TRIP REPORT

パックラフト・アディクト | #54 クロアチア、美しい滝が集まる3つの川をめぐる旅(後編)

2021.12.17
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

2021年のビッグトリップ、クロアチアの7日間にわたる旅のレポート後編。

クロアチアのなかにある、いくつもの川を楽しむ、最高のリバーホッピングの旅を続ける、コンスタンティン一行。

ズルマニャ川では、それまで経験したことない大きな滝のドロップにチャレンジして、大興奮だったコンスタンティンとレミとジヴァ。

3人は地元のガイドに勧められて、次なる川「ウナ川」へと向かいます。ウナ川は急流としても知られた川で、瀬とドロップが連続する、かなりエキサイティングなパックラフティングとなったようです。

さらにパックラフティングだけではなく、廃線でのハイキングや、展望台での野営など、コンスタンティンらしい旅感あふれるトリップレポートです。


2つ目の川、ウナ川。中央に見えるのが有名なシュトルバキ・ブク滝。


国立公園の大自然の峡谷を流れるウナ川。



ウナ川のハイライトは、この川で最大規模を誇る滝、シュトルバキ・ブク。

ウナ川は、標高差が大きくとても流れの速い川です。クロアチアのドニャ・スバヤ村の近くから始まって、すぐにクロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの国境の川となり、212kmを流れ、サヴァ川に合流します。ウナ川のコースは3セクションに分けられます。上流部のコースが距離は一番短いですが、もっとも面白いセクションです。


シュトルバキ・ブク滝の案内板に釘付けのジヴァ。

ウナ川は66.5kmの間に154mの落差があり、深い峡谷のなかを流れています。ボスニア側のこのセクションの大部分は、ボスニアで最大の国立公園であるウナ国立公園のエリアとなっています。また、この川は手つかずの自然が残っていて、多くの瀬や滝があるのが特徴です。そのなかでも最大の滝が、シュトルバキ・ブク (高さ24m) です。


今回のパックラフティング・トリップでは、クロアチアを流れるズルマニャ川、ウナ川、ムレジュニツァ川を下った。


クロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの国境付近でキャンプ地探し。


ズルマニャ川を終えて次に行く場所を探しているとき、「ウナ川を漕ぐなら、シュトルバキ・ブクに行くといいよ。ドンジ・ストルチまで車で行って、その道の突き当たりにあるよ」と、カヤックガイドが教えてくれました。私たちは、言われた通りに進みました。


ズルマニャ川を下り終えたコンスタンティン一行は、車でウナ川へ。

ズルマニャ川を後にした私たちは、ヴェレビト山脈を越えて、乾燥した地中海の風景を離れ、クロアチア内陸部の緑豊かな渓谷と高原に入っていきました。

そして2時間半以上かかってドンジ・ストルチという村に到着した時には、もうキャンプをする場所を考えなければならない時間になっていました。私たちは、グーグルマップで見つけた村のキャンプ場に泊まるつもりでした。でも行ってみると、それらしきものはまったく見当たりません。


ヴェレビト山脈を越えて、クロアチア内陸部らしい緑豊かな渓谷と高原が広がるエリアへ。

村には一軒の家があるだけで、それ以外に何も見当たりません。その家の脇では、庭で大家族がパーティーをしていました。

その家の前に、セルビアやクロアチアのナンバープレートをつけた車が何台も停まっているのを見て、シヴァは「自分の先祖代々の土地を訪ねているようだ」と言っていました。


村に到着し、パーティーをしている家族にキャンプ場の場所を尋ねる。

かつてセルビア、ボスニア、クロアチアは、ユーゴスラビアというひとつの国の一部でした。そして今でも、国境をまたいで生活したり、国境をまたいで土地を持っている家族が、たくさんいるのだそうです。

ジヴァもユーゴスラビアで生まれましたが、彼女が現在住んでいるスロベニアは10日間の戦争の後、1991年に独立を果たしました。ただ独立できなかったエリアもあり、そこでの軍事衝突は何年も続きました。

パーティーを開いていた人たちに、キャンプ場について聞いてみました。彼らは笑いながら「滝まで行ってみるといいよ。きっとそこにキャンプ場のオーナーがいるはずだ。この時間なら大丈夫だよ」と言いました。


戦争で残された地雷に気をつけながら、キャンプ地を探す。


滝に至る下り道は、舗装されていないでこぼこ道でした。急な坂道をジグザグに川に向かって下り、その横を廃線になった線路が走っていました。

川沿いの小さな道を進んでいくと、シュトルバキ・ブク滝の隣にある古い水車にたどり着きました。この水車の周辺が、私たちが探しているキャンプ場のオーナーの所有地のはずでした。滝のクロアチア側をオーナーが所有し、ボスニア側は国立公園の一部となっているようです。


