LONG DISTANCE HIKER #23 西蔭亮佑 | 「生きること」を掴み取るための、ロング・ディスタンス・ハイキング
話・写真:西蔭亮佑 取材・構成:TRAILS
What’s LONG DISTANCE HIKER? | 世の中には「ロング・ディスタンス・ハイカー」という人種が存在する。そんなロング・ディスタンス・ハイカーの実像に迫る連載企画。
何百km、何千kmものロング・ディスタンス・トレイルを、衣食住を詰めこんだバックパックひとつで歩きとおす旅人たち。自然のなかでの野営を繰りかえし、途中の補給地の町をつなぎながら、長い旅をつづけていく。
そんな旅のスタイルにヤラれた人を、TRAILS編集部Crewがインタビューをし、それぞれのパーソナルな物語を紐解いていく。
* * *
第23回目に紹介するロング・ディスタンス・ハイカーは、西蔭亮佑 (にしかげ りょうすけ) くん a.k.a. Freebie (フリービー)。
亮佑くんは、2025年にCDT (※1) をスルーハイキングしたハイカーだ。
初の海外ロングトレイルの準備として、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』(※2) の事前ワークショップにも参加してくれた。
亮佑くんは、自然豊かな徳島の上勝町 (かみかつちょう) で生まれ育った。実は中学生のときから10年間、長い引きこもりの生活をしていたが、それを抜け出したきっかけのひとつがハイキングであったという。
その亮佑くんが、29歳の年に、最初のロング・ディスタンス・ハイキングとして、難易度の高いCDTにチャレンジをした。
自分が嫌いであったという亮佑くんが、ハイキングと出会い、どのように自分を肯定していく力を掴み取ったのか。そしてどのようにCDTの旅をしたのか。亮佑くんの言葉を聞いてみてほしい。

2025年にスルーハイキングしたCDTにて。
引きこもりだった自分がCDTをロング・ディスタンス・ハイキング

CDTをともに歩いた仲間と。
—— TRAILS編集部:亮佑くんは、そもそもハイキングを始めたきっかけは何だったの?
亮佑:「実は僕、中学1年生のときに、友人関係をこじらせたのをきっかけに、10年くらい引きこもりだったんです。
本当にひどいときは、部屋からも出られず、親にごはんを部屋まで持ってきてもらう、とかそういう感じだったんです。自分がめっちゃ嫌いだったんです。
ゲームとかアニメとかずっと見てたんですけど、だんだんそれも飽きてきて。23歳のときに、引きこもりから脱出しようと試みたんです。まずは自分を好きになれるようになろうと。ハイキングもそのために始めたもののひとつだったんです。」

延々に続くシングルトラックの景色。
—— TRAILS編集部:引きこもりからの脱出できるか、もがいているなかでハイキングと出会ったんだね。
亮佑:「そうです、ハイキングができるようになることを目標に設定して、引きこもりからの脱出を試みたんです。
ハイキングをする前に、最初は自己肯定できるように、とにかく自分を褒める、ということを徹底することから始めました。
『目覚ましをかけて起きれた。すごいじゃん、俺!』『料理を作った。天才だな、俺!」とか、なんでも褒めるようにしてたんです。
社会復帰して仕事するためには、体力も必要だと思って、ランニングも始めて。ランニングって、やればれるほど、走れる距離が長くなったり、スピードが早くなったり、わかりやすく成長するじゃないですか。
それまでは無理やり自分を褒めていた感じだったけど、素直に自分を褒めることができるようになって。それで、どんどん自己肯定感が上がっていったんです。」
—— TRAILS編集部:ハイキングは、どんな気持ちにさせてくれたの?
亮佑:「引きこもってた時代は、周りのことをすごい気にしてたんです。笑われているんじゃないかととか。嫌なことばかり考えてて。それで、どんどん行動ができなくなって。
ハイキングをしていると、嫌なこと全部忘れられるんです。気持ちがいいなーとずっと感じられて。思考もポジティブになれるんですよね。」

