北海道・歴舟川 パックラフティング & 河原キャンプ 2 DAYS(前編) | パックラフト・アディクト #60
今回のパックラフト・アディクトで紹介するのは、北海道のなかでも指折りのリバーツーリングの名川である歴舟川 (れきふねがわ)。レポートをしてくれるのは、TRAILSのウェブマガジンで初登場となる、國分知貴くん (以下、國分くん) だ。
國分くんは北海道生まれ、北海道育ち (出身は中標津) で、小さい頃から北海道の大自然のなかで遊び続けてきた。今後、『パックラフト・アディクト』の連載においては、「北海道のパックラフターによる、北海道の川のパックラフティング・レポート」を、彼から届けていってもらう。
現在、國分くんは、屈斜路湖、釧路川源流部を拠点にカナディアンカヌーのガイドをしている。その一方で、パックラフトの旅の拡張性と自由度 (※1)に魅了され、パックラフトを使った、北海道でのあらたな川旅の形を模索している。
パックラフトについては、國分くんはまだアディクトになりたてのステージ。だからこそ感じられるパックラフトに対する初々しい感動や、UL (ウルトラライト)スタイルの試行錯誤も、彼には届けてもらおうと思っている。
ちなみにTRAILSと國分くんは、トレイルカルチャーを通じて出会った仲間。TRAILSと北根室ランチウェイ (※2) が登壇したイベントに、彼が遊びに来てくれたのが最初の出会いだった (2016年)。その後、摩周・屈斜路トレイル (※3) の計画段階から、ともに同トレイルのトレイルづくりに関する活動をする間柄となった。
では、國分くんによるレポート第一弾、北海道内・歴舟川のトリップ、その前編の記事をお楽しみください。
北海道でも指折りのリバーツーリングの名川、歴舟川。
僕は屈斜路湖、釧路川源流部を拠点にしながら、グリーンシーズンは川へ、ホワイトシーズンは山へと、一年の半分以上は北海道の大自然のなかで過ごしている。そんな僕が遊んでいる北海道のフィールドの素晴らしさを、TRAILSの記事で伝えていきたいと思う。まずは今回、旅した歴舟川について、簡単に紹介したい。
歴舟川は、「北海道の屋根」と呼ばれる日高山脈から流れる川。アイヌ語では「ペ・ルプネ・イ」と呼ばれている。言葉の意味は「水・大きくなる(ある)・もの」ということらしい。昔から増水時の鉄砲水が激しかったことをうかがわせる。総延長約65kmで、十勝エリアの大樹町を流れている川だ。今回はその上流部にある坂下仙境のやや下流の坂下取水堰から、河口までの約35kmを旅した。
余談だが、このように北海道の地名や川の名前は、だいたいアイヌ語(文字はなく音だけだったそうだ)にあとから文字をあてて名前をつけている場所が多いのだ。それらには意味があり、その土地の自然や背景まで想像できることが多い。自分たちがこれから遊ばせていただくフィールドを名前から読み解き理解した上で遊ぶのも、フィールドへの敬意であり、楽しみの1つでもある。
カナディアンの積載量 vs. パックラフトの移動の自由度。
釧路川、天塩川、そして今回の歴舟川など、今までカナディアンカヌーで道内の川をいくつか旅してきた。なぜカナディアンではなくパックラフトで旅をしたいのか。これからパックラフトの旅を語る上で、少しそこに触れておきたい。
カナディアンカヌーの積載量、それは最大の魅力で、好きな道具も、犬だって、細いことは気にせずあれこれ積み込んで川へ。そんなスタイルだった。道具としてもシンプルかつクラシカル。そこも大好きな点だ。
旅を繰り返す中で改めて考えた。ホームフィールドで使う場合、カナディアンは最高の道具だ。それは今も変わらない。思い立った時、ひょいと車に乗せ、必要なギアをがばっと車に積み込み、湖や川へと繰り出してしまえばよい。メンテナンスも楽だし、何より頑丈。ホームフィールドならば、車を置いておける場所も熟知している。
一方で、カナディアンでネックになってしまうのは、その「デカさ」。担げるといっても、やはり行動範囲は限られる。舟を持ち上げてのポーテージ (※4)は、それなりに負担である。そして「車に積載しないと、一緒に移動できない」点。いつも「車をどこにおく?いつ車を回す?」と、どうしても車ありきの思考になってしまう。
カナディアンに最適なフィールドや旅とは別に、「もっとシンプルに、自由に移動しながら、川を旅する方法はないか?」と思うようになった。
なにせ北海道には、まだ未開拓の面白そうな川がたくさんある。移動の制約に縛られることなく川を探索したい。そう模索し始めたころだった。その頃、タイミングよくガイドや友人の繋がりで、パックラフトに触れさせてもらう機会も何度かあった。
パックラフト=「PACK」(パッキングできる) + 「RAFT」(ラフトボート)。バックパックに詰め込めるサイズで、川旅できてしまう移動の身軽さは、衝撃だった。その頃から、強烈に気になり始め、脳裏に焼きついて離れなかった。
TRAILSからギアを借り、クラシックなスタイルを体験する。
パックラフトが気になり出した頃、そういえば!?と思い出す。以前、TRAILS編集部crewが「摩周・屈斜路トレイル + 釧路川」(※5) の旅をしているとき、僕は川の出発地点で偶然に彼らと遭遇した。「あの時に使っていたアレ、たしか!? 」
パックラフトのメーカーはいろいろあるし、価格だってピンキリだ。何をどう選ぶべきか、悶々としていた。1人では解決しない想いを、TRAILS編集長の佐井さんに相談をしたのが始まりだった。「國分くんのスタイルならアルパカラフトがいいと思うな。次の旅はどこ行くの?とりあえず使ってみなよ!僕らのやつを貸すよ〜」と佐井さん。
