北海道・標津川 デイ・パックラフティング | パックラフト・アディクト #70
今回紹介するのは、北海道の北根室に流れる「標津川 (しべつがわ)」。北根室の森のなかをスタートし、中標津の町までを漕ぐ、デイ・パックラフティングだ。標津川は、パックラフティングのフィールドとしては、ほとんど紹介されてこなかった北海道のローカルの川であり、貴重なトリップレポートだ。
ちなみに標津川が流れる場所は、ハイカーにとっては、北根室ランチウェイ (現在、閉鎖中※1) のエリアとしても知られている場所である。
レポートしてくれるのは、昨年から連載レポートをスタートした、國分知貴くん (以下、國分くん)。國分くんは北海道生まれ、北海道育ち (出身は中標津) で、小さい頃から北海道の大自然のなかで遊び続けてきた。
そんな國分くんによる、「北海道のパックラフターによる、北海道の川のパックラフティング・レポート」第3弾。國分くんにとっては、大切な地元の川でもある、標津川。彼の思い入れもたくさん詰まった、標津川のトリップ・レポートをお楽しみください。
標津川と僕。
みなさんにとって「ふるさとの川」はあるだろうか? 僕にとっての「ふるさとの川」はこの「標津川 (しべつがわ)」だ。
標津川にかかる「緑豊橋 (りょくほうばし)」。子供の頃、学校が終わっては自転車を走らせて、よく釣りにきていた場所だ。記憶にある尺ヤマメを釣ったのもこの場所だ。標津川は、僕に自然の恐さを教えてくれた川。生命の循環とその営みを教えてくれた先生のような川でもある。
今回は、そんな僕のふるさとの川である標津川の、パックラフティグ・レポートである。
標津川。標津岳を源とし、養老牛 (ようろううし) から俣落 (またおち)、中標津市街を抜け、標津の海、根室海峡まで流れる全長約78kmの二級河川。アイヌ語では「大きな・川」「親の・川」を意味する。アイヌ語で言い表した大きさの意味は、単に「サイズ」のことだけではないだろう。「豊かさ」も含めて、この地域にとって「大きな川」だったことを意味していると思う。
「豊かさ」とはこの川では「鮭」にあたる。標津川の河口に位置する標津町は「鮭の聖地」として知られる。近年では、時期になると資源量維持のため河口付近のウライ (※2) にて鮭を捕獲し、人口ふ化、放流事業を行なっているので川で鮭はほぼ見られないものの、他の魚影は濃い豊かな川だ。
テンカラしながら川を流れ、故郷の町へ。
いつもの旅のように河口を目指すことも考えたが、そのほとんどが直線的に改修された下流部をパックラフトで下るのは風情に欠ける。今回はライトな1DAYトリップとしてめぼしい区間をのんびり楽しむことにした。
計画を立てる上でいくつかの「やりたいこと」を盛り込んだ。
まずは「支流探検」。パックラフトのアドバンテージはここにある。他の艇では難しそうな場所や、不明瞭なエリアを探るにはいい道具だ。大木が川を塞ごうが、渇水で歩きばかりの区間が続こうが、パックラフトならポーテージ (※3) も簡単だ。
次に「テンカラ釣り」。せっかく支流から攻めるのだ。渓流釣りも楽しみたい。手返しの良い (※4) テンカラで、さてどんな魚が遊んでくれるのか、これが結構メインイベントだったりもする。
最後に「町ランチ」。慣れ親しんだ町を川から眺め、上陸し、歩いて飯を食いに行き、また川の上を流れる。これも川下りの醍醐味。
「どお? 面白そうじゃない?」身近なメンバーに声をかけた。「ぜひ! 行きたいです!」すぐに返事が来たのが、昨年からちょくちょく一緒に川へも行っている高野くん。さぁ、楽しみをいっぱい詰め込んで川を下ろう。
スカウティング後、俣落川よりプットイン。
ゴールポイントに車を1台置き、予定のスタートポイントへと車を走らせながら、途中いくつかの橋からスカウティング(※5)へと車を走らせる。市街地を抜けると右も左も酪農地帯。まだ一番草の刈り取り時期ともあり、収穫したばかりの牧草ロールがあちこちに。さらには収穫後に撒く堆肥の「あの香り」も鼻をつく。「酪農地帯を流れる川だぞ〜」と言わんばかり、いい演出ととらえたい。
標津川本流からの流れはなんとなくイメージはつくのだが、俣落川 (またおちがわ) はまったく初めて。お決まりのグーグルアース飛行チェック (倒木の混み具合がおおよそわかる) もするのだが、橋から目視するのが一番の情報となる。支流なので水位情報もない。
さて、どんなものか。最近まとまった雨が降っていないこともあり、かなり浅い。「多分ギリギリだね (笑)。まぁ歩いたっていいし、行ってみよう。きっとテンカラにはちょうどいいよ」。この辺の気軽さはパックラフトならではだろう。
