スウェーデン・ランガン川 ハンモックを持ってパックラフティング&キャンプ | パックラフト・アディクト #76
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、スウェーデンにあるランガン川。
スウェーデンでのパックラフティングは、この記事でコンスタンティンも触れているようにまだまだネット上の情報が少なく、未知のフィールド。ランゲン川という川を初めて聞く人も多いだろう。
コンスタンティンも、スタート地点にたどり着くだけでも苦労があったようだ。一体どんなパックラフティング・トリップになったのか。スウェーデンでの貴重なパックラフティング・レポートをお楽しみください。
カンファレンス参加のついでに、スウェーデンでのパックラフティングを企てる。
すべてはストックホルムでの飛行機の遅れから始まりました。その日は2023年9月16日の土曜日で、私は観光とホスピタリティに関するカンファレンスのため、スウェーデンの真ん中に位置するエステルスンドに向かっていました。そのカンファレンスのなかで、私は「観光における情報通信技術の利用」というセッションを企画しました。
カンファレンスは火曜日の朝から始まったので、私は土曜日に現地入りし、スウェーデンの大自然の中で2日半を過ごすという “ズル賢い計画” を立てていました。
私は真新しいハンモック・キャンプセットといつも使っているパックラフトを持っていきました。エステルスンドの少し北にあるランガン川という、漕ぎたい川も見つけました。ただ、空港からスタート地点に行くのは簡単ではありませんでした。バスを2、3回乗り換える必要があったのですが、「なんとかなるだろう。ここはスウェーデンだ。うまくいかないはずがない!」
飛行機が遅れたため、私がエステルスンドに到着したときには、乗るはずだったバスは出発していて、その日行きたかった場所に行くバスは他にありませんでした。町に泊まるなんて考えたくもなかったので、すぐに移動しなければなりません。そこで私はヒッチハイクで運を試すことにしました。「ここはスウェーデンだ。うまくいかないはずがない!」
クルマは一台も止まりませんでした。暗くなるまで待ちましたが、ダメでした。それまでのスウェーデン人との印象が違ったので私は驚きました。そこで「スウェーデン ヒッチハイク」でググってみると、不可能ではないものの、簡単でもないことがわかりました。
その後、20代前半の店員と話したところ、多くのスウェーデン人は社交的でなく、自分のクルマの中で見知らぬ人と世間話をするような状況にはなりたくないという。そしてむしろ、すれ違うときに申し訳なさそうに微笑むそうだ。そして、それはまさに私が経験したことでした。
あきらめてカンファレンスが始まるまでエステルスンドに残ろうかとも考えましたが、私はそうしませんでした。私はランガン川を漕ぐことにこだわっていました。そして何よりも次に何が起こるかわからないということに興奮を覚えました。本当の冒険が始まろうとしていたのですから。
旅の前夜。クロコムという町にある森の中で、ハンモックキャンプ。
準備段階での私の当初の計画は、ランガン川を、ランデション湖からインダル川との合流点 (見た目はほぼ湖) までの35kmを漕ぐことでした。スマートフォンでざっと調べてみたところ、公共交通機関で行くには24時間以上かかるため、それは不可能だとわかりました。
そこで代わりに、まだ走っているローカルバスでクロコムという小さな町まで行き、そこで野宿できる場所を見つけ、翌朝早く、2つの湖のほぼ中間にあるランガン川に架かる橋まで行くバスに乗ることにしました。
バスでクロコムの町に到着した後、中心地からそう遠くない小さな森の一角を見つけ、ハンモックとタープを張って最初の夜を過ごしました。(ハンモックとタープはつい最近手に入れたばかりで、自宅の近くで設営の練習をしただけで、まだ寝たことはありませんでした)。
翌朝、しっかり休んだ私は153番バスの最寄りの停留所まで行き、バスを待ちました。ずっと待っていたものの、バスは来ませんでした。予定時刻に来ないだけではなく、それ以降も……。少し不安になった私は、試しにクロコムのメインのバス停まで歩いて戻ってみることにしました。でも153番バスは来ません。
しかし、別のバスが止まったので、運転手に153番のバスについて何か知らないかと尋ねました。グーグルマップには日曜日は運行すると書いてあったのに。
