中欧・イザール川 & アンマー川 アルプスでのハイキング&パックラフティング | パックラフト・アディクト #77
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、中欧のオーストリアとドイツ南部に流れる2つの川でのハイキング & パックラフティング。
1つ目はヨーロッパアルプスの屹立した山々の景色のなかを、ハイキングでアプローチし、パックラフティングで下って旅するイザール川 (オーストリア~ドイツ) 。
2つ目は、厳しく保護された原生自然の森を流れるアンマー川 (ドイツ) 。
この旅では、アクセスに車を使わず、すべて列車のみで移動をしている。日本から行く人にとっても参考になるトリップになるに違いない。
ヨーロッパの列車にゆられる旅情と合わせて、今回のハイキング & パックラフティングのレポートをお楽しみください。
ヨーロッパの夜行列車が、今回のトリップのはじまり。
5月2週目、祝日と重なった週末に、パックラフトをバックパックに詰め込んで、ワクワクする旅に出かけた。
今回はいつもと違って、車を使わず、すべて電車と徒歩だけで移動する旅であった。
目的地はオーストリアとドイツ南部のイザール川上流で、素晴らしいアルプスの景色の中で、数日間のパックラフティングを楽しむプランだった。
もともとは、以前からの知り合いであるハロルドと一緒にこの旅を計画していたのが 、今回は新しいパックラフト仲間のフォルカーも誘うことにした。
フォルカーは昨年にフィンランドで開催されたスカンジナビアン・ミートアップに参加し、その時に知り合いになった友人だ。彼はパドリングスポーツの経験が豊富な51歳のドイツ人で、パックラフトについては最近始めたばかりだった。
フォルカーが見つけてくれた情報だったのだが、この旅の数日前に、私たちが漕ごうと思っていたイザール川のかなりの部分が閉鎖されていることがわかった (5月に漕ぐ予定だったが、6月1日まで閉鎖の区間がある)。
そこで、この地域をよく知っているハロルドが、アンマー川を旅のプランに入れてみたらどうかと、提案してくれた。そうして、今回はオーストリアとドイツをまたぎ、2つの川を漕ぐプランとなった。
水曜日の夕方、私とハロルドはユトレヒトから夜行列車に乗り、すでにアムステルダムに着いていたフォルカーと合流した。
列車を待っていると、スノーシューをバックパックにくくり付けたハイカーがいた。夜行列車はノスタルジックな雰囲気で、ロシアやヨーロッパを旅したときの思い出がよみがえった。6人用のコンパートメント (小部屋) では、下段のベッドを使ってもスペースはほとんどなかった。それでも耳栓をしてぐっすり眠り、起きたらミュンヘンに着いていた。
オーストリアの渓谷をハイキングでアプローチ。
ミュンヘンに列車が到着したときに、少し遅延をしていた影響で、急いで次の列車に乗り換えなくてはならなかった。霧が立ちこめ、気温は低めだった。車内の案内掲示板には10℃と表示されていた。
ガルミッシュ・パルテンキルヒェンで列車を乗り換え、さらに南下していく。そしてオーストリアに入ったところにある、最初の駅がシャルニッツという駅で、今回のスタートポイントとなる場所だ。この地点で、標高964メートルある。
シャルニッツから、イザール川の源流域の方にあるプットイン・ポイント (舟に乗る場所) までは、ハイキングをしてアプローチする。
シャルニッツでもっと大きい瀬 (急流) をスカウンティング (※1) した後、そこからプットイン・ポイントまでの10.5kmをハイキングした。ハイキングでは、渓谷や、高山植物の花々、滝など景色を眺めながらハイキングをした。歩いている途中では、小さい滝のような雪崩も見た。
これからの旅の序章となる、美しい景色であった。太陽が顔を出し、暖かくなってきた。道の脇にあった水たまりには、何百匹ものサンショウウオが泳いでいた。
