北海道・斜里川 デイ・パックラフティング | パックラフト・アディクト #75

文:國分知貴 写真:國分知貴 構成:TRAILS
今回紹介するのは、北海道の道東を流れる「斜里川 (しゃりがわ)」。サクラマスの遡上で有名な川だ。
今回は、2023年6月末に決行された、北海道でパックラフティングできるフィールドを開拓するための旅。そこで目をつけたのが、斜里川と、その支流の札弦川 (さっつるがわ) だ。
札弦川はカヤックやカヌーのフィールドにはならない、浅く狭い川だ。多くの倒木も予想されるが、はたしてパックラフトなら遊べるのか?
レポートしてくれるのは、國分知貴くん (以下、國分くん)。國分くんは北海道生まれ、北海道育ちで、小さい頃から北海道の大自然のなかで遊び続けてきた。
そんな國分くんによる、「北海道のパックラフターによる、北海道の川のパックラフティング・レポート」。その第4弾となる斜里川のレポートをお楽しみください。
北海道でパックラフトで遊べるフィールドを増やすべく、開拓を試みた斜里川とその支流の札弦川。
初夏の斜里川。サクラマスの川。
いつまでも遊び心を持ち続けているナイスな先輩方と。
「あ、この日全員仕事入ってない。どうです? 久々にみんなで他の川へ遊びに行きません?」てな感じで始まった今回の川行。
メンバーは僕、マメさん、ジンさんの3人。僕が所属するガイドカンパニーの仲間であり先輩たちだ。今回はお仕事でなく、完全な遊びの旅だ。
パックラフトを手にしてからというもの、フィールドの視野がグンと広くなった。「川を下る行為」として未開拓のフィールド、そのなかでもパックラフトでないと楽しめないフィールドは、まだまだたくさんあるだろう。
今回はそのひとつである、斜里川 (しゃりがわ) とその支流の開拓にでかけることにした。季節は6月末。生い茂った緑、煌めく太陽、エゾハルゼミの声。初夏の北海道の川を流れるのはとにかく気持ちが良い。
斜里川は、その名の通り斜里岳の南面を源として、斜里町オホーツク海まで流れる全長約55kmの河川。
「さくらの滝」にて。必死にジャンプする姿に感動しない人はいないだろう。
この時期の斜里川といえば期待するのがサクラマスの遡上。清里町 (きよさとちょう)にある「さくらの滝」では、産卵のために遡上したサクラマスが高さ3.7mの滝を飛び越えるためにジャンプを繰り返す姿が見られるのだ。ここは周辺でも名の知れた観光スポットのひとつ。
「ふふふ、パックラフトで川を流れながらサクラマスも見れるかな」期待が膨らむ。
念のため書いておくが、北海道の河川でサクラマスを釣ってはいけない。違法だ。釣らずしても、同じ川に入ってその存在を感じるだけで満足なのだ。
斜里川の支流ハンティング。鉄路と川旅の妄想。
下見もしながら斜里川の新たなルートの開拓を目論む。
以前、カナディアンカヌーで約6kmほど斜里川を漕いだことはあったが、今回はもっと長く、さらには新たなルートも考えたかった。いつもどおりGoogleマップを航空写真モードにして拡大縮小を繰り返し、河川の状況確認や周辺のパーキング可能ポイントを探す。
むむ、以前スタートした場所よりも上流部に「札弦川 (さっつるがわ)」という支流がある。しかも、そのまま地図上で札弦川の上流部へ辿っていくと、すぐ近くには釧網線「JR緑駅 (※1)」。この辺からスタートできると、これは面白いぞ。

川本流地点まで約4.5km。合流地点〜札弦橋(札弦市街地)まで約4.5km。札弦橋〜GOALまでが約11kmという行程。札弦市街では一度上陸し、道の駅でランチタイム。START1、中間地点、GOALポイント、それぞれの場所が駅まで徒歩10分の場所という北海道にはなかなかない条件だ。駅を利用した川下りルートをくむことができるのか、はたして。START2は以前にカナディアンカヌーで訪れたときのスタート地点。
計画を立てる上でいくつかの「やりたいこと」を盛り込んだ。
地図を見る限り、河口まで斜里川に沿うように釧網本線が走っている。ということは僕が暮らす弟子屈町 (てしかがちょう)、川湯温泉駅から列車に乗って川へ行き、ゴール地点から列車で帰ってくる、なんていう車に頼らないスロウな旅も可能かもしれない。こうして何らかのテーマ性を持ち計画をたてることがとても楽しい。
しかしこの札弦川、随分と細いようだ。航空写真で見ても川の流れはほぼ確認できず、河畔林が覆い被さっている状態。行けるのか? 行けないのか? そして札弦橋より先はどうなっている?
