TRIP REPORT

NIPPON TRAIL #07 摩周・屈斜路トレイル + 釧路川 HIKING & PACKRAFTING 〜【前編】美留和 to 砂湯 ハイキング

2020.11.06
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

NIPPON TRAILの第7弾は、「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」だ。

今回の旅は、前回の『北加伊道・クスリの道』の続編にあたる。北根室ランチウェイをきっかけに摩周湖、屈斜路湖、そしてリバートレイルとして釧路川をつなげて、ハイキングとパックラフティングで旅するというアイディアに、TRAILS編集部crew一同が盛り上がった。

前回の『北加伊道・クスリの道』は、僕らの初期衝動を深めるため、北海道らしい厳冬期に行なったリサーチと実験の要素が強い旅であった。今回はそれまでのリサーチと実験をベースに、緑の季節に決行した純粋に楽しむことにフォーカスした旅である。

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この摩周湖、屈斜路湖のエリアに今年の10月にオープンしたのが、『摩周・屈斜路トレイル』である。

僕たちも構想段階から関わらせてもらっていた。当初は屈斜路湖一周のルートなどが検討されていたが、結果的には僕たちが望んでいた通り、北根室ランチウェイと接続するルートとなった。そして今、気候の心配をせず気軽に楽しめるこのシーズンに、あらためてTRAILSがずっと思い描いていた釧路川もつなげた旅をすることにしたのだ。

ちなみにパックラフトは、アルパカラフトの2種類のタンデム艇 (2人乗り艇) 、旧Explorer 42とOryxの2艇を、ギアテストの要素も含めて使ってみた。

今回のスタート地点は、美留和駅。TRAILS編集部crew全員が歩いたことのある北根室ランチウェイの西の起点から、旅の続きを始めることにした。1日目はここから硫黄山 (アトサヌプリ)、川湯温泉をとおって砂湯キャンプ場までをハイキング。

2日目は、パックラフトをハイキングの延長線上にある道具と捉えている僕らは、屈斜路湖から流れ出す、釧路川の源流部をリバートレイルとしてパックラフトで川下りをした。

この前編では、1日目のハイキングの旅をお届けする。


TRAILS編集部crew4人によるハイキング & パックラフティングの旅がはじまる。



『北加伊道・クスリの道』のセクションとしての摩周・屈斜路トレイル



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『北加伊道・クスリの道』は、北根室ランチウェイ(71.4km)の西の終点・美留和から摩周・屈斜路トレイルを経て、釧路川へとつなげていく。総延長は約170km。今回は、DAY1 (美留和〜砂湯) 、DAY2 (砂湯〜釧路川〜美留和橋) という行程で旅をした。

TRAILSがNIPPON TRAILとして見出した『北加伊道・クスリの道』。

NIPPON TRAILは、TRAILS編集部crewによる “MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる” 楽しみであり、TRAILSらしい、日本におけるロング・ディスタンス・ハイキングの、旅の仕方を模索する取り組みである。

NIPPON TRAILでは、歩くエリアについて深く知りたい、より濃密な体験をしたい。そんな欲求から、そのエリアについて、過剰に掘り下げる作業をくりかえしている。

そして自分たちなりの「NIPPON TRAIL」という、ヤバい旅を探しながら歩いているのだ。

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松浦武四郎が残した屈斜路湖周辺の地図。このときは屈斜路湖は「クスリ湖」と表記されている。(松浦武四郎『久摺(くすり)日誌』より)

僕たちは、北海道の道東の地を何度も訪れるなかで、ここが北海道と呼ばれる前からアイヌの人々が暮らし、文化を育んできたことを知った。

蝦夷地 (明治以前の北海道・樺太・千島の総称) と呼ばれていたこの地は、1869年 (明治2年) に北海道と命名された。しかし、当時別の名称案として『北加伊道』もあった。

「カイ」という言葉はアイヌ語で「この地に生まれた者」を指し、すなわち『北加伊道』とは、「北にあるアイヌ民族が暮らす大地」という意味だ。

さらに、屈斜路湖畔に住んでいたアイヌの人たちは、この土地に湧く温泉を病気やケガの「クスリ」 (薬と同じ意味) と呼んでいた。屈斜路湖は「クスリ・トゥ (湖)」、釧路川は「クスリ・ベツ (川)」。つまり、この一帯がクスリの地であったのだ。