倒木だらけの俣落川、テンカラとの相性は良い。
いざ入川。浅すぎて流れない、倒木が川を塞いでいる、こんな場所がいくつも出てくる。その度に船を降り、時に担ぎ、時に腰まで川に浸かる。こんな探検もパックラフトならではで楽しかったりする。ひょいと担げるのでポーテージがあまり苦にならない。
ましてやポーテージにテンカラ釣りをセットにしてしまえば楽しいものだ。どうせ舟を降りるのだ。シュシュっと竿を伸ばし、サッと振る。小さな川、そしてパックラフトとテンカラの相性がすこぶる良かった。
手返しよく小さなポイントに毛鉤を流す。小さなヤマメが悪戯してくる。何度か流した次の瞬間、「バチャッ」と大きく水が割れる。きたきた! この感覚。久しぶりに感じる魚のパワーにニンマリ。やはり川は良い。
標津川本流へ合流。豊かな自然、豊かな川。
俣落川を5km程下ったところで標津川本流へと合流。鬱蒼としたところを下ってきたので、一気に開けた川の様子に、心も開放的になった。あとはのんびり流れるだけ。もう終わったようなものだ (油断禁物)。
市街地まであと少しだが小腹も空いてきた。いいの持ってきたんだよね〜と懐から取り出すのは羊羹。「標津川で標津羊羹を食べる」。これ、前からやりたかったこと。
中標津市街地より上流区間は自然が濃く残っている。カワセミ、ヤマセミ、カワアイサの親子などが頻繁にその姿を見せてくれる。空にはオジロワシが舞い、エゾシカたちが水を飲みに川へやってくる。市街地のすぐ近くにこんなにも豊かな自然があり、たくさんの動物が生命を育んでいるのだ。大きく豊かな川だ。
今回の区間は基本的に流れに沿って進めば、目立った危険箇所などはない。時折倒木絡みのカーブがあるが、舟をきちんとコントロールできる人であればさほどリスクにならないだろう。
自然から、市街地へ。美味しい町グルメでお腹を満たす。
森に囲まれているので、うっかりすると通りすぎてしまいそうな市街地の橋「中標津大橋」に到着。左岸側が上陸しやすい。ここから徒歩5〜10分圏内は町の中心部。カフェ、うどん屋、昔ながらの洋食屋、中華と、お店の数は豊富だ。ぜひお気に入りのお店を見つけてほしい。ドライな服に着替えていざ、町へ。
いくつも美味しいお店があるのだが、僕が今回行きたくなったのはここ「ラ・キンコ」。約30年続く洋食屋さんだ。ガッツリボリューミーなメニューが豊富なこのお店は、長い間町民の胃袋を満たし愛され続けている。川下りでお腹ペコペコならバッチリだ。
僕のオススメはキンコカレー。何度行っても注文時に「かなり辛いですが大丈夫ですか?」と聞かれるほどの辛さ。辛くて旨い!中毒性が高く定期的に食べたくなる味。
市街地と川の関係を見つめる。川を流れ思考を巡らせる。
お腹を満たしリスタート。ここからは市街地の中を下る。川から市街地を眺めるのも一興。日常のすぐそばで、日常とは異なる視点で町を見つめることができる。
市街地を流れる川というのは、当然だが整備されている場所も目立つし、少なからず生活排水も流れ込んでくる。これは人が暮らす以上ある程度は仕方のないことかもしれないが、どうせ整備するのなら、町民が利用できる河川敷や公園など「町民が川を身近に感じられるような場所があってもいいのにな」そう思った。
現状、そのような場所はほぼなく、今回見かけたのも釣り人ただ一人。せっかく町を通るのに……と少し寂しさを感じた。いや、河畔林に囲まれている今のままが良いのだろうか。利用と保護を考えるといつも答えは出ない。
ゴール! さいごは昔から通っているお気に入り温泉へ。
スタートから約17km。ゴールポイントまで無事にやってきた。
純粋に楽しみつつ、感慨深く、ちょっぴりセンチメンタルな気分にも。そしていろいろなことに思いを巡らせてしまう複雑さがあった。川を流れて思考を巡らせること、きっとこれも川遊びの魅力だろう。味わい深い標津川よ。
スタート時には鉛色だった空も、陽の光が差し込み僕らを照らしてくれているではないか。ササッと軽く空気を抜き、軽トラの荷台に適当に積み込む。ガタガタと林道を抜け、お気に入りの温泉へと車を走らせた。
中標津出身の國分くんによる、地元の標津川の旅。特に標津川の支流は、パックラフトだからこそ旅できる、日常の中にある冒険のフィールドであった。このようなパックラフトによるローカルの川の開拓は魅力的だ。
今後、國分くんが北海道のどんな川を、パックラフティングのフィールドとして探索していくのか、楽しみにしたい。
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