TRAILS REPORT

PCTハイカーTONYが歩いた摩周・屈斜路トレイル(後編)

2021.04.02
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話・写真:利根川真幸 構成:TRAILS

2020年10月1日に開通した北海道の『摩周・屈斜路 (ましゅう・くっしゃろ) トレイル (MKT) 』(※1)。

この後編の記事では、今回旅した利根川真幸 a.k.a. TONY (以下、トニー)に、摩周・屈斜路トレイルの旅を総括してもらった。

PCT (※2) をスルーハイキングした経験があり、毎年のように日本のトレイルも旅しているトニーに、『摩周・屈斜路トレイル』はどう映ったのだろうか。

ハイキング、釣り、パックラフティングとやりたいことを詰め込んでみた、今回の旅の振り返りとともに、トニーにとってMKTはどんなトレイルだったのかを語ってもらった。

※1 摩周・屈斜路トレイル (MKT):阿寒摩周国立公園内にある全長44kmのトレイル。「火山と森と湖の壮大なカルデラをたどる道」というコンセプトのとおり、摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖を渡り歩き、火山がつくり出した独特の自然景観、温泉街や野湯、また古くからあるアイヌのコタン(集落)を通りながら歩くトレイル。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

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摩周・屈斜路トレイルのつつじヶ原自然探勝路から望む硫黄山。


遊び尽くしたつもりだったが、むしろもっと旅を広げられると感じた。


—— 編集部:まず、4日間の旅を振り返って、どうだった?

トニー:「旅が終わった直後は、終わっちゃったなぁという少しさみしい気持ちと、4日間遊び尽くした! という満足感の両方がありました。

でも少し時間が経つと、また歩きたい! まだ足りない! っていう気持ちのほうが強くなりました」

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今回の行程は、DAY1〜2がMKTのセクションハイキングで、DAY3〜4が釧路川のパックラフティング。「DAY1:川湯温泉駅〜川湯温泉」「DAY2:川湯温泉〜コタン」「DAY3:コタン〜摩周大橋」「DAY4:標茶〜塘路」。

—— 編集部:現時点でやりたかったことを、詰め込めたんじゃないの?

トニー:「4日間という限られた日数でできることは、すべてやり尽くしたと思うんですが、もっと長く歩きたかったし、もっと釣りもしたかったし、パックラフトも釧路の市街地まで漕ぎたかったなと。

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屈斜路湖では釣りも楽しんだ。

摩周・屈斜路トレイルは、東は北根室ランチウェイ (※3) にもつながっていて、西は釧路川にもつながっています。トレイルとしてのポテンシャルがすごく高いので、遊び尽くすにはもっともっと時間が必要ですね。だから、一度旅したからってこれで終わりではなく、次も来るぞ! と思いました」

※3 北根室ランチウェイ:2020年10月に閉鎖が発表され、すでにクローズとなった。TRAILSとしては、また違った形でもこのトレイルが残りつづけることを願っているし、そのあり方を模索している。ただし、ステージ5〜6があった摩周湖外輪山のトレイルは、既存の登山道として歩くことができる。

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念願だった釧路川でのパックラフティング。


歩くことで、ロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーへ恩返しがしたい。


—— 編集部:トニーは、2015年にスルーハイクしたアメリカのPCTが、ロング・ディスタンス・ハイキングの原体験だよね。以来、いろいろ歩いているけど、トレイルの何に惹かれてるの?

