TRAILS REPORT

PCTハイカーTONYが歩いた摩周・屈斜路トレイル(中編)

2021.03.31
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話・写真:利根川真幸 構成:TRAILS

2020年10月1日に開通した北海道の『摩周・屈斜路 (ましゅう・くっしゃろ) トレイル (MKT) 』(※1)。

「ハイキング、釣り、パックラフティング。いまやりたいことが全部できるトレイルじゃないか!」と、いてもたってもいられずに、PCT (※2) スルーハイカーの利根川真幸 a.k.a. TONY (以下、トニー)が、さっそくこのMKTを旅してきた。

旅の前半は、硫黄山から屈斜路湖畔のセクションをハイキングと釣りをしながら楽しんだ。詳細は前編の記事)。この中編では、旅の後半での、釧路川のパックラフティングについて語ってもらった。

TRAILSでは、摩周・屈斜路トレイルから、釧路川を「リバートレイル」としてつないで旅する面白さを伝えてきた。トニーもこの旅のアイディアにノッてくれて、MKTのトレイルから、そのまま釧路川へと向かったのだった。

※1 摩周・屈斜路トレイル (MKT):阿寒摩周国立公園内にある全長44kmのトレイル。「火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道」というコンセプトのとおり、摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖を渡り歩き、火山がつくり出した独特の自然景観、温泉街や野湯、また古くからあるアイヌのコタン(集落)を通りながら歩くトレイル。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

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屈斜路湖畔のハイキングから、釧路川のパックラフティングへ。


屈斜路湖で、朝焼けを見ながらの釣り。


—— 編集部:3日目はいよいよ釧路川でのパックラフティングだね。

トニー:「パックラフトで釧路川を下る前に、朝一で釣りをしたんです。もし日程に余裕があれば、この3日目を1日釣り日にしようと思っていたくらいなんですけど。

2日目はどちらかというと歩き優先だったんです。運が良ければ釣れるかなという感じで、ドライパンツを履かずにおかっぱり (※3) での釣りでした。

この3日目が釣りの本番で、早朝から防寒対策をしっかりとして、ドライパンツを履いて湖に立ち込みながらガッツリ釣りをしようと決めていました」

※3 おかっぱり (陸っぱり):陸地から釣ること。

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とにもかくにも、屈斜路湖から眺める朝焼けが素晴らしかった。

—— 編集部:本当に釣りがしたかったんだね。釣果はどうだった?

トニー:「5時半から7時半までの2時間、黙々とキャスティングをしたのですが、お目当てのニジマスは釣れず、ボウズで終わりました。でも、屈斜路湖の朝焼けを見ながらの釣りは、釣果がなくても最高でした」

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今回の行程は、DAY1〜2がMKTのセクションハイキングで、DAY3〜4が釧路川のパックラフティング。「DAY1:川湯温泉駅〜川湯温泉」「DAY2:川湯温泉〜コタン」「DAY3:コタン〜摩周大橋」「DAY4:標茶〜塘路」。


釧路川源流部の景色に、涙ぐみながら鼻歌を歌う。


—— 編集部:いよいよ旅の後半戦のメインテーマであるパックラフティングだね。屈斜路湖も少し漕いだりしたの?

トニー:「屈斜路湖も漕いでみたかったんですよね。ただ、快晴で余裕ぶってたら、天候が急変して強風が吹いてきて、風に弱いパックラフトはぜんぜん進まず (苦笑)。

しかも重い荷物を載せて漕ぐことに慣れてなかったので、バランスを崩して軽く沈しました……。まあ浅瀬だったので服を濡らさず済んだんですけど、かなり焦りました」

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出発前は余裕の表情。しかしこの直後、荷物が重かったこともあり、屈斜路湖で沈してしまう。

—— 編集部:のっけからハプニングとは。静水の湖から流れのある釧路川に入るわけだけど、けっこう不安はあった?