トレイルライフを送るなかで、歩く生活にどんどんハマっていった。
—— TRAILS編集部:ロング・ディスタンス・ハイキングはどうやって知ったの?
亮佑:「YouTubeのレコメンドで表示された動画をたまたま見たのが最初に知ったきっかけでした。
それをきっかけにいろいろ調べて。最初はPCTについて調べてたんです。もう、ありえんくらいの絶景じゃないですか。この景色、俺も見たいなー、と。
でも、半年も歩くとか考えられなくて、最初は現実味がなかったです。
でも、実際にロングトレイルを歩いたハイカーが登壇しているイベントに行ってみて、直接話してみたことで、だんだん自分も行けるのではと思うようになったんです。」
—— TRAILS編集部:最初はPCTに憧れたけど、最終的になんでCDTを歩くことにしたの?
亮佑:「僕は自己との対話とか、自分と向き合えることが、ロング・ディスタンス・ハイキングの核心なんじゃないかと感じるようになってたんです。
アメリカの3大トレイルを歩いた清田勝さんに会ったときに、そんなことを話したら、だったらPCTよりCDTの方が向いているんじゃない?と言われて。
周りからもCDTの難易度の高さについては言われましたが、自分としては真っ直ぐに、じゃあCDTに行ってみよう!となりました。
これからの人生は「後悔しない選択をしたい」」だからCDTにも来た。

イエローストーン国立公園にて。
—— TRAILS編集部:いざ、CDTを歩き始めてみて、どうだった?
亮佑:「最初、早く山の中に入りたい。早く歩き出したい、ってうずうずしてました。
スタートする時に、現地に着いてからちょうどスノーストームが来てしまって、なかなか歩き出せなくて。
いざ、歩き出してみると、『きっつ!』という感じで (笑)。ロング・ディスタンス・ハイキングの洗礼を受けましたね。
国立公園のパーミットの関係で一緒に歩いたハイカーが、めちゃめちゃペースが早くて。しかも雪で足がふやけて皮がはがれて、針に刺されたような痛みのなか歩いたんです。」
—— TRAILS編集部:いきなり洗礼を受けたんだね。その洗礼を受けた後は、どうだったの?
亮佑:「歩く生活が、どんどん楽しくなっていきました。
朝起きて、ご飯食べて、歩いて、歩いて、歩いて、テント立てて、寝る。自分は、山のなかにいられる生活が、好きなんだと思いました。歩くこと自体も好きですね。それが毎日できる喜びを感じてました。ほんとに歩く生活自体が楽しかったですね。」

ウィンドリバーレンジの景色。
—— TRAILS編集部:途中、オフトレイルの難易度が高いところも、チャレンジしたんだよね。
亮佑:「アイダホのリードアというの町におりた。CDTのclass of 2024を歩いたハイカーの本が置いてあったんです。その本に、それぞれのハイカーがCDTで一番よかったところが紹介されてて、そのなかでウインドリバーレンジにあるオフトレイルを知ったんです。
トレイルもないようなところで、ものすごい絶景で、って知ったら『行かな、あかんやつだ』という気持ちが止められなくなってしまって。
難易度も高いので悩みましたし、他のハイカーとも相談したんですけど。天候なども調べて、『後悔しない選択をしたい。だからCDTにも来た』と思って、チャレンジすることにしました。」
—— TRAILS編集部:実際に、歩いてみてどうだったの?かなりシビアだったんだよね。
亮佑:「実際、難易度がとても高くて、死のリスクもあるところでした。ずっと怖かったです。
『命を捧げて歩く』という感じで。サンダーストームにも遭って、高山での雷も体験して、ほんとに雷の音が人を殺しに来るような迫力で。でも決められたルートもなく、五感と身体能力をフルに発揮して進む感じが、『自由』だと思ったんです。
景色も本当にすごくて。ハイカーやトレイルエンジェル、ヒッチハイクで乗せてくれた人との交流もとても楽しかったんですけど、CDTで一番印象に残っているのは、このオフトレイルの体験ですね。」