僕たちが歩いているのは、まさしく北加伊道であり、クスリの道にほかならない。そんな経緯からNIPPON TRAIL『北加伊道・クスリの道』とした。

今回の旅のオリジナルのアイディアである『北加伊道・クスリの道』の詳細については、ぜひ前回の記事も合わせて読んでもらえると嬉しい。



硫黄の匂いが町中にあふれる、トレイルタウン「川湯温泉」で前夜祭



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強酸性のお湯が特徴の川湯温泉は、『源泉100%かけ流し宣言』をしている温泉街として有名。

旅は、前夜祭からはじまった。

前日入りしたcrew一同が合流したのは、摩周・屈斜路トレイル (MKT) のトレイルタウン (※1) である川湯温泉。

昔から硫黄山 (アトサヌプリ) の噴気現象により地下水が熱せられ、温泉が湧きだしていたため、このエリア一帯は、アイヌの人々に「セセキベツ(湯の川)」と呼ばれていた。

温泉宿に、TRAILS編集部crewが集結。まずは乾杯からだ。

※1 トレイルタウン:ロングトレイル沿いにある町のこと。ハイカーにとっては欠かせない存在で、この町で食料を補給したり、宿に泊まって休んだりする。アメリカのトレイルのスルーハイカーのほとんどは、お気に入りのトレイルタウンがいくつかあるものだ。

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佐井、カズ、小川の3人は羽田発の夜の便で到着し、すでに現地入りして摩周・屈斜路トレイルのスルーハイクを終えたばかりの根津と合流。いい旅になることを願って、みんなでカンパイ!

ロング・ディスタンス・ハイキングにおいてトレイルタウンはハイカーのオアシスでもある。テント泊だけではなくこうやって地元の宿に泊まるのは、ローカルを味わう上でもうってつけだ。

NIPPON TRAILでは、自然のなかで野営するだけでなく、町や集落のカルチャーを楽しむために、旅のどこかで、かならず地元の宿に泊まるようにしている。

今回も、釧路港であがった秋刀魚や、北海道のオホーツク和牛、網走産のしじみなど、地のものを腹いっぱいいただいた。

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泊まったのは欣喜湯 (きんきゆ)。1941年に欣喜荘として創業した歴史ある温泉宿で、低・中・高、3つの温度に分かれた温泉浴槽が魅力のひとつ。



北根室ランチウェイの西の起点からスタート



今回、僕たちがスタート地点としたのは、美留和駅。北根室ランチウェイの西のゴール地点である。

2020年10月8日に閉鎖の発表があったが、また違った形でもこのトレイルが残りつづけることを僕たちも願っているし、どうあるべきか、何ができるのか、TRAILSとしても日々模索している。ただ、北根室ランチウェイのステージ5〜6の摩周外輪山のルートは、既存の登山道にもなっているため、今も歩くことができる。

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4人のバックパックには、パックラフティングとキャンピングのギアもパッキングされている。美留和駅の駅舎は、貨物列車の車両を再利用したユニークな佇まいだ。

摩周・屈斜路トレイルの摩周湖から美留和駅までの道は、北根室ランチウェイのルートとも重複している。僕らは過去に歩いた北根室ランチウェイの旅のつづきを歩くべく、西のゴールであった美留和駅からスタートした。

それはNIPPON TRAILにとって重要なストーリーであり、僕らの北根室ランチウェイへの思いとしても大切なことだった。

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スタート後しばらくはロード歩き。人もクルマもほとんど通らないまっすぐな道を歩いていく。

美留和駅を出発し、しばらくはロードを歩いていく。町と山をつなぐロング・ディスタンス・ハイキングにおいて、ロードはかならず通るもの。ただひとり無心でリズムよく歩いていくのもよいが、こうやって仲間と話しながら歩くのも楽しいものだ。

また、このセクションは、道東らしい広大な畑作地帯、酪農地帯であることも特徴のひとつ。とにかく開放感が半端ない。道もまっすぐに伸びていて、このままどこまでも行けそうな気がしてしまうほど。

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ランチ後の昼寝タイム。正面に見えるのは硫黄山 (アトサヌプリ) の南東面。

ロード脇のスペースで、僕たちはランチ休憩を取ることにした。地元の人にとってはなんの変哲もない普通の風景かもしれない。でも、僕たちにとっては特別な風景だったし、こんなところで寝そべってくつろげるのも、広大かつ人通りが少ないからであり、まさに北海道ならではだろう。

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行動食のポテトチップスを豪快にほおばる根津。



今なお噴気を上げつづける「裸の山」



川湯温泉駅を経由して、青葉トンネルへ。突如として、これまでの町の雰囲気や人里感がなくなり、大自然に放り込まれた感じがした。

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木々がトンネルのように茂っている青葉トンネルは、木漏れ日に溢れ、神秘的な雰囲気をまとっていた。

