TRIP REPORT

コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) | #04 トリップ編 その1 DAY1~DAY39 by Gazelle(class of 2022)

2025.07.30
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文・写真:Gazelle 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2022年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Gazelleによるレポート。

全4回でレポートするトリップ編のその1。今回は、CDTのスルーハイキングのDAY1からDAY39での旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


コンチネンタル・ディバイ・トレイル (CDT:Continental Divide Trail)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

グレーシャー・ナショナル・パークよりCDTのスタート! (DAY1〜DAY3)


Jackと歩き始めた。

アムトラック高速鉄道をセントメアリー駅で下車した。ここはCDT最初のセクションであるグレーシャー・ナショナル・パークの南端の町だ。

ここから北のスタート地点までは、さらにヒッチハイク等で移動する必要がある。

北のスタート地点はウォータートンとチーフマウンテンの2箇所の選択肢がある。ウォータートンはカナダからスタートするルートで手続きが煩雑なので、僕は国境からスタートするチーフマウンテンルートを選択した。

駅から出てさっそくヒッチハイクを始めると、20代前半ぐらいのハイカーJackに「きみCDTハイカー?」と声をかけられた。「うん、去年はPCTを歩いたよ」と答えると、「そっか!ワクワクするね!俺たちはハイキング中毒だよ!」と満面の笑みだ。

彼はすでにPCTもATも歩いていて、今回でトリプルクラウンとのこと。それまで緊張気味だった僕は、テンション高めで話す彼のおかげで緊張がほぐれた。一緒にヒッチをし、スタート地点を目指すことになった。彼とはこれから3ヶ月ぐらい付かず離れずの距離で歩く事になる。


カナダ国境のモニュメント。

2022年、6月22日。いよいよCDTを歩き始めたわけだが、初日には熊が僕に向かって走って来てベアスプレーで応戦し、2日目には雪渓のトラバースで滑落しそうになってアックスでなんと止まることができたり、稜線の爆風で座り込んで動けなかったりと、なかなか刺激的なスタートをきった。

グレーシャーナショナルパークは氷河が削り作った深い渓谷や美しい湖、大草原などの広大な景色が広がる。多くの野生動物にも会える。僕はスタートして2日でムース、ブラックベア、ビーバー、マウンテンゴートに会った。


左手前にいるのはムース。

この年、グレーシャーの真ん中あたりのトゥーメディスン近くのトレイルで牛が凍死していて、それを目当てにグリズリーが集まっているということでトレイルが閉鎖していた。それを迂回するために、最初の補給地点であるイーストグレーシャーまで30マイルほどロードを歩くことにした。しかし、とにかく見渡す限り絶景なのでロード歩きも全く苦にならなかった。

イーストグレーシャーから次の町オーガスタまでは、CDTの中では最長の5〜6日ほどかかる予定だ。

大量の食糧を買い込みゼネラルストアを出ると、町中なのにブラックベアが走っていた。CDTはそういうトレイルだ。

初日に熊と待機した悪夢から、夢でもつきまとわれる。(DAY4〜DAY15)


ここがトレイルのはず。

僕はグレーシャーで熊と対峙してからというもの、黒い岩や切り株が視界に入っただけでビクッ!としてしまうほど、熊にビビりまくっていた。早撃ちガンマンのように、いつでもベアスプレーを抜けるように意識して歩いていた。

ボブマーシャルに入って2日目。ブローダウン(倒木)が酷いセクションに入った。ハリケーンが多発するアメリカのトレイルではブローダウンはどこでもあるが今回は過去一番酷い。

くぐってよじ登っての繰り返しでなかなか前に進めない。木のジャングルジムのようだ。進むにつれてどんどん酷くなり瓦礫の上を歩いてるような状態だ。もはやどこがトレイルなのか分からない。


メッシュテントだけで眠りにつく。

ヘトヘトになりながらなんとか日が暮れる前にテン場に着くと、2人のハイカーがテントをセットしてキャンプファイヤーを囲んでいた。彼女たちは数年かけてCDTを歩いてるセクションハイカーで、この先のセクションのことや、食糧を木に吊るすコツなどいろいろ親切に教えてくれた。

しばらく話した後、星がきれいだったので、僕はメッシュテントだけを張って眠りについた。それからどれくらい経ったか分からないが夜中にふと目が覚めた。

すると目に入ってきたのは綺麗な星空ではなく、テントに覆い被さってくる大きな熊の姿だった!!「うわー出た!ベアーだ!うわー!!!」僕はパニック状態でとにかく叫んだ。2人のハイカーも飛び起きて僕の方にライトを向け「Gazelle大丈夫か!!グリズリーか!!どこだ!?」