道自体は簡単に歩けるところだった。自転車の人や歩く人がよく通る道であり、私たちも途中でたくさんの人と出会った。
高い岸壁に囲まれた渓谷を流れるイザール川。
イザール川は、オーストリア・アルプスのカーヴェンデル山脈を源流に、チロルやバイエルンを通り、最終的にドナウ川に合流する295kmの川だ。
この川にはクラスI (※2) からクラスIIIまでの難易度が異なるセクションが混在しているが、私たちが漕いだときは水量が少なかったため、クラスIとクラスII+に近い状態だった。そのため、自分のスキルでいけるレベルながら、曲がりくねった川をスリリングに進んでいく体験ができた。
初日、私たちはイザール川の、美しい渓谷のなかを5kmほど漕いだ。切り立った崖に立つカモシカを見ることもできた。カモシカはカモフラージュが得意なので、簡単には見つけられないのものだが、川に落ちてきた小石によって、カモシカがいることに気づくことができたのだ。
崖の中腹に優雅に立つカモシカの姿は、この日のもうひとつのハイライトであり、この地域の自然の美しさを物語るものだった。私たちは、左右に険しくそびえた岸壁の渓谷による、見事な風景に囲まれて、孤立感と爽快感とを感じることができた。
私たちの計画では、次の日はドイツのアンマー川まで移動して、ハロルドの友人と地元のパックラフターに会う予定だったが、うまく連絡をとりあえずにあきらめた。代わりにそのままイザール川を進むことにして、ミッテンヴァルトまで10kmほど漕いだ (このあたりオーストリアからドイツに入る)。
1本目のイザール川を漕ぎ終えた後は、次の目的地であるザウルグルプ行きの列車に乗るために、駅まで1.5km歩いた。その後、列車に乗っていると、山々は徐々に後退し、なだらかな丘陵地帯へと変わっていった。
2本目の川、ドイツのアンマー川へ。
ザウルグルプ駅に着くと、まずはスーパーマーケットで食料を補給し、その後に3.7kmほど歩いて次のプットイン・ポイントであるカンメルへと向かって歩いた。
途中、1659年からある古い農場を通り過ぎ、チャペルと地元の農産物を売る店があった。私は地元のものを試してみるのが好きなのだが、このお店でもそうした。
農場の素朴な魅力と歴史的な価値は、私たちの旅に深みを与えてくれた。そして私たちは、この地域にある豊かな文化的遺産の価値に触れることができた。
アンマー川は、バイエルン州を流れる約79kmの川で、そこに広がる原生自然とともに、その自然環境を守るために厳しい規制をしていることで知られている。
この川にはクラスIからIIIまでの瀬があり、パドラーに人気の川だ。なお舟を漕げる時間は、9:00から18:00までと制限されている。
プットイン・ポイントには何台もの車が駐車されており、なかにはカヤックのルーフラックを積んだ車もあった。あちこちから車が来ていた。地元の人もいるし、ドイツの他の地域から来た人もいた。オランダナンバーの車もあった。
アンマー川のパックラフティングをスタート。
アンマー川を漕ぎはじめて間もなく、私たちは最大の瀬にさしかかった。私たちはスカウティングをして、セーフティに進むようにした。川は高い岸壁に挟まれ、川の流れが狭くなっていた。
この瀬では、フライフィッシングでトラウトを釣っている親子を見かけた。アンマー川は、イザール川ほど水が澄んでいるわけではないが、水生生物の数ははるかに多いようだ。
ほどなくして、美しいシュライアーフェレの滝のところまで来た。モンテネグロのタラ川で見た石灰岩の滝を彷彿とさせる滝だった。水量はかなり少ない時期だったが、水が滴り落ちる様子は魅惑的で、その美しさを堪能し、その滝の水を口に入れた。この日は4kmほどしか漕がなかった。
夕方、フォルカーは財布と携帯電話が入ったドライバッグをなくしたことに気づいた。どこでなくしたのか思い返してみると、おそらくはザウルグルプのスーパーマーケットだろうと思い至った。