トニー:「トレイルを長く歩くっていう行為自体も楽しいんですが、それ以上に、その歩き旅の途中での出来事がやっぱり面白いんですよね。人に出会ったり、大自然に浸ったり、のんびり釣りをしたり」

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PCTでは、たくさんのハイカーと出会った。

—— 編集部:歩くこと自体だけじゃなくて、旅の途上での “出来事” が大事だっていうのはよくわかる。トニーは、その “出来事” を求めて、今回の摩周・屈斜路トレイルをはじめ国内のさまざまなトレイルを歩いていると。

トニー:「PCTでの経験は自分にとっては一生忘れられないものです。帰国してあらためてロングトレイルのことを考えた時に、これからは自分のライフワークとして、少しでもロングトレイルのカルチャーに恩返しができればと思いました。それで毎年1回は、日本のトレイルを歩くようにしているんです。

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牧場地帯が印象的な「北根室ランチウェイ」。

もちろん単純に楽しみたいという思いもありますが、一方で、人や地域のためと言ったらおこがましいですが、自分が歩いてトレイルの情報をアップデートしたり発信したりすることで、役に立てたらなと。地域に住んでる方や、地方自治体、トレイルに関わっている方に、少しでも貢献できればと思って旅をしています」

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「塩の道トレイル」でのテント泊。


やっぱり日本のトレイルは、海外よりも人と接しやすくてストレスが少ない。


—— 編集部:アメリカのトレイルと比べて、日本のトレイルはどう?

トニー:「日本のトレイルを歩いて感じるのは、当たり前かもしれませんが、人との接しやすさですね。自分は人との距離感をはかることが苦手なほうなので、なかなか一歩が踏み出せないんです。

PCTを歩いた時は英語もそんなにできないから、なおさら距離感がわからなくて本当に苦労しました。でも日本だと、文化や習慣の違いはあれど、同じ言語で話せるし打ち解けやすいですよね。

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摩周・屈斜路トレイルにある硫黄山レストハウス。

あとは海外と比べると日本のトレイルは補給がしやすい。特に摩周・屈斜路トレイルは、トレイル沿いに川湯温泉や屈斜路湖、コタンといった観光地もあれば、レストハウスやコンビニなども要所要所にあります。オンシーズンならキャンプ場も複数あるので、本当に便利ですね」

—— 編集部:たしかに、国内だからこそ気軽に旅ができるよね。

トニー:「PCTを歩いていた時、現地のハイカーは何かあれば途中で家に帰ったりしてたんです。それは自国だからこそできることなんですよね。日本のトレイルであれば、僕も同じようにできるわけです。そういう自由度だったり気楽さみたいなのはありますよね」

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今回の4日間の旅のスタート地点「川湯温泉駅」には、カフェや足湯が併設されていた。


2021年は、信越トレイルの延伸区間や、みちのく潮風トレイルを歩いてみたい。


—— 編集部:2021年は、どこのトレイルを歩こうと考えているの?

トニー:「1つは、信越トレイルの延伸区間です。計画を知った時からずっと歩きたいと思っていて。延伸によって新潟県の津南を通ることになるのですが、そこで開催されている大地の芸術祭によく行ってたこともあって、好きな地域なんですよ。

もう1つは、みちのく潮風トレイルです。新しいトレイルで、まだまだこれからという段階ですよね。なので、セクションを歩いてみた感想や経験を共有することで、何かしら役に立てればと思っています。

あとは、先の話にはなりますが、長めのまとまった休みが取れたら、自分で地図上に線を引いて、自分なりのトレイルをつなげて歩いてみたいですね。きっといろいろ詰め込みすぎて、遊びきれないくらいのロングトレイルになると思います (笑)」

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トニーの歩き旅は、これからも続く。

ひとつ旅をすると、次にやりたい旅が生まれてくる。その連鎖のなかで、ハイカーは生きている。

そんなことを感じさせてくれるトニーのレポートだった。もっと釣りができる旅にしたい。パックラフトで、もっと先まで漕いで行きたい。もっと遠くまで歩きたい。トニーからはそんなハイカーのピュアな衝動が溢れ出ていた。

どうやら、彼の旅はこれで終わりというわけではなさそうだ。次はどんなスタイルで旅するのか、今後のトニーの旅も楽しみだ。

今シーズン、摩周・屈斜路トレイルを歩きたいと思っている人は、今回3回にわたって紹介したトニーのトリップレポートと合わせ、TRAILSが旅したMKTの記事も参考にしてみてください。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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