「どこに行きたいんですか?」運転手は私に尋ねました。私は橋のことを説明しました。「今そこに行くにはタクシーしかない」と彼は言いました。「どこにあるんですか?」と聞くと、「ここです」と彼は微笑みました。
なんと彼はタクシーの運転手でもあったのです。ここからは、流れが好転し始めました。約束通り、彼は20分後にタクシーで迎えに来てくれて、橋までさらに20分かかりました。(メーターは200クローネ近くカウントしていたにもかかわらず、彼は最初に見積もってくれた金額しか請求しませんでした)。こうして、挫折と疑念の末、私はランガン川にたどり着くことができました。
ようやくスタート地点にたどり着き、パックラフティング・トリップがスタート。
旅の準備をするとき、インターネット上にはこの川に関する情報はあまりありませんでした。ランガン川を漕ぐというアイディアは、今回のカンファレンスの主催者から送られてきた、ビジット・エステルスンド (エステルスンドの観光案内所) の公式サイトから手に入れました。
そこには、リート・キャンプ&カヌー・センターに問い合わせるようにとのアドバイスもありました。私は問い合わせてみましたが、別の川、ホーカン川を漕ぐことを勧められました。グーグルマップで衛星画像を確認したところ、ホーカン川はランガン川よりもずっと川幅が広く見えました。でも、今にして思えば結局はいい選択をした気がします。大きな川がかならずしもパックラフトに向いているわけではないのです。
ランガン川も広かったものの比較的浅かったです。少なくともこのときは水量はそれほど多くありませんでしたが、パックラフトには問題ない深さでした。私が到着したとき、太陽は部分的に雲に覆われ、上流からは不快な冷たい風が吹いていました。だから防寒のためにヘルメットをかぶることにしました。流れがあったので、強く漕ぐ必要はありませんでした。
川岸は混交林に覆われていました。松の緑のほかに、白樺の秋の黄色も見えました。橋からインダルス川との合流点まで、ときおり小屋が木々の海を遮り、人の存在を思わせました。釣りシーズンはまだ始まっておらず、インターネットの情報によると、この川はブラウントラウト (サケ科の魚) とグレイリング (カワヒメマス) の生息地として知られているようです。
私は何度か立ち止まって、いくつかのキャビンをよく見ました。そのうちのひとつは半壊状態で、ほとんどキノコに覆われていました。以前は床があった内部も、今は菌類だらけ。ただ、その隣のボートハウスはそこよりは良い状態でした。
瀬が多いエリアに入り、時には川岸を歩いたりしながら慎重に進む。
川の大部分は比較的平坦でしたが、面白い瀬がいくつかあり、そのうちの6つに名前がつけられていました。
グラマラフォルセン、ホルムフォルセン、ベーテルスフォルセン、スラダーフォルセン、クロスタファレット、そしてブロートバックストローマンです。
私はそのうちの4つを漕ぎ、2つをポーテージ (※1) しました。最初の2本は単純なクラスI (※2) で、スカウティング (※3) なしで漕ぐことができました。
グラマラフォルセンの横のシェルターで見つけた地図でその名前を見なかったら、私はそれらが特別なものだとも思わなかったでしょう。(興味深いことに、グーグルマップではこの最初の瀬しか見つけることができません)。
3本目はベーテルスフォルセンで、漕ぐ前にスカウティングしました。この瀬は川幅を横切り、小さな、そしてちょっと目立つドロップがありました。クロアチアで漕いだ川のドロップを思い出させました (詳しくは過去記事を参照ください)。そしてそれは偶然ではありません。というのも、ランガン川もクロアチアの川と同じように石灰岩の豊富な地域を流れているからです。
しかし次の2つの瀬は違いました。ベーテルスフォルセンから3kmほど下流にあるスラダーフォルセンは、小さな島や滝のある美しい水域でした。そのうちのいくつかは私でも漕げそうでしたが、もうひとつは自分のパドリング・スキルでは難しそうに見えました。
いろいろな角度から川を観察し、すべての選択肢を検討した結果、私は安全策をとってポーテージすることにしました。川の横の道はよく歩かれているようで、ヘラジカの足跡も見つけました。
難易度の高い瀬が立ちはだかり、あきらめてハンモックキャンプをする。
さらに4kmほど進むと、次の急流、クロスタファレットに到着しました。難易度は高そうでしたが、越えられそうな気がしました。
小さなドロップと連続した波の後、川が曲がったあたりで私は落ち着きました。近づいてみると、その穏やかな水は2mのドロップの下にあるプールで、そこを流れる明確なラインはありませんでした。これを見たとき、なぜか本当にトライしそうになったので、最初の越えられそうだという思い込みに大笑いしてしまいました。(ファレット」は落下、「フォルセン」は急流を意味します)。
