パックラフト・アディクト | #53 ポーランドのブルダ川で、子連れのパックラフティング & キャンピング 3 DAYS
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが今回紹介するのは、8歳になる友人の子ども (ヤン君) を連れての、3日間のパックラフティング&キャンピングの旅。
子どもと一緒のショートトリップは今までもレポートしてくれたが、今回はキャンプも含めた3日間の旅を、子どもを連れて実践してきたそうだ。
今回の旅で行った、ポーランド北西部のブルダ川は、子連れのパックラフティングに最適なフラットウォーターが続くエリアらしい。
8歳のヤン君にとって、パックラフトで旅した3日間は、どんな体験だったのだろうか。ぜひ子どもの視線を想像ながら、今回のトリップ・レポートを読んでみてほしい。
ブルダ川周辺は、人口も少なく、とてもきれいな川として知られている。
長期のファミリー・パックラフティングができる、カシュビアン湖水地方。
9月の初めに、友人のカシアから連絡が来ました。その連絡とは、「息子のヤンが明日、学校で発表があって、その準備をしているの。それで、前にみんなで一緒にブルダ川を漕いだときの写真で、うちの息子が写っている写真を送ってもらえない?」という内容でした。
カシアは私の妻の古くからの友人で、私もずいぶん長い付き合いがあります。彼女が言っていた旅とは、今年の7月に彼女の夫であるクシシュトフと8歳の息子ヤンと一緒に行った、3日間のパックラフティング・トリップのことでした。
今回、友人の夫であるクシシュトフ、彼の8歳の息子のヤン、そして私の3人でブルダ川を下った。
ブルダ川を旅したときは、私の家族とヤンの家族で、ポーランド北西部のカシュビアン湖水地方のゲストハウスに、1週間滞在していました。
カシュビアンの湖水地方は、500以上の湖が点在する、美しい田園地帯です。ここには、舟を漕ぐのに最適な川もたくさんあり、ポーランド内でもパドリングエリアとして、よく親しまれている場所です。
そのなかのひとつ、ブルダ川は、ポーランドで最も美しいカヤックルートのひとつと言われています。ブルダ川には、曲がりくねった川の流れ、豊かな森林、絵のように美しい湖、原生に近い自然など、美しい景色がたくさんあります。
ブルダ川の水はとても澄んでいて、川の奥深くまで肉眼で見ることができる。
ブルダ川は、シフィエシノという村 (川はここでグウェンボキエに流れ込みます) からヴィスワ川の河口にあるビドゴシュチまでの233km超の距離を漕ぐことができます。
また、パドラー向けのインフラも整っていて、要所には標識がきちんと設置されているし、キャンプ場も整備されています。
この川が流れる地域のほとんどは人口が少ないため、水がきれいで、川のなかにはたくさんの種類の魚が泳いでいます。
仕事・子育てに忙しかった友だちのパパを、パックラフティングに誘う。
もとはといえば、この旅の計画は、私の妻のマルタが提案してくれたものでした。妻は、コロナ禍のなか、私がずっとパックラフティングの旅を渇望していたことを、よく理解してくれていました。それで、クシシュトフとヤンの家族を連れて、パックラフトの旅に行くのはどう? と言ってくれたのです。
クシシュトフ (右) と、8歳の息子ヤン。
私はこのアイデアにすぐに飛びつきました。誰かと一緒にパックラフティングを楽しむのは、いつだってハッピーなことです。しかも、旅をきっかけに、素晴らしい仲間をつくることもできるのですから、断る理由なんてありません。
今回誘ったクシシュトフは、カヤック経験者ですが (ちなみにポーランドでは行く場所が限られていて、ほとんどがフラットウォーターです)、10年以上も舟を漕いでいませんでした。
彼はずっと、仕事と家庭、3人の子どもの子育て、そして新しい家を建てるのに忙しく、カヤックを楽しむ時間をつくれなかったのです。今回の旅では、私の妻とカシアが、ヤン以外の2人の子どもたちの子守りをすることにしました。それで、クシシュトフは、息子のヤンと一緒にパックラフティングができる時間をつくれたのです。
プットイン・ポイントは、グウェンボキエ湖。
もともと旅行の準備をしていたときは、ゲストハウスのある湖に流れ込んでいる別の川を漕ぎに行こうと思っていました。でも、この地域に詳しいクシシュトフは、20~25年前に漕いだことのあるブルダ川を勧めてきました。
インターネットで詳しく調べてみると、子どもを連れて漕ぐのにも良さそうだったこともあり、ここに行くことに決めました (去年のウォブジョンカ川での苦労を繰り返したくないという思いもありました。その時のトリップレポートはコチラ)。
ブルダ川は、233km以上にわたって下ることができる。そのなかで、今回はグウェンボキエ湖〜シチトノ湖までの約40kmを、2泊3日で下った。
旅の留守をあずかる妻たちと相談し、川旅は2日間と決定。