地図で見る限りは行けそうだが……自分が持っている本やネットを見る限り、ここを漕いだことがある情報は見当たらない。だから楽しいのだ。川を漕ぐことができなかったら、パックラフトなんだから、持ち上げて藪漕ぎして歩けばいい。さぁ行ってみよう!
※1 JR緑駅:残念ながら2023年6月の時点で廃止検討の駅となっている。その基準になるのが「乗車数が1日平均3人以下」。今北海道で多数ある存続が危ぶまれている駅のひとつ。維持コストを考えると存続させることは簡単なことではない。
支流・札弦川の開拓トリップ、スタート!
ドキドキのエントリー。初見の川はいつだって足取りは軽快だ。
アクセスに車を使わず列車だけで行けるかもしれないと思ったものの、実際のところ行ってみないとわからない。今回はフィールドのリサーチがメインの旅でもあるので、ひとまず電車は使用せずに2台の車を使用した。ゴールポイントへ1台車置き、予定していた札弦川(さっつるが、) のスタートポイントへ。「お! 思ったより流れあるね! 行けそう! (得意の希望的観測)」
斜里川本流までの約4.5kmに2時間も費やすことになる。
と思っていたのは束の間、やっぱり川を塞ぐ倒木たち。そりゃそうだよね、そう簡単に行かせてくれないのは想定の範囲内。「また倒木だ〜!」「また塞がってる〜!」それにしても川下りをしているのか、川歩きをしているのかわからなくなってきたぞ。
ところでこの日の最高気温は31度と、北海道のこの時期で真夏日は珍しい。しかし川の水温は15度。「いい日に来たね」なんて言っていたが、舟の乗り降りを繰り返して、涼むどころか水に浸かりっぱなしで冷え切った足元。指先の感覚は麻痺している。苦笑いしながら斜里川本流の合流地点を目指した。
連続する倒木に鬱蒼とした河畔林の中を迂回。こういった場所は熊の通り道にもなっている。熊スプレーなどの対策は必須だ。
斜里川本流に合流!? 軽快なダウンリバー。
迷路みたいな支流を抜け出して、いざ斜里川本流へ。
支流・札弦川から斜里川本流へと合流。広がった川幅と適度な流速。お世辞にも豊富な水量とは言えないが、パックラフトなら十分漕ぐことができる。
「気持ちいい〜!」鬱蒼 (うっそう) とした札弦川から流れ出た僕たちは、やけに開放的に感じた。
斜里川本流は、倒木絡みの瀬や、流速のあるカーブは、クイックでテクニカルな要素があり漕ぐのが楽しい。ここでやっと「川下り」を楽しむことができた。
先が見えない場所は都度スカウティング (※2) しつつも、そこまでいやらしく感じる場所はない。飛沫を浴びながら軽快に下っていった。
合流地点から札弦橋まで基本的に緩やかな流れはない。的確なパドリングとコントロールが必要だ。
時々、川の中を黒い影が勢いよく走っていく。いたいた、楽しみにしていたサクラマスだ。こちらも流れているし、サクラマスも魚雷のようにビュンビュン泳ぐので、なかなか撮らせてはくれないが、その生命を感じることができて嬉しくなった。
※2 スカウティング:岸辺や岩の上などに上がって、事前に前方の様子を下見すること。前方の状況が読めないときに、川の流れ、瀬やドロップの大きさ、岩の配置などを見て、漕ぐことができるか、どのラインを通るかなどを見極める。
札弦の道の駅に寄り道し、麻婆丼でチャージ。
札弦橋の下、ここが水位観測場所となっている。この日の水位は55.21m。
斜里川と札弦川の合流地点から約4.5km下ると札弦橋に到着。楽しくあっという間の45分だった。
前半の支流探検で大分体力を削られている僕たちは、そそくさと着替えを済ませて札弦市街へ。お待ちかねのランチタイムだ。10分程歩くと道の駅に到着するこの距離感、素晴らしい。
ここの中華はなかなかに本格派。ぜひ食べていただきたい。
