TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKER #22 堀田響志郎 | 子供から与えられたロング・ディスタンス・ハイキングの夢

2025.12.17
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話・写真:堀田響志郎 取材・構成:TRAILS

What’s LONG DISTANCE HIKER? | 世の中には「ロング・ディスタンス・ハイカー」という人種が存在する。そんなロング・ディスタンス・ハイカーの実像に迫る連載企画。

何百km、何千kmものロング・ディスタンス・トレイルを、衣食住を詰めこんだバックパックひとつで歩きとおす旅人たち。自然のなかでの野営を繰りかえし、途中の補給地の町をつなぎながら、長い旅をつづけていく。

そんな旅のスタイルにヤラれた人を、TRAILS編集部Crewがインタビューをし、それぞれのパーソナルな物語を紐解いていく。

* * *

第22回目に紹介するロング・ディスタンス・ハイカーは、堀田響志郎 (ほりた きょうしろう) くん a.k.a. Samurai (サムライ)。

堀田くん (以下、響志郎) は、2024年にPCT (※1)、2025年にCDT (※2) をスルーハイキングし、今後はAT (※3) を目指しているハイカーだ。

『LONG DISTANCE HIKERS DAY』(※4) にも、2024年に登壇してPCTの旅のエピソードを語ってくれた。

響志郎は九州の福岡で生まれ育ち、ずっと保育士として仕事を続けてきた。周りの人たちをいつも笑顔にする人柄は、保育士という仕事を選んだところからも感じられる。PCTをスルーハイキングするきっかけになったのも、保育園の教え子からの言葉であったという。

そんな響志郎のロング・ディスタンス・ハイキングのきっかけと思いについて聞いてみた。


2025年にスルーハイキングしたCDTにて。

「せんせいは、おおきくなったら、なにになりたいと?」


2024年にPCT、2025年にCDTを、2年連続スルーハイキングした。

—— TRAILS編集部:最初にロング・ディスタンス・ハイキングをしようと思ったのは、どういうきっかけだったの?

響志郎:「僕は地元の福岡で、保育士の仕事をずっとやってきたんですけど、教え子から言われた言葉が、ロング・ディスタンス・ハイキングのきっかけだったんです。

卒園式の準備のときだったんですけど、『大きくなったら何になりたい?』というのを子供が発表するための練習をやってたんです。そしたら、子供が僕に向かって、

『せんせいは、おおきくなったら、なにになりたいと?』

って言ってきたんです。そのさりげない言葉にはっとさせられてしまって。僕は10代のときから保育士になるのが夢で、それで保育士の仕事をずっとやってきたんです。

でも子供から質問されて、『自分が大きくなったら?そうだな‥、大人になっても、夢をもってもいいよな』と思ったんですよ。」


大人になってから夢をもってもいいのでは?と思い、ロング・ディスタンス・ハイキングへ・

—— TRAILS編集部:教え子の子供から夢のきっかけを与えられるなんて、素敵すぎるね。

響志郎:「ほんとですね。ちょうど僕が山をやり始めたころだったんです。自分はずっとバスケをやってたんですけど、コロナのときにハイキングを始めたんです。まずは最初は、地元の宝満山 (ほうまんざん) で山歩きをしてみることにしたんです。

宝満山に山小屋があって、実はそのときホームページが更新されてなくて、『小屋に寝袋もあります』という以前の情報が書いたままになっていたんです。僕は、それを見て、じゃあ宿泊道具なしで泊まりで行ってみようと思ったら、そこに寝袋はなかったという(笑)。

でも、なぜか奇跡的に小屋にいたハイカーで寝袋を2つ持っているという人がいて、助けられたんです。」

—— TRAILS編集部:それは偶然すぎるね。何か巡り合わせすら感じるね。

響志郎:「寝袋を2つ持っている人に遭遇するとか奇跡ですよね。その方に寝袋を借りてなんとかなったんですけど、小屋の人たちに茶化されたりするなかで、小屋番さんたちとも仲良くなって。

それがきっかけで小屋番さんたちによくしてもらって、その後も山に連れて行ってもらうようになったんです。それで、テント泊縦走って楽しい!と思うようになってたんです。これは『旅』だなぁと思って。」


PCTでのテント泊。

—— TRAILS編集部:響志郎にとっての『旅』って、どんなイメージだったの?
 