今回の旅では、クシシュトフ親子は、タンデム艇のアルパカラフトのオリックス (ALPACKA RAFT / Oryx) を使いました。私は、ロシアのメーカーの、ブラックパイクのアドバンス (Black Pike / Advanced) という、1人用艇のパックラフト (ホワイトウォーターモデル) に乗ることにしました。
クシシュトフとヤンはタンデム艇、私はシングル艇に乗って、まずは湖で練習。
ヤンにとっては、初めてのリバーツーリング・トリップでした (しかもテントで寝るのも初めて)。なので、大丈夫かどうか確かめるためにも、私たちは、クシシュトフが知っているグウェンボキエ湖 (オランダ語で深い湖という意味) で、少し練習で漕いでみてからスタートすることにしました。
クシシュトフは、試し漕ぎのときに、オリックスの座面の高さが気に入らず、座る位置を調整することにしました。別のパックラフトのスペアシートを使って、座面を低くして、パックラフトの中に座れるようにしました。
一方、ヤンは問題なく楽しんでいたようなので (特にパドルを漕ぐ必要もなかったので)、翌日に旅をスタートすることにしました。
パックラフトに乗るのが初めてのヤンも、大丈夫そうだったので、翌日にスタートすることにした。
他の子の子守りをしてくれる妻たちと話し合って、私たちが川を下るのは2日間にすることにしました。そして、どのくらいのスピードで、どのくらいの距離を漕げるのかわからないので、2日目にマルタに連絡して、どこに迎えにきてもらうか伝えることになりました。
そして、私たちは昨日漕いだグウェンボキエ湖の同じポイントから出発しました。一度だけ小雨が降りましたが、全体的には、暑くもなく寒くもなく、よい天気が続いてくれました。
ヤン君が水先案内人となって、進む方向を見定める。
最初の湖では、幸運にも風に乗ってすいすい進むことができました。湖を抜けると、川は森のなかに入っていきます。ここの川はかなり浅く、パッククラフトの底が、川底に触れてしまう箇所もありました。
親子で乗っていた2人乗りの大きなオリックスよりも、私が乗っている1人乗りの小さいパックラフトのほうが川底を擦ることが多くありました。
ヤンはパドルを用いず、水先案内人となってくれた。
ヤン君はパドルを持つのを嫌がっていたので、彼のパドルはゲストハウスに置いてきました。しかし、そのおかげで、ヤン君は前方の席で水先案内人になってくれました。それで、父親に水深のあるところもきちんと案内してくれたのです。
このエリアは、水位が低いことに加えて、川が倒木で塞がれていることが多い場所でした。倒木のある箇所では、その下をくぐるか、あるいは乗り越えなければなりません。その度に、クシシュトフと私は、パックラフトから降りなくてはなりませんでした。そのときでも、ヤンはパクラフトに乗ったままでした。
1日目は、倒木が多く、思うように進むことができなかった。
ビルコボという場所には、最初の休憩所兼キャンプ場があり、そこにはポーランド語とドイツ語で書かれたブルダ川のカヤックルートの案内板がありました。
ポーランド語とドイツ語で書かれた案内板によると、ここまでの距離は6kmで、コースタイムは1時間半となっていました。カヤックのほうが早いとはいえ、私たちは2時間もかかってしまったのは信じがたいことでした。案内板には、次のキャンプ場までは5kmで、さらに2時間かかると書いてありました。私たちの場合はもっとかかるということです。
ビルコボにあった案内板。ここにパドラー向けのコースタイムが書かれていた。
予定より手前のポイントで、1日目のキャンプ。
なかなか進まないことが、私はだんだん気になってきて、このままではマズいのではないかと思うようになってきました。そして、その日のうちに旅を終わらせて、別の川を探したほうがいいんじゃないかとさえ思いました。でも、クシシュトフとヤンが楽しい時間を過ごしていたこともあって、私たちはこのままのルートで旅を続けることにしました。
4時間後、私たちはマスの養殖場がある小さなダムまで到着しました。そこから川を少し下ると、スタラ・ブルダ (オールド・ブルダ) という村の隣に2つ目のキャンプ場があり、私たちはそこで1泊しました。
スタラ・ブルダという村の隣にあるキャンプ場。1つのテントに3人で寝泊りした。
その日の夜、私が進みが遅いことに不満を漏らすと、クシシュトフは、「僕が以前にカヤックで漕いだ時は、湖をつなぐ6kmの水路を通らないと進めなかったから、丸3日もかかったよ」と話してくれました。
それに比べれば、私たちがこの日に経験したことは何でもないことでした。私は「もし、君がパックラフトを持っていたら、パッキングして歩くだけで済んだのに」とクシシュトフに言うと、彼も納得していました。
とはいえ、私は次の日の旅がもっと楽になることを期待していました。
1日目のキャンプ場には東屋があったので、ここで調理をした。
妻たちから、「もう1日旅してきていいよ」のお許し。
翌日は、私の望みどおり、前日より楽な旅になりました。
朝、私たちがまだパッキングをしているときに、観光客とカヤックをトレーラーに乗せた車が数台やってきました。ガイドに聞いてみると、スタラ・ブルダはカヤックの日帰りツアーのスタート地点になっているとのことでした。