2022年4月のある日のことだった。願ってもない!よし、次の川旅は「アルパカラフトで、パックラフトのオリジンに触れる旅」にしよう。こうして旅のテーマが決まった。
ふむふむ、いろいろ調べてみると、アルパカラフトは僕にドンピシャだった。「移動のための道具」として作られた舟であり、いまもハンドメイドで作られ、日々細かい点もアップデートし続けている。パックラフトのパイオニアブランドであり、何より作り手が自分の冒険の道具として使っている。そのストーリーに惚れてしまった。
今回の旅では、TRAILS編集部crewのご厚意で、自分以外のメンバー分まで、主要ギア一式を借りることができた(感謝!)。後日、たまたま東京へ行く予定があったので、TRAILS編集部のオフィスに直接借りるギアをピックアップしに行った。
僕が借りたのは黄色い舟。なにやらコロンとしたフォルムが可愛らしい。
國分「軽っ!小さっ!スターン (船尾)、 短か〜!これ、ホールとかつかまったら縦にフリップ (転覆) とかしそうですね。」
TRAILS「あ〜するかもね〜(笑)。これは10年以上も前のモデルで、かなり使いやすくなってる今のモデルとは、舟の形状もけっこう違うんだよ。」
話を聞いてみると、今はもう手に入れるのが難しいらない貴重な初期モデルのようだ。
TRAILS「いろいろ改良された最新版より、まずはクラシックなパックラフトを体験してみなよ!」
アガるアドバイスだ。その道具が何の目的で、なぜ生まれ、どのように改良されてきたのか。そのストーリーやバックグラウンドを理解した上で、道具を使うことが好きな僕にとっては嬉しいことだった。
まずはパックラフトのリペアをやってみる。そしてULのパッキングにチャレンジ。
TRAILSからヴィンテージのパックラフトをお借りした際、最後にこう伝えられた。「あとね、この舟どこからか空気漏れてるから、修理して使ってね (笑)」
ギアのリペアは旅の大事なスキルだ。旅しているなかで、リペアが必要になることだって十分ありえるわけだし、舟と向き合えるよいチャンスだ。
屈斜路の自宅に戻り、早速リペア作業に取りかかる。十分に膨らまし、各パーツの接着部や、キズがありそうな場所には、濃いめの洗剤水を塗り入念にチェック。
空気が漏れているとそこが泡立つ。いずれもピンホールだったので、ギアエイドのアクアシールを塗って対処した。これを数日くりかえし、空気が抜けていないことを確認、これで舟の用意はOKだ。
それから、TRAILSは今回バックパックも借してくれた。「パックラフトのオリジンは、UL (ウルトラライト) スタイルで、川の旅とハイキングを組み合わせて、自由に移動できるところにもあるからね。せっかくならそのスタイルを体験してみれば」というアドバイスだった。
カナディアンカヌーに何も気にせず荷物を積みまくってた僕は、それまでULスタイルをそこまで意識していなかった。今回の旅はパッキングからいつもと違うぞ!ワクワクと少しの不安が旅へのボルテージを高めていった。
いざ、スタート!前夜に仲間と集合し、パッキングの最終チェック。
今回の旅で僕が声をかけたのは、ウミくんとユータくん。みんな同じ北海道に住む仲間たちで、二人とも僕の気まぐれとわがまま、それとくだらないボケを柔軟にキャッチしてくれるメンバーだ。
ウミくんは、白老町・倶多楽湖 (しらおいちょう・くったらこ) に住んでいて、シーカヤッカーであるが、今までの川旅も一緒にしてきた相棒だ。ユータくんは、喜茂別町 (きもべつちょう) に住んでいる、バックカントリーのスキーヤー。
みんなジャンルは違えど「旅」や「冒険」の世界から抜け出せなくなった物好きたち。僕らの共通点は北海道の自然で遊ぶのが大好きということ。
前日の夜に各自現地入り (集合場所は大樹町の道の駅)。翌朝顔を合わせて軽いボケをかまし合い、適当にくだけたところで準備スタート。スーパーでの買い出し (ビール必須) と、道の駅の特産品チェック (これを怠ってはならない) を済ませる。
汗だくになりながら最終パッキング。初めての道具を使った旅だ、事前にある程度の準備をしておいたものの、みんなやはり苦戦した。ULなギアを使うならば、中身もULにしないといけないと学ぶ。そして、ビールも買いすぎてしまった。しかし、なんとか押し込む。
課題を多く残しつつもなんとか汗だくでクリア。まずはご褒美にソフトクリームを摂取して火照る体をクールダウン。予定時間は過ぎていくがまぁ多少のことは気にしない。
いよいよスタートへ。スタート地点から川までの距離は数100メートル程度だが、少しの距離でもパックラフティングとキャンプの道具一式をパッキングした状態でのハイキングを体感するべく、周辺を少しばかり歩き回ってから川へとアプローチ。
一見すると無駄とも思えるこの行程が、今後のトリップを想定した上での、最も重要とさえ言ってもよいプロセス。我々には大事なテストだった。実際にパッキングして歩いてみることで、必要ギアの洗い出しや課題点の整理になり、あーでもないこーでもないと立ち話が白熱。川へ出る時間はどんどん遅れていくがまぁある程度想定内、いつものことだ。
「すべてを背負って移動できる」
「道と川を繋ぐことができる」
いつもと違うパッキングとアプローチを体験することで、改めて「これがパックラフトという道具か」と頭と体で理解し、感動した。まだこの旅が始まったばかりなのに、今までにはない新たな旅のイメージがどんどん湧き出してしまい、ニヤニヤしながら川に浮かんだのだった。
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