TRIP REPORT

摩周・屈斜路トレイル (MKT) | スルーハイキング・レポート(前編)

2020.10.21
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文・写真:根津貴央 構成:TRAILS

2020年10月1日、北海道の道東に、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅ができる新しいトレイル『摩周・屈斜路 (ましゅう・くっしゃろ) トレイル (MKT) 』が誕生した。

10月1日のオープンに先駆け、TRAILS編集部crewの根津が、MKTをスルーハイキングしてきた。本邦初のどこよりも早いスルーハイキング・レポートをお届けしたい。

このトレイルがあるのは、TRAILSが『NIPPON TRAIL 北加伊道・クスリの道』でディープな旅をした屈斜路湖エリア。

実は、僕たちはこのエリアが好きでたびたび足を運んでいた。それがきっかけで、摩周・屈斜路トレイルの立ち上げに構想段階から関わらせてもらうことになる。そして3年の歳月を経て、ようやくオープンすることになったのだ。

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屈斜路湖を眺めるキャンプサイトで野営をしながら、ハイキングできるトレイル。

MKTは、摩周湖と屈斜路湖という2つの湖を渡り歩くトレイル。いずれも火山活動によって生まれたカルデラの大地にできた湖。

摩周湖は、摩周ブルーと呼ばれる日本一の透明度をもつ湖。屈斜路湖は、日本最大のカルデラ湖 (※1)。そんな2つのカルデラ湖のまわりにできた独特な自然のなかを歩き、野湯 (のゆ) に浸り、湖畔に野営する、という稀有な歩き旅ができるトレイルなのだ。

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湖畔沿いを歩けるトレイルもある。

それでは、TRAILS編集部crewの根津による、MKTのスルーハイキング・レポートを始めよう。前後編の2回にわたって、このトレイルの魅力を紹介したい。

※1 屈斜路カルデラ:約40万〜3万年前にかけて、火山活動が繰り返され、地面が落ち込むことで生まれた、日本一大きいカルデラ。東西に約26km、南北に約20kmという大きさは世界有数の規模。しかも、屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖でもある。ちなみに、日本で2番目に大きいのが阿蘇のカルデラ。



火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道



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摩周第一展望台〜屈斜路プリンスホテルまで、全長44kmのトレイル。摩周第一展望台へは、摩周駅からタクシーで15分、もしくはバスで25分。

まずは、摩周・屈斜路 (ましゅう・くっしゃろ) トレイル (MKT) がどんなトレイルなのかを説明しよう。

北海道の道東にある弟子屈 (てしかが) 町、阿寒摩周国立公園内をつらぬく、全長44kmのトレイルだ。

摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖をつなぎ、火山がつくり出した独特な自然景観と生活文化のなかを歩く。

どこかの惑星に来たかのような、むき出しの火山岩がきわだつアトサヌプリ (硫黄山)。情緒ある川湯温泉街をはじめ、屈斜路湖周辺のいたるところで湧きだす温泉。古くからあるアイヌのコタン (集落)。

これが、「火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道」というコンセプトのゆえんである。

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美しいコバルトブルーが特徴的な屈斜路湖。

今回、この北海道の道東の地に誕生したMKTを、2日にわたってスルーハイキングしてきた。

DAY1は、スタート地点の摩周第一展望台〜砂湯キャンプ場までの27.7km、DAY2は、砂湯キャンプ場〜ゴール地点の和琴キャンプ場までの13km (ゴールは、和琴キャンプ場と屈斜路プリンスホテルのいずれかを選べる) 。

まず、この前編ではDAY1の模様をお届けする。



スタート地点、摩周第一展望台に立つ。



スルーハイキングのスタート地点は、いつだって特別だ。

ここから旅がはじまる。未知の世界への第一歩。そのワクワク感でいっぱいだからだ。

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スタート地点の摩周第一展望台にて。霧の摩周湖と呼ばれるだけあって、今回も霧がかかっていた。

今回のスタート地点は、MKTの東端、摩周第一展望台。湖 (しかも展望台) からスタートするトレイルなんて、めったにないし、僕自身も初めて。この壮大なスケールの摩周湖を眺めるのが、MKTのスルーハイキングの第一歩。天気がよければ、独特の深い青色の湖を見ることができる。

トレイルは、摩周第一展望台の目の前から始まる。笹原の中をまっすぐに延びる一本道。スルーハイキングのスタートとしては最高のロケーションという感じだが、僕はとにかく懐かしくてしかたがなかった。

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摩周第一展望台の目の前からトレイルがはじまる。美しい一本道。

というのも、ここは北根室ランチウェイの第6ステージ (最終ステージ) と重複しているルートだからだ。数年前に北根室ランチウェイをスルーハイキングした僕にとっては、ただいま!と言いたくなるような気持ちだった。