撤収の途中で、カヤックをトレーラーに乗せた日帰りツアーのグループがやってきた。
私たちがグウェンボキエ湖から来たと言うと、彼らは驚いていました。というのも、グウェンボキエ湖〜スタラ・ブルダまでのセクションは、現在、あまり使われなくなってしまったそうなのです。
ガイドの人たちは、「今年はあるグループが挑戦したけど、途中でそれ以上進めなくなってしまったので、僕たちがピックアップしたんだ。でも、これから先ははもっと簡単になるはずだよ」と教えてくれました。
そしてその日は、初日に見た案内板に書かれていた時間とほぼ同じ、7時間半で約17kmを下りました。水深も深くなり、木々に遮られることも少なくなりました。3人とも、そのセクションをとても楽しみました。
そこで私は、迎えに来てもらうために妻に連絡したところ、彼女たちは「もっと下りたいのであれば、もう1日旅をしてもいいよ」と言ってくれました。
2日目はとても漕ぎやすく、7時間半で約17kmを下った。
ヤン君にとって初めての、キャンプ場ではない場所での野営。
妻たちの提案に甘えて、私たちはもう1日、川下りをすることにしました。唯一の問題は、食料が足りなくなってきたことでした。これまで通過した村には、1つもお店がなかったのです。そのため、私たちは「物乞い」するしかありませんでした。
ノバ・ブルダ (ニュー・ブルダ) という村を通りかかったとき、地元の人に食べ物を売ってくれないかと頼んだところ、幸運にも、パン、卵、ジャム、牛乳を手に入れることができました。
村で譲ってもらったパンとジャム。
その夜は、キャンプ場ではない場所で、私たちは野営をすることにしました。川のそばにいい場所を見つけたのです。その場に行ってみると、そこでは他の人も野営したらしき、痕跡が残っていました。
私たちは卵を茹でて、ジャムを塗ったパンを食べました。素晴らしいひと時でした。夜には鳥の鳴き声が聞こえてきました。鳥に詳しいクシシュトフが、「あれはフクロウの鳴き声だね」と教えてくれました。
たまたま見つけたキャンプ地。他には誰もおらず、3人で大自然を満喫した。
大人にとって退屈な場所も、子どもにとっては冒険の場所になる。
最終日、私たちは12kmを、約6時間かけて漕ぎました。最初に1時間半くらい漕いだところで、キャンプ場のあるフォルブリクというところに到着しました。でも、ここは人でいっぱいでした。
このキャンプ場には、カヤックに乗った3人の子どもを連れた家族のグループ、SUPに乗った2人の息子を連れた父親、カナディアンスタイルのカヌーに乗った2人のドイツ人がいました。
このキャンプ場には屋台もあって、そこで私たちはとても美味しいグリルソーセージを買いました。この屋台のオーナーに話を聞くと、もう15年以上もここで屋台をやっているとのことでした。彼の屋台にとっては、これで十分なお客さんがいるようでした。
自然保護区で、ふたたび倒木があらわれ、通過するのにかなりの時間を要した。
キャンプ場を出発すると、そのすぐ後に、短い区間ですが、川は自然保護区のエリアに入っていきます。その区間は、倒木の処理がされておらず、通過するのにずいぶん時間がかかりました。
その後、森を抜けると、川幅が広くなり、流れもかなり緩やかになります。シチトノ湖のテイクアウト・ポイントまでの最後のセクションは、向かい風も吹いていたので、クシシュトフと私にとっては退屈なパドリングとなりました。それでも、子どものヤンにとっては、最後のセクションも、変わらず楽しい川下りの体験だったようです。
ラストは流れがとても緩やかで、退屈なパドリングだったものの、ヤンはとても楽しそうにしていた。
後日、カシアに「ヤンの学校での発表はどうだった?」と聞いてみました。
すると「息子にとって、今年の夏は、とても楽しかったみたい。あなたとパパと行ったブルダ川の旅は、いままでで一番楽しいことだった!って言っていたわ」とカシアは教えてくれました。
ヤンはあの後、友だちと一緒に、山でのサマーキャンプも楽しんだそうです。でも、ブルダに勝るものはなかったみたいです。ヤンは「僕のクラスでは、誰もそんな経験をしていない」と言って喜んでいたそうです。
ゴール! 3日間のパックラフティング・トリップが無事に終了。
大人にとって退屈な場所も、子どもにとっては最高の冒険になることがある。
大人にとっては流れが緩やかで漕ぐのが大変なところも、子どもにとっては舟に乗っていればいつでも冒険であり、最高の川旅の時間が続いているだけなのだ。
ヤン君は、これをきっかけに、パックラフト・アディクトになっていくのだろうか?
日本でも子どもを連れて川旅ができるフィールドを見つけて、ファミリー・パックラフティングのカルチャーが広がっていけばと思う。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)
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