トニー:「そうですね。ペンションのオーナーには、今年は渇水でカヌーガイドも苦労してると聞いていましたし。ストレイナー (※4) や倒木にぶつかって、沈したりパックラフトが破れたりしたらどうしよう……という不安はずっとありました。だから、実はパックラフトに関しては、楽しみよりも不安のほうが勝っていたんです。

でも、釧路川源流部の入口の眺湖橋 (ちょうこばし) をくぐった瞬間、不安はぜんぶ吹き飛びました!」

※4 ストレイナー:川にある障害物のこと。たとえば、流木やテトラポット、漂流物など。今回の釧路川の源流部の場合は、ほとんどが倒木。

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奥に見えるのが、釧路川の源頭に架かっている眺湖橋。

—— 編集部:釧路川の入口の景色は感動的だよね。

トニー:「眺湖橋をくぐった途端、不思議と風も雨もなくなったんです。しかも、釧路川源流部の原生林が広がっていて、雰囲気が一変するじゃないですか。それで不安もいつの間にかなくなってましたね。

相変わらずの荷物の重さでバランスは悪いんですが、思っていたよりもちゃんと倒木を避けながら漕げて。それで自分の力で憧れの釧路川を漕いでいるというのを実感して、気づいたらちょっと涙ぐみながら鼻歌を歌ってました」

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倒木は多かったが、うまく避けながらパックラフティングを楽しんだ。


シエラネバダを思い出すほどの、釧路湿原の大自然。


—— 編集部:トニーが行ったときはもう11月下旬だったけど、寒さはどうだった?

トニー:「3日目の晩は、標茶駅からほど近い橋の下でテント泊をしたんですけど、トリップ中一番の冷え込みで、夜中の最低気温は−8℃ぐらいだったと思います。

防寒対策は十分だったのでしっかり眠れたのですが、朝起きたら、テントはもちろん、寝る前に膨らましておいたパックラフトも凍っていて……。そんなわけで、出発準備にだいぶ時間がかかりました」

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水しぶきが瞬く間に凍ってしまうほど寒かった。

—— 編集部:北海道の寒さの洗礼も浴びたわけだね。最後の4日は釧路湿原部を漕いだんだよね? 寒い季節の釧路川も最高だよね。

トニー:「もうめちゃくちゃテンションあがってました。4日間で一番でしたね。4日目は朝から突き抜けるような青空で、天気も最高でした。

ただ、気温は低いままで、漕いでいるとデッキの上の水しぶきがみるみるうちに凍っていって。グローブとパドルが離れなくなって川に浸して溶かしたりしました」

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人の気配は一切なく、釧路湿原を独り占めしているかのよう。

—— 編集部:釧路湿原では何が一番心に刺さった?

トニー:「人の気配がまったくないことに驚きました。一方で、水鳥や鹿、いろんな動物たちの鳴き声がそこら中から聞こえてきて、ここは本当に日本? という感じがしました。

それでふとPCTのシエラを思い出したんです。あのウィルダネスに身を置いた時の感覚っていうのか。圧倒的な自然を目の前にした時の、ここに人間がいることの違和感みたいな。その懐かしさもあって、今回2度目の涙を流しました」

—— 編集部:泣きすぎ (笑)。釧路川のパックラフティングでは、源流部でも、湿原部でも涙を流したんだね。

トニー:「いや、釧路川はほんとに良かったんですよね」

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憧れの釧路湿原で、手つかずの自然を満喫することができた。


ハイキング、釣り、パックラフティングと、やりたかったことをつめこんだ旅。


—— 編集部:ゴールが見えてきた時は、どんな気持ちだった?

トニー:「これで終わってしまうさみしさがありましたね。ただ、岸に上がって時計を見ると電車の出発時刻まであと30分しかないことに気づいて。もう余韻にも感傷に浸っている余裕もなく、撤収に追われました。

最後バタバタだったので、もうちょっとのんびりしたかったという思いはありました」

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ゴール地点で急いでパッキング。

—— 編集部:現時点でやりたいことを詰め込んだ旅だったね。

トニー:「そうですね。4日間でやれることはぜんぶやったので、すごく楽しかったです。

欲を言えば、もっと釣りもしたかったし、もっと川も下りたかった。帰りの電車に揺られながら、もう次のプランを考えてましたね」

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塘路駅で電車に乗って、釧路駅へと向かう。

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ハプニングもあったけど、それも含めて最高のトリップだった。

4日間の旅で、ハイキング、釣り、パックラフティングと、自分のやりたいことをやりきったトニー。

次回の後編では、今回いち早く『摩周・屈斜路トレイル』を旅してきた彼に、このトレイルを総括してもらう。

PCTをスルーハイキングした経験があり、毎年のように日本のトレイルも旅しているトニーにとっての『摩周・屈斜路トレイル』とは?

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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