が、次の瞬間、熊は消えていた。テントには穴一つ開いてなかった。

夢だったのだ。

まだ心臓バクバクだったが、恥ずかしいのとみんな疲れているのに起こしてしまって申し訳ない一心で2人には全力で謝った。「しょうがないよ。無事で良かった。おやすみ」と笑顔で許してくれた。


チャイニーズウォール。


雪が深いと石も小枝もなかなか見つからない。

ボブマーシャルでは、チャイニーズウォールなどの壮大な断崖絶壁の景色が見られる。

しかし雪が深いところもあり何度もトレイルを見失った。真っ白な雪上キャンプではテントのセットアップにも苦労し、寒すぎて熟睡できない日もあった。

また、雪解け水で増水した川の渡渉が連続する。


渡渉中に転倒してしまい何もかもズブ濡れになった。

アナコンダの美しい湖で、CDT初のトラウトをキャッチ。 (DAY16〜DAY20)


CDT初のトラウト。

アナコンダに近づくにつれて単調なダートロード歩きが始まる。

アナコンダは、オントレイル=トレイル上にある町だ。この町では数日前に仲良くなったPinkmanと一緒に、ハイカーハットというハイカー用の無料のプレハブ小屋に泊まらせてもらった。Wi-Fiありコンセントありハイカーボックスありでめちゃ快適だった。

翌日は数名のハイカーとスーパーでリサプライを済ませた。ここからは釣りをしながらのんびり歩きたいと考え、みんなに「トレイルで会おう」と告げ、1人で歩き始めた。数マイル歩いて夕方に差し掛かると、ツインレイクという美しい湖で魚影が見えた。すぐに竿を振ると、CDT初のトラウトをキャッチすることができた。

この写真をSNSにアップすると日本の友人が、「ヘルペスなってるやん!薬もってないなら病院行きなよ!」というメールをくれた。
けどこの時はヘルペスの事をよく分かっていなかった。

アイダホ-モンタナの州境。石丸くんと合流。(DAY21〜DAY37)


湿地帯でのキャンプ。メッシュテントが無ければ安眠できないだろう。

南下するにつれ、うっそうとした樹林帯や沼地を蚊やサシバエ(ブヨみたいなやつ)に囲まれながら歩くシーンが増えた。

血を吸われたり、かゆくなったりするだけならまだいいが、奴らは目に挟まるし鼻や口にも飛び込んでくる。ここでは虫除けスプレーは何の役にも立たない。


先へ進むのがもったいないほどの気持ちいい稜線歩き。

モンタナとアイダホの州境をなぞって歩くセクションに入ると、ガラッと雰囲気が変わった。美しい稜線歩きにテンションが上がる。

僕には楽しみがあった。僕にCDT挑戦を煽ってくれた石丸くんが僕より1ヶ月前にメキシコ国境をスタートしカナダを目指してNOBO (北上) で歩いていて、ちょうど次の町で会えそうなのだ。


体にも広がるヘルペス。

このころ、口にできた小さなヘルペスってヤツはいつの間にか全身に広がっていた。

調べると「紫外線や疲れや不潔が主な要因」とのこと。

ほうほう、なるほど。今はどれも取り除けない。

ライマのモーテルに着くと、玄関先のベンチに小汚い石丸くんが座っていた。僕が遅れたせいでレストランに行けなかったが、ゼネラルストアでピザやビールを買い込み周りのハイカーも誘って公園パーティだ!

すでに3000キロ超を歩いてボロボロの石丸くんは、「たいへんだったよ」と言いながらも目はキラキラしていた。


石丸くんとSkybirdと。

翌朝、モーテルのオーナーが100キロほど離れた街にある病院に連れていってくれた。この時一緒に歩いてたSkybirdが英語力の弱い僕のために「先生にこれを見せなさい」と言って手紙を書いてくれた。

処方された抗生物質の飲み薬と軟膏を使うと数日でヘルペスは治った。


Skybirdが書いてくれた手紙。

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WRITER
Gazelle

Gazelle

20代はサーフィンに熱中し、20代の終わりにサーフィンのためにワーキングホリデーでオーストラリアに1年滞在。2017年の四国お遍路をきかっけに、フィールドを山へと広げ、ロング・ディスタンス・ハイキングにハマる。2021年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT)、2022年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) をスルーハイキング。

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