ここから約5kmは、下り基調の緑豊かなトレイル。僕は歩き始めた途端に自然の一部になったかのような心地になり、無心で歩き続けていた。

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木漏れ日がそそぐ、静かで厳かな樹林帯。とにかく歩くのが楽しいトレイル。



川湯温泉駅の足湯で、至福のひととき。



トレイルを下りおえると、舗装路に出る。ここを左折すると北根室ランチウェイの終点「美留和 (びるわ) 駅」だが、MKTはここを右折。途中、2kmの林道 (石山林道) を挟むものの、約8kmはロード区間だ。

「ロードよりトレイルが好き!」というのは、ハイカーとしての本音ではある。でも、山と町をつなぎながら旅をするスルーハイキングには、舗装路はつきものであり、町に来た証でもある。どんな町と出会えるのだろう、そんな期待と高揚感のほうが大きかった。

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牧場で放牧されている牛を見ていると、もっとのんびり歩こうじゃないか、という気持ちになる。

それにしても、町に出たとはいえ、辺りは広大な田園と牧場ばかり。いい意味で何もない。この果てしなく続いているかのようなスケール感と放牧されている牛の姿が、北海道ならではという感じがした。

北海道らしさを味わいながら歩いていると、JR釧網 (せんもう) 線「川湯温泉駅」の駅舎が見えてきた。

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川湯温泉駅には、オーチャードグラスという駅舎レストランがある。個人的には、ここのハヤシライスがお気に入り。デミグラスソースのほどよい酸味と甘みが、疲れたカラダにしみわたるのだ。

レトロでなんだかホッとする佇まいだ。雨風が少し強まってきて体も冷えていたので、真っ先に併設されている足湯に入ることにした。

たまたま、観光客の女性と一緒になり、「寒い日にこの足湯は最高ですね」と軽く話をしながら、しばらく足湯を味わった。

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駅舎には足湯も併設されていて、もうここで野宿したいくらい。



緑のトンネルを抜けると、噴煙をあげる活火山が現れる。



川湯温泉駅をあとにして、500mほどロードを歩くと、「青葉トンネル」の道標が目に入る。

ここには約1kmにわたってトレイルがあり、木々がトンネルのように頭上を覆うように茂っているので「青葉トンネル」と呼ばれている。

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緑に覆われた青葉トンネル。秋になると紅葉で埋めつくされる。

実は、この青葉トンネルの小道は、昔あった安田鉱山鉄道という鉄道の線路跡なのだ。明治時代、火薬や肥料の原料として硫黄の需要は高く、硫黄山 (アトサヌプリ ※2) が当時、北海道一の生産量をほこる採掘場になっていた。その硫黄を運ぶために鉄道が敷かれ、釧路川の水運を経て、釧路港まで運ばれていたのだ。

現在、その跡地が青葉トンネルとして地元の人に親しまれている。かつての硫黄の道を思いながら歩いていると、突然、緑で覆われていた景色が一変し、視界が開けた。

※2 硫黄山 (アトサヌプリ):屈斜路カルデラのなかに位置する活火山で、標高は512m。アイヌ語でアトサヌプリ (裸の山) と呼ばれている。火山から出る硫黄成分により、周辺部の土壌は酸性化。特異な植生が見られ、日本で最も標高の低い場所にある高山植物帯でもある。

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硫黄山 (アトサヌプリ) は、「ここまで行っていいの?」と思うくらいギリギリまで近づくことができる。最近まで登山禁止だったが、現在は現地のガイドと一緒であれば登れるようになった。

目の前に現れたのは、もくもくと噴煙をあげる山塊。異様な光景に、ただただ圧倒されてしまう。

硫黄山を目にするのはこれが初めてではないし、光景も目に焼き付いている。それでもなお、見るたびに衝撃を受ける。その理由のひとつは、ゴウゴウと音を立てて吹き上がる煙と、硫黄の匂い、ゴツゴツした山肌だ。ただそれ以上に、景色のギャップが大きかった。

だって僕は、つい30分前まで川湯温泉駅近くの町を歩いていたのだ。駅前をぶらぶらしつつ、ちょっとした裏道的な感覚で青葉トンネルに入り、それを抜けたら、もうそこは別世界だった。

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やっぱり北海道のトウモロコシは、甘くてうまい!