翌朝、フォルカーはそのスーパーマーケットに連絡した。その店を通じて彼の持ち物を見つけた人物と連絡を取ることができ、取り戻す手配をした。ハロルドと私は、フォルカーが戻ってくるまで待っているよと伝えたが、フォルカーは遅れることに後ろめたさを感じて、私たちにそのまま旅を続けてほしいと言った。
私たちはフォルカーの荷物の一部を預かって、そのまま漕ぎ続けた。フォルカーは軽くなったバックパックを持って、なくしものを取りに行くために出発した。
アンマー川の後半は瀬もあるセクション。
フォルカーが漕げなかったセクションは、アンマー渓谷にかかる高い橋があるところで、いくつかの綺麗な瀬がある、息をのむような美しい場所だった。
川岸にキツネが走っている姿を見かけた。キツネは時折こちらをチラチラとこちらを振り返って見てくれた。私たちは堰堤のところにあったすべり台のような落ち込みのところを、漕いでジャンプした。私のジャンプはあまり優雅ではなかったが、ハロルドはプロのようにやってのけた。
フォルカーとは、ロッテンブッフの近くにある橋で待ち合わせようと約束していた。そこはパドラーたちがスタートポイントやゴールポイントとして使う人気の場所だった。
私たちは橋の下で本物のトロール (北欧の妖精) のように日差しを避けながら、反対側から数艇のカナディアンカヌーが出発し、15艇ほどの1人乗りカヤックが到着するのを眺めていた。
しばらくするとフォルカーが戻ってきた。ヒッチハイクで戻ってきたので、予定より早く到着した。再会した私たちはランチを食べて、私はパックラフトの上で少し昼寝をした。
アメリカで見たような建物の屋根が付いた橋を通り過ぎ、大きなダムの周りをポーテージ (※3) した。そして、この日は全部で17kmほど漕いだ。
旅の最終日にトラブル・・。
最終日、私たちは最後の4.5kmを漕ぎ始めるのに、9:00まで待たなければなかなかった。規制により9:00からしか川を漕ぐことができないためである。
漕ぎおわった後に、荷物をまとめていると、帰りの列車に乗るのに、あと32分しかないことに気づいた。目的地のパイセンベルグ駅まで、Googleマップだと50分かかると表示されている・・。
私たちは急いだ。ヒッチハイクを試みたが成功せず、結局、重い荷物を抱えて最後の距離を走った。駅までの急ぎ足は持久力を試すようなもので、荷物の重さが走りにくさに拍車をかけた。
走っていても、遅刻はほぼ確実だった。それでも列車に間に合わせるという決意が私たちを駆り立て、ぎりぎりの時間に到着し、発車間際の列車に乗り込んだ。
列車はこの長い週末の後だったので、帰る人たちで混雑していた。
ミュンヘンに向かう列車の窓から、雪をかぶったツークシュピッツェ (ドイツの最高峰) を見ることができた。まだ雪に覆われてそびえ立つ山頂の姿は、アルプスの冒険の締めくくりにふさわしいものだった。
旅を振り返ってみると、イザール川はそのきらめく水とアルプスの景色から、私のお気に入りとなった。のんびりさと、景色の美しさと、チャレンジがミックスされた今回の旅は、自分は遠征スタイルのパックラフティングが好きなんだ、ということを再確認させてくれた。
高山の渓谷からなだらかな丘陵地帯まで、さまざまな地形の組み合わせや野生動物との出会いは、私たちに豊かな体験を与えてくれた。次回はイザール川をミュンヘンまで漕いでみたい。たぶん、そうなるだろう。
日本にはとても情報の少ない、ヨーロッパのパックラフティング・カルチャーをレポートしてくれるコンスタンティン。
今回はヨーロッパのアルプスの荘厳な景色のなかを、列車の移動のみでアクセスして、ハイキング & パックラフティングできる、とても貴重な情報をレポートしてくれた。また次のコンスタンティンのレポートが届くのが楽しみです。
(English follows after this page / 英語の原文は次ページに掲載しています)
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