シュトルバキ・ブク滝へ向かう道沿いにあった、廃線跡。

キャンプ場について尋ねてみると、「キャンプ場はないですよ。ここが以前にキャンプ場だったもないですよ」という返答が返ってきました。でも、村の上のほうにある自分の家の横にテントを張っていいと言ってくれました。

ジヴァは、ここまで来た道の状態を考えると、これから上って翌日また下ってくるよりは、ここで野宿するほうがいいと言いました。

ちょうど少し上ったところにある森の中に、小さなハイキングコースのようなものを見つけました。ベストな場所ではありませんでしたが、暗くなり始めたので、ここでいいかと思いました。


キャンプ場がなく、とりあえずトレイル沿いで調理を始めるレミ。

ただレミが、クロアチアでは車道や線路以外のところを歩くのはあまりお勧めできないと言っていたので、私たちも森の中を歩くことには不安がありました。というのも、1990年代のユーゴスラビア戦争の名残りで、地雷があるからです。

今でも1万7,000個ほどの不発弾が存在していると言われています。遭遇する可能性がある地域には標識が設置されています。でも、その標識がまだない場所もあり、戦後、地雷によって命を落とした人は200人以上にものぼります (最近だと今年の春にも起こりました)。

私たちはテントを張り始めました。近くでここのオーナーの車のライトが通り過ぎていくのが見えました。


地雷に気をつけながら森のなかを歩き、平らな場所にテントを張った。


川を下見したところ、ほとんどの瀬やドロップは挑戦できそうなレベルだった。


翌朝、私たちは漕ごうと思っているウナ川の下見をしに行くことにしました。

インターネットで調べたところ、シュトルバキ・ブク滝の下からロホボという場所までがラフティング区間で、4月と5月の満水時には難易度がクラスV (※1) になるとのことでした。

水量が中くらいであれば、川の難易度はクラスIIIもしくはIVになるようですが、それでも私たちにとってはレベルが高すぎます (私たちは誰もIVクラスのパドラーではありません)。そのため、まずは実際に漕げるかどうか、そして万が一水量が多すぎた場合に川から脱出する方法があるかどうかを確認したいと思ったのです。

※1 クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級とも表現される)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。


川沿いを歩きながら、難易度をチェック。/span>

そのため、私たちは廃線跡を歩き、上からよく見えないところは、ときどき川まで降りてじっくりスカウティング (下見) しました。

線路の上を歩くのはけっこう難しく、枕木と枕木の間の距離が通常のものより短いため、とても不自然な歩幅になるので、集中力を必要でした。

途中で、いくつか暗いトンネルのなかも通りました。レミがヘッドライトを持っていたので、助かりました。トンネルの中の枕木は鉄でできていて、角が丸く深め埋まっているので、ここは歩きやすかったです。


線路ハイキング。このように枕木が埋まっているところは歩きやすかった。

渓谷の中を蛇行する川は、よく見えませんでした。しかし、たまに川の様子が見えるところでは、水位がかなり低く、ほとんどの瀬やドロップは、私たちが挑戦できそうなものでした。

私とレミはこれなら漕げそうだと思いましたが、ジヴァはちょっと挑戦するのは難しいと感じたようでした。そのため、私たち2人だけでウナ川を下り、ジヴァは次の滝で私たちを待つことになりました。「あとで後悔するのはわかってるんだけどね」と彼女は言いました。


ドロップが連続する、エキサイティングなセクション。



ウナ川の瀬やドロップに不安を抱いたジヴァは、漕がないことになったため、2人でのスタート。

私たちは、荷物をパッキングして、線路沿いをハイキングして少し戻りました。そして最初のトンネルの手前で、ラフティング会社がラフトを降ろすのに使うと聞いた、小さなトレイルに沿って川まで降りました。

私たちがパックラフトを準備している間、ジヴァは日陰にハンモックを吊るして、私たちの出発を待っていました。

旅の前にウナ川について調べたら、この川は “荒れる川” だからよくスカウティング (※2) するようにと書かれていました。レミのパックラフトはセルフベイラーで デッキがないので乗り降りがラク)、ほとんど彼がスカウティングしてくれました。

しかし、幸いにも今回は水位が低かったので、舟から降りることなく、瀬の前で止まって、漕ぐラインを事前に確認できる場所がほとんどでした。

※2 スカウティング:岸辺や岩の上などに上がって、事前に前方の様子を下見すること。前方の状況が読めないときに、川の流れ、瀬やドロップの大きさ、岩の配置などを見て、漕ぐことができるか、どのラインを通るかなどを見極める。


ドロップを果敢に攻めるレミ。問題なくクリアすることができた。

ドロップはほとんどが1段落ちのものでした。今回の水位だと、本流の流れも波立っていませんでした。ドロップの落差は大小さまざまでしたが、前日のズルマニャ川でジャンプしたような凄まじいものはありませんでした。