札弦の道の駅は温泉もあって食事も旨いことで有名なのだが、僕が特にオススメしたいのは中華メニュー。この日はテイクアウトのみの対応で少々残念ではあったが腹ペコの僕たちは十分満たされた。
さて出発しますか。と準備を始めるタイミングで何やらガサゴソとマメさん。懐からでてきたのはなんとマンゴー。
ちなみにマメさんはマンゴーアレルギーだった(笑)
野外行動にフルーツの組み合わせはたまらない贅沢。ランチとデザートまでいただいた僕たちは、お腹も心も満たされて少し眠くなりながら川にパックラフトを浮かべた。
札弦橋より下流。野鳥たちと倒木。
釧路川源流を思わせる原生林の雰囲気。
札弦橋より下流は、高低差も少なくなり、札弦橋より上流と比較すると随分と川の様子も異なる。瀬はほとんど見られず、蛇行を繰り返しながらゆっくり流れていく。
ただ楽しみがないかというとそうではない。この辺りは随分と野鳥たちの気配が濃いことに気がつく。カワセミ、ヤマセミが特に多く、時々オジロワシの姿も見ることができた。
舟から足を放り出しダラリ寝転んでの野鳥観察も乙なもの。クイックな流れはパドリングそのものを楽しんで、メロウな流れは周囲の自然を感じ、会話を楽しむ。これぞ川下りの醍醐味だ。
時々倒木で塞がっている。そう簡単に行かせてくれないのがフィールドリサーチの面白いところ……と思いたい。
ランチも食べてお腹いっぱいだし、野鳥も見ながらまったりウトウト……といきたいところだが、どうやらその考えは甘かったようだ。
カワセミ、ヤマセミが多いということはどういうことか。そう、彼らの餌場になる倒木も多いというわけだ。何度も川を塞ぐ倒木。「良い川の証拠だね (苦笑)」。眠たくなる間もなく、忙しない川下りが続いた。それでも札弦川よりは随分マシだったが。
斜里岳をバックにゴール!
10時前に下り始めて早6時間半。なかなか濃密な川下りとなった。
スタートから約20km。ゴールポイントへやってきた。
ここから車を停めた公園の駐車場までは目と鼻の先。トイレも屋外蛇口もあって快適そのもの。すぐに舟や足元をきれいに洗えるのはゴールポイントとしては随分贅沢な話。おまけに斜里岳まで見えるときたもんだ。
「お疲れさま!楽しかったね!」記念撮影を一枚。
ジャガイモ畑ごしに見える斜里岳。この風景はこの辺りの初夏の風物詩とも言える。
実は昨年に今回の3人で斜里岳の頂上にも立っている。斜里岳は冬も何度も入っている大好きな山だ。
山から川、その自然の流れ、循環をまるごと感じて楽しむこと。それを共有し合えること。本当に豊かで幸せなことだと思う。車から眺める斜里岳を眺めそう思った。
適当に詰め込んだラゲッジ。頭の中は温泉に向かっているので整理整頓は二の次。
今回は道東において、パックラフトで遊ぶフィールド開拓を目的としたリサーチの旅だった。
そのリサーチの検証結果としては「純粋に川下りして面白いよ!」と人に言えるのは、「さくらの滝の下の橋 (川地図の「START2」の地点)〜札弦橋までの6km」だろう。
この区間の前後は、ざっくり言うと「倒木だらけ」だった。オススメはしずらい。また倒木の影響で、札弦川に列車のみでスタートポイントにアクセスできるルートも難しかった。フィールドリサーチというのは、必ずしも理想の結果を得られるわけではない。得たいのは理想の結果ではなく、その理想に向けて検証したその過程だ。だから今回も個人的には大満足の探検だった。
パックラフトで遊ぶフィールドを探す開拓の旅も終了!
コツコツと道東を中心に北海道でパックラフトで遊べるフィールドを探し続ける國分くん。今回のフィールドリサーチの結果、斜里川の國分くん的ベストコースを探し出してくれた。
次に北海道でパックラフティングできる川はどこか? 今後のレポートも楽しみだ。
TAGS: