TRIP REPORT

NIPPON TRAIL #07 摩周・屈斜路トレイル + 釧路川 HIKING & PACKRAFTING 〜【後編】釧路川パックラフティング

2020.11.11
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

NIPPON TRAIL #07「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」の後編は、釧路川をパックラフトで渡っていく “リバートレイル” 編である。

今回4人のTRAILS編集部crewは、2つのタンデム艇 (2人乗り艇) で、釧路川源流部をパックラフティングすることにした。

前編でもお伝えしたように、今回のプランのベースは、以前にTRAILS編集部crewで描いた『北加伊道・クスリの道』にある (詳細はコチラ)。

それは、中標津から始まって、北海道の雄大な大地を歩き、広大な地平線、火山がつくったカルデラ、アイヌの文化と歴史に触れながらハイキングをし、そのまま日本を代表する川のひとつである釧路川をリバートレイルとして旅していくプランだ。

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僕らの『北加伊道・クスリの道』のモチーフのひとつに、北海道の名付け親であり探検家である松浦武四郎 (※1) という人物がいる。

彼は幕末の蝦夷地 (えぞち) 調査において、その土地に住んでいたアイヌの案内人を伴い「丸木舟」(※2) に乗って釧路川と屈斜路湖に訪れている。

2人で乗ってシングルパドルで漕いでいくパックラフトのタンデム艇は、武四郎の旅における「丸木舟」を想起させてくれる存在でもあった。僕たちにとっては、パックラフトのタンデム艇は、『北加伊道・クスリの道』をより深く体験できるアイテムであったのだ。

今回僕らは、1日目に摩周湖のふもとの美留和から硫黄山 (アトサヌプリ)、川湯温泉、屈斜路湖とハイキングし、2日目にバックパックに詰め込んでいたパックラフトを膨らませ、屈斜路湖から注ぎ出す釧路川に入っていった。

※1 松浦武四郎 (まつうらたけしろう):江戸時代末期〜明治初期に活躍した、三重県松阪市出身の探検家。計6回の蝦夷地(明治以前の北海道・樺太・千島の総称)探検を実施し、詳細の解明に貢献した。

※2 丸木舟:1本の木をくり抜いてつくる舟のこと。アイヌの人々は丸木舟を移動や漁の際に使用していた。

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今回使用したパックラフトは、Oryx (左) と旧Explorer 42 (右) の2艇 (いずれもアルパカラフト)。



『北加伊道・クスリの道』のセクションとしての摩周・屈斜路トレイルから釧路川へ



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『北加伊道・クスリの道』は、北根室ランチウェイ(71.4km)の西の終点・美留和から摩周・屈斜路トレイルを経て、釧路川へとつなげていく。総延長は約170km。今回は、DAY1 (美留和〜砂湯) 、DAY2 (砂湯〜釧路川〜美留和橋) という行程で旅をした。

屈斜路湖畔に住んでいたアイヌの人たちは、この土地に湧く温泉を病気やケガの「クスリ」(薬と同じ意味)と呼んでいた。

そして屈斜路湖は「クスリ・トゥ (湖)」、釧路川は「クスリ・ベツ (川)」と呼ばれていた。つまり、この一帯がクスリの地であったのだ。

それを僕らは「クスリの道」と名付け、そこをハイキングとパックラフティングでつないでいく旅を考えた。

『北加伊道・クスリの道』を見出したとき、『摩周・屈斜路トレイル (MKT)』はまだ構想段階であったが、今年の10月に、摩周湖から屈斜路湖をむすぶルートが正式にトレイルとしてオープンした。

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1日目の野営地である砂湯から、屈斜路湖の湖畔にある釧路川が流れ出るポイントへ。

今回、僕らは以前にスルーハイクした北根室ランチウェイ (※3) からの旅のつづきを楽しむべく、美留和駅からハイキングをスタートした。

そして屈斜路湖までを『摩周・屈斜路トレイル』に沿って歩き、釧路川が流れ出る源流ポイントからはこのトレイルを離れ、釧路川の “リバートレイル” として旅を延伸した。

僕たちにとっては、パックラフトはハイキングの延長にある旅の道具である。何より摩周湖、屈斜路湖、そして釧路川のある北海道の道東は、高低差が少なく、まさにハイキング & パックラフティングに最適なフィールドだという確信があったのだ。

※3 北根室ランチウェイ:中標津町〜弟子屈町をつなぐ71.4kmのロングトレイル。2020年10月8日に閉鎖の発表があったが、TRAILSとしては、また違った形でもこのトレイルが残りつづけることを願っているし、どうあるべきか、何ができるのか、日々模索している。ちなみに、北根室ランチウェイのステージ5〜6の摩周外輪山のルートは、既存の登山道にもなっているため現在も歩くことができる。



バックパックからパックラフトを取り出し、釧路川の始まりの地に立つ



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プットインポイント (漕ぎ始めの地点) を目の前にして、笑みがこぼれる僕たち。松浦武四郎もこの湖畔に立ったとき、あまりの美しさに「風景言ん方なし (いわんかたなし)」と絶賛したという。

