかり暗くなってきた。

もう歩く元気も体力もなくなってきた時に、なんの気なしにこのヒマワリのタネを口に放り込んでみた。そしたら、急に元気が出て、野営地を見つけるまで無事に歩くことができた。オレの救世主になってくれた、思い出深いトレイルフード。

■ 作り方

これも、袋を開けて口に放り込むだけ。


夕食時のひとコマ。スノーピークのチタンシングルマグ600を愛用しているので、作るのはこれで事足りるシンプルな料理のみ。

ロング・ディスタンス・ハイキングでは、常にだいたい5〜7日分の食料を持ち運ぶので、それだけでそれなりの重量になる。だからこそ、トレイルフードは重量に対して効率よくカロリーを摂取できるものを選ぶ、というのはヌーさんだけでなく、他のハイカーにも共通することだろう。

ヌーさんのように、「美味しいものは町で食べればいい」という割り切りも、とてもハイカーらしい。

またどこのスーパーマーケットでも調達できる食料で組み立てるのも、ロング・ディスタンス・ハイキングらしいトレイルフードの特徴だ。

また次回の『トレイルフード』もお楽しみに!

※1 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※2 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 TA:Te Araroa (テ・アラロア)。ニュージーランドの北島から南島を縦断する、総延長3,000kmのトレイル。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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