響志郎:「自然の中で生活しながら、どこかで野営して、食事して、寝て、それで次の目的地に行く、というのが、僕の中での『旅』のイメージでした。

もともとは中学生の頃に筒井康隆さんの『旅のラゴス』という本を読んで、旅っていいなと思ったんです。SFなんですけど、いろんな国に行くお話で、ある国では王様の人が、別の国では奴隷だったりとか、SFなので設定はぶっ飛んでたりするんですけど、なんかその自由さに惹かれたのは覚えています。

それで、自分で山をやるようになって、ある町から1泊とか2泊とかで山のなかに入って移動して、違う町に下りていくみたいなことをやるなかで、僕の中で空想だった『旅』というものが、リアルなものになった感覚があったんです。

昔の人たちも、こうやって山のなかを衣食住を背負って移動して、旅をしていたんだろうなとか想像して。

—— TRAILS編集部:そうやって山にハマっていたタイミングで、さっきの教え子からの言葉があったんだね。

響志郎:「そうなんです。山って面白いなと思っていた頃に、教え子からの言葉があって。自分の夢ってなんだ?なんか大きい『旅』をしたいなと思ったんです。その頃に『ロングトレイル』という言葉も知り、一気に目標がPCTに絞られていったんです。

もうそこからは思い立ったら即行動ですよね。仕事に迷惑かからないように辞められるタイミングを逆算して、そしたらちょうどその翌年がタイミングがよさそうだったので、よし行こう!となりました。」

苦い経験もあったPCTを経て、「わがままに歩きたい」をテーマにCDTへ。


1人で歩くことが多かったが、仲間のハイカーとの旅も楽しんだ。

—— TRAILS編集部:響志郎は体力もありそうだし、意気揚々とPCTは旅した感じだったの?

響志郎:「PCTを歩き始めたとき、自分も体力については不安はなかったんです。でも、意外と重いバックパックを毎日担いでいると、いろんなところが痛くなってきて。シンスプリントと足底筋膜炎になって、『あ、ダメかも』って思ったんです。

PCTはスタートのタイミングが遅かったのもあって、カリフォルニアの暑さにもだいぶやられました。自分が思い描いていたよりも、しんどかった。『きっつ、あっつ、しんどっ』って感じでした」

—— TRAILS編集部:PCTの前半はずっとメンタル的にも体的にもきつかったんだね。

響志郎:「シエラに着いたあたりでもうだいぶしんどくなってて。シエラの玄関口のケネディメドウに着いた頃に、3日連続でゼロデイをとって休息したんです。足がかなり痛くって。

で、ケネディメドウにバーガー屋があって、僕が3日もいるから、お店の人に『おい、いつPCTをやめるんだ』と茶化されたりして。で、『やめねーし!』とか強がったりして (笑)。

でも、正直、とにかく憧れのシエラまでは絶対歩きたいと思ってましたが、そこから先はやめてしまうかもしれないと思ってました。」


PCTの前半では足の痛みにも悩まされた。

—— TRAILS編集部:その状態でシエラをどう乗り越えていったの?

響志郎:「シエラの中盤で、TRAILSでも記事を書いているワンダラーさん (河西祐史さん) に会ったんです。僕はスタートのタイミングも遅かったからゴールできるかも不安だったし、先へ先へと急ぎすぎているところがあったんです。それで自分の足も負荷をかけすぎたところもあって。

そしたらワンダラーさんが『いろいろ情報はあるけど、自分のやりたいように歩くのがいいよ』と言ってくれて。『インディアンサマーっていうのがあって、ゴールの北部でも秋の終わり頃に一瞬雪が溶けることもあったりするし』とかも教えてくれて。

それで肩の力が一気に抜けたんです。ダメならダメなりに、ワシントンまで、どうにかこうにかすればいけるのではと思えるようになって。

—— TRAILS編集部:「自分のやりたいように歩く」というのが、すっと自分のなかに腑に落ちたんだね。

響志郎:「自由になりたくて旅を始めたはずなのに、歩いている間、ずっと前年に歩いたハイカーのログを見て、それを自分と比べて『去年のハイカーのこの時期にここまで進んでるのに、自分は遅れている』とか比較ばっかりしてしまっていたんです。


大自然のなかを衣食住を背負って歩くことに旅を感じた。

—— TRAILS編集部:結果的にPCTはゴールまで歩けたわけだけど、ゴールしたときはどんな気持ちだった?

響志郎:「物足りなかったですね〜。」

—— TRAILS編集部:苦労もあったから、達成感もあったんじゃないの?

響志郎:「北のターミナスに到着する手前、ラスト3マイルくらいからもう来年はCDTを歩こうと思ってましたね。幸いに、かなりPCTではお金を節約できたのもあったし。

で、北のターミナスに到着したときは、『これは僕のゴールではないな』と思ってました。

自分らしく歩けた感じがしなかったです。自分で勝手に人と比較してしまったり。自分の思い描いた旅ではなかったんです。山火事とかの影響もあって、かなりスキップしたところも、達成感を感じきれなかった要因としてあると思います。」


PCTに続き、CDTを旅することにした。

—— TRAILS編集部:2本目のCDTでは、PCTとは違う歩き方になった?

響志郎:「CDTは、最初から『わがままに歩く』をテーマに歩こうと思っていました。CDTは、PCTよりも人が少ないトレイルだから、人との比較とかも気にせずに、より自分らしくやれるという思いもありました。

一人で歩きたいときは一人で。他のハイカーと歩きちときは一緒に。ハイカーから誘われても、『俺、いまはいいわ』ってポジティブに断れたり。自分のわがままに歩こうと思いました。

実は前半で足を怪我してしまって、これはやばい、と思うこともあったんですけど、なんとかそれは乗り越えて。いろんな理不尽なこととか想定外のこととかも楽しめました。

地図にダートロードって書いてあるところが、車でも登れるのか?っていうような、もののすごい急斜面の坂だったりとか。コロラドでは、かなり冷え込んで靴が凍ったりとか。スノーストームにも、サンダーストームにも遭ったし。それでも、ずっと楽しかったですね。」

ロング・ディスタンス・ハイキングという遊びをやめるという選択肢はない。


PCTでのカウボーイキャンプ。

—— TRAILS編集部:CDTのゴールの時はどんな心情だったの?

響志郎:「もちろんCDTはタフでした。でもタフだった分、満足感が大きかったですね。これをもう1回やれるかと言ったら、いまは難しいなという気持ちです。

CDTでも、ゴールの手前のラスト3マイルで、また次のことを考えて始めてたんです。やっぱり、ATは行きたいな。

自分はアメリカのノリも好きなんですよね。自分に合ってるんだと思います。車をぶつけても『イッツ・オッケー』とか言ってて『おい、いいんかい!』みたいに思いますけど、その陽気さ、フランクさ、おおらかさが、めちゃくちゃ好きなんですよね。」


CDTは大自然の中の旅を味わい尽くした。

—— TRAILS編集部:最後のATもやっぱり歩きたくなったんだね。

響志郎:「そうです。ロング・ディスタンス・ハイキングという、こんな楽しい遊びをやめるという選択肢はないなと。」


CDTを歩いているときの響志郎。

This is LONG DISTANCE HIKER.


『 大人の夢 』
 
響志郎は、真っ直ぐに「夢」と「自由」を追いかけるハイカーだ。本人はそれほど多く口にしないが、それにともなう「責任」も常に請け負っている。それは長年保育士の仕事をするなかで、常に人の「未来」に関わり続けてきたことも影響しているのではないかと思う。
 
保育士になることは10代からの夢であり、その夢を実現した人生を送ってきた。その響志郎が教え子からのさりげない言葉に、大人になった今だって、また夢を持ったっていいと自覚した。
 
自分の中に芽生えた夢への衝動が向かった先が、ロング・ディスタンス・ハイキングであった。大人が持つ夢の大切さを知っているからこそ、これからも響志郎は歩き続ける人生を止めないのだろう。
 

TRAILS編集部

 

※1 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※2 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 AT:Appalachian Trail (アパラチアン・トレイル)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年にTRAILSとHighland Designsで立ち上げたイベント。2024年4月に8回目を開催。

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