すでに遅い時間になっていたので、私はその日は終わりにして、そこで夜を明かすことにしました。浜辺の横に立派な松を2本見つけ、その間にハンモックを吊るしました。
その隣には簡易的なベンチと古い焚き火台があり、そこで小さな火をおこして簡単な夕食を作りました。日本のアルファ米、オランダのスペイン風ドライソーセージ、スウェーデンの平たいパンとチーズの組み合わせでした。
ハンモックでの2日目の夜は良いものでした。その日漕いだ17kmの距離のせいかもしれないし、暖かい食事のせいかもしれないし、川の流れの音のせいかもしれませんが、私はすぐに眠りに落ちてしまいました。
ウィルダネス・エリアが終わり、ゴール地点の町が見える。
翌日、私は3km強を漕ぐことになりました。スカウティングもせずに漕いだブロートバックストローマン (「ストローマン」は流れの意) の瀬は、私が一夜を過ごした場所からすぐのところにありました。
その後、ランガン川は平らになり、流れが緩やかになってインダル川に合流しました。その直前に2つの橋がありました。ひとつは自動車用の橋で、メンテナンスのために閉鎖されているようでした。もうひとつは1910年に建設された古い鉄道橋でした。橋の上には木の枝でできた大きな巣があり、その周辺にはビーバーの痕跡もありました。
鉄道橋の後にインダル川に合流してからはとても広く、流れもあまりないので、まるで湖の上を漕いでいるような気分でした。ランガン川とは対照的に、いたるところに家が見えました。ウィルダネスを過ぎたことは明らかでした。はるか前方にもうひとつの橋が見えました。リートの町です。ここからエステルスンド行きのバスに乗らなければなりません。
ほぼ湖のようなインダル川に入り、無心なって漕ぎ続ける。
「800パドルストローク」。私はそこに到達するのにかかる時間を予測し、数え始めました。
「1、2、3……」。湖で長い距離を漕がなければならないとき、私はいつもこうして気を紛らわせているのです。
「256、257、258……」。弱いけどしつこい向かい風は、私をラクにさせることはなく、堤防にへばりつくように漕がなくてはいけませんでした。
「702、703、704……」。数を数えることでパドリングに集中し、モチベーションを保つことができました。写真を撮ったり、ちょっと休憩したりするために立ち止まるたびに、私はゆっくりと背中を押されました。
「1088、1089、1090……」。私はただ数を数え、漕ぎ続けるしかありませんでした。湖のパドリングは楽しくありません。
結局、前方の橋にたどり着くまでの5.5kmを漕ぐのに1時間半以上、1,500回近く漕ぎました。本来なら、事前に問い合わせたリート・キャンプ&カヌー・センターまでずっと漕ぎたいと思っていました。
でも、もういいやという感字でした。バスの時刻表も調べてみると、次のエステルスンド行きのバスは、私がいた場所の近くのバス停から25分強で出発し、それを逃すと何時間もバスは来ないようでした。
それ以上、私は何も言わずにパックラフトを取り出し、空気を抜き、ドライスーツから服に着替え、すべてをバックパックに詰めて、すでにバスが待っているバス停まで走りました。
今までで一番早い後片付けでした。そういえば、今回グーグルは正しかったです。
追伸 – カンファレンスでの私のセッションでは、人々がスマートフォンに寄せる信頼について話しました。スウェーデン人の参加者は、もし誰かが本当の冒険を体験したいのなら、スウェーデン北部のグーグルマップを頼りにすればいい、と冗談を言った。私の経験がそれを証明してくれました。
仕事であろうが、家族旅行であろうが、いかなる時もパックラフティングの隙をうかがい、かならずパックラフトを忍ばせて現地に向かうコンスタンティン。
まさにパックラフト・アディクトの彼による今回のレポートは、パックラフターにとってスウェーデンでのパックラフティングの貴重な情報になったに違いない。
パックラフトはもちろんハンモックも楽しめるだなんて最高だ。きっと、この記事に影響を受けてスウェーデンを旅の選択肢に入れる人が出てくることだろう。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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