TRIP REPORT

PCTハイカーTONYが歩いた摩周・屈斜路トレイル(前編)

2021.03.26
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話・写真:利根川真幸 構成:TRAILS

2020年10月1日に開通した北海道の『摩周・屈斜路 (ましゅう・くっしゃろ) トレイル (MKT) 』(※1)。

昨年にTRAILSで発信した記事を読んで、いち早く興味を持った仲間のハイカーが連絡をくれた。「めっちゃ歩きたいんですけど、くわしい情報教えてもらえますか? どこ歩いたらいいですか? パックラフトもできますか? 釣りもできますか?」。いてもたってもいられない様子だった。

連絡をくれたのは、2015年のPCT (※2) スルーハイカーである、利根川真幸 a.k.a. TONY (以下、トニー)。LONG DISTANCE HIKERS DAY (※3) にも毎年のように登壇してくれているハイカーだ。

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『LONG DISTANCE HIKERS DAY』で経験談を語るトニー (左)。

開通初年度の11月下旬、もう北海道は本格的な冬の季節が迫っていたが、「どうしてもすぐに歩いてみたい」という想いで、トニーは道東へと向かった。

TRAILSも、北海道のこのエリアが好きでたびたび足を運んでいた。それがきっかけで、摩周・屈斜路トレイルの立ち上げに構想段階から関わらせてもらった。だから僕らもトニーの旅を後押しした。

旅を終えて帰ってくるなり、「思う存分楽しんできました! 自分としてはパックラフトを担いでの初めてのトレイルだったため、ドキドキ感だけではなく、不安な部分もたくさんありましたが、それを吹き飛ばすぐらい楽しめました!」とのメッセージ。

それは面白そうだと思った僕たちは、今回せっかくなので、トニーの旅を前中後編の3回にまとめてみんなにお届けすることにした。ただ読者のみなさんは、ぜひこれからのあたたかい季節に行ってくださいね (笑)。

※1 摩周・屈斜路トレイル (MKT):阿寒摩周国立公園内にある全長44kmのトレイル。「火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道」というコンセプトのとおり、摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖を渡り歩き、火山がつくり出した独特の自然景観、温泉街や野湯、また古くからあるアイヌのコタン(集落)を通りながら歩くトレイル。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いから、TRAILSとHighland Designsが2016年に立ち上げたイベント。これまでに5回開催。(詳しくはコチラ)

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MKTをハイキングするトニー。


ハイキング、釣り、パックラフティングとやりたいことを詰め込めるトレイル。


—— 編集部:今回、なぜ摩周・屈斜路トレイル (MKT) を歩こうと思ったの?

トニー:「もともと、TRAILSの記事で、北根室ランチウェイを延伸して屈斜路湖までつなげる話があることを知って興味を持ったんです。2年前に北根室ランチウェイをスルーハイクした時に、足を延ばそう思ったんですがその時は時間がなくて。

2020年10月に摩周・屈斜路トレイルがオープンして、自分もちょうど休みが取れるタイミングだったので、行くことにしたんです」

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羽田空港から飛行機に乗って女満別空港へ。空から屈斜路湖が見えてテンションが上がる。

—— 編集部:情報収集がてらTRAILSのオフィスに来てくれた時は、すでに釣りやパックラフトもやるつもりだったよね。

トニー:「PCTを歩いてからは信越トレイルや塩の道トレイル、北根室ランチウェイ、熊野古道、南房総トレイルなど国内のトレイルをいろいろ歩きました。その旅のなかで、ここで釣りしたいなとか、この川を下っていくとどこまでいけるのかなとか、思うようになったんです。

歩いていると、いろんな旅のスタイルやプランの妄想が広がるんですよね。それで、どうせ歩くなら、その地域の遊び方や楽しみ方を存分に味わいたいという想いが大きくなって。じゃあMKTに行くなら、やりたいことをぜんぶ組み合わしちゃえと (笑)。

今回は4日間の休みだったので、前半2日はMKTのセクションでのハイキングと釣り、後半2日を釧路川でのパックラフティングというプランにしました」

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今回の行程は、DAY1〜2がMKTのセクションハイキングで、DAY3〜4が釧路川のパックラフティング「DAY1:川湯温泉駅〜川湯温泉」「DAY2:川湯温泉〜コタン」「DAY3:コタン〜摩周大橋」「DAY4:標茶〜塘路」。


ひさびさの北海道のトレイルにテンションが上がる。


—— 編集部:2年越しのMKTってことだ。歩きはじめた時は、どんな気持ちだった?