そのなかでも、慎重に漕ぐラインを見極めないといけないドロップが、2箇所ありました。1つは、メインのドロップの部分に十分な水量がなかったところ。もう1つはかなり複雑だったので、万が一何かあったときの影響が大きいため、危険を冒す必要ははないと判断しました。

結局、4kmの距離を2時間強もかけてパドリングしたのですが、それだけの価値はあったと思います。瀬の数の多さと種類の多さ、そして美しい風景は、この旅をエキサイティングなものにしてくれました。


瀬に何度も越えているうちに、テンションは最高潮に。

その日、私たちは携帯電話でインターネットに接続することができなかったので、実際のところは正確な距離を把握していませんでした。そして、どこに上陸すればいいのかもわかっていませんでした。

聞いていたのは、渓谷の終点ということだけでした。私たちは、川幅が広くなり、谷が少し開けて、鉄道の線路が見えたところで、漕ぐのをやめて荷物をパッキングして歩いて戻ることにしました。


終盤は、これまでとは対照的に川の流れが緩やかになった。


展望台から絶景を眺めながらのキャンプ。


1時間以上歩いていたところで、ジヴァの待っている滝までたどり着きました。今回は、レミだけではなく私もヘッドライトを持っていたので、トンネルを通る装備も問題なしです。

レミと私のテンションの高さを見たジヴァは、「あと1日長く滞在してもう一度トライするならば、自分も漕ぎたい!」と言ったので、私たちは明日もう一度漕ぐことにしました。


レミとコンスタンティンの感想を聞き、自分も漕ぎたくて仕方なくなったジヴァ。そこで、ここでの滞在を1日延ばすことにした。

しかし、その一方で、飲み水が足りなくなってきました。ボスニア側まで漕いで行けば、レストランがあるようなので、そこでペットボトルの水を買えばいいんじゃないかと、レミが言いました。ボスニアでは、この滝は非常に人気のある観光スポットなのです。

滝のオーナーに相談したら、水をわけてくれました。そして、こう言われました。「ここで国境を越えようとすると捕まるよ。そして数千ユーロの罰金と、数日間の刑務所行きが待っている。ここはEUの国境なんだよ」。

そんなことで、私たちはここでもう1泊することにしました。しかし、レミは森の中でのキャンプは嫌だったようで、前日に見たハイキングコースの先にある展望台へ行こうと提案してくれたので、私たちはそこに行ってみました。レミは、朝にトレイルの先を調べているときに、その場所を見つけたそうです。


レミが見つけた展望台を登っていくと、そこには絶景が広がっていた。

その展望台からの眺めは、最高でした。展望台は滝の上の高い位置にあり、そこから渓谷と川を見ることができるのです。

ただ1つ問題がありました。台が木の板でできていて、その多くが腐ってしまっていたのです。展望台へ続く木の階段も同様でした。

幸い、台の一部は比較的新しく、まだしっかりしていたので、そこに陣取りました。夜は食事とおしゃべりをして過ごし、星空の下で眠り、朝は朝陽とともに目覚めるという、実にユニークな場所でした。


展望台での野営は、景色も気分も最高だった。


3人で、ふたたびウナ川のパックラフティングへ。


翌朝、3人で川に行き、前日にレミと私が漕いだのと同じセクションに加えて、もう少し長く漕ぎました。前回と違い、今回は降りる場所はヒアリング済みでわかっていました。ロスクンという場所です。


ウナ川の瀬とドロップを、存分に楽しんだジヴァ。

2回目ということもあってスカウティングの必要がなくなったぶん、遊ぶ時間が増えました。特にジヴァは、それぞれの瀬をパーフェクトに漕ぎたがるので、何度も同じ瀬にトライしたりもしました。結局、スタートから6.5kmのゴール地点まで、前回と同じく2時間かかりました。


瀬はもちろん、自然豊かな渓谷美も満喫。

この日のゴール地点は、線路がほぼ川の高さにあるので行きやすかったのですが、昨日と違って長い距離を歩いて戻らなければなりませんでした。しかも、昨日のゴール地点より先も漕いだのですが、そこはあまり楽しめるところがありませんでした。正直なところ、レミと私は、昨日自分たちがゴールしたところが正解だと感じました。


昨日よりも距離を延長したため、緩やかなエリアが長くなり、やや退屈に感じた。

車まで戻るのに2時間近くかかり、たくさんのトンネルを通りました。なかには1kmを超える長さのものもありました。これでウナ川の冒険は終わりましたが、クロアチアのパックラフトの旅は、これで終わりではありません。その話は、またの機会に紹介したいと思います。


ウナ川でのパックラフティングを終えて、廃線跡を歩きながら車へと戻る。

仲間と一緒に、7日間かけて3つの川をパックラフティングしたコンスタンティン。

クロアチアへの旅の憧れをそそられずにいられないトリップレポートであった。なかでも、やはり日本にはないようなクロアチアの滝の絶景は、いつかは行ってみたい。

コロナ後に行きたい川のリストは、どんどん増えるばかりだ。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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