しばらく硫黄山のまわりを散策して、すぐそばにある硫黄山レストハウスへ。僕は、山と町をつなぐスルーハイキングの醍醐味のひとつは「買い食い」だと思っている。

お目当ての、硫黄山名物の温泉たまご (5個400円) とトウモロコシ (1本350円) を買って、しばし休憩。

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硫黄山から出ている火山ガスによって枯れてしまったハイマツが、点在している。

硫黄山から川湯温泉までの約3kmの道のりは、つつじヶ原自然探勝路 (たんしょうろ)と呼ばれるトレイルだ。標高150m程度の大地に、まるで森林限界を超えた先にあるような景色が、一面に広がっている。

これも硫黄山がつくり出した、特異な自然景観なのだという。硫黄山の火山ガスや酸性土壌により、これに耐えられる植物しか育たない生態系を生み出した。

この一帯だけ高い木がいっさいなく、砂礫や、枯死 (こし) したハイマツの幹があちこちにある、とにかく不思議な景観なのだ。自分がどこに来たのかわからなくなってしまう感じがした。



摩周・屈斜路トレイル最大のトレイルタウン、川湯温泉。



つつじヶ原自然探勝路を抜けると、ふたたび町が現れる。摩周・屈斜路トレイル最大のトレイルタウン (※3) であり、温泉街としても知られる「川湯温泉」だ。

※3 トレイルタウン:ロングトレイル沿いにある町のこと。ハイカーにとっては欠かせない存在で、この町で食料を補給したり、宿に泊まって休んだりする。アメリカのトレイルのスルーハイカーのほとんどは、お気に入りのトレイルタウンがいくつかあるものだ。

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川湯温泉街には、木彫りの民芸品を扱うおみやげ屋さんがいくつかある。寄り道好きの僕は、ふらっと入ったお店で木彫りのクマをゲット!

ここは、古くからアイヌの人々に「セセキベツ(湯の川)」と呼ばれてきたエリア。硫黄山の噴気現象により地下水が熱せられ、温泉が湧きだしていた。現在も、道のあちこちから湯けむりが立ちのぼり、硫黄の香りが漂っている。

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温泉街の川湯園地にある足湯。強酸性ゆえピリピリとした肌触り。

そんな温泉街には、公衆浴場や日帰り入浴のできる旅館やホテルも数多くある。スルーハイカーにとっては、汗も流せるし、キレイにもなれるし、くつろげるし、最高のトレイルタウン。温泉街を通るトレイルなんて、僕も初めてだ。

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公衆浴場は、大人250円! もちろん源泉かけ流し。

今回僕は、1泊2日でプランニングしていたこともあり、川湯温泉は立ち寄るだけだったが、2泊3日という行程であれば、ぜひともこの温泉街で1泊したい。

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川湯温泉街にある「川湯エコミュージアムセンター」は、アメリカのビジターセンターを思わせる佇まい。ここで、トレイルの情報はもちろん、このエリアの自然やおすすめスポットの情報も手に入る。カフェも併設。



日本最大のカルデラ湖を眺めながら、温泉が湧きでる湖畔でテント泊。



川湯温泉街から約7kmのところにある、「砂湯」のキャンプ場が今日の野営地。

砂湯は、湖畔にある砂浜を掘ると温泉が湧きでてくることからその名がつけられた、とてもユニークな場所。ここ一帯が火山地帯であるため、川湯温泉はもちろんのこと、いたるところで温泉がわいている。

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今回使用したテントは、Gossamer Gear (ゴッサマー・ギア) のSquall Classic Shelter (スコール・クラシック・シェルター)。Tarptent (タープテント) とコラボレーションして開発したシェルターで、ヨットのセール (帆) に用いられる軽量で丈夫な素材、スピンネイカーを使用している。2人で使える広々としたスペースだが、重量は実測670g。現在は廃番。

僕も、1日の締めくくりに、砂を掘って、足湯を楽しもうかと思ってはいたものの、小雨が降ったり止んだりだったのと、風がかなり強かったこともあって、断念。本当は、コバルトブルーに輝く屈斜路湖を眺めながら、ぼんやり何もしない時間でも過ごそうかと思っていたけど、それはまた明日のお楽しみだ。

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風がかなり強く、湖面は波を打っていて、もはや海のようだった。

テントの中で寝そべりながら、今日1日を振り返る。

摩周湖をスタートする時は、あいにくの雨か……と思ったのだが、歩き終えて思うのは、天気なんて関係なく最高の1日だったということ。

北根室ランチウェイの第6ステージと重複する、摩周湖からの最初のセクションを軽快に歩き、町に下り、川湯温泉駅で足湯に浸かり、またトレイルに戻り、硫黄山の世界観に圧倒されたのもつかの間、トレイルタウン川湯温泉でくつろぎ、そして温泉が湧く湖畔の野営地へ。

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テント内で仰向けになって、何も考えずにぼーっとするのも楽しみのひとつ。

たった1日で、山から町へ、町から山へ、というロング・ディスタンス・ハイキングの醍醐味を堪能することができた。

そんな満足感と充実感に浸っていると、いつの間にか僕は眠りについていたのだった。

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屈斜路湖の湖畔にある野湯の魅力は、後編で紹介する。

次回は、MKTスルーハイキングの後半戦、DAY2の模様をお届けする。

DAY1と比べるとその距離は約半分しかないが、野湯やアイヌとの出会いにあふれ、DAY1に勝るとも劣らないディープな旅になったようだ。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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