トニー:「今回のスタート地点の川湯温泉駅に着いた時は、ようやくたどり着けた安心感と、荷物が多かったこともあって、移動の大変さですでにクタクタでしたね。でも、ひさびさの北海道にテンションが上がり、何を見ても、おぉーっ!って感動していました」

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ついにスタート地点の川湯温泉駅に降り立つ。

—— 編集部:1日目は川湯温泉駅から川湯温泉までのセクションを歩いたんだよね? 川湯温泉駅からだと、すぐに青葉トンネルに入って、さらに硫黄山と続いて、いきなりのハイライトだね。

トニー:「事前にTRAILSの動画を観ていたので、すごく楽しみで。ただ11月下旬ということもあって、木々は青々とはしていなく雪もあったりで、想像していたのとは違いました。

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青葉トンネルには、うっすらと雪が積もっていた。

でも、逆に枝に止まっている野鳥を見つけやすかったり、霜を踏みしめる感触が心地よかったり、この時期ならではの自然を楽しみました。ひさしぶりに、ロングトレイルを歩いている! っていう感覚を味わえたし、やっぱりロングトレイルはいいなと思いました」


地元の人のトレイルマジック!温泉たまごとジュースをもらう。


—— 編集部:かなりの荷物を背負っていたんじゃない?

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ベースウェイトはなんと13Kg。

トニー:「今回はテント泊、釣り、パックラフトと、遊び道具をひと通り詰め込んでましたからね。その上、11月下旬ということで、防寒着もけっこう持っていました。

これまでは、ロングトレイルを一週間くらい歩く際でも、ベースウェイトは4~5kgに抑えていたのですが、今回はなんと13kg! なかなか大変でした」

—— 編集部:11月下旬なんて、誰も歩いていなかっただろうから、現地でも目立っていただろうね。

トニー:「そうなんですよ。硫黄山のレストハウスで休憩してたら、クルマで来た5人組くらいのおじちゃんとおばちゃんに囲まれて、質問攻めですよ (笑)。

これこれこうでって説明したら、すごく興味を持ってくれて。オレたちも山好きだからおごってあげるよ! って言われて、温泉たまごとジュースをごちそうになっちゃいました」

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季節柄、ハイカーが誰ひとりいないなか、硫黄山の麓を歩くトニー。


屈斜路湖で釣りをしながらのハイキング。


—— 編集部:2日目は川湯温泉からコタンまで歩いたんだよね。この日に、屈斜路湖で釣りもしたって言ってたけど、どうだった?

トニー:「計画段階から屈斜路湖で釣りをしてみたくて準備をしてきたんです。だから、屈斜路湖が見えてきた時には、重い荷物にも関わらず自然と小走りになって、トレイルを離れて目星をつけていたポイントに直行しました。

1時間ほど竿を振ったんですが、残念ながら1匹も釣れませんでした。でも、あきらめきれずに、トレイルに戻りながら良さげな場所を見つけては竿を振り、また歩き出す、の繰り返しでした」

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憧れの屈斜路湖。キャスティングしているだけでも楽しかった。

—— 編集部:釣れなくても、竿を振りながらハイキングするだけで楽しいよね。

トニー:「そりゃ釣れたほうが嬉しいですけど、憧れの湖だったし、キャスティングしてるだけでも幸せでしたよ。

途中、釣り人が数人いたんですが、声をかけるとやはりボウズで。釣れないのは腕のせいではなく時期だねと笑い合いました。しかも、鮭とばとサッポロクラシックをいただいちゃって。北海道サイコーだなと思いました」

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遠くに見える3人の釣り人から、おつまみとビールをもらった。


トレイル沿いの湖畔にあるペンションへ。


—— 編集部:ひさしぶりのトレイルの旅を満喫しているね。

トニー:「トレイルに戻って旧道に入った時、今回初めてMKTの真新しいトレイルサインを見つけました。あらためてMKTを歩いているんだ! と自覚した瞬間でした。

なんかすごく感動して、このトレイルに関わっている人たちへの感謝の気持ちでいっぱいになりました」

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2日目にして、初めて見たMKTのサイン。

—— 編集部:2日目は、トレイル沿いのペンションに泊まったって聞いたけど。

トニー:「コース料理が出てくるすごく品のあるペンションで、最初はちょっと緊張しました。でも、オーナーと話していたら、いま僕が住んでいる千葉の出身ってことがわかって一気に打ち解けました。

2020年にペンションを譲り受けて夫婦でここに移住してきたと。聞けば、千葉に住んでいた時は、自分の元職場 (WILD-1印西店) の常連だったそうなんです。

そこから話が盛り上がり、このあたりの植生の話や移住の話など、いろいろと聞かせてもらいました。まさかこんな出会いがあると思っていなかったので、とにかく嬉しかったですね」

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屈斜路湖畔にたたずむペンション・クッシャレラ。オーナーが同じ千葉出身というまさかの出会いもあり、素晴らしい夜となった。

このトレイルのポテンシャルを感じ取って、「オープンしたばかりの摩周・屈斜路トレイルを歩きたい!」と旅に出たトニー。

前半の2日間は、MKTのハイライトのひとつである、硫黄山周辺〜屈斜路湖畔のセクションを歩いた。屈斜路湖畔では、やりたかった釣りをしながらのハイキングもできて、だいぶ満喫できたようだ。

中編では、残りの2日間のトリップをお届けする。トニーは、MKTと接続する釧路川へと向かった。そして憧れだった釧路川原流域から釧路湿原のパックラフティングに挑んだ。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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