『摩周・屈斜路トレイル』のルート上に、釧路川が注ぎ出す最初の地点がある。

諸説はあるが、屈斜路湖は、アイヌ語で喉口(湖の水が流れ出る口)を意味する「クッチャラ」に由来するという説がある。つまり、釧路川が流れ出る場所ということだ。そのクッチャラの地に、僕たちは立っていた。

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小川 & 根津が乗艇するOryx。舟本体の専用チューブの中に荷物を収納できる仕様 (カーゴフライ) になっている。

トレイルから湖畔にあるプットインポイント (漕ぎ始めの地点) に辿り着いた僕たちは、バックパックからパックラフトを取り出した。

バックバックに入っていたキャンプ用ギアも、丁寧にパッキングしなおし、パックラフトに載せて運んでいく。

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佐井 & カズが乗艇する旧Explorer 42。空気を入れているふたり。

小川が所有するカナディアンカヌータイプ (※4) のパックラフトであるOryx (2019年発売) は、舟の本体が1人艇よりも約1m長く、積載量も約2倍。現在1人艇でもオプションアイテムとしてスタンダードになっている、カーゴフライという舟本体の専用チューブの中に荷物が入る仕様になっている。

佐井が所有するのは、アルパカラフトの初期からあるシンプル & ウルトラライトなタンデム艇であるExplorer 42 (佐井のは旧型モデル)。シートは2人分あるものの、Oryxより約60cm短く小ぶりで、今となっては「長い1人艇」といったサイズ感だ (OryxとExplorer 42の詳細なギアレビュー記事は、後日公開するのでお楽しみに)。

※4 カナディアンカヌー:カヌーとはパドルを使って漕ぐ小型の舟のことで、シングルブレードパドルを用いるカナディアンカヌーと、ダブルブレードパドルを用いるカヤックに大別される。カナディアンカヌーは、もともと北米のインディアンが湖沼における移動に使用してしていたもの。安定性に優れ、人はもちろん荷物の積載能力が高いのが特徴。そのためツーリングに適している。

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釧路川に入る前に、まずは屈斜路湖の静水でタンデム艇ならではのシングルブレードパドルの操作性をチェック。

まずは手慣らしも含めて、屈斜路湖の静水の場所を少し漕ぐ。お互い息を合わせつつ、右へ左へと方向転換。さらに旋回もしたりして感触を確かめる。うまく連携しないと思った方向に進まないのだが、でもそこにバディとチームプレーで進んでいくタンデム艇ならではの面白さがある。

これはかなり楽しい旅になりそうだ。



手つかずの自然が残る、釧路川の源流部を旅する



屈斜路湖から、いざ釧路川へ。プットインポイントのすぐ隣にある眺湖橋 (ちょうこばし) から釧路川は流れ出している。

眺湖橋は摩周・屈斜路トレイルのルートになっている橋で、その地上のトレイルの下をくぐり抜ける形でリバートレイルがスタートする。

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この眺湖橋から釧路川がはじまる。

橋をくぐるとあっという間に、原生林に囲まれた異世界だ。手つかずの自然は野性味にあふれ、人の住む世界とは隔絶された場所のようだった。

カヌーイストの野田知佑も、この釧路川の源流部を「日本で最も人間臭のない川」と著書で表現していた。まわりは深い湿地があり、人が往き来することも難しい。だから人の気配がこれっぽっちもない。あるのは川と植物と動物だけ。

武四郎が残した『久摺 (くすり) 日誌』には、鮭やヲヘライベ、ヲツトイ (いずれも魚の名前) などたくさんの魚が釧路川を泳いでいた記録があり、より原始的な姿の釧路川を想像させてくれる。

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水面が鏡のように反射することから名付けられた「鏡の間」と呼ばれる泉。

川の水は驚くほど透きとおっていて、パックラフト上からでも澄んだ水のなかを川底まで見ることができる。しかも水中には、バイカモ (梅花藻) などの水草や川藻も豊かに茂っている。

それはあたかもこの釧路川源流部の自然が水中、水上に関係なく広がっていて、僕たちを包み込んでいるかのようだった。

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水が透き通っていて、宙に浮いている心地がした。



絶えず蛇行する川を、タンデム艇でくぐり抜けていく



釧路川の源流部は、直線が少なく、絶えず蛇行を繰り返している。しかも、水上には倒木、水中にはストレイナー (※5) があり、それらを慎重に避けていかなければならない。

※5 ストレイナー:川にある障害物のこと。たとえば、流木やテトラポット、漂流物など。今回の釧路川の源流部の場合は、ほとんどが倒木である。

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釧路川の源流部は、人はもちろん人工物も目にすることがなく、自然にどっぷり浸かることができる。

でも、これがなかなか楽しいのだ。ジャングルのなかを分け入って、そしてくぐり抜けていく感じが、メロウな旅に冒険のスパイスを加えてくれる。

約160年前、松浦武四郎は、屈斜路湖に到着すると丸木舟で湖をまわり、帰路も舟で釧路川を下って戻っていったという記録がある。

まさに武四郎が屈斜路湖から釧路川へ至ったルートを、いま僕たちはたどっている。

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松浦武四郎の『石狩日誌』(1860年 刊)。アイヌの案内人が漕ぐ丸木舟に乗って調査する自分をイラストで描いている。(国立国会図書館デジタルコレクションより)