青葉トンネルを抜けると、さらに様相が一変。畑作地帯や酪農地帯が広がる道東のイメージとはかけ離れた、異世界に迷い込んだかのよう。

そこにあったのは活火山として有名な硫黄山 (アトサヌプリ) だった。前回の『北加伊道・クスリの道』のときも含め、何度も訪れたことがある場所なのに、この景色には毎回圧倒される。

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ゴウゴウと音を立てて噴気する硫黄山を目の前に、ただただ圧倒されるばかり。

硫黄山は、アイヌ語でアトサヌプリと呼ばれ、「アトサ=裸」の「ヌプリ=山」という意味なのだが、まさしく裸の山と呼ぶにふさわしい山容だった。

あちこちから立ちのぼっているのは水蒸気で、あたりには硫黄の匂いが充満している。いまにも噴火しそうなくらいの雰囲気だった。

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噴気の様子を間近で見ることもできる。こんなに近づいて大丈夫なのか? と不安になるくらい。

硫黄山の麓からは、つつじヶ原自然探勝路 (たんしょうろ) という道が川湯温泉までつづいている。

名前だけ見ると、ツツジが生い茂っている遊歩道のようだが、そうではない。ここ一帯は、硫黄山による火山ガスや強酸性の土壌の影響で、標高150mほどにもかかわらず、イソツツジやハイマツなどの高山性植物をはじめ、限られた植物しか存在しない。

かなり奇異な光景が広がっていて、そのなかを大きく蛇行するトレイルが通っているため、樹海のなかの迷路をさまよっている感じがした。

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硫黄山〜川湯温泉まで、約3kmにわたってつづく「つつじヶ原自然探勝路」。



屈斜路湖畔で味わう、焚き火キャンプとローカルフード



今日の宿泊地は、屈斜路湖の湖畔にある「砂湯」。湖畔の砂浜を掘ると温泉が湧きでてきて、お手製の小さな野湯を楽しむことができる場所である。

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日暮れ近くに砂湯に到着。屈斜路湖の外輪山に沈んでいく夕日が、ことのほか美しかった。

焚き火を囲み、最高の夜のはじまりだ。昨夜の前夜祭では、トレイルタウン・川湯温泉の宿を堪能したが、今日は打って変わって屈斜路湖の自然のなかの野営。この両方を味わえるのは、ロング・ディスタンス・ハイキングのフィールドとしてはベストだろう。

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こうやって焚き火を囲んでいるだけで多幸感でいっぱいになるのは、なぜなのだろう。

刻々と漆黒の闇が深まっていったが、焚き火を眺めているとそんな変化も気づかないほど、まるで時間が止まったかのような感覚におちいっていた。

さて、晩ごはんだ。

やっぱりここはローカルフードでしょ! ということで、事前に地元のスーパーで仕入れた、弟子屈産の「じゃがいも」と「コマイの一夜干し」(※2) を、まずは焼き始める。じゃがいもはホクホクだし、コマイの一夜干しは、旨みがつまった身で、ほどよい噛みごたえもあり、酒の肴としても最高だ。

※2 コマイ (氷下魚):日本近海、特に北海道の東側に生息するタラ科の魚。北海道ではなじみの魚である。

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近海で漁れたコマイの一夜干しは、旨味がギュッと凝縮していた。

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弟子屈産の「じゃがいも」のバター炒めは、濃厚で満足感高し。

北海道の自然のなかでの焚き火に、ローカルフード。これさえあれば、もう他には何もいらなかった。

明日は摩周・屈斜路トレイルと隣接する釧路川を、リバートレイルとしてパックラフトで下っていく。

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今回のTRAILS編集部crewの野営スタイルは、「ハンモック泊」と「タープ+パックラフト泊」。詳細なギアレビューは後日公開するのでお楽しみに。

『北加伊道・クスリの道』は、活火山、湖、野湯、アイヌの暮らし……。まさにこのエリアにしかない、自然とカルチャーを歩きながら、漕ぎながら感じていく旅だ。

前回の厳冬期にリサーチと実験をした『北加伊道・クスリの道』を、暖かい季節に旅するのは、想像した以上に爽快で最高だった。雪の景色も圧巻だったが、木々の緑と湖のブルーに溢れたトレイルも素晴らしい。

今回の旅では、実際にパックラフトをバックパックに詰め込みながら、1日目はハイキング & キャンプ。そして次回の後編では、バックパックに詰め込んだタンデム艇のパックラフトを膨らませ、湖畔のトレイルから、そのままリバートレイルである釧路川へとつなげて旅していった様子をお届けする。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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