ウィンドリバーレンジのオフトレイル。
—— TRAILS編集部:ロング・ディスタンス・ハイキングを歩く動機として大切にしてた「自分の内面と向き合う」ということについては、歩いてみてどうだったの?
亮佑:「CDTを歩くなかで、自分の心のあり方とも向き合うことができました。
自分のなかのいい感情も悪い感情も、もとの根っこにはあるも無色のものなんじゃないかと考えるようになって。それに自分で色づけをして、良いとか悪いになっているだけなのかなと。
もとの根っこは同じだから、悪い感情を抱いていたとしても、それは良い感情の可能性も持っているものなんじゃないかと。だから、悪い感情を持ってしまったからダメとかじゃなくて、それを否定しなくていい。それを受け入れる。そのままでいい。そう思えるようなりました。」
—— TRAILS編集部:とても深いところで自分と向き合う体験をしたんだね。
亮佑:「歩いててもイラついてしまうこととか、前の彼女のことに未練を感じたりとか、いろいろ感じることはありました。
そのときに、自分はネガティブな感情をむりやりねじ曲げたり、封印しようとしてしまうようなことをしてたんです。
でも、もともとは良いも悪いもないものなんじゃないかと考えられるようになって。そうしたら顕在化した自分の気持ちに振り回されすぎないように、少しなれたような気はします。」
やっぱり山の生活が好き。

トレイルで出会ったハイカーと。
—— TRAILS編集部:これまで話を聞いてきて、CDTの経験は、亮佑くんの人生のなかでも、とても大事なものになったのが伝わってきたよ。
亮佑:「CDTは本当に行ってよかったです。やっぱり山の生活が好きなんだな、というのも感じました。苦しいこともあるけど、楽しいことの方が多かったですね。もう忘れてるだけかもしれないですけど (笑)。」
—— TRAILS編集部:ゴールのときはどんな気持ちだったの?
亮佑:「意外とゴールの日はフラットな気持ちでした。その前日までは『もう終わりかー』とか少ししんみりしたんですけど。ゴールの日は、もう次にやりたいこととか、頭にいっぱい浮かべてましたね。」

大自然のなかでの生活を味わったCDT。
—— TRAILS編集部:この後にやりたいことは?
亮佑:「まずは来年、ニュージーランドへワーホリに行って、テ・アラロアを歩きたいと思っています。ニュージーランドの自然は前から興味があって、マオリの文化とかももっと知りたいなというのもあるので、次はニュージーランドかなと。
他にも、自転車、トレラン、サーフィン、狩猟とか、やりたいことはたくさんあります。地元の徳島で、畑やって、自分で家を建ててとか、自給自足的な生活をしてみたいなと思っていて。
まずは来年のニュージーランドに向けて準備ですね!」

CDTのゴールの南のターミナスにて。
This is LONG DISTANCE HIKER.
『 生きること 』
亮佑くんからは、『生きること』を掴み取りたいという、根源的な欲求を感じる。大自然のなかで歩き続ける生活するなかで、自分のなかにある『ありのまま』を知り、そして自分が本当に感じることのできる自由とはどんなものかを、まざまざと体験した。
いま亮佑くんの好奇心は爆発していて、これからの生きるあり方が、頭のなかに無数にある。自らもがいて、自分を肯定する力を体得した人間の強さがみなぎっている。
徳島の自然のなかで育った亮佑くんにとって、自然や命というものは、常に大切なものになっているのだと感じる。歩くことにかかわらず、自然とのより深い繋がりを求めて、今後の人生を送っていくのだろう。
TRAILS編集部
※1 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
※2 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年にTRAILSとHighland Designsで立ち上げたイベント。2024年4月に8回目を開催。
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