僕たちは、自分たちが乗っているタンデム艇を丸木舟になぞらえて、なかば妄想の中を旅していた。

もはや僕が表現するまでもなく、釧路川の様子を武四郎は表現してくれていた。

「ここからは一まず小舟で下ることにした。川の流れが曲がりくねっているので、舟のへさきが南にむくかと思うとすぐ東に、また北に、あるいは西にといった具合である。〔中略〕その夜は、テシカガ(注 弟子屈町)に一宿した」 (『久摺日誌』より)

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両岸から倒木が出ているため、それにぶつからないよう、2人で連携して漕ぎながらよけていく。

僕らも蛇行する川の両岸から倒木が出ているため、それにぶつからないよう、2人で連携して漕ぎながらよけていく。

北海道の原生林のなか、メロウにシングルパドルを使いながら、澄んだ流水に乗って進んでいった。

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川の流れが緩やかで、メロウに旅することができる。



唯一の急流「美留和の瀬」を抜けるとゴールの美留和橋



今回のゴール地点である美留和橋の手前には、釧路川のこのセクション唯一の急流「美留和の瀬」 (※6) が待ち構えている。

ここまで、さながら釧路川探訪の気分で漕いできたが、前方から水しぶきをあげる瀬の音が聞こえてきた。蛇行を繰り返してきた川は、瀬の前から直線区間に入り、一気に瀬に突入していく。

タンデム艇は、1人艇と比べると小回りが効きづらいので、普段ならなんてことない瀬も、ちょっとだけアドレナリン多めで下ることになる。

※6 瀬:川の流れが速く水深が浅い場所。瀬の難易度にはクラス (グレードや級など表現はまちまち) があり、I〜VI (1〜6級) まで。数字が大きいほど難易度が高い。

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美留和の瀬を楽しみながら下る佐井 & カズ。

先を行くOryxに乗った小川・根津組は、真っ直ぐに瀬の流れに乗っていった。後ろを漕いでいたExplorer 42に乗った佐井・カズ組は、瀬の流れから外れて、ややルートが乱れた。岸沿いの波消しブロックにぶつかったが、その後立て直し無事にクリアー。なかなかスリリングで楽しいラストパートだ。

美留和の瀬を越えてすぐのところにある美留和橋をくぐり、左岸に上陸。ここで今回の旅を終えた。単なる旅という以上に、武四郎が訪れてから160年後の調査の旅、そんな気もちょっとだけしたのだった。

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美留和橋のそばにあるカヌー発着場に上陸。かなり急な斜面なので2人がかりで一気に引き上げる。

TRAILSが思い描いた、北根室ランチウェイから摩周湖、屈斜路湖、そしてリバートレイルとして釧路川をつなげて、ハイキングとパックラフティングで旅するというアイディア。

それは、前回 (2019年1月) のNIPPON TRAIL #06で『北加伊道・クスリの道』として具現化したが、その時は北海道らしい厳冬期に行なった、リサーチと実験の要素が強い旅だった。

そんな僕らが通っていたこの摩周湖、屈斜路湖のエリアに、今年10月『摩周・屈斜路トレイル』が誕生した。TRAILSも縁あって構想段階から関わらせてもらっていた。当初は屈斜路湖一周のルートなどが検討されていたが、結果的には僕たちが望んでいた通り、北根室ランチウェイと接続するルートとなった。

そして今回、気候の心配をせず気軽に楽しめるこのシーズンに、あらためてTRAILSがずっと思い描いていた釧路川もつなげた旅をした。

この屈斜路をはじめとした道東エリアは、旅のフィールドとしてのポテンシャルがまだまだある。そして何より、ここ北海道は、TRAILS的にはハイキング & パックラフティングのホームだと思っている。だから僕たちは、今後も通いつづけることになるだろう。

review

どこを旅するかよりも、どう旅するか。

これまでいろんなロングトレイルを歩いてきて、自分なりに気づいたことがある。

それは、僕がロングトレイルという “道” よりも、ロング・ディスタンス・ハイキングという “行為” が好きということだ。

単に、ロングトレイルを歩きたいという衝動だけだったら、今回であれば『摩周・屈斜路トレイル』の起点から終点までを忠実に歩き切って、その旅は終わっただろう。

でも今回僕たちは、ロング・ディスタンス・ハイキングをしたいがために、このトレイルを訪れた。

町から山へ、山から町へ、あらゆる道をつなぎ、野営を繰り返しながら旅するロング・ディスタンス・ハイキング。

だからこそ、釧路川をリバートレイルとして下るアイディアも思い浮かんだ。決して奇をてらったことをやりたくて思いついたことではない。ロング・ディスタンス・ハイキングを考えたときに、普通に出てきたアイディアだ。

「どう歩きたいのか、どう旅したいのか」。まずは、それをぼんやりでもいいから思い描いてみること、それがロングトレイルを楽しむための秘訣だと、僕は思う。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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